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【身代わりは何がいい?】 「あ。久しぶり〜馬超」 長い長い回廊を歩いていた時、は馬超の姿を見つけた。 配下の者を引き連れ真面目に話をしていたようなので、あえて素通りしようかと思ったが。 馬超の方が先にを見つけ「よぉ」と手を上げてきた。 だから、久しぶりとも答える。 馬超は配下の者を先に行かせ立ち止まる。 「疲れてるって顔をしているね。馬超」 は小さく笑う。 「まぁな。戦がないのはいいが、小さな面倒事があって滅入る」 「でも、それだってなんとかしなきゃいけないことなんでしょ?」 「わかってるさ」 最近「黒山賊」という水賊が村を襲い民たちに被害が出ているそうだ。 劉備は馬超に賊討伐を命じたのだが、この水賊達が烏合の衆かと思えば。 案外尻尾も掴めさせない奴らで馬超を手こずらせていた。 「大変だろうけど、頑張ってね。私にはそれくらいしか言えないけどさ」 民の為にも早く解決させたいとは馬超が一番思っているだろう。 だけど、疲れる。 「そんな事ないさ。でも俺の役に立つはあるぜ」 「え?私槍なんか持てないよー」 持てと言われても、馬超の配下は絶対嫌だ。 こき使われるのがオチだし、使えない自分は酷く罵られるだけに決まっている。 あれ?もしかして鬱憤晴らしの為の存在? それは嫌だ。 「違う、違う。夜。俺の相手をしてくれればいいんだ。すげー癒されるね」 夜の相手と言われて、は一瞬で顔を赤く染めた。 「バ!バカじゃないの!!?なんで私が!!」 馬超はの慌てぶりを見て大笑いをする。 からかわれた。 いつもの事だが、それがわかると腹がたつ。 「お前に相手をしてもらうほど、俺は相手に不自由していない」 「えぇそうですとも。馬超は綺麗なお姉さんたちをいーーーーーっぱい相手にしていますもんね!」 疲れた顔の馬超を見て、ちょっと心配をしたのに。 なんだ、これは。 「私だってお断りですー。そんな安い女じゃないんだからね!」 「女って言うほどでもねぇだろう。まだまだガキ臭さが残ってるってのにさ」 「そ、そんな事ないもん!バーカ!バーカ!馬超のバーーーーーカ!!」 は馬超に背を向け歩き出す。 あれだけバカを連呼すれば誰がどう見たッてお子様と言われても仕方ない気はする。 「おい。!」 「早く綺麗なお姉さんのとこにでも行けば」 「あ」 はベーっと舌を出して馬超の下を離れた。 「しまった…からかいすぎた」 馬超は苦笑交じりで頭を掻いた。 「本当の本当に、馬超ってバカだよね…心配したのに…」 心配と言うより、久々にその姿を見て安心した。 馬超を手こずらせる賊の存在なんて、相当なものじゃないだろうか? 元々がどこかで名を馳せた武将が率いた軍と変わりない賊ではないだろうか? 一緒に遊びに行くことも、それどころか過ごす時間も極端に減った。 大変なんだってわかっていても、やっぱりどこかで寂しさが出てくる。 ここには馬超以外にも、に声をかけてくれる。 時間を潰してくれる人はいる。 けど、その中でも馬超との時間が多かっただけに。 ここ数日つまらなくてしょうがなかったのだ。 「久々に会って、それかっての…」 だが、自分も馬超の前で子どもじみた態度しか取れないと言うこともあるだろう。 馬超の周りには綺麗なお姉さんがいる。 確かに本人が言うように不自由はしていないのだろう。 「どうせ、私はお子様ですよー、ガキですよー」 こうして馬超の言葉で一喜一憂している自分が居る。 嫌いとは思わない。 怒ったり、拗ねたりするけど、本心は…。 (かまってもらえるのが嬉しいんだ…) あぁ、やっぱり馬超の言うとおり自分はお子様だ。 「殿。どうかなされましたか?」 趙雲だ。 彼もよくに合わせて時間を過ごしてくれる大事な友達だ。 友達と言うより、お兄さんみたいな人と言う方が近いかもしれない。 「もー聞いてよ、趙雲〜馬超にまたからかわれたー」 「あはは。またですか。でも顔は嫌そうじゃないですよ」 「あ……。もう…趙雲にはすぐバレる…」 は困ったように笑う。 「私、わかりやすいのかな?」 「馬超殿限定で、わかりやすいですよ」 馬超限定。馬超のことで。ということだ。 は返答に詰まり恥かしくなる。 「もう〜趙雲までからかわないでよー」 「すみません。馬超殿のお気持ちが少しわかりますよ?殿の反応は面白いですから」 趙雲が小さく笑うので、は何度も趙雲の腕を叩いた。 「趙雲は私をからかうの禁止ー!」 「禁止ですか?