出会った意味は?




ドリーム小説
それは、ある日起こった出来事…。
それに関して言えば、嫌だったし、聞きたくない話だった。
でも、私は傍観者と言う立場を取った。


素直になれない。


嫌だ、止めてって言えない『理由』があったから…。





が劉備の下へ身を寄せてから随分経つ。
異世界から来た少女は、自身の身に起きた事をめげることなく逞しく生活をしている。
それは劉備など周囲の者が彼女に良くしてやったこともあるのだが。

戦はあるが、それでも楽しく暮らしていた

それは、いつもの傍に居てくれる男性の存在があったから。
だから、その男性から『ある事』を聞かされた時は心中穏やかではいられなかった。


「え…結婚?…趙雲が?」

「はい、まだ決まったわけではありませんが」

困った顔をして髪を掻くその男性=趙雲がの隣でそう言った。

「殿が何故か乗り気で…本当困ってしまいますね」

苦笑する趙雲だが別段嫌そうな感じはしなかった。
いや、本当に困っているのかもしれないが、にはそう見えたのだ。
だから。

「ふーん、別にいいじゃん。すれば、結婚でも見合いでも」

「え、殿」

顔色一つ変えないで言われた趙雲は驚きより、にそんな事を言われるとは思わなかったらしい。

「趙雲も大人なんだし、結婚してもいい年齢じゃん。孔明先生だって、関羽や張飛にだって奥さんいるんだし」

「あ、その…殿!」

「ま、自分の事なんだから自分で決めなよ」

そう言っては趙雲から離れてしまった。
趙雲は追いかけようとしたが、足が動かなかった。

殿…私は…」

ぐっと拳を握り締めて趙雲はしばらくその場に立ち尽くしていたのをは知らなかった。



***



趙雲が結婚するかもしれないという話は案外早くに城内に広まった。
本人はにしか伝えなかったのだが、どうやら劉備が嬉しそうに周囲に漏らしたらしい。
話の出所が劉備と言う事は話は本当なのだと周囲の反応は様々だった。
男性陣からすれば、あの趙雲にも奥方ができるのか!と喜んだ。
女性陣からすれば、あの趙雲様の奥方になるなんてどこのどいつよ!と騒いでいた。

でも、だけはその話には『我関せず』の態度を取っている。

それが、の身近にいる人間には不思議で仕方なかった。

馬超や姜維なんかが、『お前、いいのか?』なんて聞いても、

『はぁ?何が?なんでそんなことに私が首を突っ込まなきゃいけないの?』

と威圧してくる。
あまり何度も聞くと

『いい加減にしろ!煩い!』

と言わんばかりの冷たい視線を投げてくるのでそれ以上は深く言えなかった。

で、趙雲の奥方になるといわれている相手だが…。

「尚香は会ったことあるんだ」

「あるわよ、一度だけね。気になる?」

は劉備に嫁いできた呉の弓腰姫・孫尚香といた。
歳が変わらないこの姫とは性格も合い、彼女と一番最初に仲良くなったのは劉備ではなくだった。
今日も二人で鍛錬所に向っている。
尚香は鍛錬目的だが、は普通に身体を動かす程度。
勿論、には刀は振れないのだから。

