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喧嘩。
「可愛くねぇ女だな、おめぇはよ」 「甘寧のバカ!大っ嫌い!」 その日はなんでそうなったかはわからない。 けど、はものすごく腹を立てて売り言葉に買い言葉でそう言ってしまった。 が呉と言う、昔の中国に来てしまってもう何ヶ月か経つ。 いつも戦が絶えないこの時代に戸惑い、毎日不安だったけど、この国の人たちはみんな優しくいい人たちばかりでこの生活にも慣れてしまっていた。 「もう、甘寧とは絶対口利かないからね」 「あぁ、せーせーすらぁ」 は結局怒りが収まらず夕食も食べないで部屋で不貞寝をしてしまった。 翌日になってもはむしゃくしゃしていた。 なのに、甘寧はいつもと変わらずに 「よぉ、おはようさん、」 「!!」 「今日もいい天気だなぁ」 挨拶をしてきた。 ここでもいつも通りに『おはよう』って言えば済むものを、何も言わずに去ってしまう。 「おい、!」 甘寧が数回声をかけるもはまったくの無視。 朝食時も昼食時もむすっとした顔でいるに周りは冷や冷やものだった。 「、甘寧と何で喧嘩したの?」 午後のお茶の時間、孫家の長女、お転婆娘の尚香が尋ねる。 「何でって…忘れた」 「え!忘れたの!?…じゃあ別に甘寧のこと無視しなくても」 「あれは、私はものすごく怒ってるのに、あいつは何もなかったようにしてるんだもん」 「まぁ、甘寧じゃしかたないわよ」 「でも、ムカつくの!」 「もしょうがないわね」 尚香は呆れ、いつまで続くものかと考えたのだった。 翌日からは甘寧が声をかける前に、彼が近くにいるとわかるとは咄嗟に身を隠すようになった。 甘寧は甘寧でが自分から逃げているなんて知らないから、暇があるとを探しまわっていた。 それが、2日、3日と続くと流石の甘寧もおかしいと思うわけで、だんだん意地になっていた。 「くそ!の奴どこにいんだよ!」 さっき呂蒙にが中庭にいたと聞き、急いできたが姿は見えない。 いたのは尚香のみ。 「姫さんよ、の奴は?ここにいるって聞いたんだが」 「甘寧…一足遅かったわ、ならもういないわよ」 「なに〜姫さん引き止めておいてくれよ」 「そう言われてもね、ほら、探しているなら早く行かないと」 「あ、そうだ。じゃあな姫さん」 甘寧は急いでこの場を立ち去る。そんな甘寧を見て尚香は苦笑するしかなかった。 尚香は数分前のことを思い出す。 この中庭で尚香と談笑していただったが、突然犬のように耳がぴくっと動いたかと思うと 「ごめん、尚香!私は逃げるわ!」 じゃ!と手を上げはものすごい速さで行ってしまったのだ。 そしたら甘寧がやってきたわけだ。 「本当、いつまで続ける気なのかしら…」 が甘寧から逃げ続けてすでに一週間が経った。 周りはがあの甘寧から逃げ続けてるのを驚きつつも、何日で捕まるかと賭けなんぞをし始めていた。 そんなことなど露知らず、は孫策のもとに向かう途中だった。 だが、当の孫策は見つからず、通りかかった周瑜に訊ねる。 「周瑜さん、孫策さんどこにいるかわかります?」 「ん?殿か…孫策なら厩舎に向かったぞ」 「厩舎?おぉラッキー。ありがとね、周瑜さん」 は周瑜に会釈して厩舎に向かった。 「孫策さん、見つけた」 周瑜が言ったとおり、孫策は厩舎にいた。 孫策は自分の馬の世話をしていた。 孫策はに気づき作業の手を止める。 「おう、か。どうした?」 「どうしたじゃないって、馬術教えてくれるって言ったじゃん」 「そうだったな、いいぜ。暇だしな今から教えてやるぜ」 「やった!」 「そうだな〜じゃあ」 孫策が言おうとした時、の耳はまたもぴくっと動いた。 「?どうした」 はサッと素早く厩舎の奥へ入った、そして。 「孫策さん、私はいないからね」 「は?」 孫策は展開について行けず、ぼーっと立っている。 そこへ甘寧が現れた。 「殿!ここへがきやしません出したか?」 「甘寧…か?その…なんつーか…」 素直に伝えるべきか、少し迷う孫策は歯切れが悪い。 甘寧は孫策の態度ににまた逃げられたと思った。 