ドリーム小説

「いつも思うんだー…あの人気の高さはなんだろうって」

「思うだけ面倒臭くねぇか?」

「だよねぇ」

は声に出して笑う。
だけど、それはあくまでそうしないと腐った気分になってしまいそうだから。
あえて声に出して笑う事で吹き飛ばそうと思ったから。

「いや、笑い過ぎだ、お前」

コツンと軽く頭を叩かれた。

「そうかな?」

無理に吹き飛ばした感はあったかもしれないが、それが同時に今隣に居る男。
馬超に不快にさせたくなかったのもあったのだが。

「そうだろ。別に無理しなくていいって、俺の前でさ」

馬超は気にしてないとばかりか、逆にそのままでいいと言う。

「いや!なんか、口説かれた気分!!」

思わず両腕で己の身体をギュッと抱く。

「口説いちゃいねぇし。なら…そう聞こえたなら本気で口説いてやろうか?」

フッと小さく笑う馬超に、は一気に体温が上がるような気がした。
そこらに居る女性、少なくとも自分よりも綺麗な顔立ちの馬超に顔を近づけて言われると本気になりそうで怖い。
怖いのだが、正直彼の女性関係を思うと別の意味で後が怖いので遠慮する。

「断る!」

「即答かよ。ま、お前はあいつが好きだもんな」

「ば、馬超!」

見惚れてしまいそうな笑みから一転して、馬超はいやらしく笑う。
あいつと馬超が言う方。
それは冒頭に話を戻らせることになる。

「本当、モッテモテだよなぁ、趙将軍は」

普段呼ばない呼び方をする馬超。

「馬超より誠実だからじゃないの?」

…言うねえ…」

あからさまに馬超の口角が引きつったように見える。
さっきのお返しだ。
馬超は軽く咳払いをする。

「けど…その誠実さがには厄介だと思っているんだろう?」

は苦笑しながら頷いた。
二人が向けた視線の先。
そこに趙雲がいる。
一人でいるのではなく、数人の女官に囲まれている。
少々の困惑が読み取れるが、基本相手を無下にできないのが趙雲だ。
笑顔を絶やさずに彼女たちの話を聞いている。
だけど、それが馬超の言う「厄介」に繋がる。
誰にでも平等に接する趙雲。
彼女たちが趙雲に向けているのは特別な想い。
だけど、趙雲はそれに応えることはなく、誰に対しても変わらない態度をとる。
優しいけど、報われないのならば早々に諦めた方が無難だ。
だけど、趙雲は悪く言えば「誰にでも優しい」ので、中々諦めることができない。
も長い事趙雲に片想いをしてしまっている。
あそこにいる、女官たちよりは趙雲も気軽に接してくれるだろう。
だけど、その気軽さが却って今のには厄介でしょうがない。
この事を知っているのは、会話からわかるように馬超だけだ。
元々趙雲が女性たちに人気があるのは知っているものの、毎度毎度見かける光景にうんざりすると同時に自分が情けなく感じて。
つい馬超に話してしまう。
だけど、今回ばかりは違った。

「それで本命の女に誤解されても仕方ない感じだよな」

「え!趙雲本命いるの!!?」

瞬時に馬超の顔を見た。
馬超はしまったと、あからさまに舌打ちをした。

「あ、いやな…」

「そうだよね。別に好きな人がいても可笑しくないわけだし…」

は視線を馬超から外し、足元へ注ぐ。
急に気分がへこんで来た。

「あのな、

「馬超の言うとおりだよね。あの状態じゃきっとその本命さん誤解しちゃうよ」

自分みたいに片想いをしているならば、趙雲への想いは届かないと諦めているかもしれない。

「けどさ…馬超のその言い方だと、その本命さんも趙雲が好きみたいだよね」

「え゛…あ、そ、ま…」

大概はっきりした物言いの馬超が、珍しく挙動不審だ。
馬超は趙雲の想い人を知っているようだし、その想い人も馬超に相談をしているようだ。

「そっか」

なんだ、単純に趙雲とその想い人は当人たちが気付いていないだけで両想いだったわけだ。
ショックな気持ちも強いが、瞬間空気が抜けたかのように気持ちが萎んだ。
それと、馬鹿馬鹿しさも。
最初から無駄なあがきと言う奴だったかと。



