姫の野心。




ドリーム小説
野心とは。
ぶっちゃけ自分の主人を蹴落として自分が後釜になってやるぜ、へいへい!
というような高望みのこと。
その人の経歴などからは到底できないだろうねって思われていることを、素敵に成し遂げて世間様をあっと言わせてやるぜと密かに抱く気持ちのこと。

んで、姫様にもその野心があったりする。
マジで?

「あら、本気よ私は」

「姫様、本気にならなくていいです」

「そーっすよ。俺らにんなこと話したってことで、何か巻き込もうとしてるでしょ」

凌統と甘寧は突然孫家の末姫に呼ばれた。
普段彼女に親馬鹿の如く張り付いている強面長身の男の姿はない。
彼は孫策の供で城を出ていた。

「あら。私がなにか悪事をしでかすみたいな言い方じゃない」

「似たようなもんすよ」

いかにも冗談じゃない。やる気ありませーんな態度の甘寧。
凌統も内心ではそうなのだろうが、甘寧ほどはっきりした態度を見せない。

「大体、姫様がやろうとしていることなんですけどね。やってどうするんですか?」

「どうって。面白そうなんですもの。あなたたちも見てみたいとか思わない?」

両手をパンと合わせては。ね。と同意を求める。

「思わないって…俺からすると面白いというより怖いっすね」

甘寧はあくまで反対のようだ。
凌統もそれはそうだろうと思いつつも、意外にこの姫が頑固であるのを知っているのでどうしようと策を巡らせる。
だが策を巡らせる前には別の事をいいだした。

「じゃあ興覇殿は手伝ってくださらないのね」

「当然。後が怖いんでやりたくもないっすね」

「お、おい。甘寧、その言い方だと」

「わかったわ。公績殿と二人でやるから」

「ちょっと姫様!俺は手伝うなんて一言もいって…や、やりますけど俺は…」

長い付き合い。姫を泣かせた後の方が怖いのは凌統の方が知っている。
だから仕方なく付き合う。
凌統は自分を置いて逃げようとした甘寧の服を引っ張る。

「あん?なんだよ」

「あんた一人だけ逃げようってのかい?」

には聞こえないようにコソコソと話し出す二人。

「いーじゃねーか。姫サンはあんたと二人でやるっていったじゃねーか」

「俺が逃がすと思ってるわけ?こうなりゃ一蓮托生連帯責任。あんたにも手伝わせる」

「お、おめ「姫様ー甘寧の奴も心を入れ替えてお手伝いするそうですよ」

凌統の言葉にの目が輝く。

「本当!嬉しいわ。興覇殿」

そんな目でお礼を言われてしまうと甘寧もうろたえてしまう。
がっくり肩を落とし、頑張りますというので精一杯な甘寧だった。





「んで。どうするんでしたっけ?」

「幼平の驚いた顔が見たいの」

「悪趣味ッすよ、姫サン。んな顔見て面白くもなんともねーっすよ」

前回、普段の周泰の姿を知らないと言い落ち込んだは甘寧と凌統を供につけて一日周泰観察をした。結果途中から思いっきりばれていたわけだが。
今回はその周泰の驚いた顔が見たいと言う。

「基本的に幼平殿は表情を崩しませんからね。無理だと思いますよ」

「だからやるんじゃない」

「…意味わかんねーっすよ」

やってみたところで何か効果あるのか?俺らはそれ見てその後どうすればいいのだと甘寧はぼやく。

「でも見たいの〜」

「なんで、そんなに幼平殿の驚いた顔なんか見たいのですか?俺らはそう思ったことないですよ」

精々高笑いする周泰とか、親父ギャグを平気で口にするとか絶対しないだろうなという周泰ならば見てみたいとは思う。
でもありえないし、想像するのも怖いのでやらないが。

「この前。お二人と一緒に幼平観察したでしょ?」

「はい。おもいっきりばれていましたけど」

「あの時、ごく自然に子義殿たちと楽しげに笑う幼平を見たじゃない」

「あれぐらいなら普通じゃないッすか?」

「そうなのだけど…他の顔も見たいなって思ったから。さっき公績殿はおっしゃったでしょ?
幼平は表情を崩さないって。だから、見てみたいの、いろんな幼平の顔を」

本当、姫様は周泰が好きなのだなと改めて思う。
そういうことならば協力してやらないこともない。
だが、内容がどうにも…。

「驚ろくってよほどのことじゃないと無理だと思いますけどね」

「そうなの?」

「じゃあ、姫サンなら何に驚いたりするんすか?」

「私?」

甘寧に振られて何かなと考える。

「そうね。突然驚かされたり、虫が出てきたりとか」

「…同じことを試せばって言いたかったんすけどね、そんなんじゃ旦那は驚かねーよな」

「確かに。逆にこっちが驚かされるでしょうね」

周泰は勘がいいから。

「諦めたほうがいいっすよ、姫サン」

こういう悪巧みといえるものを甘寧は結構一緒になって楽しむように見えるのだが、意外にも彼はさっさと手を引こうとしている。

「えー」

「後で痛い目みんの姫サンっすよ?」

「なんだよ、甘寧。最初から乗り気じゃないし、簡単に引き下がるし」

凌統に言われて甘寧はスッと目をそらす。
その反応で凌統はピンとくる。

「ははーん。あんた、幼平殿に姫様がやろうとしていることやったな」

「や、やってねーよ!ただ」

「ただ、何?」

「旦那が怒ると滅茶苦茶怖いのを知っているからよ…」

「へぇ、そうなんだ。俺は幼平殿に怒られるような真似はしたことないからね」

「俺だって、故意でやったわけじゃねーよ。しかも姫サン絡みだから余計に性質が悪いんだよ」

絡み?
え、まさかとは思うがこの男、に手でも出したというのだろうか?
そりゃあ命知らずだよなとは思う。
周泰だけならまだしも、後ろに控えるお兄様方のほうが怖いと思うし。
いや、まてまて。もしそうだったならばのほうが甘寧には近づかないと思うし。
周泰たちが未然に防いだから知らないとか?

