幼馴染




ドリーム小説
春の日差しはとても暖かく。
たまに身震いしてしまうほどの風が吹き抜けていくが
后厦でのんびり日差しに当たっているとうっかり舟をこいでしまう。
本当にそんな日だった。

「・・・・・・こいつは・・・」

年頃の娘が何をしているのだと。曹丕は柳眉を歪めた。
夏侯惇の邸へ曹丕が足を運ぶと、彼女の娘であるが后厦で気持ち良さそうに寝ていたのだ。
一瞬、倒れでもしたのかと思ったのだが、あまりにもが幸せそうな顔をして寝ているので損した気分になった。
辺りを見回し、薄手の掛布を見つけの体にかけてやる。
こんなことをするのは後にも先にもだけにだろう。

「さて、どうするか・・・・」

待つにするも、は寝てしまっているし、夏侯惇も不在のようだ。
でも、使用人が曹丕を室に通してくれた以上、このまま帰るのも・・・。
また後で来るほどの用件でもないわけだし。
そうしているうちに使用人がお茶を運んでくれた。
が寝ていることに一言あ。と声を漏らして驚いていたようだが。
何事もなかったかのように、使用人は曹丕に一礼して室を出ていった。

淹れてもらった茶はとても香りの良いものだった。
ふわりと口内から鼻へとつきぬける香りにホッとしてしまう自分がいる。
茶を一杯飲んだだけで、落ち着くほど疲れていたのだろうか?

「子桓。待たせたようだな」

「小父上。いえ・・・」

夏侯惇が帰宅し、曹丕に詫びる。
彼もまた同じように娘が寝ていることに嘆息してしまう。

「どうしようもないな、まったく・・・・」

苦笑交じりで言うが、彼は言葉とは裏腹にあまり気にしていないようだ。
娘を見る目が穏やかでとても愛しんでいるように感じる。
娘。
は夏侯惇が昔拾った子だ。
それは互いに承知していることで、一時期はあれこれ悩んだようだが
本当に一時のことで、は夏侯惇を実父と変わらず、いや、それ以上に慕っている。
夏侯惇もを迎え入れたことで、猛将と恐れられている顔以外にも穏やかな顔を見せるようになった。
互いにとって、血の繋がりは無くとも親子関係は良好だ。
寧ろ、血の繋がりがある、曹操と曹丕の方が親子と言うには少々問題があるように感じる。
夏侯惇が父親だったらと思った事のほうが多い。

「ああ。用件はなんだ?子桓」

「はい。実は・・・・」

それから二人はしばらく、曹丕の用事。政務について話し合っていた。



***



「そんなに急ぐこともないならゆっくりしていけ。その方がも喜ぶだろう」

無事に用事が済んだ曹丕は帰ろうとしたのだが、夏侯惇に引き止められる。
確かに夏侯惇への用事が済めばこの後はさほどすることはない。
ならばその言葉に甘えて少しゆっくりして行こうか。

「では、少しだけ・・・・」

「ああ、そうしろ。子桓が黙って帰ったと知ればが煩いだろうからな」

いまだ昼寝している娘を見て夏侯惇は笑った。
夏侯惇はそう言うが曹丕にしてみれば、起きていても煩くなるような気がする。
別にその事を夏侯惇にわざわざいう必要は無いので黙っているが。
その後しばらく夏侯惇と談笑していたが、彼は別室にて他の仕事をしなければならなくなったので退出した。
残された室にはいまだ后厦で寝ていると自分のみ。
中々起きないに少々苛立ってしまう。
なぜに起きるまで待たねばならないのだろうかと。
一発叩けば起るだろうが、夏侯惇がそばにいる手前可笑しなことをやらかして彼を怒らせたくない。
仕方なく、書棚にある数冊の書物を見繕って静かに読むことにした。
夏侯惇は曹操に負け劣らず様々な書物を持っていたので、時間を潰すにはちょうどいいだろう。

