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結局それが俺だから
『もう泣かさねぇ。俺がこいつを守る』 ってな事を言った馬超だが、実際は義父である孔明がの周りに悪い虫がつかないように目を光らせている。 それともう一つ。 『それではな、いつかまた会おうぞ。青年、神にたてついたんじゃ、しっかりやらんとと引き離すぞ』 と言って消えた老人が… 「ほぅ、の手作りか。これは美味そうだな。いいのかな?わしが食べても」 「うん。お母さんと一緒に作ったから味は保障するよ」 「では頂こうかな」 なんて会話をとしている。 (あんだよ、いったい……くそじじぃ) 先日孔明邸の隣の屋敷に一人の老人が越してきた。 それは頼子とをこの世界へ召喚した張本人である自称神様である神濃。 神濃は老後を一人で暮らす老人と言ってのほほんと隣で生活を始めた。 頼子は神濃とは面識がないのでよくわからないそうだが、は数回会っている。 そのせいか、はよく神濃の屋敷に遊びに行っている。 城では孔明が目を光らせているし、屋敷では神濃がを独り占めしている。 馬超は壁が増えて面白くない。 せっかく、晴れて恋人同士になったと言うのに。 「、どっか遊び行こうぜ」 「うん、あとでね」 「なんだよ、それ〜」 神濃の屋敷の庭先でのほほんとしている神濃と+不機嫌な馬超だった。 *** 「あーくそっ、むかつく」 馬超は執務中にもかかわらず、机に足を放り出して椅子に腰掛けている。 「従兄上、行儀が悪いですぞ」 「うるせー」 「もう、せっかく元に収まったかと思えば…毎日機嫌悪いし…」 「なんだよ、文句あるか?」 「ないですよ。言ったところで従兄上は耳に入れてくれませんから」 「………」 ぷいっと顔を背ける馬超。 泣きたい気持ちになる馬岱。 浮かれて仕事にならないもの嫌だが、機嫌が悪くて仕事にならないもの嫌だ。 どっちにしても自分が一番被害を受ける。 「…最近、胃の調子が悪いんだよなぁ…」 などと、馬岱が同僚に呟いていたのは内緒の話。 「……俺、何してんのかね……」 「え?なんですか?従兄上」 「なんでもねぇ。ほら書簡よこせよ。仕事溜まってるんだろ」 急に馬超は姿勢を正して仕事を始めた。 いきなりなので馬岱は驚くが、せっかくやる気になってくれた従兄なので彼の気をそぐわないよう補佐に徹した。 だから午前中は忙しかった。 昼餉もそこそこに済まして、午後も早くに執務に取り掛かる。 「なんだろう、こんな執務らしい執務は何年ぶりだろう」 目を輝かせてしまう馬岱。 元々ちゃんとすればデスクワークだってできる人なのだ、馬超は。 ただ、面倒だと言う理由であまり手をつけないのだ。 コンコン 扉を叩く音。 「失礼しますよ、馬超殿」 「おぅ」 入ってきたのは趙雲。 珍しく執務中な馬超に一瞬驚く趙雲。 「…なんだよ…」 「あ、いえ…忙しそうですね」 「まぁな。仕事溜めてたからな。で?用件はなんだ」 「あぁ、そうでした。先日の兵士たちの訓練のことですよ」 そう言って趙雲は色々説明し、途中馬超の意見も聞いたりした。 それらについて纏めた書類を馬超に手渡す。 「と言う事でよろしいですか?」 「あぁ、俺はいいぞ。悪かったな、全部任せて」 「いえ。あ、それと」 「ん?」 「明日、城下で小規模ですが祭りがあるそうですよ。頼子が行きたいと言うので行くのですが。 馬超殿も殿と一緒にどうですか?中々楽しそうですよ」 それは今の馬超には願ってもない事なのだが、意外にも馬超の返事はそっけなかった。 「あぁ?俺、行かねぇ。適当にお前らで行って来いよ」 「え」 「溜めた仕事終わらせないとまずいだろ?」 「明日は休日ですよ」 「知ってるさ。休みだな、国民的休日だ。