ドリーム小説
わたしの父さまはとてもえらい人です。
それだけでなく、とても強い人でもあります。

父さまはお国でいちばんえらい人、もーとくさまが天下をとるために。
毎日がんばっています。
いそがしくて、夜おそくに帰ってきて、朝早くにでかけてしまうこともあります。
戦で遠くへ長い期間いないこともあります。

でも、お休みになれば、父さまはわたしとたくさん遊んでくれます。
そんな父さまがわたしは大好きです。





【一緒に寝れば寂しくないね。】




広い邸には少女が一人。
今日は雨が降っている為に外で遊ぶ事が出来ない。
つまらないと体全体で表現しているが、誰もそれにかまう事がなかった。

「…父さま…早く帰ってこないかなぁ」

雨の日はよく物語を聞かせてくれる。
父の膝の上に乗って、大昔にあった不思議な物語を聞くのが好きだった。
だがこの所、その父は忙しいようで帰ってこない日が多い。
幼子を世話してくれる者はいるのだが、やはり父がいないと不安だ。

ここは隻眼の猛将と恐れられる夏侯惇の邸。
彼女は夏侯惇の娘
と言っても夏侯惇はまだ独り身である。
とは血の繋がりはなく、数年前に戦場で夏侯惇が見つけ保護した。
保護に止まらず、夏侯惇がを引き取ると言い切ったとき、周囲は大変驚いたものだ。
男子ならまだ力強く育てるだろうが、は女子。
幼子相手にこの男がどこまでやれるのかと心配になったものだが。
案外父親としては上手くやれている。
も幼い内に実の両親と離れ離れになって心寂しいものはあるだろうに。
それを感じさせないどころか、夏侯惇を父とちゃんと慕っている。
いや、幼すぎて両親の事がわからなくなっていたのだろう。

「お前は一人で何をしているのだ…」

の頭上に呆れた声が降ってきた。
顔を声のした方に向けるとしかめっ面の幼馴染が立っていた。

「ひーちゃん」

幼馴染とも呼べるよりも数歳年上の曹丕だ。
曹丕は夏侯惇の従兄弟であり、仕えている曹操の次男。
意外なところでと気が合いこうして邸に遊びに来るのだ。

「そう呼ぶなと何度言えばわかるんだ、お前は」

ペタンと床に座り込んだままのを見て、眉間に皺を寄せる。

「だって、ひーちゃんはひーちゃんだよー」

「ふん」

気難しい性格に見えるがは気にしたことがない。
自分と遊んでくれる曹丕が嫌いじゃないから。

「ひーちゃん。何して遊ぶ?」

ここへ来たならば、理由はそうだろう。
だが曹丕は違うと首を横に振った。

「?」

。ここに居たのか」

「父さま!お帰りなさい!」

は父の姿を見て一直線に駆け寄った。

「あぁ。ただいま」

夏侯惇は柔らかく笑いを抱き上げる。
を抱えたまま夏侯惇は真面目な話をし始めた。

「しばらく、俺は留守にする。お前は子桓の母の下で大人しく待っていてくれ」

「え……」

曹操が出兵を決め、夏侯惇はその先陣を任されることになった。
その為に暫く家を空ける羽目になる。
邸には使用人もいるが、幼子を一人残すのを不安に思った夏侯惇は。
曹操の奥方で曹丕の母でもある卞夫人にの世話を頼んだ。
夫人は快く引き受けてくれた。

「子桓といれば、お前も寂しくないだろう?」

「う、うん」

嫌だとわがままを言わなかったから、問題ないだろうと夏侯惇は感じたのだろう。
の外泊の準備をすぐにして、曹丕を伴い曹操の邸へとすぐに向かった。
夏侯惇はそれからすぐに出立してしまった。
「いってらっしゃい」と言えば夏侯惇はの頭を撫でて頷いた。





曹操の邸で世話になり始めて早くも七日が過ぎた。
戦に出たのだ、そう簡単には帰ってこないだろう。
この邸は曹丕の兄弟だけでもかなりの人数がいるし、夫人も数人いる為にそんなに寂しいと思う事はない。
遊んでくれる人たちが大勢いたから。
母親のいないにとって卞夫人のそばにいるのが一番落ち着いた。
卞夫人から見ても、が夏侯惇を思って寂しがる様子を見せないのでこの分なら大丈夫だろうと安堵する。
かえって夏侯惇を忘れてしまうのではないかと冗談で口にしてしまうほどだったから。

