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ここからずっと。
新緑が眩しく映る昼時。 は今日も兄の店にいた。 「文遠の仕事?それがどうした?」 「どんな仕事しているのか気になって。聞いても教えてくれないんだよ」 今日、淹れてもらったのはアイスモカジャバ。 生クリームたっぷりでも甘さはさほど感じないので好きだ。 自宅から店に到着したとき、暑くて冷たいものを飲みたいと思っていたから。 「お兄ちゃんは知っているんでしょ?」 「あー・・・・多分」 「多分?」 自分よりも長い付き合いの夏侯惇ですら、張遼の職業が何か詳しく知らないらしい。 「サラリーマンだとは思うが・・・・いまいち謎だな、アイツは」 特に知らなかったからと言っても別に自分にはなんの影響もないから気にもならないらしい。 「営業っぽいかなと思うけど、ジャガーとかすごい高い車とか乗ってるでしょ?」 「一般のサラリーマン、文遠の年齢からでは買うのには少々値が張るな」 「でしょでしょ!やっぱあれかな?IT関連の社長さんとか」 「社長ではなかったぞ、確か。上司の話をしたことがある」 「ここってビジネス街だからいろんな企業入ってるもんね。あー気になるー」 でも本人に聞いても「さあ。なんでしょう?」と楽しげに言うだけだ。 「気になる事でもないと思うがな。そのうちわかるんじゃないのか?」 そう言って夏侯惇は読みかけだった雑誌へと目を移してしまうのだった。 初めて張遼とデートした時、何度もかかってきた仕事の電話。 あれがきっかけで気になったのかもしれない。 その後は気になるほど目にしたわけではないが。 は兄の興味が薄れてしまったことにつまらなさを感じるが、アイスモカジャバを飲んで気を落ち着かせた。 * 「徐晃さんは知っていますか?」 兄の店をお得意さんだという花屋の店主徐晃。彼も兄とは学生時代からの付き合いだという人だった。 その花屋には来ていた。 「張遼殿のご職業でござるか?・・・・・」 注文された初夏の花を中心のアレンジメントを作成中の徐晃。 買い物をしに来たわけではないが、一度この店を訪れて以来、たまには遊びに来ていた。 遊び感覚になってしまっているが実際はバイトとしてだ。 兄の店ではバイトを募集していないなんて話を徐晃にしたところ、大変だがうちでどうですか? と言ってくれたので興味もあったはここでバイトを始めた。 兄は徐晃の店ならばと特に反対することもなかった。 張遼には聞かれるまで黙っていようかなとちょっと悪戯心が湧いたので黙っている。 どんな反応をするのか知りたいと思ったので。 兄の口からバレるのが早いか、徐晃の口からかと思ったが、徐晃にはあえて口止めをお願いした。 「別に構わぬでござるが、拙者、隠し事は得意ではないでござるよ?」 と困惑気味だったが。 その徐晃にも張遼の職業について聞いてみたが、夏侯惇と反応は同じだった。 「んー拙者も詳しくは知らないでござるなぁ。張遼殿も仕事の話をあまりなさるような方ではないでござるし」 兄たちにもしないと言うことはにはもっとしないのだろうか。 別に知らなくてもいいのかもしれないが、やっぱり好きな人のことは多少知っていていたいと思うものだろう。 「殿からみて、どんなご職業だと思うでござるか?」 「えっとー・・・・単純にIT関連企業のエリートサラリーマンとか」 「ああ、似合うでござるなあ」 「外資系とか、私なんかにはわからない高度な駆け引きのやり取りがされるようなものとか」 「張遼殿ならば難なくこなせそうでござるな。格好いい男が何をやらせても似合うでござる」 徐晃だって格好いいと思うのだが。 まあ彼の場合、可愛いという言葉の方が似合っている。 「昔・・・・張遼殿がスパイのような仕事をしているのではと思ったことがあるでござるなあ」 「スパイですか!いきなりドデカイ話になりましたね!」 「まあ、昔ですよ?ごく稀に何日も連絡が取れなくなったり、かと思えば海外旅行にでも行ったのか 聞いたこともない土地柄のお土産を貰ったりしたので、つい・・・」 苦笑交じりで軽く頬をかく徐晃。 とにかく昔から謎の多い男のようだ張遼は。 「映画みたいな?」 「そう。007とか。MIとか。まあ考えすぎなのでござるが」 「ICPOとか!」 「殿。あれはスパイじゃないでござるよー」 「でも国を又に掛ける国際警察!格好いいじゃないですか」 「あー映画じゃそうでござるが、実際そんな風なものじゃないでござるよ?」 