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甘くて欲しいもの。
「?おーい、さーん」 凌統は彼女の部屋を覗くが、探している者の姿はない。 「可笑しいな、どこ行ったんだ、アイツ…」 普段ならば簡単に見つかるのに、今日はどこを探しても見つからない。 「の行きそうな場所って言えば…」 庭園。庭園の東屋。尚香の部屋。その他大勢の部屋。 予想をつけても探し回るのが嫌だ。 格好悪い。 探してましたなんてに思われるのが嫌だ。 格好悪い。 だって、格好つけたいものだし。 しかも探して、その他大勢、どっかの誰かの部屋でが楽しそうにしているのを見たら嫌だ。 最近では父親の仇だと因縁つけて回った甘寧との仲も緩和された。 合肥と夷陵の戦いでそうさせてくれた。 自分から気軽に声をかけるほどではないが。 もっぱら、甘寧がちょっかい出してくる感じ。 「さぁて、どうしましょうかねぇ」 頭を軽く描いて少し考える。 もし尚香たちと一緒ならば考えるだけ無駄だ。 女のお喋りは長いのでいくら自分が待ったところではすぐには戻ってこないだろう。 「仕方ない。適当に時間潰すか」 凌統は歩き出した。 適当に時間を潰すくらいならば仕事をすればいいのにと突っ込まれそうだが。 「と、なんだ。の奴、あんなトコにいるじゃん」 凌統はたまたま通りかかった厨房にがいるのを発見する。 彼女は何かを作っているようだが。 凌統はかまわず中に入る。 「、何してんの?」 「凌統君。見てわかんない?お料理しているのですけど?」 この場にて何をしているなんて聞くなは言いたいらしい。 「へーが料理ねぇ。何作ってるのさ?」 「春のお菓子と言えばの、うぐいすもち〜えへへ、この前大喬に教えてもらったんだ」 は鍋を火にかけている。 「ちゃんと作れるのかい?」 「大丈夫!ちゃんと教わったし、メモしてあるし、何度も読み返したから」 「ふーん」 凌統にはのしている作業が何を意味するのかまったくわからない。 「うーん、このくらいかなぁ」 「………」 が自信たっぷりに言ったとおりに、彼女はテキパキと作業を続けている。 そんなことがしばらく続く。 凌統がそばにいてもは彼の相手をせず無視。 無視と言うより調理に夢中になってしまっている。 凌統としては面白くないわけで。 「なぁ、いつになったらできる?」 「まーだ」 と後ろから何度か声をかける。 は返事はしてくれるものの顔は見せてくれないわけで。 「なぁ」 「ちょ、ちょっと!凌統君邪魔しないでよ!」 の髪をチョンと引っ張って遊ぶ。 そんな事をすればが怒るのは目に見えているのに。 「なんで?俺って邪魔なわけ?」 「見てる分には邪魔じゃないけど、髪とか引っ張られると邪魔」 「あっそ」 「出来上がるまで待ってよ。凌統君に最初に食べてもらうから」 「出来上がりっていつになんの?それに最初ってことは毒見か?」 「もう〜嫌味言わないでよ〜」 に邪魔と言われ、かまってもらえないのがよほど腹が立つらしい。 「とにかく、出来上がるまで大人しくしていてよ」 「………あっそ」 凌統はに背を向けて厨房を出て行ってしまった。 「あー凌統君〜…しょうがないなぁ」 とは思っても単に拗ねているだけだろうとにはわかっていたのでそのまま作業を続ける。 あとで、出来上がったうぐいすもちを持って行ったらちゃんと食べてくれて機嫌も直るだろうから。 その後も凌統の機嫌は良くならず、庭園の一角で不貞寝していた。 それでもしばらくゴロゴロしていれば、時間も経つもので、そろそろのところへ戻ろうかと考えていた。 いや、どうせならば最初に、自分に食べてもらうからなんて言っていたのだ。 持ってきてくれるのを待てば良いか。 とか暢気に構えていてもが来る気配は一向にない。 「なんだよ、の奴…」 自分から顔を出すのは格好悪い。 でも行かねばの様子がわからない。 「ちっ」 舌打ちして身体を起こして厨房に向かう。 「…なんだっての、あれは…」 凌統が目にしたもの。 厨房にて大勢のものに囲まれたの姿。 そして、最初に食べてと言っていたできあがったうぐいすもちが食べられてしまっている。 「おぅ、いけるって」 「そうですか?孫策様。大喬に教わったんですよ〜でも、大喬の作ったモノの方が美味しかったなぁ」 「そんなことないわよ、。そんなに甘くなくていいじゃない」 「あー興覇食べすぎ!」 「って、姫さんだって食いすぎっすよ」 「ずるい、ずるい〜私も食べる〜」 孫策を始め、大喬に甘寧、尚香に小喬。 陸遜もいるし、孫権に周泰もいる。 