落花流水




ドリーム小説
「どこの子どもだ、お前は…」

「だ、だって…しょうがないでしょ…止まらないんだもん…」

は涙が止まらずにいた。
曹丕がそんなを突き放すこともなく抱きとめてくれている。
だから余計に曹丕に体を預けて泣いてしまっている。

「すごい、噂だよ…子桓が綺麗なお嫁さんを貰ったって」

「私は一度も口にしていないと言うのに…誰がそんな事を」

「知らない…」

「まったく…」

頭上から曹丕の溜息が聞こえる。

「そろそろ泣き止め」

「わ、わかってるけど」

「お前が泣いたところを小父上に見られたくないんだ」

悲しい涙も嬉しい涙もそう簡単には止まらぬと言うものだ。

「仲直りは無事にできたと言うところでしょうか?」

うふふと笑う女性の声がした。

「甄」

「あ、あ!その〜」

曹丕に泣きついていた姿を甄姫に見られて恥かしかった。
甄姫は一旦別室で待機していた。一人で帰るわけにはいかないのだろう。
それよりもは先ほどの甄姫への態度が身勝手なこと振る舞いだったのを思い出す。
慌てて曹丕から離れて、涙を拭う。
そして甄姫に深々と頭を下げた。

「甄姫様。先ほどのご無礼お許しください」

殿。いいのですよ、別に」

「でも」

穴があったら入りたい。
そんな心境だ。

「甄。頼みがある」

「はい。なんでしょうか?」

の着替えを手伝ってやって欲しい」

「子桓」

「さっき言ったぞ、私は」

贈った着物を着た姿を見たいと言ってくれた。
だから、今そうしろと言うのだろう。

「わかりました。では殿、お着替えいたしましょうね。子桓様は退出なさってくださいまし」

「わかった。そのうち小父上も戻られるだろうからな」

別室で待つと曹丕は出て行った。





【5】





一人でも着替える事はできたが、甄姫が手伝ってくれた。
それどころか、ここはこうした方がいいとか、甄姫がより良く見えるように見立ててくれる。

「あの。甄姫様。本当にさっきは」

「いいのですよ。殿。あなたが勘違いなさってしまうのもわかりますから」

甄姫は元々袁紹の息子に嫁いでいた。
ただ邸に居るのではなく、自らも戦場に出て、夫と義父を助けていたそうだ。
官渡での戦いで袁家は負け、段々と後退していくしかなかった中で、袁家は跡継ぎ問題で揉めた。
それは甄姫を袁家から気持ちを引き離すきっかけにもなったそうだ。
そして曹丕が率いる軍と戦った時に、自分の容姿ではなく能力を曹丕は認めてくれた。
ならば曹丕に仕えてもいいかと思ったと。

「そういう目で見られる覚悟は最初からありましたし」

「……本当、ごめんなさい」

「何度もそう謝る必要はありません。けど、そうですわね、はっきりと言わせていただくならば」

「?」

「わたくし。年下には興味ありませんの」

「……ふふっ」

思わず噴いてしまった。
甄姫のその一言に。
曹丕は年下だったのか、甄姫からは。
そう言えば甄姫は好いている男性が別にいると言っていた。
それが曹丕でないならには別に良かった。