「気になるって…まぁ、この国の将軍さまの奥さんになる人だからね、どんな人かな?程度には」

「本当にそれだけ?」

「それだけですよ〜」

「そうは見えないけどね。将軍の奥方候補はね…あ!あそこに丁度居るわよ」

「え!?、どこ?」

鍛錬所に向う途中にある庭先で趙雲と一人の女性の姿があった。
二人はとても楽しそうにしており、それを見たの胸に小さな痛みが現れる。

「はぁ…美人じゃん」

なるべく、胸の痛みなどに気にしないようにする

「彼女はね、馬将軍の妹なのよ。名は確か馬雲緑。雲緑さんね」

「馬超の妹!はぁ〜なんか納得した。肌綺麗だよねぇ」

雪国である、西涼育ちの人間の肌は雪のように白く綺麗だ。
男性である馬超ですら、顔立ちのよさと肌の白さが上手くあっている。

「声、かけてみようか?ねー!」

尚香の行動に慌てて止める

「駄目だって、邪魔しちゃ!折角二人で居るんだから!。ほら、行くよ、尚香!」

「えーちょっとってばー」

は尚香の背中を押してその場を逃げるように去っていく。
尚香の声が趙雲たちにも聞こえたようで、反応した趙雲。

殿…?」

あれ以来、ちっとも顔を見せない
趙雲は寂しそうにが居たと思われるほうを見ていた。



***



「あぁ、俺の妹」

は馬超の執務室にいた。
と言っても、馬超は仕事などしてはいない。

「なんか知らねぇけど、殿が雲緑のこと気に入ってよ。アイツの嫁にするって言い出してよ」

「ふーん」

「ふーんって、お前さ。本当にそれでいいのか?」

同じ事を何度ものいろんな人に聞かれていたので、はうんざりした顔をする。

「何度も言わせるなって?そうかもしれねぇけど、俺はこの結婚は乗り気じゃないぜ」

「え!だって、自分の妹の結婚なんだよ…あ、あぁなんだ。妹が嫁ぐのが嫌なんだ」

笑い飛ばすに馬超の方が嫌そうな顔をする。

「なわけねーよ!相手が雲緑でなくてもだ」

「…え?なに、それって…馬超は趙雲に結婚されると嫌って言う仲なの?」

「お前なぁ、いい加減呆けるの止めろよな」

馬超のこめかみがぴくぴく動いている。
これ以上冗談でも言おうものなら、彼はキレてしまうだろう。

「なんで、そんなにどうでもいいような態度取るんだよ、お前は」

「そう思うからでしょ」

「嘘つくな!いいか?このままだとアイツは他の女のものになるんだぞ!」

「元々私のモノでもないからいいじゃん。別に。皆して何よ!関係ないじゃん、私には!」

お互いどんどん声が大きくなっていく。
当然防音されているわけじゃない部屋の壁。外に声は漏れているだろう。

「何言ってやがる!本心じゃアイツの結婚に反対なくせに。もう少し素直になりやがれ!」

「関係ないって言ってるでしょ!」

「お前のその態度にはこっちの方が苛々するぜ!なんで好きなくせにそんな態度を取るんだよ!」

馬超の苛々は本当に酷いらしく、その声、その迫力にはだけでなく、たまたま部屋の前を通った者は一目散に散っていく。
流石、戦場を駆けるものと言った感じだろう。
だか、そんな将軍にも負けじとは面と向かって言い放った。

言ってはいけない言葉を。





「好きじゃないもん!趙雲なんて!」





出した言葉には気をつけろ。
そう祖父に言われた事を思い出しただが時すでに遅し。
引っ込みがつかない状態だった。

「げっ!趙雲!」

馬超はしまったと言う顔をする。
趙雲が騒ぎを収めようと扉を開けたときにの言葉を聞いてしまったのだ。

「あ…」

は自分の後ろに居るだろう趙雲を見ることが出来ずにいた。
確かにこの言葉は本心ではない。
本心を隠しているのだから、その理由と共に。
でも、売り言葉に買い言葉でとっさに出てしまった『嫌い』って言う言葉。
もうどうすることも出来なくて…。

趙雲の方はなんともいえない表情をしていた。
だが、聞いてしまったわけだし、この場所に居づらい気持ちもあるだろうが。

「お二人が大声で喧嘩していると聞いたもので、その、喧嘩は駄目ですよ」

「あ、あのな、趙雲」

の耳に入る趙雲の声がとても寂しく悲しく聞こえる。


モウダメダ

デモコレデイインダ

ダッテワタシハ…


は馬超が趙雲に必死で何か言ってる声も聞こえず、趙雲の顔など見ることもなくその隣を通り向けようとしていた。

「おい、!」

馬超が声をかけるもは無反応。
自分の横を通り抜けようとするの顔を見ると、趙雲は思わずの腕を掴んだ。
泣き出すのを必死で堪えている顔をしていたから。

殿!」

「いや!」

はすごい力でその腕を振りほどき走って逃げてしまった。

「待ってください!殿!」

趙雲もその後を追う。
急に静かになった部屋で馬超は深く息を吐いた。

「後は自分らでなんとかしやがれ…」



***



それを見たものは何事かと思った。
だが、思った瞬間にそれは通り抜けていく。

「え?なに??…あ!趙雲殿!…なんだ?」

姜維が地図やら書簡などを持って孔明の元に行く途中、通り抜けて行った風に驚く。
が走り抜けて行ったから。
そしてすぐ後に趙雲も走り抜けて行ったから。

その光景は中々すごいものだった。

あの趙雲が少女を追いかけているのだから。
いったい、あの少女は何をやらかしたのだと皆首を傾げる。

「待ってください!殿!」

「何で、追いかけてくるのよ!もう、構わないでよ!」

「貴女が逃げるからでしょう!」

そんなやり取りが走りながら行われていた。
階段を上り廊下を駆け、階段を下り廊下を駆け。
二人とも体力が良く続くものである。

「なんだよ、まだやってんのかよ…」

スタート地点だった部屋の主、馬超は二人の追いかけっこを止めもせずに見ていた。

「これで何週目だ?」

バカ正直にを追いかける趙雲。
待ち伏せしようとは思わないらしい。

「さっきから何事ですか」

執務室の前をドタバタかける足音。
しかもそれが何度も続くので孔明が顔を出す。

「あの二人は何をしているのだ?」

「さぁ、なんでしょうね?」

劉備や尚香までもが顔を出す。
劉備は眉を顰めているが、尚香は楽しそうである。

関羽や張飛、魏延や黄忠、ホウ統、様々な者が顔を出し二人の追いかけっこを見ている。

「馬超殿!止めなくていいんですか?」

姜維が馬超の下へやって来た。

「どうやって止めんだよ。ぶつかって怪我するのがオチだ」

「しかし、皆見てますよ」

「いいんだよ、が自分でまいた種なんだからな」

「え?が?」

「さぁて何処まで続くかね」

楽しそうに笑う馬超に姜維は後のことを考えると少し怖くなるのだった。

(もう!なんで追いかけてくるのよ!もう、疲れてきた〜)