残念ですね」 「趙雲にまでからかわれたら、私落ち込むよ?」 「それは私も困りますね。では諦めましょう」 「それが一番です」 二人して笑った。 なんだかんだで趙雲に甘えている部分がある。 趙雲から見て、自分は手のかかる妹みたいだろうか? だけど、そう思われても不思議と嫌ではない。 子ども扱いされても、趙雲なら仕方ないかと思える。 きっと自分が趙雲を兄代わりのような目で見ているから。 「殿。お時間は大丈夫ですか?これからお茶でもいかがですか?」 「勿論大丈夫だよ。趙雲の方こそ平気?」 馬超に負けず彼も忙しい身ではある。 「私からお誘いしているのです。大丈夫ですよ」 菓子を頂いたとか。だから一緒に食べて欲しいと頼まれた。 ちょうどおやつの時間でもあるなぁと思ったは遠慮せずに菓子を頂くことにした。 「……よぉ……」 ムスッとした馬超と遭遇した。 賊退治はそんなに上手く行かないのだろうか? こういう時、なんて声をかければいいのかわからずは戸惑う。 早く賊を捕まえられるといいね。 …では。言われずともわかっているだろうし。 大変なら他の人と変われば? …なんて馬超の矜持を傷つけてしまうだろう。 いやいや、これは思ってもいけない。 「楽しそうだよな、お前」 「え?楽しそうって…」 馬超は慌てて息を飲み込んだ。 自分で何を口にしたとバツが悪そうな。 にしてみれば、馬超は任務で大変なのに気楽に遊んでいる。とでも思われたのかと感じる。 「まぁ…馬超と違って暇人だから、そう見えちゃうのは仕方ないけど」 「違う、そうじゃなくて…」 「馬超と遊べないのも。つまらないって思うよ?私は…寂しいって感じるし」 「あ……」 少しだけ素直にならねば。 趙雲にもよく注意される。 「馬超殿の前でだけ意固地になると、後が大変ですよ。人間素直が一番です」 と。 なんでもベラベラ喋れというわけではない。 それはわかる。 つい憎まれ口を叩く自分がいるから。 「と、とりあえず!これあげる」 は紙人形を取り出し馬超に渡す。 「月英さんに教えてもらって折ったの。お守りみたいな効果があるとかないとか…よくわからんけど」 「よくわからんもんを俺によこすのか?」 馬超は思わず噴出した。 「え?あー…っていうか…信じればお守りになるよ。私がついてるぞ、馬超!これで賊退治もばっちりです!」 「の代わり?これが?」 は軽く頬を掻く。 「えーと。なんていうか、私にできるのってこのくらいだし」 これなら自分の代わりに馬超のそばに居てくれる。 紙人形を見て、愚痴ってくれてもいい。笑いかけてくれればもっといい。 少しでも気が晴れればいいなとは思ったのだ。 「カッコ悪いじゃん、俺」 「え?何が?…あ、こういうの持つのが?あー…まぁそうかも…」 「いや。そうじゃなくて、俺が言いたいのは…その、一人で俺が、拗ねたからで」 「は?」 後半、馬超が何を言っているのかよく聞こえなかった。 ごにょごにょと言葉を濁しているから。 「なんでもねぇ!ありがとな、」 「わ!」 馬超はの頭を少し強めに撫でた。 「けどよ…この人形よりも、お前が居てくれた方が俺はいい」 キョトンとする。 けど、見る見るうちに顔を赤くする。 「ま…また、からかって…」 「からかってねぇよ。俺の本音。もう早めに賊をとっ捕まえてお前とイチャイチャしてやる」 「は、はぁ?」 耳まで真っ赤になる。 急に馬超はどうしたと言うのだろうか? 「なんだよ。お前の方が先に素直になってくれたからな。俺も本音を口にしただけだ」 自分も素直になった。とは言うのが恥かしいのだろう。あえて「本音」と口にして。 「その前に、今いちゃいちゃするかー」 「う、うえぇ!?い、今?」 「なんだよ。その反応」 「だ、だって。馬超はー…綺麗なお姉さんとかいっぱいいるし…私とじゃ…」 つりあわないのでは?急に弱音を吐いてしまう。 馬超はそんなをギュッと抱きしめた。 「ば、馬超!?」 「お前がいいの。他の女なんてどうでもいいよ。実際付き合ってるわけでもねーし」 が勝手に思い込んだけだ。 「がいいんだ。わかったか?だからお前も俺にしとけ」 「う、うん」 少しだけ素直になったら、びっくりした結果に繋がった。 でも嬉しいから、素直になって良かったと思った。 これでもう。寂しくないね。 馬超が拗ねていたのは単に彼女が趙雲と楽しげだったからです。
09/07/17
12/11/04再UP
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