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背中越しの。
「今日もいい天気…」 窓辺に立ったは外を眺める。 雲一つない清々しい青空に思わず笑みが零れる。 けど。 「うわっ!」 強い力が体に加わり思わず後ろに仰け反ってしまう。 けど、転ばずに済んでいる。 そうなったのは、その力の所為だ。 「…昭ちゃん?」 「悪い…」 自分よりも頭一つ分高い男に背中から抱きしめられていた。 男は司馬昭。 最近兄司馬師が亡くなり、その後を継ぎ魏の大将軍にまで上り詰めた。 「いいよ、別に」 「………しんどいんだ、色々…」 「しんどい?めんどくせえ。じゃなくて?」 は小さく笑った。 めんどくせえ。は彼の口癖だ。 「あぁ、しんどい…」 「そっか。しんどいか…」 司馬昭が何にしんどいのか想像はついたから、はそれ以上何も言わないでいる。 「………」 司馬師が亡くなってから、何か歯車が狂い始めているような気がしている。 まとまっていただけに、余計に。 「何で俺なんだろうな」 「しんどい思いをするのが?」 「………」 聞いても答えない司馬昭。 答えなんか恐らくないから。 「そのしんどい思い。昭ちゃんだけじゃないでしょ、きっと」 「?」 「昭ちゃんのお父様も、師兄様もしてきたんじゃないの?」 「全然見えないな、それ」 「お二人に失礼だぞ、それは」 は声に出して笑う。 司馬昭が言うように、二人とも表面上そう言う風に見えなかったから。 「なんかさ…俺に王道を求められてもなぁ…って気がする」 司馬懿にも、司馬師にも王道は求められていたとは思う。 だけど、今それをなすべきだと求められているのは司馬昭だ。 「まぁ…もうお父様も師兄様もいないから…じゃないの?」 「………」 「わかっている。って感じだね、昭ちゃん。周りの期待は重く感じる?」 「いや…なんて言うか…」 「賈充さんが昭ちゃんの為ならば汚れ役を引き受ける事とか?、っ」 は顔をしかめた。 司馬昭が腕に力を入れたから。 「昭ちゃん、苦しい」 「わ、悪い」 司馬昭は力を緩めた。 「というか、離れてくれないんだ」 「離れたくねぇから…嫌か?」 「嫌というより…元姫に見られて言い訳ができるならいいけどさ」 「はぁ?なんでそこで元姫が出て来るんだよ」 「なんでって…」 昭ちゃんと元姫は公私共にいいパートナーって奴ではないのか?そうは口にしようとした。 本来ならば、こういう役目は元姫なのではないだろうか? いつも愚痴を言うのも元姫に対してだ。 あぁ、そうか。今彼女は不在なのか? 「あれ?元姫って今いなかったっけ?」 「おい。答えていないぞ、ちゃんと」 「ちゃんとって言われても…私、昭ちゃんがこんな風に抱き着いてくるの初めてだから、よくわかんないし…普段は元姫にしているんじゃないの?」 「はあ!?」 今まで切実な、真面目な空気感だったのに、室内に響く司馬昭のその声がそれをぶち壊した。 「元姫に抱き着いたりしねえって」 「そうなの?」 「そうだ…って、あぁしんどいのにめんどくせえ事にもなった」 司馬昭は右手で頭を掻くも、左手は離さない。の体に触れたままだ。 「昭ちゃん。それでも離してくれないんだ」 「だから、嫌だっての」 「ふーん」 「はそんなに俺から離れたいのかよ」 嫌ではない。 それはさっきも言ったことだ。 だけど、今の状況を他の誰かが見たら、司馬昭は困るのでは?とは思っていたから。 「これでも我慢してんだ。本当は押し倒したいくらいだ」 「は、は?何言ってんの…」 司馬昭の顔が見えないので、冗談なのか本気なのかよくわからない。 