「はっ、はっ、たぁっ!ええいっ!!」

「……!!(馬鹿力だなぁ…マジで…さて、そろそろだな)」

「行くわよっ!」

「どりゃあぁぁ!!」

尚香が無双乱舞でしめようとした時、逆に甘寧が防御から一転して攻撃を開始した。

キーン!

尚香の武器が宙を舞った。

「はいよ、姫さんの負け」

「もう!興覇ってば!もっと真面目にやってよね!!」

「あぁ?俺はいつでもまじめにしてますけどね」

「してないわよっ!」

「…そう言われてもね…」

甘寧は最後になって攻撃を仕掛けた。
それまではずっと防御のみで、それだけでも尚香は気に入らないのに、最後の最後で負けてしまう。
いつものこと。

「本気を出してくれないと鍛錬にならないでしょ!」

「姫さん、それ以上強くなってどうすんだよ…」

「何言ってるの!この国を守る為なんだからもっと、もっと強くなるのよ私は」

「勘弁してくれやぁ…姫さんは十分強いっすよ」

甘寧はその場に座り込んでしまう。
仮にもこの国の姫君が武器を持って毎日鍛錬などと言うのはあまり感心しない。
こんなことしないで花嫁修業の一つでもしろよと言いたくなる。

「全然強くないもの…まだ興覇から一本もとれてないし」

「げっ!俺から一本って…それはそれで俺の立場つーのがなくなるんですけどね」

「いつも皆そう!策兄さまも周泰も本気で相手にしてくれないし。
権兄さまは私が戦場に出るのを嫌がるし…私だって父さまが守ろうとしたこの国を守りたいもの」

「………」

「私はこの国が好きだから」

「まっ、姫さんの気持ちもわからなくはないっすけど、それは俺らの仕事っすよ」

甘寧は立ち上がってパンパンと服についた埃を払う。

「こんなことばっかして嫁にいけなくても知りませんぜ」

「あら?心配してくれるの?」

甘寧の顔を覗き込む尚香。
甘寧はニヤッと笑う。

「姫さんの鍛錬の相手の俺の所為だとか言われちゃ溜まりませんからね」

「じゃあ、貰い手がないなら興覇に責任とってもらうからいいわv」

「それは重大な責任っすね…どうしてもって言うなら責任とってやりますよ」

本気なのか冗談なのかわからない笑顔。
甘寧はそう言って、尚香の頭をポンと軽く叩く。

「じゃ、俺はこれで。見回りの時間なんで」

「うん、じゃあね」

甘寧は自分の剣を持って鍛錬所を出て行く。
その後姿を見つめる尚香。

「…私は本気なんだけどな…」

自分の手でこの国を守りたいと思うのは本心。
いつまでもこうしていたいと思うのも本心。

「一緒に戦いたいと願うのも駄目なのかなぁ…」

守られているより一緒に戦いたい。
だとすれば、強くなるしかないじゃないか。
足手まといにならないように。



***



「よっ!見回りすんだぜ。特に変わったことはなかったぜ」

陽も傾き始めた頃、陸遜の執務室を訪れた甘寧。

「甘寧殿、もう少しマシな報告をしてくださいよ。私が周瑜様に報告する時大変じゃないですか」

「あぁ?だって本当のことだしよ」

「まったく…あ、そう言えば甘寧殿。尚香様の婚礼が決まりましたよ」

「…へぇ…そうか。ようやく決まったのか」

甘寧の態度に陸遜は眉を顰める。
少なくとも陸遜は尚香の気持ちを知っていたので。

「で、相手は誰だよ」

「蜀の劉備殿ですよ。呉国太様が劉備殿をお気になられたそうで」

「ふーん、いーんじゃねぇの。相手は一国の殿様だしよ」

読む気がないのに、陸遜の机に積まれた書物を手に取りペラペラとめくる甘寧。
陸遜はその書物を取り上げ、甘寧を軽く睨んだ。

「あ?なんだよ」

「いえ、別に。尚香様もお気に毒だと思いましてね」

「なんで?」

「貴方はそれでいいのですか?尚香様が蜀へ行かれてしまっても」

「…なんで俺がそんなこと気にしなきゃいけねぇんだよ」

明らかに不機嫌な様子の甘寧。

「俺には関係ねぇ話だ」

