ドリーム小説
「そういや、は兄上に随分懐いているよな」

「…そう?」

「あぁ。傍から見れば普通に兄妹のように見えるし、それ以上のような関係にも見えるぜ」

「へぇ」

は相手から持ち出された話に適当な相槌を打っていた。
興味がないと言うか、どうでもいいというか…。
それは相手にも通じたようで。

「なんだよー。可愛げない態度だよなー」

相手。司馬昭はの態度が面白くないのか、予想外だったのか唇を尖らせた。

「昭ちゃんが思うような密な関係じゃないし。ま、師兄様に可愛がってもらえるのは嬉しいけどね」

曰く師兄様は司馬昭の兄司馬師。
弟の司馬昭から見ても冷徹で完璧な兄。

「………」

「それに私から逆に昭ちゃんに言うね。そう言う昭ちゃんは元姫と随分仲がいいねぇ」

元姫は王元姫。司馬昭の父司馬懿から息子の相談役、教育係のようなものを命じられた少女だ。

「は?」

「元姫に怒られるのが嬉しいみたいな顔をしているし…そっちの方が十分濃い関係に見えるよ」

「こ、こいぃ関係ってなんだよ。お、俺と元姫はべ、別に…つーか、怒られるのが嬉しいって…俺、どんな風に見られているんだよ…」

司馬昭は項垂れ後頭部を掻く。

「見たまんまそんな感じ」

それに、そう思っているのはだけでなく、二人の様子を観察なんかしちゃっている一般兵士からも目撃されているのだ。

「なんだよ、それ。そんなのが嬉しいなんて奴いるわけないだろう」

「そう?構ってもらえて嬉しい。って事なんじゃないの?」

「え」

「自分に興味を持ってくれている。見てくれている。そんな風に思ったりとかさー」

「ないないない。それはないって」

「そうかなー?」

は本人の口からでも信じていないような。

「昭ちゃんはお母さんも結構厳しい方みたいだから?元姫に叱られるとお母さんみたいとかって思うのかな?」

「はぁ!?」

「ま。どっちでもいいけどね。元姫は元姫でやる気のない昭ちゃんの面倒を見て大変だ。どうせなら師兄様の補佐になった方が楽できただろうに」

そこまで言って、ポンと手を打つ

「違うね。師兄様の補佐だとやる事なさすぎだ。じゃあ今の方が仕事的には充実しているのかも」

「なんだよ、それ…」

少し怒ったような、拗ねたような顔をした司馬昭。
はからかいすぎたかも。と反省しつつも素直に謝罪の言葉がでない。
それどころか、

「………私、師兄様の所に行くから」

と司馬昭に背中を向けそのまま駆け出した。
司馬昭に呼び止められることもなく、あっという間に距離ができた。



***



「それで?」

「昭ちゃんに嫌われたー…」

宣言した通り、は司馬師のもとを訪れた。
司馬師の机案には沢山の書簡、竹簡が置かれている。
執務中なのは目に見えてわかるが、司馬師に追い出されることもなく済んでいる。

