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片言隻句
【それから】 「ふっ、小父上も中々侮れないな…」 曹丕が私室にて甄姫と司馬懿を交えて茶を飲んでいた。 話のネタは、先日の隻眼の猛将軍の告白劇についてだ。 「私もできたらその場にいたかったですわ」 「夏侯惇殿もかなり派手にやらかしたようで」 「しかし先日のは少し焦ったな…仲達から聞いていた話と違っていたからな」 その所為で、夏侯惇はとの事をくだらないと一蹴したのだから。 「まぁ、司馬懿殿でしたの?噂の元は」 甄姫は驚き、司馬懿はバツが悪そうに眉間にしわを寄せる。 「あれは、私も聞いた話で……妹が色々聞かせてくるのですよ」 「あら、司馬懿殿にも妹がいますの?」 「えぇ、煩いのが一人。誰かあやつを貰ってくれまいかと思っておりますよ」 「小父上は残念ながら売約済みだぞ」 司馬懿にも年頃の妹がいるとのこと。 しかもその妹は夏侯惇とのことを詳しく知っている。 「私、その妹さんにお会いしてみたいですわ。年はおいくつですの?」 「ほとんど殿と変わらぬかと…名は鳳花と申します」 「そうですの。ぜひ、一度お連れ下さいな」 ニッコリと笑む甄姫に司馬懿は軽く頭を下げた。 *** 「あら、文遠様。珍しいところでお会いしますね」 「杏沙殿…あぁそうですな、私は滅多にこのような店には来ませんからな」 と言うのも、張遼はの所為で巻き込まれたという店に謝罪に来ていた。 杏沙は客として来ていた様だ。 後になって騒動を聞かされた張遼は胃が痛くなる思いだった。 店に出た被害だ、馬車の荷の被害だと。しかもは怪我をしたというし。 夏侯惇が修繕費を全て出すと言ったが、張遼も保護者としてそうはいかないと申し出た。 だが、夏侯惇が全て出してしまった後だったので、仕方なく店の方を訪れたのだが。 その店は女性の装飾品を扱う店だった。 品物もいくつか駄目になったとかで、請求額がどのくらいか気になったのが。 店側も別に気にするなと言ってくれた。 「まったくにはいつも驚かされますよ」 「うふふ。本当ですわね。でも怪我も大したことなくて良かったではありませんか」 「そうなのですがね…」 「文遠様はやはり面白くないご様子ですわね」 「な、何を言われるか杏沙殿」 面白くないと言うのは、夏侯惇とのことだろう。 だが、張遼は最初からを夏侯惇にって思っていたから別に嫌だとか思っていない。 「大事な妹が離れてしまうのが寂しいのではありませんか?」 「杏沙殿。私はそのようなこと思っておりませぬよ。最初から夏侯惇殿にと薦めていたのですから」 「うふふ。そう言うことにしておきますね」 面白そうに笑う杏沙に張遼は微苦笑する。 別に責任などとは思っていないが、保護者としては今回の騒動で二人がまとまってくれた事に関しては嬉しい。 これで、呂布たちも多少は心配せずに眠ってくれているだろうなと思う。 あと気にかかることと言えば貂蝉の行方だが…。 いや、これは無理に探すのはやめよう。 彼女の意志で自分の前にはともかくの前には姿を現さないのかもしれない。 きっとどこかで静かに舞っているだろう。 そう願う。 「文遠様?」 「あ、少し考え事を」 「やはりが気になるのですか?」 「違いますよ…そうだ、杏沙殿」 「はい?」 「よろしければ何か差し上げましょう。どれか一つお選びください」 「え!?」 張遼の突然の申し出に杏沙の頬が少し赤くなる。 「こちらの店の修繕費を私が払うと申したのですが、夏侯惇殿が頑として受けてくれなくて。でも店側にも申し訳がないので謝罪に来ていたのですよ。その詫びもこめてなのですが 何か買っていこうかと。はこういう物には興味がない子ですからねぇ」 「わ、私などで良いのですか?」 「えぇ、勿論ですとも」 「ですが…文遠様ならば他に差し上げたい方がおられるのでは?」 「いませんよ、残念ながらね。さぁ、杏沙殿、どれが良いですかな?」 