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姫と遼来々。
「え、合肥を攻めるのですか?あそこには確か…」 「おうよ。合肥の守護神って言われる奴がいるな。だが、今度は負けねぇ」 孫策は孫権に再度合肥を攻めることを提案する。 どんなに話し合おうとも、きっとこの兄は是としか言わないだろう。 結局、合肥へと兵を進めることになった。 「幼平も行くの?」 「…はい…」 「そう…気をつけてね」 「…必ずあなたのもとへ帰りますから…」 小さな姫の身体をキュッと抱きしめる周泰。 室には二人きりなので人目を気にすることはない。 以前では考えられない周泰の行動に姫、は顔を赤くするもそれが嬉しくてしょうがない。 でも、出兵してしまうのは辛い。 ちょっと兄を恨めしく思う。 「合肥には、すごい方がいるって聞いたけど」 「…張文遠…彼が守りに着いているため中々城は落とせません…」 「城下でも彼の名を聞くだけで子どもが泣き止むと聞いたけど、とても怖い顔でもしてるのかしら?」 「…怖くはないと思いますが…でも、戦場ではとても強く恐ろしい相手です…」 「幼平!その方と出会ったら逃げていいからね」 「……」 武人に逃げろとは、周泰は苦笑してしまう。 自分は孫策を守るためにいるのだからそうは行かないのに。 それ以前に武人が敵前逃亡するのは如何なものだろうか? 「幼平がその方と出会って怪我でもしたら、私は嫌だわ」 「…大丈夫です。負けはしません…」 「いざとなったら、策兄様を盾にすればいいわ、兄様なら平気だから」 「…それでは駄目なのですが…」 君主を盾にして逃げる奴がどこにいるのだろうか? でも、自分を心配してくれてることはわかるので、それ以上は何も言わなかった。 「できれば早く帰ってきて欲しいわ。幼平と城下に遊びに行きたいから」 「…必ず帰りますから…」 姫の願いは周泰も願う事だから、周泰はに約束した。 孫策たちは合肥へ向けて出兵した。 それからしばらくしての事だ。は次兄孫権を訪ねた。 「権兄様」 「なんだ、」 「合肥にはすごい武将がいると聞きましたが、策兄様たちは大丈夫でしょうか?」 珍しく戦の話をしてくる妹。 「さぁな、こればかりは私にもわからん。兄上が無茶さえしなければ大丈夫だとは思うが」 「あ〜想像つきますね…でも、幼平が着いてるので大丈夫ですわ」 「そうだな」 「…権兄様、お願いがあるのですが」 「…(嫌な予感がするぞ)」 は孫権の様子を伺いながらお願いしてみる。 「陣中見舞い行ってもよろしいですか?と言うか行きますけど」 やはりかと、孫権は肩を落とす。 行きたくてしょうがないとウズウズしている様子がわかるから。 「行ってどうするのだ?」 「兵たちの士気を挙げるためですわ」 (嘘だな…) 興味本位で行こうとしているのだと孫権は思う。 これが尚香ならば、まぁイイかと許せるのだが…は駄目だ。 身体が弱い妹を戦場なんぞに行かせられるか。 あとで孫策に知られれば怖いのだし。 「心配なさらなくても大丈夫ですわ。ちょっと行くだけですから。それに大喬義姉様も一緒ですし」 「なに!」 思わず腰が浮く孫権。 「義姉様も行きたいと言ってくださったので。いいですよね?権兄様」 「…駄目と言っても行くのだろう?」 浮かせた腰を下ろす孫権。呆れつつもため息を吐いた。 「はい、もう決めましたから」 「いつからそんなに積極的になったのだ、お前は。そんなに幼平に会いたいか?」 「はい…って!権兄様!え、な、なんで!?」 余裕ありありの顔をしていただが、兄の口からそんなこと言われるとは思わなかったらしく顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。 思わず、こんな鯉が池にいたよなぁとが思う孫権。 「まぁ、知らないのは兄上ぐらいだろうな。別に反対はしないから安心しろ」 「本当ですか?私、幼平の事好きでもいいんですか?」 は瞠目してしまう。 「別に私が反対する理由はないぞ」 「でも、尚香姉さまみたいに、どこかへ嫁ぐかもしれないじゃないですか」 「あれは…尚香は自分から劉備殿の下へ嫁いだのだ、気にするな」 そうだったのか、てっきり同盟の道具にされたのだと思っていた。 