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夢見た朝に。
「……は?なんだ、それは」 「いないの?サンタさん」 「さんたさん?」 夏侯惇の屋敷で雪遊びをしていた曹丕と。 雪遊びなんてほとんどしたことがない彼にとって馬鹿馬鹿しいと思いつつも顔は楽しんでいた。 そんな中でが言ったことだ。 「クリスマスになると世界中のこどもにプレゼントくれるんだよー」 「くりすます?知らん、そんなもの」 「えークリスマスないの?じゃあサンタさん来ないの?」 曹丕は雪玉を作りながらの話を聞いている。 「さんたとやらは人か?」 「そうだよ。赤い服着てね、長い白いおひげのおじいさん!」 (仙人か?) 随分派手なじいさんだと想像してしまう。 「それでね、夜寝ている時に枕元にプレゼント置いていってくれるの」 「夜?どこからだ?」 「えんとつとか窓かな?」 「不法侵入だぞ、それは。大体、何故そのような怪しまれる行動をとるのだ」 「知らないよ。でもサンタさんは悪い人じゃないもん」 「義賊でも気取っているのか?…わからぬ」 「ひーちゃんのところにサンタさん来たことないの?」 「ない。そのような不審者」 ポケーッと曹丕を見つめる。 くりッとした目が自分を見ていて少し恥ずかしい。 「サンタさんはいい子にしてないと来ないんだよ。ひーちゃん悪い子?」 「な!誰が悪い奴だ。そのような不審者自体この国にはおらぬ!」 「………ふぇ」 曹丕に強く言われた事か、サンタクロースがいないと言われた事か。 どちらかはわからないがの目に涙が溜まる。 しまった!そう思った時にはすでに遅く、は声をあげて泣き出した。 「うわぁぁぁん!!」 「おい、泣くな!」 と言っても泣き止まず。 自分も子どもだが子どものあやし方など知らぬ曹丕は困ってしまう。 どうすれば良いのだろうかと困惑していると、の泣き声に気付いて夏侯惇が姿を現す。 「なんだ、騒々しい」 「お、小父上!あ、あの」 「ん?どうした、」 庭に下りて夏侯惇はを抱き上げる。 こんな所を見られたのだ、夏侯惇に叱られてしまうかもしれない。 「泣いていてはわからぬぞ、。子桓、お前も中に入れ寒いだろう」 「は、はい」 *** 「なんて夢だ……まったく」 懐かしい夢を見た。 最近特に多い。 幼い時のころを夢に見るのは。 季節の所為だろうか? あの頃と変わらず降る雪。 今ではまったくしなくなった雪遊び。 「おはようございます、子桓様」 「仲達……」 少しぼーっとしていると司馬懿がやってきた。 曹丕のいつもとは違う空気に司馬懿は眉を顰める。 「どうかなされましたか?」 「……いや、なんでもない」 昔を思いだされるのは夢だけの所為ではない。 きっとが言った一言だ。 あれが引っかかっているのだ。 『私は子桓のことお兄ちゃんだなんてもう思ってないんだけどね』 なんだ、突然。 そのような態度今まで一度も出した事がないだろうに。 そう感じてしまった。 その割には今も変わらず普通に接してくる。 どうしろって言うのだ。 自分としては妹のようなものとしてか見てなかったのだ。 少し色んなものに苛々してしまう。 昼過ぎになって司馬懿を連れて歩いているとの姿が目に入った。 珍しい、城に来るなど。 彼女には曹丕よりも先に他の者の姿を捉えたようだ。 「遼様!」 「おぉ、殿。久しぶりですな」 張遼の元へ駆け寄る。 それが少し面白くないとか、ちっ…なんて舌打ちしてしまったりする曹丕。 「はい。お久しぶりです。遼様お忙しい所申し訳ないのですが、父を探しているのですが」 「夏侯惇殿ですか?私でよければご案内いたしましょう」 「いいのですか?ではお願いします」 は張遼の隣を笑み歩いていく。 こっちにはまったく気付きもしない事に更に苛立たせる。 昔から変わらない笑顔。 それは別に自分だけではなく多くの者に向けられる。 曹丕の気持ちを知ってか知らずか、司馬懿が口を出す。 