持久力で趙雲には敵わないらしい。
そりゃあ、男女の差だけでなく、向こうは日々鍛錬を欠かさずにいるのだから。

少しずつだが足がもつれ始めてきた。
とうとう階段の近くでの足は止まってしまった。

「はぁ…はぁ…もう…なんで…」

階段の手摺に手をかけて息を整える
趙雲が駆け寄りの肩に手を触れようとする。

殿、ちゃんと聞かせてください。なぜ」

「嫌だってば!」

ばっとその手を振り切ったと同時に走りまわった所為で足に力が入らなくなり、は後ろに倒れこむ形となった。
だが、場所が悪い。
ここは階段の一番上。
倒れると言うより落ちるという方が正解である。

殿!」

(あ…頭から落ちたらやばいかも…)

呑気にそんなことが脳裏に浮かぶ。
目を瞑って痛みに耐えようとする。
運が悪ければ、そのまま目は覚まさないだろう。

「!?」

しかし、痛みは頭ではなく腕に来た。

殿、大丈夫ですか!?」

「…あ、あれ?」

落ちると思った瞬間に趙雲がの腕を掴み自分の方へ引き寄せたのだ。
それはとても強い力で、腕が痛かった。
そして、気づけば趙雲の腕の中にいた。

二人とも座り込む形となっている。

「良かった…どうなる事かと思いました」

「あ、ありがと…」

素直に礼を言う
しかし、いまだ顔を合わせようとしない。

「…そろそろ放してくれない」

「………」

「趙雲!」

「そんなに私のことが嫌いですか?」

その声はいつもより低く感じる。
の肩がびくっと動く。

「私が好きなのは殿なのに…今まで普通に接してくれたのに何で急に私に冷たくするのですか?」

趙雲に好きと言われて顔を紅くする
だが、理由を問われても答える気にはならない。

「心のどこかで、貴女があの話を嫌だと言ってくれるかもと期待してました」

本当に自分のことを好いてくれてると思う
けれどその想いは自分に向けられるのは辛かった。
なぜなら

「嫌だけど、嫌だって言えないよ」

「何故!?」

「だって好きになっちゃいけないもん」

「身分の差なんてないでしょう?貴女には」

「いつか、きっと…私はいなくなるから。趙雲のそばから、この国から…この世界から…
わかる?私はこの世界の人間じゃないんだよ?きっといつかもとの世界に戻らなきゃいけないんだ」

それが理由。

ずっと堪えていた涙をぼろぼろ流す
の中には、趙雲の事は好きだという気持ちといつか訪れるだろう別れの時の気持ちがあったのだ。
だから、趙雲の結婚話に嫌と言う事を示す事もなく傍観者でいることを選んだのだ。

「趙雲の事は好きだけど、私は傍にいる事はできない。だから」

の気持ちが聞けて嬉しかった。
けれど、受け入れられないのは悲しい。

「でも、私は殿じゃないきゃ駄目なんです」

「だから、私と趙雲は住む世界が違うって」

「そんなことないです!現に貴女は私の目の前にいるではありませんか!
きっと、貴女がここへ来たのは、私と出会うためだったかもしれませんよ?」

「趙雲と出会う…ため?」

「だから貴女はここにいるのですよ」

趙雲は笑った。
自分の言いたい事は全部言った。
後はの気持ちだけ。

「考えてもみなかった…私がここに来た理由なんて。趙雲に会うためにか…」

殿、貴女の正直な気持ち聞かせてください。私は殿が好きです。貴女さえ良ければ、私の傍にずっといてください」

「私も趙雲が好き。傍にいたいと思う…ううん、傍にいたい」

趙雲はを力いっぱい抱きしめた。
も趙雲の背に手を回す。

「でも、いいの?結婚話」

「構いません。私は最初から結婚する気はなかったですから」

「でも、劉備様乗り気なんでしょ?」

「ちゃんと話せば殿もわかってくれますから」

趙雲はそう言って、に口付けをした。
も逃げずに受け入れたのだった。





「ね?最初からあの結婚は無理だって言いましたよね?」

「むぅ…しかし…」

趙雲たちの様子を少し離れた所で窺っていた劉備と尚香。
どうやら、尚香には最初からわかっていたようだった。

「しかし、雲緑殿になんて言えば…」

「あれの事は気にしないでください、殿」

今度は馬超と姜維が現れた。

「馬超」

「元々、雲緑も乗り気ではなかったようですし。アイツ、他に好きな男がいるみたいですから」

「な、なんと!そうであったか…これは二人に悪い事をしたな」

劉備はバツが悪そうにしている。

「殿、そう思われるのなら、結婚話はなかったことにして、趙将軍との仲を認めてくださればいいのですよ」

「そうか、うむ。そうだな」

なんてやり取りが自分たちの後ろで行われている事は知らない趙雲とだった。








色々と恥ずかしい話だと思いますw
04/01/25
13/03/16再UP