姉は自分から行ったのか。 そう言えば、いつも来る姉の手紙には悲しいとか、寂しいってことは書かれてない。 劉備と一緒で嬉しいとか楽しいなどと書かれている。 あれは強がりではなく本心だったのだ。 「だがなぁ」 「なんですか?」 「お前が向こうに行けば幼平が怒りそうだな…」 孫権の脳裏には静かに威圧してくる周泰が浮かぶ。 仮にも上官に向かってそんなことはしないだろうが…。 周泰は感じていなくても、孫権から見ると、妹を一番甘やかしているのは周泰だよな…とか思ってる。 だから、ふと。 (面白いから行かせて見ようかな…義姉上も一緒だと言うし、義姉上が兄上を黙らせてくれるだろうから) 「権兄様?」 「あぁ、すまない。行くのは許すが、周りに迷惑をかけるではないぞ?」 「はい、わかってます」 そしては大喬や護衛の者とともに合肥に向かうのであった。 *** 「陣中見舞いだぁ?誰がだよ」 「様と大喬様が…」 孫権からの急ぎの連絡が着たから、何事かと思えば。 孫策はなぜ、二人を行かせたのかと、弟に怒りたくなる。 「もうすぐ、早くて明日には到着だそうです」 「なんだよ、出発した後かよ〜それじゃあ追い返せねぇじゃねぇか」 戦場になろうとしてる場所に大事な奥さんと妹を来させたくない。 まあ、百歩譲って奥さんはそこそこ戦えるのだが…。 「おい、待てよ?の奴…建業でるの初めてじゃねぇか?」 病弱だった妹はほとんど城から出たことはない。 最近になって供をつけて城下へ行く事はあるようだが。 「あいつ、はしゃいで熱でもださねぇだろうな…あ〜くそっ!」 ガシガシと乱暴に髪を掻く孫策。 だが、それ以上に穏やかではないのは黙って彼のそばにいる周泰だ。 (…まったく、あの方は…) ここがどんな場所だが知っててくるのか? 領地内とはいえ、来る途中に何者かに襲われたらどうするのだ。 物凄く叱りたい気分だ。 「しょうがねぇな、途中まで迎えに行かせる。何があってからでは遅いからな」 「…孫策様、俺が参ります…」 「悪ぃな。頼む」 周泰は孫策に一礼し、急ぎ向かう事にした。 数名の護衛兵を連れて馬で急ぐ。 「今度はもっと穏やかな場所へ行きたいですね、」 「はい、義姉様」 「気分は悪くないですか?無理なさらず言ってくださいね」 「大丈夫ですよ。気分が悪いどころか、とても良いのですよ〜」 城を出てから終始笑顔の。 大喬とは馬車に乗り、合肥を目指していた。 もう、今日中には着くだろうと言うところまで来た。 すると、急に馬車は止まる。 「何事ですか?」 大喬が顔を出すと、見慣れた武将が数名の護衛を引きつれて待っていた。 「…大喬様…」 「まぁ、周泰殿。どうなさいましたか?」 「幼平?」 「…孫策様の命にてお迎えに上がりました…」 「それはありがとうございました。、周泰殿が迎えに来てくださいましたよ」 ほんの少しの間だが、離れていた周泰と会えて嬉しい。 だが、周泰はに顔を見せることなく騎乗し、馬車の前を行ってしまう。 「幼平〜」 面白くなさそうに口を尖らせる。 大喬は苦笑しながらをあやす。 「まぁまぁ。きっとの事が心配なのですよ」 「私のことですか?」 「私たちが向かうのは戦場ですからね、覚悟しておいた方がいいですよ。きっと孫策様に叱られてしまいますわ」 案の定、孫策に二人は叱られた。 到着した時は、笑顔で出迎えた孫策だが、それは兵士たちの目があったから。 二人が着てくれたことで兵士たちの士気が上がったのだが、のちに通された孫策の天幕で無茶しやがる!と怒られる。 「でも、権兄様がいいっておっしゃりました」 「帰ったら、あいつにも説教だな」 「孫策様、は兵士たちのことを思ってのこと、良いではありませんか。士気も上がりましたし」 「大喬〜それとこれとは」 「それに何事も起きずに済みました。用が済んだ私たちは明日にでも帰りますから」 「ん、まぁ〜そうだなぁ」 「あ、私、見て回りたいので失礼します、策兄様」 「!おい!」 は孫策の声に耳を止めず行ってしまう。 「大丈夫ですよ、には周泰殿がついてますから」 「あ、あぁ」 くすくすと笑う奥様に、がくりと肩を落とす孫策だった。 「…姫…」 「なぁに、幼平」 陣の中を周泰をつれて歩く。 兵士たちは訪れた姫の姿に皆大喜びである。 はそれに手を振って答える。 