ドリーム小説
「もう!もっと他に言いようはないわけ?本当腹たつ!子桓のバーカ!」

「ふん。声を荒げるなど見っとも無い奴だな」

「人を怒らせるようなことを言う子桓が悪い。惇兄もそんな事言わないもん」

「周りが誰も言わぬから、私が変わりに言ってやっているだけだ。ありがたいと思え」

広い回廊のど真ん中。
子桓といつ終わるかわからない通算…あー数え切れないほどの何度目かの口喧嘩をしていた。
毎度毎度こいつは人の神経を逆なでする事ばかり口にする。

「言わなくて結構。子桓こそ人の事より自分のことをなんとかしなさいよ」

「ほぅ」

「外面がよくても、中身がちゃんとしていないとお嫁さんも来ないんだから」

「貴様に心配されるなど心外だな。元より心配される必要もないな」

あー言えば、こー言う。本当口から生まれたんじゃないの?あんたって奴は。
そう言いたくなるほどあれこれ返してくる子桓。
周りもさ、止めてくれればいいのに、誰も止めてくれないんだよ。
遼さんなんかこの場に出くわせば

「厭きもせずによくやりますね」

と捨て台詞吐いて素通りだよ。
いやいや、飽き飽きだよ!止めてよ、遼さん!!
何度その背中に向かって念を送ったものか。
徐晃さんもダメなんだけど、徐晃さんの場合はオロオロするものの。

「拙者ではどうにもできませぬ〜」

って逃げていくんだよね。
あ、徐晃さん、そのオロオロ具合可愛いですな。
いやいや、可愛いって思っても止めてくれないとこっちが困るんですけどね。
酷い話、大概の人は「あぁいつもの痴話喧嘩ですか?」な反応で素通りなんだよ。
なにさ、いつもの痴話喧嘩って。
あんた、痴話喧嘩って辞書で引いた事あんの?
男女間の情事にからんで起こる喧嘩って意味なんだよ!
私は子桓と情事って関係じゃないっての。
情事ってのは恋愛感情のある男女の………男女のそれだよ。

そりゃあね、辞書に載っているの以外の意味にも使われるかもしれないけど。
私と子桓がどうすればそんな風に見えるっつーわけ?
心外だとか子桓が言うけど、それこそこっちの台詞だっての。

「こら、いい加減にせぬか、お前たち」

「惇兄!」

「まったく……どっちもどっちだ」

素通りして行く人ばかりだけど、最終的に止めに入ってくれるのは惇兄なんだ。
子桓もどういうわけか、惇兄だけには素直なんだよね。

「惇兄。今忙しい?」

「いや。一段落ついたところだ」

「ならお茶しよう。お茶。さっきね、淵ちゃんがお菓子くれたから一緒に食べよう」

私は惇兄の腕を引っ張る。
惇兄は仕方ないと苦笑しつつも、それを受け入れてくれる。
私は惇兄が一番好きだ。
頼りになるし、カッコイイし、一緒に居て一番安心できるのは惇兄だから。

「子桓。お前はどうする?」

あ。なんで子桓を誘うかなぁ。

「私は遠慮させていただきます。まだやる事がありますので」

子桓は私には見向きもしないで惇兄に頭を下げて行ってしまった。





「本当、お前達は出会えば喧嘩ばかりだな」

「私が悪いんじゃないもん。子桓が突っ掛かって来るんだもん」

淵ちゃんがくれたお菓子を食べながら、惇兄とお茶の時間を楽しんでいた。
惇兄はさっきの子桓との口喧嘩のことを持ち出してくる。

「もう少し穏やかにできんのか?他の奴らとはそんな風にならぬだろう?」

「ならないよ。だから、突っ掛かってくるのは子桓なんだってば」

「きっと向こうも同じ事を言ってきそうだな」

惇兄に笑われた。
別に子桓のことなんかどうでもいいよ。
私のことが嫌いならば放っておけばいいのに。
あれかな?尊敬する惇兄の側をうろちょろしている目障りな奴。
とでも思われているのかな?
そんな事で恨まれても困るのはこっちだっての。
私の事を拾ってくれたのは惇兄なんだもん。
どこか別に追いやられるわけでもなく、惇兄がいつまでも居ていいって言ってくれたんだもん。

