頑張れ男の子!




ドリーム小説
いつの頃からだったか、気が付けば同じ年頃の女の子がそばにいた。
何かあれば彼女はいつも「覇ちゃん、あのね」と話をしてくれる。
他愛のないものだったり、愚痴だったり…。
なんでもいい。
とにかく、彼女が自分に話しかけてくれるのが、頼りにしてくれるのが嬉しかった。

でも、最近嬉しくない…。

彼女が嫌いになったわけではない。
寧ろ好きだ。

多分、彼女に対し悩みがあるからだろう…。




ある日、適当な場所に腰を下ろしていた夏候覇。

「どうかした?覇ちゃん」

視界に綺麗な手が入った。
数回目の前で手を振られる。

「な、なんだ!?あ、か…」

夏候覇は驚きつつも、相手がだったために少し落胆した。

「なんか私で不満だったみたいだねぇ」

「そ、そうじゃねぇよ!」

考え事をしていたからだ。そう答える。

「ふーん。何?考え事って。戦の話?覇ちゃんそう言うの気にしなさそうだけど」

「いやいやいや。俺だって真面目に考えるつーの。失礼だな、

軽くの頭に手とうをくらわす。
は小さく笑う。

「そう?でも、戦の事じゃないでしょ?考え事」

「う…ま、まぁな…」

「ふふん。さんは覇ちゃんの事ならなんでもわかるよ」

自分に自信たっぷりに笑いかけるを見て夏候覇は口を噤む。

(嘘吐け…なんでも…なんて事ねぇだろ…)

決定的な事を彼女はわかっていないからだ。

「覇ちゃん?」

「な、なんでもねぇ!」

かといって、それを面と向かって言えない自分がいる。
色々怖いから。

「あ、あ〜あのさ。俺的にはもう少し背を伸ばしたいんだ。けど、中々伸びなくてさ」

「それが覇ちゃんの考え事?」

「お、おう」

咄嗟に口から出た。誤魔化したような言葉だが、半分あっている。
背がもう少しあればいいのに…と常々思っていることではあるから。

「そうかなぁ?覇ちゃんはこのくらいでいいと思うけど」

「はあ!?なんでだよ!」

「だって、可愛いじゃん」

「か、可愛いって…お、男に言う事じゃねぇだろう!」

夏候覇は立ち上がる。
立ち上がってを見下ろすも一瞬だ。
も立ち上がるも、視線は変わらず。

「そう?男の人だって、可愛く見える時あるよ?ほら、徐晃さんとか、典韋君とか」

「そんなのだけだし、言われて嬉しいはずもねぇ」

「えー?淵ちゃんは可愛いって言っても怒らないよ?」

「と、父さんが可愛い!!?」

しかも言った?
あの父だ、豪気に笑って流したような気もする。
だが、彼女は平然と男性、しかも年上に向かってそう言えるのだろうか?
普通ならば無理。
それ以前に、恐れ多いだろう。年上は敬う存在だ。

(きっと、だから皆納得するのだろうな…)

彼女は父夏侯淵、だけでなく君主の曹操、夏候惇ら魏の重鎮に可愛がられている。
いつの間にか、そばに居た彼女。
どういう経緯なのか夏候覇にはわからない。

「だから、覇ちゃんもこのままでいいよ」

にっこり笑う。
傍から見れば、きっとその笑みに照れるだろう。
だけど、夏候覇は面白くない。

「俺は、せめて「あ、惇兄!覇ちゃん、ごめんね」

近くを通りかかった夏候惇。
その姿を見つけるとは他に目もくれず夏候惇の下へ駆けだした。

「俺は…」

なんだか悔しい。
自然と拳を握ってしまう。



***



そうだよなぁ…。

夏候覇は大きくため息を吐く。
自分の事をわかっている。などとは言うも、わかっていないと夏候覇は思う。
思う理由が、自分が彼女に向けて、抱いているものだ。

(俺の気持ちなんかちっとも気付いていねぇじゃん…それどころか)

弟を見るような目で接してくる。
いつだって同等だと思っていたが…。
そして彼女が、自分が向けるような、抱いているものはいつだって別の人に向けている。

(小父さんは俺より大人だし、かっこいいし、頼りになるし、何より、何より…)

背が高い。
先に挙げたものも大きな要因であるが、自分が小父さん。
父夏侯淵の従兄弟夏候惇より何が劣っているか、気になるかと言えば身長だ。
その辺がまだ子供じみたものだと思うが、夏候覇にしてみれば重大なものなのだ。