「…あまり無茶はしないでください…」 「大丈夫、無茶はしてないから」 「…体調を崩されでもしたら…」 「幼平、私は大丈夫って言ってるでしょう?どこも悪くないわ、平気」 「………」 「幼平?」 「…俺が今、どんな気持ちなのかわかりますか?…」 周泰は静かに怒っている。 心配してるからなのだろう。 でも、は無事なんだからいいではないかと頬を膨らます。 「…いつ戦いになるかもしれないのに…」 「わかっています」 「…わかっているなら、何故…」 「そんなの…幼平、わからないの?幼平に会いたかったからに決まってるでしょ」 「…姫…」 はぷいっと周泰に背を向けスタスタと歩いて行ってしまう。 『幼平に会いたかったからに決まってるでしょ』に嬉しいとは思うが。 周泰は右手で顔を覆った。 恥ずかしかったらしい…。 「………」 ってなことを数十秒間していたので、の姿が完全に視界から消えてしまった。 「…姫!…」 慌てて、が行ったと思われる方向へ入っていく周泰だった。 *** 「もう、幼平の馬鹿〜心配しすぎ〜…ってあら?」 一人ブツブツ言いながら歩いていたために、陣を抜けてしまったらしい。 「ここは、どの辺なのかしら?」 戻ろうにも、ちょっと道がわからない。 下手に動くより、いいだろうとはその場に座り込む。 周泰が迎えに来てくれるかもしれないし。 ちょうどよく、目の前には川が流れていて、気分がいいし。 「こんなに穏やかな場所なのに、戦場になってしまうのね…」 少し離れた場所には城が見える。 あれが合肥城か。 「戦なんてしなければいいのに。そうすれな幼平もずっとそばにいてくれるだろうになぁ」 軽くため息を吐いたところで、馬の近づく音がする。 周泰だろうか? いや、違う別人だ。 向こうも、に気がついたようで馬を止める。 「このようなところで何をされてるのですかな?」 「道に迷ってしまったのです」 「かような所で?ここはもうすぐ戦場になるやもしれませんのに」 「やはり戦場になるのですか?」 「なると思いますよ。向こう側に孫呉の陣が引かれてますからね」 「あの、あなたはどこかへ向かう途中だったのでは?」 に訊ねられ、その者は馬から降りる。 全身蒼き衣装を纏っている。 「私は少し見回りをしていたのですよ」 「お邪魔をしてしまいましたね」 「いえ、声をかけたのはこちらの方ですから、お隣よろしいですかな?」 「えぇ、どうぞ」 男はの隣に腰を下ろす。 「私はと申します。あなたは?」 「私は張文遠と申す」 その名を聞いては驚き声を上げた。 「まぁ!あなたが合肥の守護神様ですね!まさかお会いできるとは思いませんでしたわ」 「は?守護神?」 「何度も孫呉が攻めても、あなたがいるから城は落とす事はできない事で有名ですわ」 は目の前にいる人物が敵側の者なのに、何も畏れていないようだ。 それどころか会えて嬉しいみたいな事を言う。 「城下では、あなたの名を聞けば泣いた子どもも泣き止むと言うのですよ〜」 「はぁ」 「とても恐ろしい方だと思ってましたが、とてもお優しい目をしてますのね」 「そ、それはどうも」 とても恐ろしいって…泣いた子どもも泣き止むって…自分はどう噂されているのやら。 張遼は感じてしまったようだ。 更には、話を聞いてて気づいた、もしやこの者。 「あなたは孫呉の者か?」 「はい、そうです。あ…では敵同士ですね、どうしましょう」 と言いつつも、は困った様子もない。 何故だが毒気が抜かれてしまう張遼。 なんだかんだで二人は座り込んだまま談笑しているのだった。 「お父様のことご存知なのですか?」 「当然ですとも。あなたの父上は大変素晴らしい方でした。我が殿が認めた方なのですぞ」 家族以外から聞ける亡き父の話には喜ぶ。 「文遠様には何でも話してしまいますね」 「いえ、あなたの話が楽しいのですよ、殿」 「まぁ、お上手。幼平は無口だから、会話が弾むと言う事がないのですよね」 「幼平殿とは殿の想い人ですかな?」 「あ、あは、嫌ですわ、恥ずかしいです、文遠様」 ポッと頬を染める。 「そうのようで。羨ましいですな、このようなお美しい方に想われているとは」 頬だけでなく、顔中を赤くしてしまう。 「でも、でも、文遠様聞いてくださいますか?」 「私でよければ」 は相手が敵国の者なのに、思ってること全てをぶちまける。 