心の奥では




ドリーム小説
殿」

趙雲さんは優しい…

殿」

趙雲さんはいつも笑顔で私の名を呼ぶ。

殿」

多少のわがまま言っても、嫌な顔もしない。

殿」

なんか、そんな笑顔がムカつく…





は一人、城を出てさらに街をも抜けて誰もいない静かな場所の森へ来た。
綿竹の森のような気味の悪さはない普通の森。
はたまに一人でここへ来ることがあった。
ここならば、静かに考え事も出来、休む事も出来る。

気を使うってほどではないが、居候の身としては出来るだけみなの邪魔はしたくないのである。
ま、理由はそれだけではないようだが…

「今日は白玲、昨日は蘭藍、緑香さん、玉鈴さん、一昨日は邑明さんに神露…」

は数人の女性の名前を指を折りながら呟いている。
そして深いため息を吐いた。

「きっと、今頃は春妃さんかな…」

この数多くの女性たち。
実は城に勤める女官たちである。
普段から髪を綺麗に結い上げ、化粧も嫌味がなくされとても綺麗な女性たち。
きっとモテるだろうな、とが思うも、そんな女官たちが想いを寄せているのは趙雲であった。

女官たちは休み時間となると、こぞって趙雲の元へ行き、差し入れなどをして気を引こうとしているのだ。
おかげで、毎日違う女性が彼の隣を歩いているのをは見かける。

「また、笑顔で『ありがとうございます』な〜んて言うから、お姉さん方は頬を染めちゃうんだよね」

は簡単に想像着いてしまうその様子に顔を顰める。

「あーやだ、やだ…趙雲さんってば誰にでも同じ顔してる」

そう、にも笑顔で声をかける。

『おはようございます、殿』

『今日もいい天気ですね』

『その、お暇でしたら散歩でもしませんか?』

少し照れた様子で話しかけてくる趙雲だったが、にはどうもそれが受け入れられない。
理由は先ほどの『誰にも同じ顔』って奴らしい。

「別に…関係ないけど」

はそのまま草の上に寝転び目を閉じる。
城にいても、いつも似たような光景ばかりが目につくので、城を抜け出すのだ。
別にが気にする必要もないのだが…



***



そしてある日の朝。

「おはようございます、殿」

「…おはようです、趙雲さん」

朝一番に趙雲と会っただが、その顔は複雑だった。
なぜなら…

「「おはようございます、さん」」

「…はようです、神楽さん、鈴音さん」

趙雲の両脇には笑顔の女官二人が並んでいる。

(朝から、これかよ…)

「あの、殿、今日」

「あ、私ちょっと行くところがあるので失礼しますね」

すうっと趙雲たちの横を通り抜けて行く

「あ…殿…」

「さ、趙雲様、参りましょう」

「え?…は、はい」

に声をかけてもいつもいい返事、いい顔がない。

(嫌われているのだろうか、私は…はぁ…)

最初に出会った頃はそんなでもなかったはずなのに、どこでこうなったのだろうか?
趙雲は話しかけてくる女官たちの声など耳に入っていないのだった。





「馬超ははっきりしてるよねぇ」

「なんだよ、急に」

「なんとなーく」

は馬超の執務室にいた。
部屋の主である馬超の椅子に腰掛け、机に顔をつけている。
馬超はさほど気にしてないようで、他の椅子に腰掛け書簡に目を通している。

「馬超もモテるのに、女官さんたちはいつも遠目から見てるよねェ…馬超って観賞用?」

「俺は見世物かよ…それにもってなんだよ、『も』って」

「馬超は口が悪いからなぁ…あ、観賞用なら姜維君だね」

「聞いちゃいねェよ」

そう言ったきり、馬超は何も言わなかったので、も黙ったままだった。
しばらくそうしていたものだから、日当たりの良いこの場所でそのままは寝てしまった。




「って試してみれば?それで効果がなければ、それまでだね」

ふと、耳に馬超の声が入ってきた。

(う、やば…寝ちゃってた、私…)

身体を起こそうと思うが、馬超の話の相手の声を聞いて起きるに起きれなくなった。

「それまでって、馬超殿」

(ちょ、趙雲さん?…)