「あら。笑うなんて失礼じゃありませんの?」

「ごめんなさい。けど子桓は甄姫様の目に止まらなかったんですね」

「そのようで」

甄姫はニッコリと微笑んだ。

「さぁ。できましてよ。殿。子桓様は驚かれるでしょうね」

着付けだけでなく、化粧もしてくれた。
自分よりも上手にできてしまう甄姫を尊敬してしまう。
全てが完璧な女性に見えて。

「参りましょう、殿」

甄姫がの背中を軽く押した。
家令に聞くと、曹丕は庭院で茶を飲んでいるそうだ。
二人でそこに行くと、椅子に腰掛け、庭の木に目を向けている曹丕がいた。

「子桓」

曹丕を呼ぶ。
曹丕が振り返る。

「……ほぉ」

曹丕が口角をあげて笑った。

「それなりにちゃんとしているではないか」

「もう少し褒めてくれてもいいじゃない。甄姫様が色々してくださったのに」

「それはすまない」

くくっと喉の奥で笑う曹丕。

「だが、あぁ…よく似合っているぞ、。子建が贈ったものよりいいな」

「それは自分の見立てがいいって言ってるのかな?」

「否定はせんな」

「あら。違いますわよね、元々の素材がいいんですのよ」

の後ろに立ち、両肩に軽く手を置く甄姫。
甄姫がねぇ?とに微笑む。
甄姫に褒められると悪い気はしない。
ほんの一時で随分甄姫への印象が変わったものだ。

「それは褒めすぎだろう、甄」

「あら。褒めたりないと、わたくしは思いましてよ?」

「ありがとうございます。甄姫様」

今度はなんの迷いもなく、素直な気持ちで甄姫に礼を言えた。

「なんだ、来ていたのか。子桓」

「小父上。はい」

「将軍。お邪魔しております」

夏侯惇が帰ってきた。
甄姫は深々と頭を下げる。

「父様!」

思わず夏侯惇に駆け寄り、抱きついてしまう。

「なんだ。大きな子どもだな」

夏侯惇は苦笑する。

「ね?見て見て。素敵でしょ?子桓が贈ってくれた着物。それを甄姫様が綺麗に着せてくださったの」

夏侯惇の前でくるりと舞ってみせる
最初に着た時は曹丕に見せる為にと、あまり夏侯惇にちゃんと見せられなかった。

「そうか、それは良かったな」

「似合う?父様」

「あぁ似合うぞ。どこかの姫みたいだな」

曹丕のことが好きなのは変わらないし、彼に褒められて悪い気はしない。
だけど、やはり一番は父なのかもしれない。

「小父上。それは褒めすぎです」

「そうか?」

「子桓酷い。子桓だって似合うって言ってくれたのに」

「子桓様は言葉が足りないんですのよ。案外口下手でいらっしゃるようで」

甄姫の方が一枚上手と言うのか、バツが悪そうに曹丕が茶を啜っている。

。機嫌は直ったようだな。やはり子桓に頼んでみて良かった」

「と、父様…あの」

「ん?どうした?」

「……ごめんなさい、我がまま言ってしまって」

「いや。いい。ここでの暮らしはお前にとっていいものだったのだろう。
それを俺の都合で引き離してしまうわけだからな。俺も当然のように決めてしまってすまなかった」

「と、父様は悪くないから!わ、私が、単に…」

曹丕が甄姫を娶ったらしい。と言う噂を間に受けたから。
いや、そう思い込んでしまったから、意地を張っただけなのだ。
最初に夏侯惇に話を聞いていれば、変に意地を張ることもなかっただろうに。

「まぁいい。気にするな」

ポンとの肩を軽く叩いた夏侯惇。

「そうですわ。将軍、よろしければ以前お話してくださった書物をいくつかお借りできるでしょうか?」

甄姫が両手を合わせて夏侯惇に願い出た。
少し顔を傾けて、綺麗と言う表現の似合う甄姫が初めて可愛いと思えた。

「あぁ。かまわんぞ。じゃあ持って来るとしよう」

夏侯惇は背を向け、私室に戻ろうとする。
そこへ甄姫は他にも見たいから一緒に行っていいかと願い出る。
夏侯惇は断る理由もなく、好きにしろと言った。
そして二人は邸内に戻っていく。
それをなんとなく見送っていただったが…。

「子桓」

「なんだ」

「さっき言ってた…甄姫様の好きな人って…」

「十中八九。小父上だろうな」

は両の頬を押さえて声にならない悲鳴をあげる。

「し、子桓。どうしよう。私、どうすればいいの?」

思わず曹丕の腕をギュッと掴んでしまう。

「別に何もしなくていいだろう」

「で、でも」

「決めるのはお前ではなく。小父上だからな」

「ん〜〜〜っ…父様、どうなんだろう〜〜甄姫様がいい人なのかわかったけど、なんか」

母親として嫁がれても、そう言う目で見られるか微妙だ。
年齢も曹丕より少し上の甄姫。
母と言うよりお姉さんのような目で見てしまうから。

「すぐ慣れる」

「慣れないよ!」

「慣れるだろう。私には年下の母も存在するからな」

「……そんなの子桓んとこだけだよ」

曹操の女性問題も色々あるものだ。

「だが、甄でなくても。誰が小父上の奥方になったとしてもお前の反応は同じだろう」

「………」

「いい加減親離れしろ」

「だって」

は唇を尖らせ、上目で曹丕を見る。
いきなり振って湧いたかのような話だから混乱もあるとは思う。
夏侯惇の方が甄姫をどう思っているのかはわからないのだ。
ずっと男手一つで育ててきてもらったと思うと、夏侯惇の幸せも願いたいとは思う。

「それより。私を放っておくのはどうなんだ?もっとちゃんとその姿を見せろ」

「え…」

曹丕は左手を伸ばし、の左頬に軽く触れた。

「あぁ…綺麗に成長したな。…」

「な、なに、急に」

「褒めてやっているのだ、素直に聞き入れろ」

「…あ、ありがと…」

「このまま私のところに嫁に来るか?」

「……うん…って?は?し、子桓、何、言って」

頬に添えられた手はそのままの腕を掴む。
力強く引かれて先ほどみたいに曹丕の腕の中にいた。

「言葉の通りそのままだ」

「え、あ、その」

「今のお前を見て、他の誰かにくれてやるのが癪になった。だったら、私の手元にずっと置いておきたい」

それはただの幼馴染ではなく、妹分ではなく、一人の女性として見てくれる。
そう言っているのか?
の頬が赤く染まる。

「し、子桓…」

だけど、なんだろう。
素直に喜べない、何かがあるのだが。

「なんか…玩具を盗られるのが嫌って風に聞こえる…」

「………」

「否定しないわけ?」

「半分はそうなのかもしれん。張遼や子建に盗られるのが嫌だと思ったからな」

ポンポンと背中を軽く叩かれた。
子どもみたいにあやされているようで、なんか面白くない。

「まぁ、返事はしたんだ。小父上に早速報告を」

「嫌!なんか、それすっごいイヤ!」

は曹丕の腕から逃れようと、押しのける。

「何を怒る」

「だって、子桓は別に私が好きじゃないんでしょ!?だから」

「好きじゃない。などと誰が言った?」

「い、言われてないけど…そう聞こえる」

曹丕の顔を見れば、元々無愛想であるが、今も眉間に皺を寄せて面白くなさそうにしている。

「近すぎたから、どう伝えていいのかわからん。だが、お前を不幸にしたいとは思っておらぬ」

「…一言でいいのに…だって、私は、ずっと…」

子桓のことが好きだったから。
その一言でも言ってくれればいいのに。

「悪かった」

再び曹丕に腕の中に戻された。
そして耳元で言われた。

「好きだ」

と。
だから。

「私も、子桓が好き」

ようやく言えた。






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こんな感じさ。
ちなみに惇←甄なのは私が甄惇が好きだからさ!
10/05/29
13/02/17再UP