あらあらと言うか、周瑜もいるし呂蒙もいるし、太史慈も黄蓋も孫堅まで。 口元が引きつってしまう凌統。 「うん、美味しいですよ、」 「…美味い…」 「はははっ、は中々上手ではないか」 それぞれが美味い、美味いとを褒めているのでも満更ではない様子。 「あは、ありがとうございます。ちゃんと味見はしたんですけど、やっぱ自信なくて」 でも皆が褒めてくれるならば一安心だ。 「…何してるんすか、皆して…」 凌統は仕方ない感じもしながらも輪の中へ入る。 が調理していたことなんて知りませんでしたって顔をして。 「おぅ、凌統。お前も食べてみ、うめぇぞの作った菓子」 孫策がこっちへ来いと手招きするが、見たところ、この人数で食べればあっという間になくなるというもの。 現に盛ってあったと見られる皿の上にはすでにそれらしきものはない。 凌統はこれをどうしろと言うのだろうかと、食べてしまった面々を恨めしく思う。 「食べようにもないみたいなので、遠慮しておきますよ」 「あのね、凌統君」 が凌統の前に顔を出すが、凌統は知らぬと言う顔を作り背を向けてしまった。 「次があるようならば残ってるうちに顔を出しますよ。それじゃあ」 「あ、あー凌統君!」 凌統はさっさと場から抜けてしまい慌ててが追いかける。 「興覇が食べすぎたのよ」 「だから、俺以上に姫さんが食ってたでしょうが」 「これだけ大勢いれば足りなくなるのも無理はないですよね」 「なんか凌統に悪ぃことしたなぁ」 それぞれ色々思うところはあるようだが、ないものはない。 食ってしまったのだから仕方ない。 間の悪かった凌統…ちょっと哀れんでしまった。 「凌統君、歩くの早い!」 とはが言うが、実際は歩きではなく小走りに近い。 「なに?なんか用?」 「もう!凌統君の分がなくなっちゃったのは謝るけどさ」 「別に」 「怒らないでよ」 追いついたに対して足を止める凌統だが、腕を組んでそっぽ向いてしまっている。 目線を合わせるものかと言う感じ。 「怒ってねぇよ」 「……怒ってるじゃん」 「あ?」 「うぐいすもちだったら、また作るしさ」 「…それって俺がもちが食えなかったから怒ってる意地汚い奴みてーなんだけど」 「違うの?」 「ち・が・う!」 はくすくすと笑う。 「じゃあ拗ねてるの?食べれなかったから」 「あのな!」 拗ねていたとも。 でも食べれなかったからじゃなくて。 いや、それもあるかもしれないが。 孫策たちに囲まれてるを見たら面白くなくて。 「もういいっての」 凌統は唇を少し尖らせる。 それを見てが余計に笑うから、からかわれたようで面白くない。 いつから自分はこんな余裕のない奴になったのだろうか? の事になると、子どもっぽい感情を露にしてしまっている。 格好悪い。 こんな自分は大嫌いだ。 もう少し大人な奴だと思ったのに。 「笑いすぎたっての、」 「あ、ごめん。でも、なんか面白いから」 「っ…な、なんだよ…くそ」 「私も悪かったし。凌統君に、最初にって言ってたのにね。結構沢山作ったんだけどね」 まさかあんな大勢集まるとは思わなかったと。 「よし、次は期待しててね。凌統君も食べれるようにしておくから」 「だから〜」 それじゃあ俺が食い意地の張った奴だと…。 凌統はいまいちには自分の気持ちが伝わっていないのだと思い知らされたので苛つく。 だが。 「別にもちが食いたいわけじゃない。だからこれでいい」 「へ?」 凌統はを引き寄せそのままに口付けた。 「んう!?」 はいきなりのことで驚き硬直してしまう。 その間凌統には好き勝手されてしまうのだが。 ようやく唇が離されるが 「…色気ないねぇ、。こういう時は目を閉じるものだろう?」 「あ、あの、凌統君!」 「ま、ご馳走様でした。甘かったからこれで十分」 ニヤリと笑う凌統。 甘かったのはさっき味見で食べたうぐいすもちの餡子の所為だろう。 「今度はもっと色気のある口付けがしたいものだね」 呆けている頭を二、三撫でて凌統は行ってしまう。 さっきまでは思いっきり拗ねていたのに、打って変って超がつくほどご機嫌で。 「う…う〜凌統君ずるい!」 は顔を真っ赤にして撒き散らしてしまうが、その顔の赤さは口付けに照れたからなのか、一方的な好意に腹を立てたのか。 まぁ、そんなことは本人しかわからないわけで。 でも、怒っていると言うわりには、頬が緩んでいたのは気のせいでしょうか? ねぇ、さん? リクでした。
05/04/06
13/03/13再UP
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