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一歩踏み出せ!
あ〜神様。 なんで私はここにいるのでしょうか? ただ、ただ普通に暮らしていただけの私が、物語の主人公みたいなことになるとは。 そりゃあ、憧れはありましたよ? 見知らぬ世界での冒険とか 素敵な人と出会い恋に落ちるとか。 ……… ……… でも、でもこれはあんまりです〜 *** 。 一般家庭で普通に家族に囲まれ過ごした十何年。 何の因果か、見知らぬ土地へと一人飛ばされた。 降り立った土地は、孫堅が治める呉国。 偶然、と出会い事情を知った、孫堅の長男孫策がを保護して以来、はここで世話になっている。 「でも、なれないのだよぉ〜」 は与えられた室にいた。 どん底の貧乏暮らしではないので、生活に不自由はない。 なにせ、この国の一番偉い人に保護してもらったわけだし。 家族と離れてしまい、早数週間。 自分たちのいた世界とは文化のレベル、生活基準が違うこの世界はが戸惑う事ばかりで あまり馴染めずに居た。 おかげで、よほどのことがない限り室から出る事がない。 ちょっと居心地が悪いのだ。 孫策がを連れ帰った事により、『また余計な問題を…』みたいな事を、この国の重鎮たちが言っていた。 孫堅が彼女の生活を保障すると決めた時、『この娘がもし、災いをもたらしたらどうするのですか?』と文官たちが言っていた。 の世話をするにあたって、彼女と年の変わらぬ陸遜と言う少年をつけた所、 彼は大変慕われているらしく、多くの女官が嫉妬している事を知った。 「なんか…疲れる」 せっかくの好意も、これなら牢屋に閉じ込められた方がマシだと思えてしまう。 「、外に出てみませんか?僕が案内しますよ」 ニコニコ笑顔で入ってくる陸遜にため息が出る。 彼と一緒にいると、周りからの視線が痛いのでちょっと遠慮したい。 「あ〜いいよ。別に…陸遜、勉強とか執務とかあるんでしょ?」 「孫堅様から貴女の事を任されてますから、気になさらず」 「気にするっての」 ボソッと呟く。 「え?なんですか?」 「なんでもないよ。本当、私の事はいいよ」 「、どうかしましたか?」 「え?…あ、ちょっと疲れてるだけだから、一人で休みたいな」 「そうですか。じゃあ、僕は隣の室に居ますから、用があれば呼んでくださいね」 「うん、そうする」 陸遜は室を出て行く。 隣で待機しているとは、なんだか監視されている気分だな。 陸遜たちにはそんな気はないのだろうが。 は窓辺に近づき外をぼーっと眺める。 「いい景色ってわけでもないねぇ」 もっと高い室からならそうと言えるのだろうが、残念の室は2階部分で、城を囲う塀が邪魔して城下などは見えない。 「何してるのかな、みんな…」 家族は居なくなった自分を心配しているだろうか? 友だちはどうしてるだろうか? 冷蔵庫に入っているプリンは兄に食べられてしまうのか? 「ぷっ!案外余裕のある考えだなぁ」 は自分の持っていた唯一の荷物、バックの中からあるモノを取り出す。 それは先日、友だちと撮った数枚の写真。 学園祭が行われたばっかりで、のクラスは模擬店をやった。 その時、皆で撮ったものだ。 「楽しかったぁ…ものすごく馬鹿やってさ」 学園祭が終わったあと、打ち上げだと言って皆でカラオケしてさらに盛り上がった。 「ここじゃ、友だちもいないし…つまらないなぁ」 じっと写真を見つめていると、少し悲しくなって涙が出てきた。 「………」 すると突然風が吹いた。 「あ!」 写真がの手から離れていく。 運が良いのか悪いのか、写真は遠くには飛ばされず、すぐそばの木の枝に引っかかった。 「…どうしよう」 微妙な位置にある。 下から木に登って取るより、窓辺から降りて木に移った方が取れそうな気がする。 結構太くて大きな木だから、が乗った程度では折れはしないだろう。 「よし、そうしよう」 は丁寧に足場を確認して窓辺から木へと伝っていく。 「あと、もう少し〜」 写真に手が届きそうになった時、下から人の視線を感じた。 「………」 「え?あ!その!」 周泰が見上げているではないか。 「…危険だ…」 「あ、わかってるので、大丈夫です!」 「…何を…」 怒られるかもしれないと言う考えがよぎって、焦りだす。 別に周泰は怒る気はないのだが。 「と!とにかくなんでもないのでお気になさらず」 「………」 気にするなと言われても…と周泰はただじっと見上げてしまう。 は周泰に早く立ち去ってもらいたいのだが、彼が動く気配がないので、自分の方が事を済ませてしまおうと写真に手を伸ばす。 だが。 「うわっ!」 「!?」 写真に後少しと言う所で、はバランスを崩して木から落ちてしまう。 「………」 落ちる瞬間目をつぶってしまう。 運がよければ打ち身か骨折程度で済むが、何せ、2階分の高さなので下手をすると… だが、の身体は地に打ち付けられる事はなかった。 「………?」 「…大丈夫か…」 「う?あ、あれ?」 は周泰に受け止められていた。 お姫様抱っこでなんだか恥ずかしい気もするが、礼は言わねばならない。 「あ、あ、あ」 「…なんだ?…」 「ありがとう、ございます」 「…いや、それより平気か?…」 周泰はゆっくりとを降ろした。 がっしりとした逞しい腕、あぁ男の人だなと思ってしまう。 