「どちらかが引く事をしなければ、ずっとこのままだぞ?」

「……私に引けってこと?」

「ははははっ。子桓相手に退くのが嫌か?も割りと好戦的な奴だな」

「そ、そう言うんじゃないよ。なんか負けたみたいに感じて癪なだけ」

「少し大人になれという事だ。皆の前でがなりあうのは見っとも無い」

「………」

わかるけどさ、見っとも無いってのは。
年頃の女の子が「腹たつ」とか「馬鹿」とか大声で言うのはね…惇兄にだって呆れられちゃうよね。

「ただな」

「?」

「お前だけになんだ。子桓の表情が変わるのは」

「え?」

「昔から大人びた奴だったからな…といる時だけ年相応の顔をする。それはいいことだと思うんだ、俺はな」

私はそんなの知らない。
いつも上から見下すような目で私を見て、人を小ばかにして鼻で笑うような奴で。
言葉を交わせば互いの文句ばかりだ。

「お前と子桓ならばいい友人になれると思うんだがな」

「友人…」

なれるだろうか?
いや、その前に、私と子桓ってどんな関係なんだろう?
普段会えばいがみ合っているから友だちではないんだ。
変な関係だな、本当…。





惇兄に言われてから、一人で子桓の事を考えるようになった。
兄弟ではないし、友だちではない関係。
かと言ってライバルってわけじゃない。そんな事を言えばきっと子桓に鼻で笑われる。
嫌いならば話しかけてこなければいい、かまわなければいい。
けど、顔を会せば低レベルな口喧嘩が勃発する。
子桓はその辺どう思っているのかな?
私の事を、どんな存在に感じているのかな?

…単に惇兄の周りをうろちょろする奴にしか思われていないのかも。

なんか不毛な事を考えているような気がする。
誰でもいいかな、ここ通らないかな?暇なら遊んでもらいたいよ。

孟徳様自慢の庭院に繋がる階段に私は腰掛けていた。
そろそろ外に居るのも限界かな?ってくらい日々寒くなってくる。
紅葉もほとんど散っちゃったし、少しだけ寂しい風景が目に入るのだろうな。

「いたっ!」

ぶわっと風が吹いたかと思うと、右目にゴミでも入ったのかな、急に痛みを感じた。

「最悪〜」

けど、擦るのも怖いし、どうしよう。
痛みは一瞬だったけど、目の中ゴロゴロしてなんか嫌だよ。
一先ず室に戻って、鏡でも見て。

「何をしている」

片目を瞑って俯いていたら、上から聞きなれた声が降ってきた。

「……子桓?」

意外な人物に声をかけられた気がする。
子桓の性格ならば素通りするはずなのに。

「どうかしたのか?」

「………目にゴミが入ったみたいで…」

どうせぼーっとしていたのだろう、マヌケめ。とか言うに違いない。
右目は痛いし、罵られるなんて本当最悪だよ。

「見せてみろ」

「え?」

くいっと顎を上げられた。何?何?一体何事?

「し、子桓?」

「黙れ」

物凄い距離に子桓の顔がある。
うわ!うわ!うわ〜なんで?急になんで?
子桓の指が私の瞼に触れている。
外に今まで居たのかな?それとも元々なのかな、指先がとても冷たい。

「数回瞬きをしてみろ…早くしろ」

「う、うん」

言われた通りにしてみれば、少し楽になった。

「取れたみたいだな。後は水でちゃんと洗い流せ」

「う、うん…ありがとう、子桓」

「感謝される筋合いはない。お前が大人しいとつまらんだけだ。何事かと思ったぞ」

素直に礼を言われておけっての、本当こいつは〜。
だけど、なんだろう。
子桓に優しくされて悪い気がしないのは。

「あ、えっと…さ、寒くなったよね、外」

会話が途切れそうになって、いつもならばこのままサヨウナラ。って感じだけど。
なんとなく、子桓を引き止めようとしていいる私。

「?まぁそうだな…それがどうした」

冬が来ているからだろう。なんて当たり前の答えが返ってきそうなんだけど。

「子桓、手が冷たいみたいだから…その、お茶でもどうですかって話」

「………」

「と、惇兄にも言われた。子桓と喧嘩ばっかするの止めろッて。もう少し大人な対応すれば子桓といい友人になれるぞって」

「………」

なんで黙ってるんだよー。いつもなら「ハッ」とか「くだらん」とか言ってきそうなのに。

「お、おお、お茶でも飲んで親睦を深めましょう!…なんて、あ、あははは…」

礼のつもりでもあるんだよ、一応。
いつも私なら「礼なんか言うもんかー!」みたいにツンケンした態度をとるだろうから。
そうだよ、惇兄にも言われたし、惇兄に嫌われたくないし…。

「安い茶は飲まんぞ。あと、不味い菓子も食わん」

「あ…うん!大丈夫、お茶もお菓子も美味しいから。張コウさんに貰ったから香りもいいよ!」

断られずに済んでなんか、今ホッとした。
誘ってみるものだなーって。

「行こう、行こう。私の室でいいよね?」

「ああ」

あれかな?惇兄の名前を出したから、子桓も仕方ないって感じで大人しく誘いに乗ってくれたのかな?
まぁどちらでもいいや。
一歩前進。大人な対応ができましたって事で。

「ただ」

「?」

先を歩く私に向かって子桓が言った。

「いい友人止まりで満足できるとは思えんが」

「………はい?」

フッと笑った子桓。
あれ?いつもの人を嘲笑うものじゃないよ?
あれ?あれれ?
もしかして、実は私は…。





【自分の気持ちに気づいた】








お題で曹丕。
10/03/04
12/11/04再UP