「なんでぇ、またかよ…軍師殿がこっちに行ったって言うから来て見れば」 「甘寧、あのな」 「仕方ねぇや、俺は行きますんで」 甘寧はあっさりと行ってしまった。 孫策はため息をつき、厩舎にいるに声をかける。 「ー甘寧は行っちまったぜ。ったくいつまでそうしてる気だ?」 は孫策に言われてすまなそうな顔をして出てくる。 「なんか、逃げ続けてたらさぁ…逆にどうやって顔を出せばいいかわからなくなって」 「お前な…逃げられ続けてる甘寧の気にもなれって」 「うん、そうなんだけど、ね(それだけじゃない気もするんだよね)」 「竹箆返しくらってもしらねえぞ、俺は」 翌日、孫策に言われたように竹箆返しをくらうことになった。 はまたも甘寧から逃げてしまった。 向こう側から甘寧が呂蒙とやってくるのがわかったため即座に近くの空き部屋へと入り身を潜めた。 偶然なのだが、二人はその空き部屋の前で止まって話し始めた。 「そうだ、甘寧。殿は見つかったか?」 「ああん?見つかんねぇよ」 甘寧は相当苛ついてるらしく、その話になると眉間にしわを寄せた。 「そんなに怒ることじゃないだろう」 「うっせーいつまでも愚痴口腹立てて逃げられ続けてみろよ?いい加減こっちも腹立つぜ」 (あ…そうだよね…どうしよう) は甘寧の様子にこれからどうしようか悩んでしまう。 甘寧たちは側にがいるなんて知らないので話を続ける。 「だが、殿も逆に会いづらくなっているのではないか?」 「何でだよ、普通にでりゃいいじゃねーか」 「そんな簡単に…」 「俺はもうどうでもいいんだよ!いつまでも付き合ってられっか」 その言葉には少しビクついた。 さらに甘寧は続ける、その言葉がにとって一番ショックな言葉だった。 「こそこそ逃げ回るってのが、俺は一番嫌いなんだよ。俺に会いたくねぇってならそれでいいじゃねーか」 「甘寧、それは」 「呂蒙様、甘寧様。訓練の時間なのですか」 呂蒙の言葉は部下によって遮られてしまう。 甘寧も「おっし、やるか!」と張り切って行ってしまった。 呂蒙も仕方なくそれについて行った。 はその場に座り込んだ。 (そっか…嫌われちゃったか…) ちくりと胸が痛み、涙がスーッと流れた。 孫策に言われた時、自分は今更会いづらいと言ったがそれだけじゃないとも思っていた。 それだけじゃない理由。 それは甘寧が自分のことを探してくれてるのが嬉しいと感じていたこと。 それまでは軽口を言い合える仲だと思ってそれが結構楽しかった。 けれど、なんとなく独り占めできているようでつい調子にのってしまったのだ。 後悔しても時すでに遅し、はしばらく泣き続けたのだった。 運が良いのか悪いのか、急に甘寧は海賊討伐のための遠征に出てしまったのだった。 なんとなくほっとしたような、でもこれでまた距離が離れてしまったようなそんな気がした。 数日間、の沈みように周りのものは心配するのだった。 「〜元気ないね」 「そうかな?」 小喬がを心配してちょくちょく部屋を訪れ散歩に連れ出したりしていた。 今日も天気が良いので城正面の城壁で二人でぼーっとしていた。 「周瑜さまが遠征に行かれてから2週間かぁ〜早く帰ってこないかなぁ」 「あ…周瑜さん遠征隊に入ってたの?そう言えば最近見ないとは思ってたけど」 「ひっど〜い、。呆けるのも大概になさいよね、周瑜さまは遠征の地で頑張ってるんだから」 ぷぅっと頬を膨らます小喬には羨ましいと思った。 「素直で可愛いよね、小喬は」 「えー何よ突然」 「ん?そう思っただけ」 「変な…あ!見てあそこ!」 いくつもの赤い旗が見える。 騎馬隊やら、歩兵など大勢の人間がこちらに向かってくる。 「帰ってきたんだぁ!やーん嬉しい〜」 小喬は愛しい旦那様が戻ったとわかると顔が喜びで溢れている。 「全体、止まれ!海賊討伐隊只今戻りました」 城門前では戻ってきた周瑜たちを孫策たちが出迎えていた。 「も行こうよ!」 小喬は早く周瑜もとへ行きたいらしく、を急かすがの反応は悪い。 「いいよ、私に構わず行ってきなって。せっかく無事に帰ってきたんだからさ」 「でも〜」 「ほら!早くしないと女官さんたちに取られちゃうよ?」 「えーそれはダメ!」 