クラスの男子なんかとは全然違う(年齢も違うのだから当然なのだが) そう言えば、周泰と面と向かうのは初めてだった気がする。 「…これは?…」 はぼーっと周泰の方を見てしまうのだが、周泰は足元に落ちていた物を拾う。 見た事もない代物だ。 画とは違う。 「あ、それ」 「…お前のか?…」 「はい、私の写真です」 「…写真と言うのか…」 「カメラってので、思い出を沢山撮って、写したものですよ…」 周泰はに写真を手渡す。 「………」 は戻った写真を大事そうに見つめている。 周泰から見てはいつもつまらなそうな顔をしている子だと思っていた。 孫策が連れてきた時は、恥ずかしそうに笑っていたのだが。 「………」 「あ!えっと」 なんか急に気まずく感じる。 何を話せばよいかわからない。 だからと言って逃げ出すわけにも行かないし。 助けてもらってるわけだし。 すると、周泰が懐から何かを出し、に差し出す。 「え?」 「…食べるか?…」 差し出されたものは紙に包まれており、開くと葉に包まれた物が出てきた。 「…菓子だ…」 「あ、頂きます」 は一つ取る。 なんとなく柏餅に似ている。 止めてあった楊枝を取ると、中は白い餅のようなものが出てきた。 ぱくっと食べてみると、それはとても甘く美味しかった。 「甘くて美味しい…特に中の餡が」 「…そうか…」 先ほどが落ちてきた木を背に周泰はそこへ座る。 そして自分も菓子を食べる。 黙々と菓子を食べる周泰。 甘い物が好きなのだろうか?平気で2個も3個も平らげていく。 とりあえず、も周泰の隣に座った。 「これ、なんて言うお菓子ですか?」 「…椰皇蘋葉角…」 「へぇ…(よくわからないや)なんか私の国にあった柏餅みたいです。でも柏餅は餡子しか入ってないけど、この餡は色々入ってるみたいですね」 珍しく、自分から話しかけている。 「周泰さん、甘い物好きなんですか?」 「…普通だ…」 「普通ですか?そうは見えないですけど」 結構この菓子は甘い。 にもかかわらず、周泰は何個も食べてるし。 「…疲れている時は甘い物を食べると良いと聞いた…」 「あ、私も聞いた事ありますよ。周泰さん疲れてるのですか?」 「…お前も疲れているだろう。口煩い奴らの所為で…」 「…え?…あ、あははは…」 それは自分をあまり良く思ってない一部の人たちの事だろう。 周泰は周泰なりに心配してくれたのか? 「周泰さん、これ私の友だちです。ようちゃんに、まっつんに恵理子に瑞穂。みんな可愛いでしょう」 は先ほどの写真を周泰に見せる。 「…これがお前か?…」 そのちょうど中心にが居る。そこを指差す周泰。 写真の中の少女が、今となりに居る少女と同じかと首を傾げてしまう。 写真の中の少女は表情豊かだから…。 「そうですよ。みんなどうしてるかなぁって思って、写真見てたら風で飛ばされちゃって」 「…それで枝に引っかかって取ろうとしていたのか…」 「恥ずかしながらそうです」 恥ずかしそうに頭を掻く。 「…みんなに会いたいって思うのですよ。ここでは私楽しくないし。何をどうすればいいのかもわからないし、私って何してるのかなぁって」 「………」 「帰れるのかな、元の場所に…」 「…焦るな…」 周泰は椰皇蘋葉角を一つ、の手に乗せる。 食べろと言う事か。 「…すぐ帰れるかなどわからん…とりあえず食べてろ…」 「はい、頂きます」 「…黙っているのは簡単だが、ちゃんと言わないと相手には通じない…気のいい奴らもいる…お前が一歩踏み出せば変わるものだ…」 今の環境を周りだけの所為にしていた。 他の者が自分に打ち解けようとしてくれても壁を作っていたらどうもできないだろう。 ここが、今まで住んでいた場所と違っても、人は同じなのだから。 「周泰さん、私」 は周泰の言葉で目が覚めた気がした。 まだ、これからなのだ、自分は。 「!なんでそんな所に居るのさ!」 上から自分を呼ぶ声。 二人が見上げると、の室から陸遜が顔を覗かせていた。 物音もしない室に、に何かあったのかと心配で覘いてみたら、彼女がおらず陸遜は室内を探しまくったようだ。 「あ、陸遜」 「もしかして、ここから出たっての?行儀悪いぞ!」 「あ、えーと…あははは」 どうやら室に戻って陸遜に訳を話さなくてはいけないようだ。 陸遜は室から姿を消した自分を心配してくれたようだから。 「…室に戻るか?…」 「戻らないといけないようです…あの、周泰さん」 「…なんだ…」 「付いてきてくれませんか?陸遜に話すのに、周泰さんからも言って欲しいのですけど」 「………」 「駄目ですか?」 「…仕方ない、行くぞ…」 「はい!色々ご迷惑おかけします」 歩き出した周泰の横に並ぶ。 久しぶりに晴れ晴れした気持ちになる。 「周泰さん」 「…なんだ?…」 「これからもよろしくお願いします。どうも沢山面倒かけそうですから」 ニコッと笑った。 周泰も口元に笑みを浮かべる。 「…かまわん…」 さぁて、改めて第一歩を踏み出そう。 まずは陸遜に窓から抜け出した訳を話さなくてはね。 お礼リクでした。
話の中で出てくるお菓子は『椰皇蘋葉角(イエホワンピンイエチィアオ)』って言います。わかりやすく言うなら
『ココナツあんいりもちの木の葉包み』です。
好きな料理漫画に出てきたものだったなぁ…。
03/10/04
13/03/07再UP
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