一冊を読み終えそうになった時にが目を覚ました。

「っは!」

何かに驚き飛び起きた。

「・・・・・」

チラりと目を向けると、肩で息をしている

「・・・・あれ、ひーちゃん?」

「寝起きにそれか。いい加減止めろ、阿呆」

あと少しで読み終えるので、すぐさま視線は書物へと注がれる。
は大袈裟に溜め息をついた。

「はあ〜びっくりしたー・・・・・怖いものみちゃったー」

「また夢か?」

「うん。夢!すごーい怖い夢見ちゃった」

本当に怖かったのだなと小刻みに震えている手を見て苦笑してしまう

「うなされているようには見えなかったが」

読み終え書物をパタンと閉じる曹丕。
中々に面白い内容だった。同じ作者のものが確かあったはずだから、借りて行こうかと考える。

「えーとね・・・・なんだっけ」

は小首を傾げる。
確かに怖い夢を見たのだが。
ん?恐怖とは違う怖さだったような・・・・。

「なんだ。覚えていないのか?ならば大したことではないのだろう」

「うーん・・・・・そうかも・・・・・」

首を傾げつつも、はたと曹丕へとじっと目を向ける
なんだと、曹丕は眉間に皺を寄せる。

「子桓。なんでいるの?」

「小父上に用があって来た。それももう済んだが、小父上に引き止められてな」

「そっか・・・・・」

曹丕の顔を見ていたら夢の中身を思い出した。

「思い出した。すっごい怖いもの」

「?」

「子桓がね、すっごい笑顔なんだよー」

馬鹿にしているのかと。そんなことで飛び起きてしまうのか。
自分は普段から笑顔は見せる方ではないが、心外だ。

「ほう。それは私に喧嘩でも売っているのか?」

「別にそうじゃないけどさ。ただね。子桓の笑顔の理由がさ」

「?」

夢の中での笑顔の理由など曹丕にわかるはずもない。
は少し寂しそうに目線を下へと移す。
キュッと掛布を握り締め。

「子桓がお嫁さんもらって。その人と楽しそうにしているんだ。でね、私に向かってお前も早く嫁げよーって言うの。
となりに綺麗な奥さんがいてね。もうその腕にはかわいい赤ちゃんまで抱いていてさ。幸せなんだなーって」

、お前は・・・・」

「私もね、嬉しそうに笑うの。子桓の家族のことが嫌いじゃないから。でも寂しいんだ」

「ただの夢だろうが」

「まあそうなんだけどね」

曹丕を見て自信なさげに笑みを浮かべる。
今までも夢の話はした。
どれも幼少時の話だ。懐かしさを感じ、あの頃を思い出す。
だけど、今回は違った。
これから起りうることだ。

「近い将来、そうなっても可笑しくないんだよね・・・・」

曹丕の隣にいるのは自分ではなく。
自分の隣にいるのも曹丕ではなく。

「私もいつか誰かに嫁ぐだろうし、今までみたいに気軽に会えなく・・・・なっちゃう・・・のかな・・・・」



「あ、あれ?」

ポタポタと零れ落ちる涙には困惑する。
そうなってしまう未来がとても寂しく感じてしまう。
幼馴染だからこその、今の関係。

「夢の話でそこまで飛躍できるお前がすごいな」

呆れたと言わんばかりの曹丕の表情。
の前にしゃがみこんだと思うと、その頬を軽く抓った。

「い、いひゃいよ。ひーちゃん」

「夢の話だろうが。生憎私にはまだ見合い話も来ていない、予定もない。
お前みたいなじゃじゃ馬が嫁がないとこちらは落ち着けん」

の方が先に嫁ぐまでは曹丕自身も嫁をもらうことがないと言う。

「いつになることか、小父上も悩みの種だろうな」

パッと手を離す。
巷では、すでにいくつかの話が出ているらしいとは司馬懿から以前聞いたが。

「あーそれは本当、父様も困っちゃうね」

へらりといつもの顔に戻る
涙を拭って、軽く鼻を啜って自然と笑みを浮かべている。

「いくつか、借りていく。小父上にそう伝えてくれ」

「帰るの?自分で父様に伝えなさいよ」

「そうしたいが、小父上は仕事中だからな」

書棚へ先ほど読んだ書物を戻し、同じ作者の書物を数冊見繕う。

「読み終えたら返しにくる」

「う、うん」

を残し曹丕は帰っていった。
借りた書物など、城で直接夏侯惇に手渡せば済む事なのに。
そう口に出そうと思ったが、やめた。
曹丕がまた来てくれる理由ができたのが嬉しかったから。



***



「なんだ。子桓は帰ったのか」

后厦でぼうっとしていた娘に雑務を終えた夏侯惇が話しかけた。

「あ、うん。さっきね。あ、父様の本借りていったよ。読み終えたらまた返しに来るって」

「そうか。まあいつでもいいがな」

夏侯惇もの隣に腰を下ろした。
日差しは傾き傾きかけており、風が一層冷たくなっている。

「ところでな、

「?」

「年頃の娘がこんな所で昼寝をするな。みっともない」

「う・・・・ごめんなさい」

恥かしそうに掛布に顔を埋める
ふと思った。
確かに昼寝をしてしまったのだが、あの時、掛布などもっていなかった。
暖かい春の日差しにうとうとしし、室に戻ろうと思ったのだが、体を動かすの億劫になりそのまま寝てしまったのだ。
夏侯惇がかけてくれたのだろうか。

「父様が掛布かけてくれたの?」

「いや?俺が見たときにはすでにお前にかけられていたな。もしかしたら子桓がかけてくれたのではないか?」

「子桓が?」

やりそうにないことを・・・・。
あまり信じられないことだが、そうだったら嬉しいなと思う。

「なんだかんだ言って、子桓はに甘いからな」

昔から仲の良い兄妹みたいだったぞ。
夏侯惇は笑いながら言った。

「兄妹か・・・・」

「どうした?」

「ううん。なんでもない」

兄妹ではなく、それ以上の存在にはなれないのだろうか?
夢の通りになってしまったら、自分はどうするのだろうか?
寂しいけど、いつかは来ることかもしれない。

一番なのは、自分は曹丕の奥さんになれればの話だが・・・・・。








曹丕に情が湧いたころですねw無双曹丕に限りますが…。
07/04/11
13/02/17再UP