甘寧は吐き捨てるように言うと執務室から出ていた。
ご丁寧に乱暴に扉を閉めて。
そんな甘寧に陸遜は肩をすくめる。

「素直じゃないですね、甘寧殿は」



***



陸遜が言ったように、劉備と尚香の婚礼は正式のものとなった。
彼女はもうすぐ国を出てしまう。
だからと言って、臣下の一人である自分になにができようか。

「馬鹿を言い合えるってのも結構楽しかったけどな…俺にはどうすることもできねぇよ」

できるとすれば、彼女の幸せを祈るのみ。

「まっ、しかたねぇや」

甘寧はいつもみたいに鍛錬所へと足を運ぶ。
うだうだ考えてもどうにもできない。
だったら身体を動かす方が何倍もいい。
しかしそこには先客がいた。

「はっ!」

「…姫さん…何してるんすか?」

甘寧を見て一瞬笑うもすぐに表情は曇ってしまう尚香。
目を合わせようとはしなかった。

「何って、いつもみたいに鍛錬をね」

「そんな暇ないでしょ、婚礼の準備があるだろうし」

「…別に良いわよ、そんなの」

なんとなく気まずい空気。
甘寧はそんな雰囲気が苦手な為、この場を離れようとした。

「興覇、手合わせしてよ」

「え…あ…いいっすけど」

あまり乗り気ではないが応じる甘寧。

「本気でやってよね」

「俺はいつでも本気っすよ」

「…絶対だからね」

「………」

絶対だ。
そう言う尚香の目があまりに真剣だから甘寧はいつもみたいな事はしないと決めた。
本気の勝負。
男だとか、女だとか関係ない一本勝負。

だが、甘寧が本気を出せば、あっさり勝負はついてしまう。

「きゃぁ!!」

勢いよく尻餅をついてしまう尚香。

「大丈夫っすか!」

「…私じゃ一本取るのムリか…えへへ」

ずっと俯いたまま力なく笑う尚香。
甘寧は近づいて膝を折る。

「姫さん」

「…私、興覇と離れたくないよ。いつまでもこの国でこうやって興覇と一緒にいたいよ…」

甘寧は尚香の肩に手を触れようとしたが、その言葉に躊躇してしまう。

「………」

「私は好きな人と一緒になっては駄目なの?」

「…俺は…」

自分も尚香と同じ気持ちだ。
だが、ここでそれに答えてはいけない気がする。
だから躊躇した手で軽く尚香の頭を撫で、そして…。



「俺はいつでも姫さんの味方っすよ。何かあったらいつでも姫さんの下へ駆けつけますから」



そうとしか言えなかった。

「酷いなぁ、興覇ってば…私の告白をかわしちゃうんだから」

ようやく顔を上げた尚香。
その顔は笑っていた。

「約束してね、興覇。私が呼んだらちゃんと駆けつけてよね」

「当たり前じゃないっすか。俺は約束は守りますよ」

そして、数日後に尚香は劉備らと共に蜀へと発った。
途中まで護衛をかねて見送った甘寧たち。

「意外でしたよ。貴方のことだから無理にでも攫っていくのかと思いました」

甘寧の隣で陸遜は平気でそんなことを言った。
他の人間に聞かれでもしたら大変なのに。
甘寧は軽く陸遜の頭を小突く。

「痛いじゃないですか!」

「うっせーお前が変なこと言うからだろうが!」

「そう思ったのだからしょうがないでしょう」

「いーんだよ、これで。俺は俺のやり方があんだよ…俺の中じゃ答えは出てるんだよ」

「へぇ〜そうですか。ぜひ詳しく聞きたいところですね」

「誰かお前なんかに教えるかよ。俺と姫さんだけの秘密なんだよ」

「尚香様との秘密ですか。ますます面白そうですね」

「うっせーぞ!俺は先に帰るからな!」

甘寧はそう言って馬を走らせた。
慌てて他の者も続いていく。



「姫さんの分も俺が、アンタの大切な国は俺が守ってやっからよ…」





元々お題で「答え」って奴だったんですよね。でもって友達への捧げものでした。
個人的には甘寧と尚香の組み合わせは好きでした…でも、今の尚香さんにはねぇ…。
03/05/01
13/03/20再UP