けど、俺は仕事なの」 「はぁ。残念ですね…では、私はこれで」 趙雲は軽く頭を下げて部屋を出て行く。 馬超は特に変わった様子もなくこつこつと仕事を進めていく。 いつもと全然違う態度の馬超に馬岱は少し心配になる。 「従兄上、良いのですか?」 「あー?別にいいだろ」 「でも、殿と一緒に出かけるなんて久しぶりでしょう?」 「そうだな、最近は全然だな。別にいーじゃねぇの。どっかのじーさんと遊んでるだろ」 「従兄上〜」 その頃… 「馬超、来ないの?」 「仕事が溜まっているとかで…」 趙雲が申し訳なさそうに言う。 今は頼子の部屋に遊びに来ていた。 明日は祭りに行こうと誘われていて、楽しみにしていた。 なのに、馬超は来ないと言う。 「どうしますか?殿」 「うん…どうしようかなぁ…」 馬超がいないのではこの二人と行っても邪魔になるだけ。 他の人を誘う気にもなれない。 「私はいいよ。二人で行ってきて」 「ちゃん、いいの?」 「うん、いいの。馬超仕事なんですよね?」 「そう言ってましたよ」 「…うん!」 「ちゃん?」 は何か思いついたようで笑う。 その様子なら大丈夫そうだと、趙雲と頼子は安堵するのだった。 *** 翌日、馬超は一人執務室で仕事をしていた。 本当にしているとは。 馬岱にも手伝わせず、一人で黙々と。 小規模な祭りと趙雲は言っていたが、城内がとても静かなために、人々が祭りを楽しんでいるのだろう銅鑼や爆竹の音がここまで聞こえる。 「…やっぱり行けば良かったとか思ったりして…」 賑やかな雰囲気が伝わってきてちょっとばかり後悔する馬超。 本当はせっかくの休日だから趙雲らも一緒だが、と楽しく過ごしたかった。 けど、ここ最近いくら自分が誘ってもは全然だし、邪魔は入るし、苛つくし。 格好悪いところばかり見せているような気がして、嫌だったのだ。 自分はいつから余裕のない人間になったのだろうか? だから、少しだけ間をおこうと決めた。 「はぁ、俺って情けねぇ〜」 この少しの間ってのが中々辛かったりする。 以前、趙雲に頼子の事で『べた惚れだな』ってからかった事がある。 今まさに、趙雲がいたら同じ事を言われそうである。 「あー格好悪い、だせぇ!こんなの俺じゃねぇ!」 筆をおいて、席を立つ。 「くそっ、気分悪い」 馬超は執務室を出て行く。 こんな気分の時はやはりあれだ。 「神楽と遠乗りだ」 自分の一番可愛がっている愛馬とともに野を駆ける。 それが一番の精神安定剤だ。 厩舎に行くと、飼い主が入ってきた事で神楽は嬉しそうに鳴く。 「少しだけ付き合ってくれるか?神楽」 馬超は神楽の鬣を優しく撫でる。 そんな馬超に当然とも言うほどに神楽は顔を擦り付けてくる。 「悪いな」 柵をはずして、神楽を出す。 颯爽とまたがり、厩舎を出る。 神楽といるだけでも気分は楽になる。 「やっぱ、お前が一番だな」 さて、どこまで行こうかと考える。 街では祭りがあるので、なるべくそれとは逆に静かな場所へ行きたい。 「ま、どこでも良いか」 神楽の腹を蹴ってかげ出そうとした時。 「あー!馬超ってばここにいた〜」 「な!…」 が少し頬を膨らませ仁王立ちしている。 「な、なんだよ」 「休日に仕事してしてるって聞いたから、差し入れ持ってきたのに執務室にいないんだもん」 「べ、別にいいだろ。気分転換しようかと思ったからだよ」 てっきり頼子たちと祭りを楽しんでいるかと思ったのに。 「で?どこ行くの?」 「どこって…適当に走るだけだ」 「ふーん」 下から見上げる。 頭を軽く掻く馬超。 実はその下から見上げられる顔に弱かったりする。 「ほら」 「え?」 「一緒に行くだろ?乗れって」 馬超はに手を差し出す。 は不機嫌そうだったが一瞬で笑顔になる。 「行く。