「ふーん。父さまはこんな遠くに行っているんだ」

曹丕に地図を見せてもらった。
この国を書き記したもの。
そこで曹丕が夏侯惇がどこへ向かったのかを教えてくれた。

「ただ行って帰ってくるだけなら問題はないが、戦があるとなると長引く」

「…じゃあ…父さま。わたしのこと忘れちゃう?」

長い間離れ離れになればとは思った。
はいい。
こうして幼馴染たちがそばにいるから、少しも寂しくはない。
けど、夏侯惇に忘れられたらと思うと離れ離れは嫌だ。

「馬鹿か、お前は…小父上がそんな薄情な事をなさるわけないだろう」

「本当?」

不安げに曹丕を見上げる

「お前に地図を見せたのは間違いだったかもしれん」

余計な不安の種を巻いたと曹丕は思ったようだ。

「子桓。。二人共いらっしゃい」

お茶にしようと卞夫人が呼んだ。
は嬉しそうに卞夫人の下へ駆け寄っていった。





さらに半月が過ぎた。
知らせでは他勢力との戦に入ったそうだ。
互いに策を巡らし長期戦になりそうだとも言っていた。

「………」



「………」

当初は心配もないと思っていたが、ここ最近ではは誰とも遊ばず膝を抱えている事が多かった。
お菓子を用意してもいらないと首を横に振っている。

「小父上がおらず寂しいか」

曹丕がの隣に腰を下ろした。
は口を強く噤んでいる。

「これから先もそう言う日は沢山来るぞ」

「………」

「寂しいのはわかる。が、一人で塞ぎこんでいると周りが心配する」

「………」

「お前のその態度が一番厄介だ。寂しいなら寂しいと泣いて我が侭言った方が楽だ」

「だ、だって」

ようやくが口を開いた。

「父さまが大人しく、まっていろって…いい子にしてないと…」

口を開いた事で涙がこみ上げてきた。
それでも泣くものかと鼻を啜って堪えている。

「それはそうだが…寂しいのだから仕方ないだろう。お前はまだ幼い」

父が恋しくても仕方ない年齢だ。

「ひーちゃんもさびしい?」

「は?」

「もーとくさまがいなくて」

「寂しくなどない。別に私は父がおらずとも問題ない」

父不在など曹丕は慣れている。
会わない日の方が多いだろうに。

「だが…私も小父上がおらぬは少し寂しいな」

実の父よりもと周囲が聞けば驚く発言だろう。
だがその意味にはちゃんと理由がある。

「小父上がおらぬと、が大人しすぎてつまらん」

「ひーちゃん」

「お前はいつも馬鹿みたいにうるさいからな」

からかわれたとは頬を膨らますも、すぐに大人しくなる。
騒いだ所で夏侯惇は帰ってこないから。
そんなを見て曹丕はため息を吐いた。





静かないつもと変わらぬ夜だった。
見張りの兵士以外はほとんどの者が寝ている時間。
曹丕もぐっすりと寝ていたのだが、ふと何か聞こえ目が覚めた。

「……?…」

体を起こす。
そのまま室を出てキョロキョロと辺りを見渡す。

「あいつ…」

曹丕はそれが何かわかり、そこへと向かう。

「我慢するなと言っただろう」

そこはに与えられた室だ。
幼子一人で寝るには大きすぎる室であり、余計に寂しさを増す。
ただが寝付くまでは誰かがそばに居るのだが。

「…ひーちゃん…っく…」

は泣いていた。
夏侯惇の居ない事がかなり堪えているようだ。
そのうち卞夫人が気付きやってくるかもしれない。

「父さまぁ」

早く帰ってきてとは泣きじゃくる。

「一人で眠れないのか?」

は頷く。

「だったらそう言えばいいと何度も言ったぞ、私は」

曹丕は踵を返し室から出て行く。
一人残されたは曹丕にも飽きられたと余計に涙を流してしまう。
だがすぐさま曹丕は戻ってきた。
自分の枕と掛布を持って。

「…ひーちゃん?…」

「隣で寝てやる。そうすれば寂しくないだろう」

弟にも妹にもしたことがない、そんな事。
けど、を独りにしておけなくて。

「ほら、もっと奥へ行け。じゃないと私が寝れないぞ」

寝台へと上がり、さっさと枕を置いて横になる曹丕。

「ひーちゃん」

掛布もかぶってわざとらしく息を吐いた。

「寝付くまで話でもしてやる」

「うん!」

も曹丕の隣で横になる。
泣きじゃくって顔がウソのように笑っている。

「何の話がいい?お前の好きなものにしてやる」

「ひーちゃん。そうきょって知っている?」

「藻居か。あぁ知っている」

「父さまが途中までお話してくれたの。その続きがいい」

漢の武帝の前に現れた水と木の精の話か。
続きといわず、最初から話した方が早そうだ。

「ならば藻居の話をしてやる。漢の武帝が…」

夜も大分更けてはいたが、曹丕はが寝付くまで物語を聞かせた。
その様子を卞夫人がこっそり見かけ小さく笑っていたのを曹丕は知らない。
曹丕が気付いたのだ、卞夫人もの泣き声に気づくというもの。
卞夫人が声をかける前に曹丕が行動を起こしたのだ。
も泣くのをやめたので、あえて声をかけずに卞夫人は自室へと戻っていった。

結局、夏侯惇が戻る日まで曹丕とは一緒に寝ていた。
毎晩が寝付くまで物語を聞かせて。
新たな息子の一面を見たと卞夫人は満足であったが、曹丕自身は自分がすぐに寝付けないことに少々不満だった。
それでも幼馴染の事を思うと仕方ないと思ってしまう自分が居た。





わたしの父さまはとてもえらい人です。
それだけでなく、とても強い人でもあります。

父さまはお国でいちばんえらい人、もーとくさまが天下をとるために。
毎日がんばっています。
いそがしくて、夜おそくに帰ってきて、朝早くにでかけてしまうこともあります。
戦で遠くへ長い期間いないこともあります。

でも、お休みになれば、父さまはわたしとたくさん遊んでくれます。
そんな父さまがわたしは大好きです。

それと、わたしにはいつも頼れる幼なじみがいます。
ひーちゃんって呼ぶと嫌な顔をするけど、呼べばいつも返事はしてくれます。
父さまが長いこといないととてもさびしいけど、かわりにひーちゃんがいてくれるので今は平気です。

父さまとおなじくらい、ひーちゃんが大好きです。








曹丕です。「ひーちゃんと私」設定です。普通の家族夢にするつもりがこう変わりましたw
09/06/22
12/11/04再UP