だって、はずっと司馬昭は元姫とそう言う仲だと思っていたから。 なんとか話を逸らそうとは焦り出す。 「え、えと…司馬家の人ってこう…人に接するの好きなのかな?」 「さぁ?なんだよ、急に」 「え、えと。たまにだけど、師兄様も疲れたからって膝枕してくれーってよくお願いしてきたから」 「兄上が!?」 「やー師兄様もいつも大変だなと思ったから、まぁ、それくらいはいいかと思っていたんだけど…だから、その…司馬家の人はみんなそうなのかな?とか……」 自分で言って、自分で今傷ついた。 司馬師はもういない。 そんな風に接する機会はもうないのだと。 司馬師がいない穴を埋めるのに、皆必死だった。 彼の思い出話をしている暇などないくらいで。 自身もあまり彼の名を口に出すことができなくて。 でも、身内である司馬昭ならばまぁいいかと思った。 まだ司馬師が亡くなってからそんなに時間も経っていないから…。 「?」 「…なんでもない…」 涙が出そうになった。 だけど、それを司馬昭に悟られたくなくて…。 「…お前…」 気づかれたのか?泣きそうになっているのが。 なんでもないと答えようとはしたが。 「兄上と付き合っていたのか!?」 「はあ!?」 出そうになった涙だが引っ込んだ。 「昭ちゃん!?何言ってんの?」 は反転し、ようやく司馬昭の顔を見た。 司馬昭は真面目な顔だ。 「や、だって…ひ、膝枕をしてあげる仲なんだろ?」 「ま、まぁ…普通は友達同士ではやらないね…膝枕」 だけど、別に司馬師とは疑われるような仲ではなかった。 「どちらかと言えば、兄妹みたいな感覚だったけど…」 「いやいや、普通兄妹でもやらないって、膝枕」 「でも、本当…疑われるような仲じゃなかったし…膝枕で癒されるならば安くない?」 司馬師が少し休みたいから。とか、疲れたから。とかそれで少しでも休まるならいいかと思ったのだ。 「じゃあ、他の男にもやるのかよ、頼まれたら…賈充とか、鐘会とか」 「やらないよ!なんで、よりによって、その二人…怖いよ、怖い…」 絶対に頼んできそうにない輩じゃないか。 「ぎゃ、逆に聞くけど。昭ちゃんだって、私に抱き着いてきたじゃない。元姫以外の子にそういう事していいの?」 「だから、元姫は関係ないだろう。別に元姫のことなんとも思ってねえし…つかさ、俺としては兄上とが親密すぎなのが堪えるんだけど…」 「ふ、普通だよ!」 「膝枕する仲なのに?」 「だ、だから、それは」 「俺が頼んだら、は膝枕してくれるのか?」 は一歩後ずさる。 司馬昭がして欲しい理由も、司馬師と似たようなものだろう?だったら司馬師にして、司馬昭にしないと言うのは申し訳ないとも思う。 「…し、して欲しいの?」 「欲しい」 「……そ、そうなんだ……あ…」 ふと膝枕を司馬師にしてあげていた時の、彼の言葉が蘇る。 『ふっ…昭が羨ましいと拗ねる姿が想像できる…』 その時はなんで?と不思議に思ったものだ。 そして。 『そのうち、昭に返してやらんとな…』 と言っていた。 私は誰かの物ではないのだが?と反論しようとしたが、司馬師が寝てしまったのでそれ以上言えなかったのだ。 「本当、こういうのって黙っていちゃぁわかんねえもんだよな」 司馬昭が苦笑した。 「めんどくせえって思っていちゃあダメなんだな」 「昭ちゃん?」 「。俺はお前が好きだ」 司馬昭はの手をとった。 「兄上みたいに頭もよくない、いつもやる気がなくて、すぐめんどくせえって逃げちまう。 色んなものを背負うのが怖いし、失うのも怖い…そんな俺だけどさ…」 「誰にだって怖いものはあるよ」 「」 は逆に司馬昭の手を包み込む。 