当然でしょ」 「気をつけろな」 馬超はを馬上に引き上げる。 自分の前にを乗せる。 「神楽ちゃん、少し重くなるけど我慢してね」 は神楽を優しく撫でる。 「少しだけかぁ?」 「少しよ!」 「よし、ちゃんと掴まってろよ!飛ばすからな、はっ!」 馬超は今度こそ神楽の腹を蹴り走らせた。 どこ辺りまでとかは考えずにただ走らせた。 落ち着けるような場所があったのでそこで休憩にした。 なんだかんだ言って、と一緒なのでさっきまでの苛々はどこかへ消えていた。 「ね?美味しいでしょ?」 「あぁ、美味いぞ。一人で作ったのか?月英殿が作ったのか?」 が差し入れだと言って作ってくれたお弁当を食べている。 「私一人で作りました!前からお弁当ぐらい作ってたからね、私は」 学校に通っていたあの頃。 毎日の昼食は自分で作っていた。 「結構、自信あるのだけど?」 「だから、美味いって」 「本当?」 「本当だ」 「良かった〜」 は笑って胸をなでおろす。 一通り食べ終わって、馬超はそのまま寝転んだ。 さっきまでの自分が馬鹿らしくて自嘲してしまう。 「馬超?」 「祭り、行かなかったのか?」 「うん。だってあの二人の邪魔したくないでしょ?」 「そうだな。邪魔って言うか見てるとこっちが恥ずかしくなるしな」 「あはは、酷い〜言いつけるよ二人に」 「別に、本当の事だし」 ニヤッと口の端をあげる馬超。 「軍師殿やあのじーさんらとでも一緒に行けばよかったじゃないか」 「本気でそう思うの馬超」 「あー?」 「そりゃあ、お父さんたちとも楽しみたいって気持ちあるけど…やっぱり、そう言うのは彼氏と一緒がいいでしょうに…馬超と一緒に行きたかったの」 「………」 「馬超と二人で行きたかったの!」 顔を真っ赤にして言い切ったに馬超はつられて赤くなってしまうが。 はっきり言ってくれたことが嬉しいわけで。 「俺って結構寂しがりやみたいだ」 「はぁ?」 「が軍師殿やじーさんにとられたみたいでよ…拗ねてた」 「嘘〜」 「嘘じゃねぇって。それぐらいが好きで好きでしょうがないんだ、俺は」 馬超は上体を起こした。 「なぁ、放っておかれると、俺って拗ねるし、ガキみてぇなところでちまうけど、そんな俺でもいいか?」 「………」 「に他の野郎が近づくのも嫌だな。独り占めしたい」 「………」 「が好きすぎて、俺が俺じゃない気がする。格好悪い俺が沢山出てくる。そんな俺でもいいか?」 自分でも何を言っているのかわからなく馬超。 はこんな自分を嫌うだろうか?とても不安になる。 「馬超はぁ」 「うん」 「馬超は口は悪いし、手は早いし、すぐに人をからかうし、自己中心的なところあるし」 「あー?」 「でも、優しい所知ってるし、なんだかんだ言って馬超は私の味方してくれるし、甘えさせてくれるし」 「………」 「格好悪いとか思った事ないし、馬超は馬超だから…だから馬超が好きだし」 は馬超に抱きついた。 きっと恥ずかしいのだろう、顔を馬超の胸にうずめて隠している。 「馬超の事嫌いにならないよ」 「ありがとな」 「それに、まだ聞いてないよ?」 「ん?」 「前に私に聞いて欲しい事があるって言ってたでしょう?」 「あぁ、あれな」 「ちゃんと聞くから、いつか聞かせてよ」 「おぅ、約束な。ちゃんと聞かせる。じゃないと駄目な事なんだ」 馬超はしっかりとを抱きしめる。 べた惚れだっていいじゃないか。 結局はそうなってしまう訳だし。 格好悪いと思った自分をもは受け止めてくれたのだから。 いつか、ちゃんと迎えに行くから。 馬超はに優しく口付けたのだった。 キリリクでした。
03/09/28
12/11/04再UP
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