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俺がアイツを守る。 もう二度と泣かさない。 そう心に決めた。 そして、いつか、アイツに伝えようと思った言葉がある。 それは明日か、まだまだ先か。 駆け足で進んだような俺たちだったから、それはお互いがもっと大人になった時でいいと思った。 でも、どうやらその言葉を俺は伝えられそうにない… 【終曲】 が親友の頼子を追ってこの世界に来てから随分経つ。 秘めた力を持つ彼女とは違って、平凡な。 衣食住などの全てが頼子とは違い、彼女が必要とされていることを感じたは帰ろうとした。 だが、馬超によってそれは強引に阻止されて残ってしまった。 最初は嫌々だったが、家族も出来たし、仕事も楽しい。 何より馬超と言う自分にとっても大切だと思える人がそばにいてくれるのだから、今はなんとも思わない。 毎日が穏やかでから見ると、ここがあの戦乱の世だとは思えなかった。 「それは玉璽の姫のおかげなのでしょうね」 「頼子?ふーん、やっぱ頼子ってすごいのね」 ここは馬超の執務室。 平穏な世の事について馬岱と話をしていた。 馬超もそばにいたのだが、彼は長椅子に身体を横にして天井ばかり見ていた。 「そうですね……そうか、うん」 「なに?岱君」 「あは、一人で納得しちゃいました。賊退治や小規模な小競り合いは起こりますが、ここ数年大きな戦は起きていないなって思って。三国が見事に共存していると言うか」 「あーそうだね。天下統一!ってがっついてないよね」 「……そうだな……そう言えばそうだ……」 今まで黙っていた馬超が口を開いた。 ただたちの会話に何かを納得したような、自分に納得させたような感じがする。 「孟起?」 「………なんでもねーよ」 馬超はそのまま目を閉じてしまう。 「孟起。もうすぐ休憩時間終わりだよ?」 「そうですよ、従兄上に目を通して欲しいもの沢山ありますからね」 「しっかりお仕事させてよ?岱君。今日の分ぐらい終わらないと困るんだから」 「わかってます。しっかり見張っておきますから」 馬超の様子など不振にも思わずと馬岱はくすくすと笑う。 「今夜は、私もはりきっちゃうからね。岱君にも沢山食べてもらうんだから」 「楽しみですね、それは」 夜、孔明邸に馬超と馬岱を夕餉に招くそうだ。 だから馬超には今日の執務ぐらいはちゃんと終わらせてもらわなければ困る。 「孟起、聞いてる?本当に寝ちゃったの?」 「わかっている…ちゃんと行くから安心しろ」 「そう?なら良いけど」 とは言いつつも、頼子は心配だとか言って、馬岱に念を押していた。 これが普通。 良くも悪くも当たり前のような日常。 玉璽の姫のおかげで民に平穏が訪れている。 戦になれば、徴兵されて家族を残し出兵しなければならないのだ。 今はそれがなく、姫が現れる前の命をかけて逃げたあの日々は笑い話になっているほどだ。 全てが順調。 それは良い事だ。 自分にもわかる。 けれど、馬超には。 その穏やかな日常に浸ることを嫌悪し始めていた。 「なぁ、アンタさ…」 「はい?」 朝議を終えてそれぞれが各自の持ち場へと戻る途中、馬超の隣を歩いていた趙雲に訊ねた。 「頼子が」 「はい」 「もし頼子が、アンタの前に現れなきゃどうなっていたと思う?」 「どうしたのですか?突然」 「聞いているのは俺だ」 そう言われても趙雲は困ってしまう。 「さぁ?どうしていたでしょうね…わかりませんよ」 他の女性に惹かれていたか、今と変わらず劉備の為に尽くしていたか。 「考えた事もありませんよ、そのような事。ならば馬超殿はどうなのですか?殿が」 「違う」 「はい?」 「そうじゃない。玉璽の姫なんてのがいなかったらって話だ。頼子がって話じゃない」 俺の言い方も悪かったと馬超が呟く。 「頼子に…いえ、あのような存在がいなかったら、きっとこんなに穏やかな日々は簡単には訪れなかった」 「………」 「私はそう思います」 玉璽の姫はおずとも、劉備に天下をと奔走するだろう。 きっと魏や呉との戦の日々だったかもしれない。 「どうしたのですか?急にそのような事を」 「頼子が悪いわけじゃない、それはわかる。わかるんだが……俺はどうすればいいんだ……」 「馬超殿?」 顔を俯かせて拳を強く握り締める馬超。 「俺の、俺が生き延びた意味が、なそうとしていたものが」 馬超が何を思っているのか趙雲もわかった。 馬超は元々西涼を治めていた馬家の者だった。 だが、曹操に一族を根絶やしにされた今残っているのは従弟の馬岱のみだ。 今は共に劉備に仕えているが、彼の中では曹操に対する憎しみ、一族の仇を討つことを刻んでいるだろう。 馬超の思いとは逆に世は平穏そのもの。 戦の気配などない。 国境沿いで小競り合いが起きたとしても、大きな戦に発展することなく解決してしまう。 曹操、劉備ら君主が戦に姿を見せることなどなく、つねに城の中だ。 良い事なのだろう。 天下を一つにせずとも訪れる平穏。 戦なんてのはなければいいもの。 だが、消化しきれない思いが自分の中にある。 しかも最悪だと思えるのは、頼子が『曹操様は思っていたよりいい人だった』なんて言うのだ。 頼子はとある出来事で一時期魏にいた。 その時に出会った人たちに対し嫌な印象がほとんどないらしい。 だから、彼女の中ではこのまま平穏で暮らしていきたい。 