映画などでは脚色されているということだ。 そうなるとスパイも同じだと思うが。 とは言うものの、二人で張遼スパイ説について盛り上がった。 七つ道具を持っていたらとか、各国の美人諜報員との仲はとか。 本人が聞いていたら呆れてしまうだろう。 話している本人たちがそう思うのだから。 「徐晃さんが意外にノってくれるから良かったーお兄ちゃんじゃこうはいかないですよー」 「あ。確かに夏侯惇殿はその手の話をすれば切り捨てるでござるな」 学生時代のことを思い返してしまう。 徐晃はお人好しともとれる性格の性格の所為でよく騙されていた。 悪徳商法に引っかかるとかではなく、簡単な嘘とでも言えばいいのだろうか。 友だちが言う冗談などにだ。 反応が様々で、徐晃は素直に信じてしまい、夏侯惇はくだらないと切り捨てるか、呆れる。 張遼はその冗談にさらに輪を掛けて相手を返り討ちにする。 よく張遼には言われたものだ。 「そんなんでは、徐晃殿の将来が心配ですな」 悪人でも信用しきってしまうのでは?と。 騙されないよう、変なものに引っかからないようには気をつけているが。 こういう友人がいるからなんとかなっているような気もするし。 「あ。詐欺師の方が似合うような気がしてきたでござるなあ」 「詐欺師。ですか?」 「あ!いや、その。あー昔から張遼殿は人を騙す、いやいや、誑かす・・・じゃなくて」 はくすくすと笑った。 「昔から徐晃さんは張遼さんにからかわれたってところですか?」 笑われてしまったことに徐晃は少し恥かしそうにするが、その答えは遠からずなのでしょうがない。 「でも。私も小学生の頃。かわかわれたことありましたよ」 「へ」 「メンマは割り箸をしょうゆ漬けして寝かせたものだとか。玉ねぎが育つと白ネギになるとか・・・大きくなったら・・・」 そこまで言っては口をつぐんだ。 大きくなったらの続きを思い出して。 だが徐晃はのことには気づかない。 「ほ、本当にそんなことを張遼殿は・・・」 学校でそんな話をしたらいい笑い者になってしまうではないか。 でもやりそうだよな、彼ならば。 だけど、張遼のそういった話は気分を悪くさせるようなものではなく、どちらかと言えば 笑い話になりうる類なので今まであまり怒ったことはなかった。 小学生にまでそんな話を聞かせてしまうとは思わなかったが、被害者は多くいるようだ。 * (懐かしいことを思い出してしちゃったな〜) 小さく笑ってしまう。 ランドセルと背負っている頃の話だ。 張遼がよくをからかった内容の一つが「大きくなったら」の話。 あの時から始まっていたのではないかと思えてしまう。この想いが。 「思い出し笑いですか?殿」 「張遼さん。そうですね、思い出し笑いです」 「ほう。どのようなことを?」 気になるではありませんかと張遼は目を細めて笑う。 張遼の運転で自宅に戻る途中だった。 一日中とまでは行かなかったが、張遼と久々にデートできて良かった。 最後によったお店でのデザートは美味しかったし。 夜はカップル向けの大人な雰囲気を漂わせている店でも、昼間はOLやサラリーマン。 主婦や学生、一般向けのランチで人気のある店だという。 「張遼さんの職業ですよ。まだ教えてくれないんですか?」 「別に隠すつもりもないのですが、教えるほどでもないと思うので」 「なんでですかー。お兄ちゃんも徐晃さんも知らないって言うし」 「ははは。殿、聞いて回っているのですか?」 「だって張遼さん教えてくれないんだもん」 「あの二人にも隠しているわけではありませんよ?ただ聞かれないので答えたことがないのです」 「私は張遼さんに尋ねましたよね?だったら答えてくれてもいいじゃないですか」 少し頬を膨らます。 そんな仕草がまだまだ子どもだと思えるが、まあ可愛く、そんな顔も気に入っているのでいい。 「そこまで気になると、どうも素直に教えづらく。よく人様には天邪鬼と言われていましたからね」 それよりもの反応を楽しんでいるとように思える。 やっぱり、あれか。 徐晃と考えたスパイ説は当たっているのだろうか? 「なんかずるいなー張遼さん」 「そうですかねー」 楽しそうにハンドルを握っている張遼。 「徐晃さんに聞いたんですけど、張遼さんは人をからかうのが好きだって」 「おや。徐晃殿は酷いことをおっしゃる。別に好きなどと言った覚えはありませんよ」 「学生時代よくからかわれたーって言ってましたよ?」 「ふぅ。