「今、殿の嫁ぎ先などが噂されているようですな」 「…の?誰がそのようなことを」 「殿が夏侯惇殿に色々薦めているようで」 「…余計なことを」 「…は?」 今何を言った、この人は? 司馬懿は珍しく目を丸くしてしまう。 曹丕自身はそのような事を口走ったのを気付いていないようだ。 司馬懿から見た曹丕とと言うのは、兄妹喧嘩ばかりとしか見えていない。 は司馬懿には、先ほどの張遼と同じように優しく謙虚に接してくれるが 曹丕相手には容赦がないと言うか、言いたい放題に見える。 どっちの姿もなのだろうから、司馬懿には特に言う事もないが。 「行くぞ、仲達」 曹丕が歩き出すので司馬懿も黙ってそれに従った。 「子〜桓!」 あれから数時間してからが曹丕の執務室に顔を出した。 先ほどのことから曹丕は顔も見ずに返事だけする。 「…なんだ、お前か」 「なんだはないでしょ?ね、お菓子食べる?」 とそれが入った袋を見せる。 曹丕は見もせずに断る。 「いらん。甘いものは好きではない」 「中身見てもいないのに?」 「見なくてもわかる」 「…確かに甘いものなんだけどね」 くすりとは笑う。 「あのね、今日懐かしい夢見ちゃった」 「……夢?」 夢と言う単語に曹丕は反応し顔をのほうに向ける。 は笑みを浮かべている。 「うん。昔の夢。子桓とサンタクロースの話をした時の」 「………」 同じ夢じゃないか。 「それで?」 「懐かしいよね〜あの時私大泣きしちゃって。覚えてる?子桓は」 「忘れた」 「そう?まぁ小さい時だもんね」 は気にした様子もなく話を進める。 あの後も大変だったなぁとは呟く。 泣きっぱなしのに夏侯惇は軽く諌める。 曹丕は自分の所為でもあるからを叱らないで欲しいと言って。 「子桓が知らないんだもん。父様がサンタクロースなんて知ってるわけないし」 泣きながらも少し落ち着くとは夏侯惇に曹丕にした話と同じことを言った。 だが、意味はさっぱり通じない。 しゃくりあげているから余計にだ。 「結局そのまま日が過ぎちゃって、クリスマスの朝に寝床にプレゼントなくて落ち込んだんだよね、私」 そうだった。 「どうした?」 部屋の隅で膝を抱えて頬を膨らましているに曹丕が声をかけた。 「………」 は何も答えず首を横に振るだけ。 「さんたとやらが来なかったのだろう?」 「……っ…ふぇ…あたしいい子に…してたのに…」 そこが引っかかるのか。 目に涙を溜めている。 「だからこの国にはそのような者は来ないと言ったではないか」 いい子も悪い子も関係ない。 そのような者はいないのだから。 「がいい子なのは小父上も私も知っている。だから泣くな」 「ひーちゃん…」 は袖で涙を拭う。 「さんたとやらの代わりに私がお前に贈り物をしてやる。着いて来い」 曹丕はの手を引いて外に出た。 「でも子どものお小遣いじゃ買える物あんまなかったよね」 「………」 結局身体が冷えただけで、屋敷に戻った時に夏侯惇に呆れられた。 「そのような事もあったな…」 なんだ、曹丕も覚えているではないか。 は思っただけで口には出さなかった。 ここでそう言えば、またくだらないとかなどと小さな言い合いになるだろうから。 「ひーちゃん」 「そう呼ぶなと言っただろうが」 昔と同じように呼ぶと曹丕はしかめっ面になる。 いつ頃だっただろうか、彼を字で呼ぶようになったのは。 「もうすぐ今年も終わるね」 「…あぁ、そうだな」 「来年もよろしくね、ひーちゃん」 「そう呼ぶ奴にはよろしくなどしてやらん」 「あ、酷い」 くすくすと笑むに曹丕は少しばかりバツが悪い。 先ほど一人で勝手に苛ついていたのだから。 「」 「なに?」 こう言葉を続けたら驚くだろうか? 『サンタとやらの代わりに私が何か贈ってやる』 ちょっとした先ほどの罪滅ぼしだ。 05/12/22
13/02/17再UP
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