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きっと帰るから。
「……くん」 「………」 「…統君ってば」 「………」 「無視するな!凌公績!」 「痛っ…!何するんだよ」 凌統は突然耳を引っ張られた。 引っ張った相手、を軽く睨む。 だがは悪びれた様子もない。 「それはこっちの台詞。何度も呼んでいるのに、凌統君無視するんだもん」 「え、呼んだか?」 「呼んだ」 「あ、あー悪い。少しぼーっとしていたみたいだ」 「みたいじゃなくてぼーっとしていました」 ニヤッとが笑うために凌統はフンと顔を背ける。 「で、何の用なわけ?」 近くにあった長椅子にどっかりと腰を下ろす凌統。 「用ってわけじゃないけどさ」 「ならば呼ぶなっての」 「あはは、凌統君がいたから声をかけたの。でも私で良かったね」 「なんで?」 も凌統の隣に腰を下ろす。 視線はまっすぐ正面を向いたままだ。 「だって、呂蒙さんに呼ばれて同じ態度とったらマズイでしょ?」 「……あー確かに」 「ま、呂蒙さんは仕方ないって苦笑するだろうけど」 「仕方ない?」 「そ。仕方ないって」 凌統は思わず隣にいるに視線を移す。 はただ笑って正面を向いている。 「なんだよ、それ。呂蒙さんは俺が暑さにやられた〜とでも思うってわけ?」 「そうだねぇ、まだ暑いものね」 と答えるだが、が思う『仕方ない』って言う答えとは少し違うと凌統にもわかる。 「なんだよ、はっきり言えって」 「うーん。どうしようかな〜」 はくすくすと笑う。 凌統は早く言えとの髪を軽く引っ張る。 「痛いって凌統君」 「さっきのお返し」 口の端をあげて凌統は笑うが、その手は離そうとしない。 「早く言えよ」 「しょうがないなぁ」 言えば、ひどく否定するだろうなと目に見えている。 とは思うので、本当は言いたくないのだが。 今更、言いませんなんて言えば凌統に何を言われるかわからない。 「あのね。甘寧がいないからつまらないのだろうなぁ〜って」 「………は?」 の髪を持っていた手が離れる。 「呂蒙さんとね。そんな話をしたから」 甘寧は今、陸遜や周泰らと共に蜀と戦うために出立していた。 大きな戦になるだろうと予想されている。 「な、何言っているんだ。俺がつまらないってなんでそう思うんだよ」 焦っているなぁとはくすりと笑う。 凌統と甘寧は毎日子どもじみたやり取りをしていたのだ。 それがぱったりとなくなれば多少は影響がでるだろう。 「見ていてそう思うよ。だって、一人でぼーっとしていたし」 「いつも何かを考えているわけじゃない。何も考えない時だってある」 「それはそうだね」 「なんで、俺があいつなんかのことを…」 「心配だよね」 「あ?別に心配なんかしてねーっての」 二人が合肥の戦いで少しは変わったと聞いている。 と言うより甘寧の方が最初から大人とでも言うべきか。 凌統の事をちゃんと考えていたようだ。 凌統は今までの所為もあり、少しは変わったと言っても中々素直にはなれないようだ。 「私は心配なの…」 「へーはそこまでアイツが心配ですか」 焦っていた凌統の姿は消えて少し冷めた目でを見る。 「心配だよ。だって友だちだもん」 「へー」 いつもならばここでが逆に凌統に茶々をいれる。 あれ?ヤキモチ妬いているの? と軽く。 だけど、の顔は不安でいっぱいなのだ。 「な、なんだよ……」 いつも自分たちが戦に行く時でも不安な顔は見せない。 むしろ笑顔で『いってらっしゃい。気をつけてね』と見送っている。 凌統以外の人間が様々な任で出立しようとしている時もだ。 だから、初めて見せるの表情に凌統も言葉が出なくなる。 「夷陵なんだよね、今度の戦」 「あ、あぁ」 「凌統君も行くんだよね?」 「あぁ」 長期戦を覚悟で臨むらしい。 戦略なんてのはにはわからない。 だが、凌統たちと違いは歴史を知っていた。 ここがあの世界とは違うと知っていても、もしかしたら?と言う不安がある。 夷陵の戦い。 その時。甘寧は。 は目を瞑り、ギュッと拳を握る。 「バーカ。アイツの心配なんて馬鹿馬鹿しいっての」 「凌統君!」 それはあなたが知らないからだ! は言いそうになるが、言えないだろう。 凌統はの頭をポンポンと軽く叩く。 「心配するなっての。この俺が見といてやるからよ」 「凌統君」 「だから少しは俺の心配もして欲しいんですけど?」 の頭から肩へと凌統の手は回される。 顔を近づけて意地悪く笑う。 「私、甘寧だけじゃなくて皆の事も心配しているけど」 「皆じゃなくて、俺のことだけがいーんですけど」 甘寧の奴ばかりずるいと凌統は言う。 「そ、それはさ〜皆に悪いよ」 凌統が顔を近づけてくるからは逆に身体ごと引けてしまう。 でもすでに凌統に肩は捕まれているし、座ったままだし逃げられない。 「別に皆に宣言するわけじゃないんだからいーじゃん」 は恥ずかしいと思いながらもチラリと凌統の顔を窺う。 凌統はその視線に気づく。 からかわれているのだろうなとは思うが、凌統の目は優しい。 「な。俺のことだけ見てよ、」 「凌統君」 「が俺のこと見ていてくれると俺は頑張れるだろうな」 「そう、なの?」 皮肉めいた言い回しでなく、優しく囁く凌統。 「が好き」 「…じゃあ」 「ん?」 「夷陵での戦いから…ちゃんと帰ってきてくれる?」 「もちろん。の元へ一番に行くさ」 「甘寧と一緒に帰ってきてよ」 人が告白しているのに、他の男の名前を出すか?と凌統は微苦笑する。 でもは何かに怯えている。 だからしょうがないと凌統は頷く。 「あぁ、いーよ。の前に引っ張ってきてやるよ」 「うん」 「だから、」 凌統はの手を取る。 「俺のこと、見てよ」 「……うん」 恥ずかしそうにしながらも頷くに凌統も笑む。 そのままの頬に軽く口付けた。 「続きは戦から帰ってからってことで」 凌統はを解放し立ち上がる。 何を心配しているのか知らないけど、あの馬鹿は元気だと思うんだけどね… ま、俺が行くんだから負け戦になんかしないさ。 そうしたら、の前にアイツを連れてきて安心させてやるからさ。 少しの間だけ我慢しててくれよな。 「さぁて、行きますか」 アンケ結果からで、夷陵の戦い前の話。
05/08/22
13/03/14再UP
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