「お。どうした、息子」

頭に大きな手が置かれた。

「父さん…」

ニシシと笑っている父夏侯淵。

「珍しくしょげた顔をしちまって。なんかあったか?」

の事なんだ。
…と。言えればいいが、そこは男の矜持と言うものか相手が父だと思うと言えない。
けど、逆に父だからこそ、聞けるような気もした。

「俺、もっと大きくなれるかな?」

「なんだ?急に、お前は十分大きいぞ」

わしわしと頭を撫でられた。
褒められていると思えば嬉しいだろうが、今は素直に喜べない。
背が高くなりたい。と普通な言うべきところを「大きくなりたい」と濁しているような部分もあって。

「俺、もっと大きくなりたいんだ。父さんみたいに!なぁ、父さんはどうやったらそんなに大きくなれたんだ?」

「ん?今日は本当にどうしたんだ?」

夏侯淵は首を傾げる。

「ど、どうしたって言うか…俺、もっと大きくならなきゃ、いつまでも弟扱いだし…」

その一言だけで夏侯淵には通じたようだ。
ニシシと笑う。

「そっかぁ。弟扱いはつれぇなぁ」

「昔は…同じだったのに、今は完全に俺の方が年下扱いだ。は、いつも惇小父さんを見ているからさ…」

「あー惇兄なぁ…」

夏侯淵は苦笑する。

「昔から惇兄は女にもてたしな。それが羨ましいって思うことは沢山あったなぁ」

「父さんも?」

「お前に比べれば、惇兄との付き合いは俺の方がずっと長いしな。まぁだからって俺は惇兄が嫌いってわけでもないし」

「お、俺だって別に嫌いだなんて言ってねぇし」

ただ羨ましいのかもしれない。

「息子。別にお前が惇兄のようにならなくたっていいんだ。お前はお前らしく頑張ればいいんだよ。ま、自分を磨くのもいいさ、けど小さく丸まって考え込むより行動に移さないとな」

「お、おう」

一緒に居るだけ、気付け。
それは難しいのかもしれない。
気付く人もいるだろうが、は気づかないわけだし。

「ただなー」

夏侯淵は己の顎に手を当てる。

「お前…いつもがっちり鎧を着こんでいるからなぁ…重みで背が伸びないんじゃないのか?」

「い、いやいやいや。そ、それはないっしょ」

「動揺してるぞ、息子よ」

豪快に笑い、夏候覇の背中を叩く夏侯淵。
やはりこの人は自分より大きい存在なのだろうなと改めて思った。
けど。

(重みで伸びないってことはないよなぁ…)

少しだけそこが気になった。





!」

行動をまず起こせ。
父からの言葉から、まずは意思表示が重要だと夏候覇は感じた。
だから、行動を起こす。
歩いていた彼女を見つけ呼びとめた。

「なに?覇ちゃん」

「お、おう」

彼女の前に立つと、やはり自分は小さいかと少々へこむ。
昔は変わらない背丈だと思っていたけど。
今は少しだけ彼女の方が高い。
それが自分を弟扱いする要因なのだろう。
だけど、それは今のうちだ。

「お、俺な」

「うん?」

目の前にすると、いざ!と思っても緊張をするものだ。

「そうだ。あとで覇ちゃんも惇兄の所行く?」

「へ?惇小父さん?」

彼女は嬉しそうに笑う。

「惇兄が城下に連れて行ってくれるって。買い物したいって話をしたんだ」

「へぇ…」

そんなの夏候惇でなくても、自分に言えばいいのに。
別に城下に連れて行ってくれる。なんて言わずとも、彼女自身よく出かけるではないか。
あぁ、そこは夏候惇に連れて行ってもらえるのが嬉しいのだろう。

「行くよね?覇ちゃん」

「あ…あぁ…俺は…」

行動を起こそうとしただけに、それをばっきり折られてしまったようで。
なんだか拍子抜けだ。

(いや。負けるな、俺!)

夏候覇はかぶりを振る。

(父さんも俺らしく頑張れと言ってくれたじゃないか!)

夏候惇のようにならずともいいと。
あくまで目標を夏候惇にするのもいいだろう。
でも最終的に自分自身を見てもらえるようにせねば。

!」

「ん?」

夏候覇は背伸びをし、彼女に口づけた。

「は、覇ちゃん!?」

「今はこれが背一杯だ!すぐにお前より大きくなって惇小父さんにも負けないような男になるからな!」

ビシッと彼女に指をさし宣言した。
だけど、急に恥ずかしさが湧いて逃げ出してしまった。

(くっそ〜俺ってやっぱ情けねぇ。背伸びしなきゃ届かねぇのかよ〜)

しかも触れたのは一瞬だ。
の反応も気になるのに、見届けることもできなかった。
普通ならば、何をするのだと叩かれても可笑しくないのに。
まして、彼女の想い人は夏候惇なのだから。

「でも、負けねぇぞ!」

その場から逃げ出したものの、夏候覇は誰に言うわけでもなく叫んだ。








覇ちゃんも可愛いなぁと思うわけで。でも片想いか…w
晋ではなく、魏の話ですね。
11/06/19
13/02/17再UP