「昭ちゃんは昭ちゃんのやり方で進めばいいんじゃない?別に師兄様みたいにならなくていいと思うけどな。だから…」 はまっすぐ司馬昭の目を見、微笑む。 「しょうがないから、そんな昭ちゃんの側に居てあげる」 「…」 司馬昭が安堵した表情を浮かべるも、すぐさま唇を尖らせた。 「なんだよ、しょうがない。とか…居てあげるとか…」 「嫌なんだ。じゃあ…」 さっきは嫌か?と逆に問われたから、今度はこっちから聞いてやる。 「い、嫌じゃない。居てください」 慌てる司馬昭には笑った。 「私の方こそね…元姫みたいになれないって思っていたんだけど…」 「それこそ、ならなくていい。まで元姫みてえに口煩いのは勘弁だ」 小言が二倍、いや、そこに賈充まで加わったらどうなるのだ。と司馬昭は溜め息を吐く。 「私も昭ちゃんが好きだよ。だから、昭ちゃんが疲れたら沢山癒してあげるから」 この流れでは信じてもらえそうにないかと不安になるも、司馬昭には関係なかったようで。 「兄上みたく膝枕してくれるのか?」 「いいよ」 「抱きしめてもいいか?」 「さっきしていたくせに」 「じゃあ、口づけしても?」 「嫌って言ったら…どうするの?」 「嫌って言わせないから」 そう言って司馬昭はを抱きしめた。 「昭ちゃん、ちょっと苦しい」 「悪い。でも、嬉しいからさ…に好きだと言ってもらえて」 「そう?私もびっくりしたけどね、昭ちゃんが好きだって言うから」 も司馬昭の背に腕を回す。 陽の下にいるのが司馬昭には似合いだと思い、その陽の匂いが彼からしているような気がする。 「そうは見えなかったぞ、お前…いつもと変わらないし」 「そんな事ないよー。ものすごくドキドキしているんだから」 「そうか。まぁ、俺もドキドキしているけどな」 「昭ちゃんこそいつもと変わらないのにな…」 思わず二人して笑ってしまった。 「さぁて…この後どうするかなぁ…仕事するのめんどくせえ」 「あらま」 「疲れたからの所で休みたいって逃げてきたんだよな、俺」 「………じゃあそろそろ戻らないと、後が怖いよ?」 元姫と賈充が捜しているだろう。 いや、あの二人ならばすでに司馬昭の行動を把握しているかもしれない。 「けどよ。折角両想いって奴になったのに…このまま仕事に戻るの嫌だな…まだ膝枕してもらってねえし」 「でも、ここで膝枕してあげても、すぐに追手が来ると思うけどね」 「そうか…よし!」 司馬昭はを解放する。 解放するも、その手を取り駆け出し、室から出る。 「昭ちゃん!?」 「追手が来ない所まで行くぞ」 「逃げちゃうわけ?知らないぞ、後で叱られても」 「たまにはいいだろ。叱られてもが味方してくれれば大丈夫だ」 司馬昭の手を離さないようにも握り返す。 しょうがないなぁと思いつつも、自分もどこかで司馬昭と楽しく過ごしたいのだろう。 「?」 「子上?」 その追手が二人を見つけたようだ。 「子上。そろそろ政務に戻れ!」 「悪いな、あと少しだけ!」 背中越しに聞こえた賈充の声司馬昭は反応しつつも駆けるのを止めなかった。 「!?」 「元姫!ごめんね!後でちゃんと謝るから」 本当後が怖いとは思った。 さて、このまま逃げ切れるだろうか? 無双7の晋伝の史実EDを見て、なんとなく昭ちゃんの話が書きたくなりました。
昭ちゃんと言えば元姫なので、その存在をどうしようかと思いましたが、こうなりましたw
13/03/03
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