その大半は、周泰への愚痴が多い。 愚痴られるようなことをしているのか?周泰はと…。 「子ども扱いばかりして、私だってもう大人なんですよ〜」 「でも、心配なのでしょうな、幼平殿は」 「さっきも、全然私の気持ちわかってくれてないし」 「男としましては戦場に大事な人を連れて行きたくないでしょうに…苦労しますな幼平殿は」 「ま!文遠様は幼平の味方をなさいますの」 「味方と言うか、一般論ですよ」 和気藹々としている所にまたも馬が近づく音が。 「…!…」 周泰はサッと馬から飛び降り、鞘に手を書かけ張遼を睨む。 「…から離れろ…」 「幼平?どうかしたの?」 は首を傾げるが、隣にいた張遼もさっきまでとは変わって表情が武人の顔をとなる。 が、それも一瞬だった。 「おや、あなたが無口で照れ屋で不器用な幼平殿でしたか」 「…な!なにを…」 「せっかく美しい姫がそばにいるのに、もったいないですな」 「嫌ですよ、文遠様」 「…文遠様?…」 「安心なされよ、姫に危害を加える気はない。私どもはお友だちなので」 「そうなの。文遠様とお友達になりました〜」 ものすごく〜心配して探したのに、それはなんだいったい。 周泰の顔は見る見るうちに不機嫌になって行く。 「…姫、お戻りください…」 「おや、もう行かれますか?よろしければ城でお食事でもどうですかな?」 「…貴様!…」 「友人を夕食に誘って何が悪いのですかな?幼平殿は怒りやすいですね。もう少しかるしうむでもお取りなさい」 だって、敵同士だろうに、自分たちは。 この男なにしれっとした顔で言うのだ。 「文遠様、お誘いは嬉しいですけど、今は戻らないと策兄様に怒られてしまいそうです」 「それは残念ですね。では孫策殿によろしくお伝えください」 「はい」 何をよろしく伝えるのだ…。 「では、殿。気をつけてお帰りくださいね、狼にはお気をつけて」 「は?狼ですか?」 「黒くてでっかいのですよ。まぁ危害は加えると思いませんがね」 意味ありげに笑う張遼を睨みつける周泰。 どうやら黒くてでかい狼とは自分のことらしい。 「では、私はこれで。またお会いしましょうね、殿」 「はーい、文遠様もお気をつけて。お手紙出しますね」 「待ってますよ〜」 と言い残し張遼は合肥城のある方へ向かっていった。 さて、周泰とだが…。 「…。手紙とはなんのことですか?…」 「文遠様と文通の約束したの」 「……」 ギュ 「痛い〜幼平!」 周泰はの頬をつねった。 「…人を心配させた罰です…」 「ごめんなさい。でも、文遠様悪い人ではなかったし」 えぇ、そうですとも悪い人ではないですね。性質の悪い人ですね、張遼は。 面白がって人をからかいまくってましたから。 「文遠様のおかげで、私の知らなかったお父様の話も聞けたのよ」 「…そうですか…」 嬉しそうに笑うに、仕方ないとため息を吐く周泰。 その後、周泰はを乗せ馬を走らせるのだが。 途中、馬の足を止める周泰。 「どうしたの?幼平」 は不思議に思って振り返る。 すると、周泰は少し力を込めてを抱きしめる。 「よ、幼平?」 「………」 そして、の顔を自分に向けさせ、周泰はに口付けた。 「…俺以外の男と仲良くした罰です…」 ちょっと笑ったかのような周泰。 再び馬を走らせるので、は周泰にしがみつくのだった。 それから、間もなくして、孫呉は合肥を攻めることなく建業へと戻った。 どうも、に張遼の話をされた孫策がやる気をなくしたらしい。 別に曹魏も攻めてくる気配がなかったので一安心だったのだが。 「あ、そうだ。文遠様にさっそく手紙をださなくてなね」 と何かを嬉しそうに彼に報告しようとしているの姿があった。 だが、建業につくやいなや、熱を出して寝込むだった。 「だから、言ったじゃねーか、はしゃいで熱出すってよ」 珍しく、くどくどと孫策に説教されてしまうのあった。 アンケで、周泰君の好敵手には?的なことをやった結果、遼さんだったそうなw
ま…この男に口で勝てる相手はまずいないと思います。
姫との関係に気付いていないのは策のみですね。この時点では甘寧などもそうですが。
04/02/08
12/09/02再UP
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