「けど、馬超ちょっと意地悪だよ?両想いなら、黙っていないで教えてあげればいいのに」

「だから、よぉ」

「まぁ、教えられたところで、信じるか微妙なところではあるよね」

は軽く伸びをする。
数歩先を行き、くるりと反転して馬超に向けて笑う。

「失恋しちゃったか、私も」

私も。だけでなく、趙雲を囲っている女官たちもだ。

「しばらくは馬超に付き合ってもらおう」

「あ?」

「少しは慰めてくれてもいいでしょ?馬超ってば黙っているだもん。ずっと馬超に相談していた私がバカみたいじゃんかー」

「…………」

愚痴るつもりはないが、泣き寝入りをするわけにもいなかなし、八つ当たりをする気もない。
だったら、身近な友達と失恋の傷を癒したいものだ。

「まずは、明日は遠乗りね!天気が良かったら最高なんだけどなー気分をスカッとさせたいし!あ、姜ちゃん!」

は向こう側からやって来た青年姜維を見て駆け出した。

「じゃあ、そう言う事だから、約束ね!馬超!!」

「ちょ、ちょっと待て!おい!」

嫌だと言わせないぞ。とばかりには強引に話を切り上げて姜維の下へ駆けていった。
取り残された馬超は酷く頭を抱えていたが、そんな事をが知る由もなかった。



***



翌日。厩舎に向かえばそこに馬超の姿はなかった。

「……逃げたかな、馬超…」

約束。だと口にしたものの、あくまで口約束。
馬超の都合も考えないで勝手にしたものだ。

「仕方ないかなぁ…馬超も将軍様で忙しいし」

今日は諦めて別の事をしようか。そう考える。
だけど、すぐさま移動する気にはなれないので、馬たちの様子をぼんやり眺めていた。

殿」

「?…あ、趙雲」

振り返れば趙雲が居た。
彼も厩舎に用事だろうか?昨日の今日で正直顔を合わせるのがしんどい。
趙雲にはいつも通りでも、自分は趙雲に失恋してしまったから。

「どうかしたの?あ、馬超ならいないけど」

馬超を捜しに来たのだろうか?
自分が言うのもなんだが、馬超は政的なものは苦手だと言い逃げ出す癖があるから。
大概、趙雲や馬岱が馬超を捜しまわる羽目になる。

「いえ。…馬超殿ではなく、あなたに…」

「私?」

「はい。馬超殿から聞きました。遠乗りに行きたいと…良ければ私がお連れいたします」

小さくはにかむ趙雲。
対照的には微苦笑してしまう。
馬超は何を思って趙雲にそんな事を言ったのだ。
最後にいい思い出でも作れと言うのか?
変に馬超が気を使ったようで、あまり喜べない。

