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姫と騎士様。
『ようへい、約束ね。次も一緒にここへ来てよね』 『…はい、約束します…姫…』 大きい指と小さい指で指切りしたあの頃…でも今は。 周泰が幼き姫と出会ったのはまだ彼が孫策に仕え始めた頃。 なぜかはよくわからないが、この姫に懐かれ、姫の護衛役に任ぜられた。 数年は一緒にいることも多かったのだが、戦などに出る機会が増え今では孫権付きになってる。 現在、その姫は綺麗な女性になろうとしていた。 「…ん?…」 周泰が王宮内を移動している時に、何やら女官たちが騒いでいる。 「姫さまーー」 「いましたか?」 「いいえ、まったく姿が見えないすわ」 「姫様どこですか〜」 姫の名は。 孫堅の末娘である。 今現在、孫呉の君主は長男孫策。 次男孫権は兄を補佐しているし、すぐ上の姉の尚香は先日、同盟国となった蜀の劉備のもとへ嫁いだ。 どうやら、女官たちが探しているのはそののようだ。 周泰は女官の一人に声をかける。 「…どうかしたのか?…」 「あぁ、周泰様。実は様の姿が先ほどから見えないのです」 「…姫が?…」 「皆で探しているのですが、中々見つからず」 「…そうか、俺も探そう…」 「お願いしたいします」 今日は城内全体が騒がしかった。 姫一人がいないだけで騒ぐにしては騒ぎすぎ。 それもそのはず、今日はの16歳の誕生日だった。 城内はお祝いムード一色だったのだ。 その前に今日の主役であるを探さなくてはならない。 「…以前にもあったな、こんなことが…」 は少し身体が弱く、興奮すると熱を出すと言う事が多々あった。 なので、ほとんど城外に出ると言う事がなく。 いつの頃からか、城内での生活に飽き始めていたのだ。 そんな時、周泰にも黙っては一人で城を抜け出そうとした。 のだが…。 はこっそり城の裏手に回った。 以前、孫策から教えてもらった秘密の抜け道があるのだ。 そこへ行こうとした時、周泰に見つかった。 『…姫、どこに行かれますか…』 『よ、ようへい…見つかっちゃった』 口元を小さな手で隠す。 『…室へお戻りください…』 『いやよ。そとであそびたいもん』 は唇を尖らせ反抗する。 『…駄目です…』 『ようへいの意地悪…』 『…姫…』 きつく叱ったわけでもないのに、は今にも泣きそうな顔をしていた。 思えば、当時同じ年頃の子どもと遊ぶと言う機会がまったくないには外の世界と言うのは憧れなのだろう。 『…姫…』 周泰はを抱き上げる。 『…少しだけですよ…』 『うん!』 を抱き上げたまま周泰は秘密の抜け道を使って外へ出た。 少し歩くと、小高い丘につく。 そこから見下ろせる街の風景には感嘆の声を上げる。 周泰がを抱いているので、さらににはいつもの数倍も高く見える。 『すごい、すごいね、ようへい』 『…はい…』 『うわぁ、うわぁ〜これが父様がまもる国なのね』 はしゃぐに周泰は心配するも、その笑顔に文句が出るはずもなかったのだった。 「…あそこか…」 周泰はがいるだろうと思われるあの場所へと向かった。 あの日以来、は黙って城を抜け出そうとはしなかったのだが、過去に数回だけ、一人でそこへ行く事があった。 父、孫堅が亡くなった時だ。 数年前、刺客に襲われ亡くなった孫堅。 の事をいつも心配し可愛がってくれた父。 あの時、誰もがの身体を心配した。 倒れてしまうのでは?誰もがそう思った。 でも実際は兄たちと同様に気丈に振る舞い、涙一つ周囲には見せなかった。 でも、後日、はあの場所で一人で泣いていたのだ。 何か悲しい事や辛い事があると、こっそり一人で過ごす場所。 それがあの丘だった。 多分、今日もそこだろうと周泰は狙いをつける。 