そう願うらしい… 「ね、どうしたの?最近の孟起変だよ?」 「…変だと?失礼な奴だな」 馬超はの問いにくすりと笑い、彼女の髪をくしゃりと撫でた。 「変だよ。何か思いつめてるように見える!」 「気のせいだろう」 「じゃない!人のこと馬鹿にしないでよね。もうずっと孟起のそばにいるんだよ?違いぐらいわかります」 「………」 追いかけて捕まえたのは自分。 だが、彼女も自分を見ていてくれた。 「……俺はさ、戦場で死にたいんだよ」 「は?」 馬超は空を見上げる。 「このまま一族の仇も取れないまま穏やかにすごすのが嫌なんだよ…」 「孟起?」 「だから…自分から言い出したあの言葉、約束は守れそうにない…」 の前に突風が吹き荒れる。 自分を見る馬超の顔が寂しそうで、でも笑っていて。 このまま馬超を離したら。彼は遠くへ行ってしまうような気がした。 「ま、待ちなさいよ!」 力いっぱいに馬超の腕を掴む。 自分の力なんて馬超に比べれれば高が知れている、簡単に振りほどかれるのはわかっている。 でも離したくないから。 「ずるい!アンタが勝手に私の事引っ張り込んだくせに!帰ろうと思った私を引き止めたくせに!」 「…」 「最後まで面倒見なさいよ!なに、それとも私に他の誰かの下に行けっての!?」 勝手に離れるのは許さないとばかりに、は馬超を強く睨みつける。 何を反論されようとも引き下がるものかと口を強く噤んで。 「世の中には孟起よりいい男なんてたっくさん!いるんでしょうけど」 「………」 「それでも孟起がいいって言ってるの!」 そこまで強く放ったら、反動でポロッと涙が零れた。 「お、おい…」 「いかないでよ、どこにも…」 最初の出会いや出来事はにとっては最悪としか表現できないものだったかもしれない。 でも、今は違う。 周りが茶化そうと、邪魔しようとしても、自分にとっての一番の人。 今更取り残されるのはまっぴらだ。 「…悪い、泣かさないって約束したのにな…」 馬超はを抱きしめる。 「しかも先に言われちまうし…俺って格好悪いな…」 「孟起…」 「俺の…昔の話聞くか?いや、聞いてくれるか?」 「…うん、聞く」 思えば馬超自身の話など聞いたことがなかった。 いつも彼は呆れる位に仲間をからかって楽しそうにしていたから。 誰にだって過去はある。 通った道は色々で、同じではない。 だから、馬超の話を聞いて、自分のいた世界が、自分が幸せに苦労知らずでいたのだと知った。 馬超の家族の事。 曹操に殺されてしまった一族。 残されたのは馬岱と自分のみで、転々とした後に劉備の下に帰順した。 「平穏な世が嫌いなわけじゃない…今の俺を見て、父上たちが何を思うかと考えると嫌になる。 俺には俺のやるべき事がある。成し遂げるには、きっとをそばには置いておけないと思った」 「敵討ちってしなきゃいけないことなの?」 「」 「孟起から見れば私は何も知らない甘ったれかもしれないけど、敵討ちなんてお父さんたち望んでいるかな?」 「それは」 どちらとも言えない。 武将の子ならば何代かかってもいいから、仇をとれと言うかもしれない。 「わ、私は戦ばっかになるよりこのままのほうがいい」 目を閉じ馬超の胸元をキュッと握る。 「だから…お父さんたちが安心して喜ぶぐらい私を幸せにして」 「…」 は不安そうに顔を上げ馬超を見つめる。 「俺は、きっとこれからも父上の仇をとろうと思うぞ?」 簡単には忘れらない、捨てられない思い。 「でも、の事も放ってはおけない」 玉璽の姫の願いが、いつまで保たれるかはわからない。 この先3つの天下が一つに戻るかもしれない。 その時に自分の願いが成し遂げられるかもしれない… 先にあるものがどうなるのはか誰にもわからないが。 「なぁ、前にお前に聞かせたい事があるって言ったよな?」 「うん、いつか聞かせてって私も言った」 「先にに言われちまった」 馬超の表情は先ほどとは違い優しく笑っている。 そしての唇に触れ自分のを合わせる。 触れ合うだけのものだったが、の中の不安が消えていく。 「俺のトコに来い、」 「孟起」 「色々格好いい台詞とは考えたんだけどな、先にに言われた」 もう少し二人が大人になったら彼女に求婚しようと思った。 「私、先になんて言った?」 「はは、なんだ、アレは無意識か?幸せにしろと先ほど言ったばかりだぞ」 「あ…」 勢いだったとは言え、自分で言った言葉に急に恥ずかしくなる。 「で、返事は?」 「え!?…えーと…よ、よろしくお願いします」 「あぁ。最後まで面倒見てやるさ、だからもしっかり俺について来い」 馬超のいつもの力強さを感じる。 は嬉しくて何度も頷く。 そして二人は歩き出した。 の家族である孔明と月英にこの事を告げるのだ。 それから馬岱にも。 きっと喜んでくれると信じて。 父上。 沢山のものを失った俺にも大事な人ができました。 父上がお怒りになるか嘆かれるか正直俺にはわかりません。 ですが、お許し下さい。 またこの手から大事なものを失くしたくないのです。 彼女が言うように、父上たちが安心してくれるくらい、大事なものを幸せにしますから… 本館の3周年フリー配布のブツでした。
でもって、これでこのシリーズは終わりです。
05/05/19
12/11/04再UP
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