「お前、くだらねーこと考えているだろ?違うからな」

とにかく。パンと腿を叩いて甘寧は立ち上がる。
に向かって言い切った。

「旦那を怒らす真似はぜってーしないほうが姫サンの身のためっすよ。
俺の場合悪戯したからとかじゃないのに、あの時ほど後悔したっての初めてだったからな」

ほんのり遠い目をしている甘寧。いったい周泰に何をし、どんなお叱りを受けたのだろうか?
甘寧はもう付き合う気はないと室から出て言ってしまった。
残された凌統も同意見だとにいう。

「驚いた顔じゃなくて、もっと別のことでなら協力しますよ」

「………」

「姫様。変なことして幼平殿に嫌われたらどうします?」

「え。それは嫌だわ」

「でしょ?だったら今回の話はナシ。もうすぐ幼平殿も帰ってくるでしょうから笑顔で出迎えてくださいよ」

凌統はニッと笑って室を出た。
も今回は仕方ないかと素直に諦める。周泰に嫌われたくはないから…。





「甘寧!」

「なんだよ」

先に室から出て行った甘寧を凌統は追いかけ呼び止めた。
呼び止められた甘寧は不機嫌な顔をしている。

「あんた、いったい幼平殿に何したわけ?姫様絡みって言っていたけど?」

「言うな。思い出したくもねーもん、思い出して落ちこんでだぞ」

「それが珍しいからこっちは気になるっての」

面白い玩具を見つけた。そんな感覚。
甘寧はおもいっきり口元を歪める。悪趣味だと凌統を睨みつけながら。

「まあまあ。今後の参考の為に聞いておきたいんだよ」

「…大分前によ…旦那が珍しく熱出して数日休んだだろ?」

「ん〜あったか、そんなこと?」

「あったんだよ。んで、旦那は殿や若殿に風邪で休むじゃなくて単なる休暇でいないって姫サンに伝えろって頼んだらしいんだよ。姫サンのことだからきっと見舞いに来るとか言い出すって」

甘寧は髪をかきながら当時を思い出す。
別に見舞いに行くことには普通ならば問題はない。来てくれた者にしてみれば嬉しいだろう。
だがの場合は普通じゃなかった。彼女は最近でこそ寝込むことは少なくなったが、幼い頃から病弱でちょっとした事でも発熱してしまう子だったのだ。
周泰はそれを心配し孫策たちに「休暇」でいないとだけ伝えるように頼んだのだ。
全てはのために。
凌統は甘寧の話を聞いてようやくその頃を思い出した。

「そういや、あったね。そんなことが。でも確か姫様は幼平殿の見舞いに行ったよな」

城を一人で抜け出して周泰の邸にまで行ってしまった。
結果的には心配するような出来事にはならずにすんだのだが。

「姫様の耳にどこからか入ったとか…あ、それって」

「そうだよ。俺だよ。うっかり姫サンに話しちまったんだよ。復帰した旦那がそれ知ってよ…」

随分経つ話なのに甘寧はまるで昨日の事のように深く溜め息をついた。

「幼平殿に怒られたと。どんなだったかそれはそれで見てみたいもんだね」

「ば、馬鹿!単純に怒られるだけならまだマシだ!おっさんの説教の方が何倍もいいんだぞ!」

呂蒙の説教より周泰の怒りの方が怖い?
普段大人しい人間がキレると怖いとはいうが、それとはまた違うようではある。

「旦那はさ…無言で責めるんだよ。何も言わないから怖いんだよ…しかも目は怒っているし」

「は、迫力ありそうだな」

「俺、ちょっと口滑らしただけだぜ?姫サンには同じことしねーと思うけど、俺らを巻き込むつもりなら」

「姫様よりも一緒にやらかそうとした俺たちのほうが危ないってわけだ」

それは何もしないで良かったと凌統はしみじみ思った。

「今回未遂で済んで良かったな…」

「おう」

「気分変えて飲みにでも行くか?今日は俺が奢ってやるよ」

「…へ、なんだよ気持ち悪ぃ」

「嫌ならいーんですけどね」

「行く。素直に奢られてやらぁ」

「はいはい」



姫様の野心と言えるのかは不明だが、今回は甘寧のおかげで未遂で済んだ。
幼平殿の驚いた顔が見たいなんて姫様いっていたけど、実は簡単に驚かすことできるんじゃないの?って俺的には思ったんだけど、言わなくて正解だね。
その方法?まあ単純な話だよ。姫様が幼平殿に向かって、

「幼平なんか嫌いよ」とか

「私、他に好きな人ができたの」

みたいなことを言えば簡単に崩れると思うけどねぇ…。
いや、姫様の前では見せないか。じゃあダメだな。

まあ、これで姫様も諦めてくれればいいんだけどね。




はは、無理っぽいね。








騎士様不在で、姫と舎弟たちのみです。凌統君視点ってのも珍しいかも。
甘寧が叱られたのは、「不安なある日」でのことでした。
06/06/19
12/09/02再UP