案の定、丘に近づいた時、の姿を見つけた。 「…姫…」 「幼平」 は振り向く。 幼かった姫は今では、淑やかな姫になっていた。 いつ、輿入れが決まっても可笑しくないほどに。 「…城にお戻りください。皆、あなたを探しておられます…」 「嫌よ。外で遊びたいもん」 「…姫?…」 どこかで聞いたような台詞。 はわざと子供のような物言いをした。 「うふふ。なんかあの時の事思い出しちゃった。私ってば泣きそうになったのよね」 「…そうでした…」 「幼平が抱っこしてくれて。外へ、ここへ連れて来てくれた」 昔を懐かしむ。周泰も懐かしく感じた。 あれはまるで昨日のような、つい最近のような出来事みたいに。 「………」 「ね、幼平。今日は何の日?」 「…姫の誕生日です…」 「そう、もう16よ。でね、幼平から欲しいものあるの」 少し頬が赤らむ。 「…なんでしょう?…」 「名前で呼んで欲しいな」 「…名前、ですか?…」 「そう、名前。いつも私のこと『姫』って呼ぶでしょ?兄様たちには名前で呼ぶのに」 確かに、の事を名前で呼んだ事がなった。 でも、それを誕生日に欲しがるなんて。 「…姫…」 「姫はいらない」 「…様…」 「様もいらない!」 「…そ、それは…」 周泰は躊躇してしまう。 だって、それは、つまり…。 「幼平に一人の女性として見てもらいたいの…だってもう16よ」 「…姫…」 「姫って言った!名前で呼んでくれなきゃ嫌よ。ここ動かないし、城にも帰らないから」 大人びてきたと思っても、言葉の中身はまだ子どもな気がする。 実際、周泰にしてみればはまだまだ子どもで、今は彼女の兄に仕えているのだ。 主君の妹にそんな事言えるはずもない。 「…姫…」 「幼平の馬鹿!」 「…姫…」 「もう!幼平なんか嫌い」 は腹を立て、周泰に背を向け座り込んでしまう。 (もう!ずっと、ずっと想っていたのに) 幼い頃、周りにいる大人たちの中で、周泰に惹かれた。 無口で怖い人だと最初は思ったけど、実際はそんな風ではなくて。 子どもの相手など嫌だろうと自分は思うが、周泰は嫌な顔せず自分と接してくれた。 それがいつの間にか、恋心に変わったのだ。 今では兄の孫権の直接の配下となって戦場へ行ってしまう周泰。 周泰が自分から離れた時は嫌だと言いたかった。 でも我慢して、周泰に一人の女性として見てもらえるように成長しようと頑張ったのだ。 やはり、駄目か。 自分は主君の妹で姫なのか。 「…しょうがない方だ、あなたは…」 周泰はひょいっとを抱き上げる。 あの頃とは違う抱き上げかた。 お姫様だっこだ。 「よ、幼平!?」 「……」 「幼平…」 「…これで良いですか?…」 「なんか適当っぽくって嫌ぁ〜酷い、幼平」 困った姫だと、思う。 でもその我が侭もできるならば、叶えてあげたいとは思う。 自分にとってもこの姫は一番大切な人なのだから。 「…、皆がいる前ではそうは呼びませんから…」 それでもいいと、の顔は晴れる。 嬉しくて周泰に抱きついてしまう。 「うん、今はそれでいいもん」 「…はぁ…」 「幼平、嫌いじゃないからね」 「…姫…」 「もう!姫じゃないでしょ」 「…。誕生日おめでとうございます…」 「ありがとう。幼平に一番最初に言ってもらえて嬉しいわ」 この日、姫の誕生を国中で盛大に祝ったそうだ。 姫が終始笑顔でいたのは、誕生日ってだけではないだろう。 そばに無口な騎士様がいたのだから。 元々リクだったものです。
私の中で周泰君は騎士のイメージが強かったので、こんなタイトルに話になりました。
03/01/21
12/09/02再UP
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