「いつもの事だと私には見えるが?」

「師兄様ー」

「私の執務の邪魔をして言うことがそれとはな」

「うっ…だから、悪いと思うから…師兄様の好きな肉まんを用意したのにー」

「冷めた不味いものは食わぬ」

「冷めてないですー。ほっかほかだよー」

出来上がったばかりで、むしろ食ったら火傷するぜ。くらいだと思う。
司馬師には満足なものだったのか、書簡を机案に置き、卓へと移動した。

「私にははっきり物を言う事ができると言うのに。なぜ昭にはそう捻くれたことしか言えんのだ、お前は」

「師兄様に取り繕うな態度を見せてもしょうがないし…そんなの見せたら」

「気味が悪い」

「って、言うのわかってるもの。顔色を窺うようなの嫌いでしょ?」

「まぁな。普段からそう言う奴らを相手にしているからな。お前にまでそんな態度を取られるのは適わん。少しくらいふてぶてしいのがだろう」

司馬師の向かいに座っていたは、彼の物言いに若干口角を引きつらせつつも。
その態度に笑った。

「師兄様にふてぶてしいって言われるの心外。師兄様の方がふてぶてしいと思うし」

「そうか?」

周囲の者があまり見せないような自然な笑みをに向ける司馬師。
見た者がそれに取り込まれそうになるが、は違った。

「師兄様にはなんでも話せるから気は楽だよ、本当」

「そして昭には可愛げのない態度を取って後々落ち込むのだが、お前は」

「だ、だってー!昭ちゃんったら私と師兄様が密な関係に見えるみたいに言う!自分だって元姫と似たような癖に!!」

ムキーッ!と席を立ち両腕を突き上げる

「私に怒鳴るな」

「あ。ごめんなさい」

あっさり席に着く

「やっぱあれかなー。将来的に昭ちゃんは元姫をお嫁さんにするんだろうなぁ…」

何せ、父司馬懿がそのつもりのようだし。

「まぁ…私と元姫とじゃ…格の差とか色々ありまくりだけどさー」

「あぁ。そうだな。頭が悪いな、お前は」

自分で言うとへこむが、人に言われるとムッとしてしまうものだ。

「だが、そうだな…だったら」

司馬師の言葉には…。



***



「あら。子上殿またなの?」

自室で、寝台で胡坐を掻いて不機嫌そうな司馬昭に元姫が呆れたように声をかけた。
普通ならば、「どうしたの?」とでも心配し声をかけるものだが。
元姫には司馬昭をそうさせる要因を知っているので心配より呆れの方が大きいのだ。

「うるせー。またとか言うなよ」

「でも実際。また。なんでしょ?今度は何でと揉めたの?」

「…なんで、は兄上がいいんだ?確かに兄上は何をやらせても完璧な方だし、俺もそんな兄上を尊敬している。だけど…」

元姫は腰に手を当て嘆息した。

「そう言う方だから子元殿の方がいいんじゃないの?」

「………その上、逆に俺と元姫の方が…とか言いやがって…」

に何を言われたのか、元姫には容易に想像できたのだろう。
司馬昭にはっきり言い切った。

「それは私としても困るだけだわ。やる気のかけらもない子上殿の面倒を見るのはごめんだもの」

「元姫!」

「今更子元殿と張り合っても仕方ないのだから。あなたはあなたらしくに接すればいいんじゃないの?
元々は子元殿との仲の良さに嫉妬したようなものですものね」

それで自分を張りあいに出されても元姫もいい迷惑だ。

「こう言う時に頑張らないと後で後悔するわよ。子上殿」

「お、おう…ありがとな、元姫」

一応は浮上したようだ。
いつもならば、これでもかと言うくらい罵るのだが、さすがに今回はそこまでできず普通に励ましただけだ。

(でも…今頃はそのも子元殿に愚痴でも零しているのでしょうね…)

知らぬは当人ばかりだ。
わざわざお節介を焼く自分も自分だが…だが友の事を思うえばそれもいいかと内心笑んだ。



***



「昭か…お前、またと揉めたようだな…あれが私に愚痴を零しに来たぞ」

「兄上!も、揉めたと言うか…えと…」

が司馬師の下に居るだろうと思って、彼の執務室に顔を出した司馬昭。
だが、すでには退出した後だったようだ。
書簡に目を通している兄がいただけだ。

「普段。面倒臭いと言っているお前自身が面倒臭いことばかりしていて呆れる」

「あ、兄上俺は別に!」

「私とが特別な関係だと思っているとか?妹みたいに可愛がっているが、さすがにな…」

「い、いえ。あれは」

「まぁ。お前はそう思うのならば別に私は構わないが。に、逆に問われたのだろう?お前と元姫の事を」

は司馬師にどこまで話したのだろうか?
愚痴りたいのは自分の方だと司馬昭は思う。
だが…。

「俺と元姫は…あ、れ?なんでが兄上に愚痴を零すのですか?」

司馬昭自身は元姫にと上手く会話できなかった。子供じみた態度を取ったことを愚痴ってしまった。
それができるのは元姫には様々な事を今まで相談していたし、女の子の気持ちなどを考えた時。
わからない時は元姫に聞くのも手だと思っている。
それが個人へのこととなると、勝手が行かず悩みや愚痴を零してしまうのだ。
だが、が司馬師に自分の事で愚痴を口にする意味がわからなかった。
は元姫と自分の仲を疑っているじゃないか。
それを司馬師に話すのは話のタネ程度かもしれないが、愚痴としてと言う意味では…。