今の所、張遼にはそういう相手がいないらしい。 自分はまだその対象にすら選ばれていないのかもしれないが、まぁここは素直に受け取ろう。 やはり好きな相手から贈り物をされると言うのは嬉しいものだし。 「この腕輪でもいいですか?」 杏沙は桃色の石の入った金の腕輪を指差した。 張遼は笑ってそれを店主に頼んで包んでもらう。 「あ、は今も静養中ですか?」 「えぇ、思ったより酷く足を捻ったようで。ただ寝てるのは厭きたと煩くて…」 「では、後でお邪魔しても良いですか?お菓子でも買って持っていこうかと」 「お願いしますよ。杏沙殿が来て下さればも喜ぶでしょう」 二人は店を出て菓子屋へと向かった。 が喜びそうなお土産を手にして屋敷へと戻るのだ。 *** 堅物とも言われていた従兄弟の仕出かしたことを曹操は思い出してはニヤニヤと笑っていた。 それをそばにいた夏侯淵はゲンナリした表情を見せる。 「殿…その顔止めましょうよ」 「むっ、何を言うか無礼な」 「ですがねぇ…」 街中で噂になっているのだ、さらに曹丕たちの耳にも入るくらいだ。 曹操の耳にも入るのが必然と言うわけで。 どのような様子だったのかとかを根掘り葉掘り調べさせたらしい。 「元譲もやるのぅ…相手は張遼の妹のか。うーむ」 「なんですか?」 「元譲には勿体無いと思ってな」 それは、曹丕が甄姫を娶った時と同じではないのか?夏侯淵はそう思う。 「もしかして、殿…のこと」 「駄目か?欲しかったのぅ…あんな威勢のいい女子は嫌いではないしな」 「やっぱり…」 わかりやすい君主の考えに夏侯淵は肩を落とす。 そして、間違いが起きないように、このことはこっそり従兄弟に教えようと誓う。 「元譲がどんな顔をして言ったのかと思うと想像するの面白くないか?」 「うっ…それは少しは、思いますけどねぇ」 公衆の面前だったし。 同じようにもすごいと思うが、そこは男女の差? 恋愛ごとに関しちゃ女子の力はすごいと言うことだろう。 「よし、わしが二人の婚儀をしきってやろう!」 「や、やめましょうよ。しかも早いですって〜」 「んな事はない!善は急げだ!」 「また勝手なことを…張遼殿が取り仕切るならまだしも」 「いーや、わしがやるぞ。きっと張遼はその日は男泣きをして大変だろうからな」 「それ関係ないっすよ、絶対…」 最早何を言っても駄目らしい。 これは夏侯惇本人じゃないと無理だな…いや、彼でも押し切られてしまうかもしれない。 (惇兄は押しに弱いよなぁ…) 「所で妙才よ」 「はい」 「その元譲はどこへ行った?」 「あ。惇兄は…」 素直に言おうか言うまいか、夏侯淵は迷ってしまう。 だが、言わなくてもきっとこの人にはお見通しのような気もする。 とりあえず、夏侯淵は笑って誤魔化した。 *** は庭に面した部屋で足を放りだして座っていた。 足をぶらぶらさせながら、留守番はつまらないと呟きながら。 「はー暇、ヒーマー。兄上も出かけちゃうし、杏沙も来る気配ないし」 今日は非番だと言っていた張遼。 だが少し出かけると言ったまま中々帰ってこない。 もうすぐ昼餉だから、待てば帰ってくるだろうと思うが。 の足の怪我は捻挫だった。 だが、歩けないほどだったので絶対安静を言い渡されてしまった。 でも病気でもないのでジッとしているのが苦痛となってしまっている。 「ひま、ひま、ひーまー」 駄々っ子ののように手足をばたつかせる。 そこに夏侯惇があらわれる。 「何をしておる、阿呆が」 「あ、惇だ、とーんー」 入り口からではなく、庭の方から回ってきたようだ。 その呼ばれ方に夏侯惇は眉を顰める。 「なんか馬鹿にされているようだな…」 「そんなことないよ〜来てくれたんだ、ありがとう」 喜ぶに夏侯惇は軽く笑う。 「大人しくしていそうにないからな」 「あはは、半分当たってるね」 「半分か?」 夏侯惇はそのままの隣へと腰を下ろす。 「張遼はどうした?」 「用があるってでかけちゃった」 「そうか」 「なに?