小喬はのことを気にしつつも急いで周瑜の元へ走っていった。 は上から討伐隊を見下ろしている。 それぞれが帰ってきたものたちを笑顔で出迎えている。 「小喬、早っ!」 小喬は一分も経たないうちに周瑜の元へたどり着き思いっきり抱きついている。 そんな小喬を見てやっぱり可愛いなぁなんて思っていた。 すると下からの視線を感じた。 目をやると、甘寧と目があった。 「ーーー!帰ったぜぃ!」 甘寧の声に驚くも討伐に行く前の態度とは違ったので少し嬉しかった。 しかし甘寧は馬を降りさっさと城門を潜っていく。 「…行っちゃった…」 は溜息を吐いた。 「やっぱり無理かなぁ…前みたいにしゃべるのって…なんか余計に落ち込んできた」 ずうんとマイナス思考が大きくなってきた。 「部屋に戻ろう」 が階段へと近づいた時、甘寧が飛び込んできた。 「よっと!」 「きゃ!」 思わずぶつかりそうになる二人。 体格差からかはしりもちをついてしまった。 「痛い…」 「わりぃ!おい大丈夫か?」 「大丈夫…」 「急いできて正解だぜ、にまた逃げられるところだったぜ」 甘寧はに手を出し立たせてあげる。 「ありがと、別に逃げるつもりないよ。部屋に戻ろうと思っただけだもん」 「ま、こうやって捕まえたからいいけどよ」 立たせてもらった時のままはしっかりと甘寧に手を握られていた。 「甘寧…手…」 「離したら逃げるだろ、お前」 「逃げないよ」 「ヤダね、離す気はないね」 は甘寧が今までのことを怒っているのかと思って少し怖かった。 面と向かって『嫌い』なんて言われるんじゃないかとビクついてしまう。 しかし、甘寧は甘寧でそんなの態度が自分を避けようとしてるのでは?と気が気ではない。 「、反対の手出してみ」 「ん?」 は素直に左手を出す。 すると甘寧はの左手に小袋を乗せる。 「なに?」 「開けてみ…あ、本当に逃げねぇよな?」 「逃げないって」 その言葉で甘寧はの右手を離す。 は素直に袋を開ける、すると中からは小さな青い石のついた首飾りが出てきた。 「可愛いなぁ」 「気に入ったか?」 「え?うん、いいね、これ」 「にやる。お前に似合うと思ったんだよ…その、なんだ、ソレを見つけたときお前のこと思い出してよ。今までの詫びだ、詫び。悪かったよ、本当によ」 甘寧からの贈り物とその言葉には泣いてしまう。 甘寧は驚く。 「あ゛なんで泣くんだよ?」 「…だって、嬉しかったし…それに甘寧が謝るから…」 悪いのは自分なのにと泣き続ける。 甘寧はをぎゅっと抱きしめた。 「ごめんなさい、私が変な意地張ったから…もう、逃げ回ったりしないから」 「おい…」 「私のこと嫌いでもいいから…」 「なんで、そうなるんだよ?嫌いじゃねぇよ、嫌いな奴なんかにこんなことするかよ」 「だって」 「あ?なんだよ」 は口ごもる。 呂蒙との会話を立ち聞きしちゃいました、などとは言えないから。 甘寧は眉間にしわを寄せる。 「とにかく、もう逃がす気はねぇぞ。ずっと側に置いとくからな」 「私この時代の人間じゃないよ?いつか急にいなくなるかもよ?」 「知るか、そんなの。ずっといればいいんだよ、って言うかいろ!」 甘寧らしい言葉には笑った。 そして、ふと思った。 (あれ?コレって告白されてるのかな…) 「あのさ、甘寧。今のってさ、告白なの?」 が首を傾げて言う姿が何気に可愛いなどと思った甘寧。 「告白…あー面倒くせー、、嫁になれ!」 愛の告白って言えば告白だが、いきなりの求婚とは。 自身少しも考えないで 「うん」 なんて答えちゃったわけで。 この度、呉の国において孫策・大喬、周瑜・小喬に続くバカップル、もとい。 幸せ色いっぱいの異色夫婦が誕生したのだった。 「そう言えばよ、は何でずっと俺から逃げられ続けたんだ?」 「…なんだ気づいてないの?」 「なんだよ」 「甘寧の腰の鈴がチリチリ音を立ててたから隠れたり逃げたり出来たんだよ」 「………」 「鈴の甘寧だったよね?」 この話は初甘寧でしたね。
02/11/01
13/03/08再UP
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