「やって見ればいいだけのことだよ、ほら行った、行った」

「はぁ、少しだけなら…」

これで会話は終了したらしく、趙雲は部屋から出て行ってしまった。
この後で、馬超に叩き起こされただった。



***



「趙雲様〜差し入れですわ〜」

数人の女官たちに囲まれている趙雲をは目撃した。
いつもの事だと、自身大して興味も沸かなかったのだが、ふと趙雲と目が合う。

「……では、向こうで頂きましょうか」

いつもなら目が合うと、恥ずかしそうに笑う趙雲なのだが、今回に限っては趙雲の方から目を背けられた。

「あ…れ???」

この日を境に、趙雲が自分からの前に姿を現すことがなくなった。
相変わらず、女官たちには囲まれてるのだが、がそれを見かけても趙雲は笑いかけては来なかった。

「なんか…調子狂う…」

いつもの森で寝転んでいる

「別に私が気にする事なんてないのに…自分でムカつくとか思ってたし…ならこれでいいじゃん」

そう言葉に出してみるも、意味もわからず無視されるのは正直胸が痛む。
しかし思う、

「私もあんな感じで見えてたのかな…趙雲さんが笑ってもムスっとした顔してたのかな…。
なんか…自分が恥ずかしいな…」

無視された方はこんなにも苦しいだなんて。
それを平然とやっていた自分が嫌になる。
だから、逆に趙雲に同じことをされてもこっちは文句を言える立場ではない。

ずっと、胸が苦しくて痛い。
今更、『あんな態度をとってごめんなさい』って謝る勇気もない。

「重いなぁ…」





日が暮れてもはその場に寝転んだままだった。
昼間は木々の隙間から日の光が差し込んでくるが、夜になれば月の光が照らし出される。

「帰らないと…」

でも起き上がろうとはしない。
まだ胸が痛くて、いつの間にか涙まで流している。

「バカだぁ、私ってば…」

ガサガサ…。

ガサガサ…。


「え、何?」

草むらから聞こえる音。
野犬だろうか?
昼間安全だからと言って、夜も安全なわけはない。
ましてここは城壁の外。
もし、他国の間者や賊だったらと思うと、震えてくる。

音は段々こっちに近づいてくる。
手前まで来て駄目だと思った瞬間、は身を縮めた。

「なに、やってんだよ、

「ふぇ?」

恐る恐る顔を上げると、呆れ顔の馬超と無表情の趙雲が立っている。

「お前ね、部屋にも戻らないで何やってんだよ、皆心配して探してたんだぞ」

「ご、ごめん」

「まぁ、いいや。俺、他の奴らに知らせに先戻るからな」

「え、ば、馬超!」

しかし馬超は行ってしまった。
残された趙雲とだが、趙雲は何も言わず先を歩き出す。
は慌てて追いかける。
趙雲の数歩後ろを歩く。

(…何も言えないよ、趙雲さんなんか怖いし…)

会話もなく、森を抜ける二人、城門近くまで来た時、趙雲は立ち止まった。

「………」

「………」

立ち止まったままの趙雲に恐る恐る声をかける

「趙雲さん…あの」

「もう限界です、私には無理だ」

「え?」

趙雲は振り返りを抱きしめた。

「心配しました、殿…貴女が戻ってこないと聞かされた時、私の心は壊れるかと思いました」

「趙雲さん?」

「でも無事で良かった。貴女が無事なら私は嫌われたままでもいいです」

「き、嫌われたままって?嫌われたのは私の方でしょ?」

「あ、あれは…私が貴女を嫌うなんて…ずっと好きでした」

ぎゅうっと抱きしめる力を強める趙雲。
は顔を上げると、いつもの少し照れた笑顔の趙雲が自分を見ている。

殿、貴女が好きです」

「…わ、私は」

「私は気持ちを伝えることが出来ただけでもいいです」

趙雲はを解放した。

「さぁ、戻りましょう。皆待ってますよ」

少しぎこちなくの手を取り歩き出す趙雲。
はその手をぎゅっと握り返した。
それに趙雲は気づくか、あえて気にしないようにしてた。
だが、が小さな声で呟く。



「私…趙雲さんのこと、好き…かも」



殿?」



「あ、その…好きです、多分」



「かもとか、多分なんですね」

趙雲は苦笑してしまう。
は慌てて首を振る。
趙雲の方は気にしないようで笑っている。

「だって、今まで自分でも気づいてなくて。趙雲さんに嫌われたって思った時にすごく悲しくて」

「あ、す、すみません!あ、あれは」

「私、いつも趙雲さんの隣にいる女官さんに嫉妬していたのかも」

自分と同じ笑顔を彼女たちに向けるのが気に入らなくて。
それは嫉妬していただけなのだ。

「あ、あの!私は、その、彼女たちに強く言われると、上手く断る事が出来なくて…情けないですね」

「でも、趙雲さんが優しいのは知ってますから」

殿」

「趙雲さん、今度は私も趙雲さんの隣を歩いてもいいですか?」

「勿論です。私は貴女と歩きたいです」

素直に気持ちを伝えたは、以前とは違って趙雲の横にいる。
ちゃんと笑顔で。
まだどこか幼く、ぎこちない付き合いの二人だが、当人たちが幸せそうなので周りは黙って笑っているのだった。

「でも、趙雲さん。なんで急に私のこと避けたんですか?」

「え!?あ〜それは…馬超殿が」

「馬超?」

「馬超殿に相談したら、『追いかけるより、追わせてみろ!』って言うので…」

趙雲自身、好きな人を避ける毎日は辛かったらしい。
そのお蔭(?)でこうしてと居れるわけだが…。

(馬超〜もっといい方法はなかったわけ?)

趙雲には笑顔を向けるも、その内心は馬超への怒りが煮えたぎっていたのであった。
そして…。

「なんじゃ、こりゃーーーー!!」

執務室から馬超の叫び声。
は日当たりの良い執務室で昼寝している馬超の額に、持っていた油性マジックで『肉』と書いたのだった。

「ま、悪戯って言えば、当然これでしょ?はぁーすっきりした♪」

しばらく馬超は人前に出ることがなかったという…。







リクでした。
03/02/22
13/03/13再UP