私じゃなくて兄上に用事?それは寂しいぞ」 「さぁ、どちらだろうな」 「意地悪だー…あのさ」 「なんだ?」 は夏侯惇の顔を覗きこむ。 「おんぶして欲しいのですが」 「は?」 「お・ん・ぶ」 何故だと、面倒臭そうな顔をする夏侯惇。 「あのね、あの木の花が近くで見たいから」 が指差した方に白い花をつけた木が植えられていた。 確かに近くで見たいと思えるほど見事に咲いているし、甘い香りもする。 「しょうがないな、いいぞ」 「やった!」 は夏侯惇の背におぶさる。 元々夏侯惇の方が背が高いので自分の目線の倍近くになってなんか新鮮である。 「あはは、高い、高い〜」 「まったく、子どもか、お前は…」 夏侯惇は木のそばまで近づく。 は手を伸ばして花に触れようとするが届かない。 「うーん、まだ足りないかぁ」 「おんぶで良かったのか?抱き上げた方が俺としては嬉しいのだが」 「え、なんで?」 「背にいてはの顔が見えん」 そう言われて、は恥ずかしくなりそのまま夏侯惇に抱きついてしまう。 「どうした?」 「恥ずかしいから、でも嬉しい」 「そうか」 少しだが、拒絶ってほどではないが、距離をとった分を取り戻そうとしているか 夏侯惇は以前では想像できないようなことを素で言う。 態度だけでなく言葉でも示してくれるのでは嬉しいのだが。 早く怪我を治したいと思う。 そうすれば、屋敷の中だけなく、色々な場所にも行けるだろうにと。 「」 「なに?」 「……すぐには…俺のところに来る気はないか」 「すぐ…うーん。今すぐってのは」 「いや、いい」 曹丕の話で嫁にどうだ?ってことだろう。 あの時はくだらないと一蹴してしまったのだが。 は嫌じゃないと言ってくれていたし。 「もう少し兄上と一緒にいたいかな?」 「そうか」 「急に私がいなくなったら泣いちゃうかも〜」 「くっ、そのような玉か?アイツは」 「わかんないよ〜?」 最初から自分にをと薦めてきた張遼。 流石に泣きはしないと思うが。 が事故を起こしました、怪我しました、店壊しました〜などの報告を受けたときの彼の顔はすごかった。 の怪我も心配はしたが、壊したものについて引きつっていたのだから。 「せめて兄上にお嫁さんが来るまでかな〜」 「それは長いこと待たされそうだな」 「どうかな?案外あっさりと早く貰うかもよ?」 「では、そうであることを願うとするか」 「あはは、そうしてください」 はもう一度ギュッと力を込める。 「どうした?」 「すぐに惇のお嫁さんになるのが嫌ってわけじゃないからね?」 「わかっておる。気にするな」 なんとなく、二人からは笑い声が出ていた。 のどかな時間。 「おやおや、お邪魔でしたかな?」 そこへ先ほどの話の人物が姿を現し二人はさらに笑い出す。 「なんですか、いったい……」 「文遠様。お邪魔のようでしたら、これはいらないのでは?」 「杏沙〜!」 ひょこっと張遼の後ろから顔を出す杏沙。 手にはお土産の菓子を持っている。 「そうですな、きっといらぬでしょう。なにやら私を餌にして楽しんでいるようですし」 張遼は杏沙の肩を抱きくるりと背を向ける。 「せっかくですのであちらで頂くとしましょう。いやぁ、とても美味しいのですがね、残念だ」 杏沙は顔を赤くしながらも楽しそうに笑う。 「えぇ、そうですわね。今日は珍しく限定品も手に入りましたし」 「なによ!二人だけでするい〜惇、早く、中、中入ろう!二人にとられちゃう」 「なんだ、色気より食い気か、しょうがない」 夏侯惇は呆れながらも歩き出す。 まだ当分はこんな感じでもいいのかもしれない。 最初が最悪とも思える出会いで、色々あったのだから…。 片言隻句 ほんの一言。短いことば。 その後のみんなはこんな感じ。
本当は貂蝉の事をちゃんとしたかったのだけど、書ききれなくて残念でした。
05/04/21
12/08/26再UP
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