は…もしかして…」

なんだか期待してしまう。
追いかける一方になっている今、ようやく捕まえる事ができるような気分で。
それが顔に出ていたようで、司馬師が司馬昭に向けて実に呆れた顔をしていた。
そして。

「お前が思うほど簡単に行けばいいがな」

「え?」

司馬師の言葉に司馬昭が声を上げた。



***



「あら。…どうしたの?」

「え?あ、元姫」

司馬昭はに会うと言って出かけて行った。まだ司馬師の執務室にいるだろうと思って。
だが、はすでに室から退出しており、今廊下を珍しくぼんやりと歩いていたのだ。
そこに元姫が呼び止めた。
何か様子が変だな。と思った。
少し頬に赤みがかかっていて、挙動不審。
これは明らかに何かあったとわかるわけで。
ということは、司馬昭はとうとう面倒くさがらずにやってのけたと言うことか。

「子上殿に何か言われた?」

「昭ちゃん?ううん、別に…昭ちゃんに会ってないし…」

「そう…(てっきり子上殿がはっきり告白でもしたかと思ったのに…)」

それでもぼーっとしている

「でもやっぱり何かあったように見えるのだけど?」

「え、えと…あー…し…師、兄様が…」

「子元殿?」

直感と言うべきか。あぁ司馬師に何か言われたようだは。

「師兄様が…周りが自分との関係を怪しむなら、別にその通りにしてやってもいいって…」

「あら…」

「師兄様…私をお嫁さんにしてあげようかぁ…って。なんかさ、仕方なく。とか面白そうだから。って言っているように聞こえるんだけどね…師兄様の目、すごく優しくて…どうしよう〜不覚にもドキッとした!!」

(多分、半分冗談。半分本気ってところかしらね…子元殿も楽しんでらっしゃるようで…)

その半分本気の度合いもどこまでのものだか元姫にはわかりかねないが。

「どうしよう〜元姫〜これから師兄様の顔見れないよー」

「そう言われてもね…」

司馬昭にも分が悪そうだ。
だからどうしようと言われても、元姫は困るだけだ。

(子上殿が頑張るしかないわね、これは…)



***



(まぁ…あのくらいせんと…動かぬだろうな…)

自分も弟の為にと甘くなったものだと司馬師は苦笑した。

「どうした。師よ…珍しく機嫌がいいようだな」

「いえ。言うほどでも…」

父司馬懿と今一緒に居たのだ。
呆けていてはまずいだろうと表情を戻す。

「父上…。お聞きしたいことが」

「なんだ?」

「父上は、この先昭の妻に元姫を迎えようと思っておられるのですか?」

「ん…それはだな…」

珍しく司馬懿が即答しない。
司馬懿は息子の気持ち、の気持ちを知っているのだろうか?

「お前はどのように思う?」

逆に問われた。
司馬師にしてみれば別にどうでもいい話。
実力はあるのに面倒臭がりの弟のそばで、叱咤することのできる人がいるのはいいことだろう。
公私共にそれが元姫ならば問題はないはずだが。
司馬昭は元姫よりも今はの存在が大きいようだから…。

「反対する理由はありませんが」

「そうか?」

「まぁそうなった場合。を私にくださるのならばいいですけどね」

「ぬ…それはだな…師よ、どこまで本気だ?」

「さぁ?どうでしょうか?」

司馬師は喉の奥で笑った。





【頭を抱えて脱力したのは誰。】









お題で多分司馬家。ただ師の一人勝ちのようにも見える。
頭を抱えているのは師以外って話。
11/05/05
13/01/03再UP