そんなに酷い事はしていないですがね。・・・・ところで殿」 「はい?」 バックミラー越しに張遼がに一瞬目を向けた。 「いつの間に徐晃殿と仲良くなられたのですか?少々妬けてしまいますね」 「え?あ、あははは。えー仲良くというか」 徐晃の店でバイトしています。って言えば済む事だが。 「あ。それでですね、私も小さい頃には張遼さんにからかわれたんですよーって話をしていたんです」 「おや。話をそらしますか。ですが・・・・そうでしたか?私はそんなに性格が悪かったでしょうかね」 「覚えていないんですかー?」 「まったく」 張遼は小さくのどの奥で笑う。 まあ仕方ないかと思える。一々覚えているほどではないのだろう。 「そんなものですよねー大きくなったら≠フ話もきっと覚えていないだろうなって思っていましたけど」 「大きくなったら?・・・・・」 はて?と張遼は考える。 ランドセル背負ったの子ども時代。今と似たようなもので毎日会っていたわけでもない。 たまに夏侯惇に着いてきた小さな女の子。 先輩の可愛がる妹さんだった。 「この話をした時、お兄ちゃんすごい目で張遼さん見ていましたよ」 「え・・・わ、私はいったい何を言ったのですか」 珍しく慌てる様子を見せる張遼。 本当珍しいなとちょっと楽しくなってしまう。 「聞きたいですか?」 「それはもう」 「その時張遼さんは・・・・大きくなったら、私のお嫁さんにでもなりますか?≠チて言ってましたよ」 「え。そ、そんなことを私は言っていたのですか?」 小学生相手に何を言っていたのだ。 それはちょっと不味いじゃないか、世間的に・・・・。何を考えていたのだ、当時の自分は。 いや、からかっていたのだろう。の反応が面白くて。 夏侯惇がすごい目で見ていたと言うのもわかる気もする。 ああ。もしかしたら夏侯惇の反応が見たくて言ったのかも知れない。 「それからですね。しばらくお兄ちゃんに文遠には近づくな。って言われました」 一つの思い出としては笑ってしまう。 でも、あの時からなのかな。張遼への想いと言うのは。 兄と一緒にいる格好いいお兄さん。子どもだったから余計に大きく素敵に映っていたのだろう。 いや、今も張遼はの目には格好よく素敵に映っているのだが。 「初恋だったんですね。私の」 「はい?」 「張遼さんが」 「あ・・・・それはなんと答えれば良いのか」 いつもならば綺麗に鮮やかに切り返すところだが、少々動揺してしまっているようだ。 苦笑しか出てこない。 「という訳で、張遼さん」 「な、なんですか?」 「ご職業は?」 はまだこだわっていたのか。 張遼は先ほどの動揺が薄れて余裕が出てきた。 「殿が徐晃殿と仲良くなった理由をお聞かせ願えればお答えしますよ」 と余裕綽々の笑みで答えた。 * 「ああ。確かに言っていたな、お前は」 後日。夏侯惇に「大きくなったら」の話を聞いてみた。 張遼は覚えていなかったのだが、夏侯惇はしっかり覚えており殺意が籠もっているんじゃないかと いうくらいな眼差しを向けてきた。 店には客が数人。夏侯惇は雑誌を読みながら張遼の相手をしている。 「覚えていませんね、私は・・・・」 「俺はその後、お前がなんて言ったのかまで覚えているぞ」 真剣に見ているページは「簡単に出来る今日の夕食レシピ」というもの。 夕食は関係ないが、本格的にこの店に珈琲以外のメニューが増えるのだろうか? 「殿が嫁にいけるような年頃には、私は沢山稼いでいますので楽をさせてあげますよ・・・ってな」 「・・・・・へえ」 「小学生相手に何を言っているのか思ったがお前だからな。危険を感じた」 「酷いですね」 「実際、その通りになりそうに見えるのだが」 「ではもうお義兄さんとお呼びしてもよろしいので?」 「もう。とか言うな。決定事項か?」 「お父上にお会いする前に最大の障害となりうるあなたを落としておきませんと」 「ふっ」 夏侯惇は読んでいた雑誌を閉じる。 おもむろにそれを混ぜて張遼の頭を叩いた。 「俺よりも親父の方が高い障害になるぞ。覚悟しておけ」 実際、そうなるのかは未定。 結局・・・・張遼の職業がなんなのかは不明のままであった。 キリリクでした。「遼さんの職業ななんですか?」との質問付きでしたが、結果的に謎のままですw
つか、小学生相手に何言ってんだか、この男は…。
07/04/23
13/05/04再UP
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