殿?」

「え、あ…なんでもない。えっと…別に今すぐ、行きたいわけでもないから…あの。
無理しなくていいよ。趙雲も忙しいだろうし…馬超に強引に押し付けられたんでしょ?」

馬超にも困ったものだとは答える。

「いえ!そんな強引だなんて…」

「………いいよ、本当」

胸のあたりがシクシク痛み出す。
昨日はなんてことない。とあっさり失恋したと言い切ったが。
想いと言うのは正直で。
こうして趙雲と向かい合うのが辛い。

「あ、あぁ!殿!遠乗り、行きましょう!」

趙雲がの手を引く。

「え?趙雲?遠乗り…って」

馬に乗っていくものじゃないのか?
趙雲はの手を引いて厩舎を出る。
すでに準備万端なのか?
だが、厩舎を出ても趙雲が歩みを止めることなく、そのままだ。

「ちょ、ちょっと、趙雲!?」

前を歩く趙雲の顔が見えない。
ただただ趙雲に連れられていくだけだ。



***



遠乗りと言いつつやってきたのは、庭院の一角。

「趙雲?」

「…す、すみません」

手は離れないものの、趙雲はに背を向けたままだ。

「あの…あなたが辛そうな顔をなさるので、つい…」

「あ、ごめん。なんでもないから」

なんでもない。なんでこの期に及んで趙雲にいい顔をしてしまうのだろうか?
ただ彼に失恋したとしても、友好的な関係は壊したくないのだろう。

「なんでもない…そんな、無理をなさる必要は」

「趙雲…」

「馬超殿の方が頼りになるのはわかります!ですが、私もあなたのお役にたてることがあるならば」

「馬超?」

「あ…」

なんでそこに馬超が出てくるのだろう?と思った。

殿。これからはもっと私を頼ってください!」

ギュッと繋がっている、自分の手を繋ぐ趙雲の手に力が入る。

「え?」

趙雲が振り返る。その際、両手で繋いでいる手を包み込む。

「あなたの優しさにつけこむような、ずるい男だと自分でも思います。
ですが、できることならば、私があなたの心の傷を癒せる存在になりたいと!」

(私の心の傷…て?)

意味がわからない。
趙雲の話からすると、自分は何かに傷ついたようで。
最初から考えればきっと馬超が何か言ったんだ。
また余計な事を。とは内心、息を吐く。
優しい趙雲にしてみれば、そんなを放っておけないのだろう。

(だけど…ちょっと大袈裟な気もするし…あれ?)

励ましのつもりにしてはちょっとニュアンスが違うような気がした。
趙雲が自分のなんだって?

殿。こんな時に伝えるのは卑怯だと言うのは百も承知。
それでも、私にはもうこの想いを抑えることはできません!!」

「ちょ「あなたが好きです。殿!」

「「………」」

瞬間周囲の音が消えた気がした。
そして耳に届くのが自分の鼓動のみのような感じで。

「え………あ………」

はっきりと告白されたのが初めてで。
しかも、好きな人で、でも昨日失恋したと思った相手で。
趙雲の顔を恐る恐る見上げると、珍しく強張った表情の趙雲が居て。
目が合えば、趙雲が再度口を開き。

「あなたが好きなんです。殿」

と二度目の告白をされた。
ぽんぽんぽんと一気に熱が上がった。
顔だけでなく、耳も、首も、全部が真っ赤になっていると自分でもわかるくらいに。
だけど、驚くくらいに口角が緩んで。

殿?」

「なんだろう…可笑しいなぁ…私、趙雲に失恋したと思っていたんだけど…」

「え…わ、私に。ですか!?」

趙雲も初耳のことだったようで。(当然だが)

「あ、あー…もう〜…嬉しいんだけど、涙が出てくる」

視界がぼやけて自然と涙が零れる。

殿」

はそのまま趙雲の胸に体を預けた。

「本当の話?それ…」

「本当です。ずっと、あなたをお慕いしておりました」

「ありがとう。私も趙雲が好きだよ」

泣いた顔であったが、趙雲にもう一度顔を向けた。
そして今度は笑う。
自嘲でも、
苦笑でもなく。
笑顔を。



***



「あれ?馬超殿?と遠乗りに行くと言っていませんでしたか?」

鍛錬をしにやって来た姜維が、そこに居た馬超を見て驚いた。
昨日から聞いた話では、今日一日馬超に付き合わせるなどと言っていたが。

「あ?別に約束していねーし」

「そんなぁ…あとでが怒りますよ?今も待っているんじゃないですか?」

「問題ない。趙雲に任せたから」

「そうですか。なら問題ないですね。あ、手合わせをお願いしてもいいですか?」

「おう。いいぞ」

二人は模擬棒を構える。

「ま。今頃上手くいっているだろうし。これで俺の肩の荷も下りる」

ぼそりと呟いた馬超に姜維が小首を傾げた。
馬超は意味ありげに笑う。

「なに。実は両想いでしたってオチだ」

趙雲とのこと。
馬超は互いから相談、話を聞いていたと言うこと。
自分の一言からうっかり変な方向へ進みそうになったが、もう手を焼くのも面倒だったので、これを機に趙雲に丸投げした。
が身を引いたならば、それを捕まえ追いかけるのは趙雲しかいないのだから。

「つーか、互いに気付かないってどれだけ鈍いんだよ…」

「あの…馬超殿?さっきから何を…」

「なんでもない。さて、やるか!」

あとで辺りから文句を言われそうだが、うまく言ったのだからいいだろう。
そう思うことにした。





【オチって大事。】








お題で趙雲。よくある話w多分無双6仕様。
11/01/16
13/01/03再UP