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「今夜絶対帰って来いよ。いいか、絶対だぞ。絶対!」 修兵に何度も念を押された。 なんで、今夜?とは小首を傾げた。 ひとまず、今日は通常勤務。 思い当たる雑務もないので夜は実家に帰ることにした。 だが、念のために上司にその旨を伝えた。 【二人だけの秘密と言ったね。】 「あぁ。別にかまわないよ。なんの心配もいらないからね」 「………」 ニコニコ笑顔の浮竹には眉を顰める。 「浮竹隊長。何か企んでいませんか?」 「おいおい。酷いなぁ君。そんな事を言われるとシロさんは拗ねてしまうよ?」 十三番隊の隊士となって慣れてきたこの頃。 一応十三席の位置は守っている。 だが最近、副隊長でもないのに、古株でもないのに。 隊長である浮竹のお世話係に任命されてしまった。 十三番隊隊士となってからは、浮竹に対し以前とは違う態度で接しようと決めていたのに。 向こうはいつもの「シロさん」の顔で話かけてくる。 おかげで緊張感が少し削られる。 「ん?どうかしたかい?君」 「あの…先輩たちには名前で呼んでくれとこちらから、頼みはしましたが。隊長には名字で呼ばれた方がいいと思うんですけど…」 「そうかい?けど、檜佐木君って呼ぶと、君のお父さんとかぶってしまうしねぇ」 元々名字で呼ばれるのは嫌ななので、そう言われると反論できない。 「とにかく、今夜は実家でゆっくり過ごすといいよ」 「…そうさせていただきます」 「あ。その代わり」 「はい?」 退出しようとしたを浮竹は呼び止める。 「おはぎ。沢山作っておいてくれよ。今日はおはぎが食べたいんだ」 「わかりました」 どうやら浮竹のお世話係に任命されたのは、の料理の腕前を買われてのことらしい。 「それで。熱心におはぎを作っているのかよ」 「あぁ」 長年やってきたことなので、苦もなくせっせとおはぎを拵える。 様子を見に来たと一護がそばにいる。 ルキアも手伝おうかと言って居てくれているが。 「浮竹隊長はおはぎが好物なんだ。中でも最近は殿のおはぎが一番いいらしい」 「へぇ…けど、作りすぎじゃねぇの?」 浮竹一人が食べる分には多すぎる。 「ん?あぁ。どうせ他の人も便乗して食うだろうし、多めに作って損はない」 後は少しだけでも実家に持って帰ろうと思ったのだ。 「けどなぁ。俺としては…いいのかなぁって思うわけで」 「なにが?」 「シロさ…浮竹隊長のお世話をしたがっている人たちが沢山いるんだよ。下っ端にやらせていいのか?普通…」 それを聞いてルキアが笑った。 「案ずることはない。全会一致で殿にと決まったのだ」 「は?なんすか、それ…」 「浮竹隊長はな。普段からあのような方だから、我々では強く言えぬのだ」 「?」 大人ではあるが、子どものような部分を持ち合わせていると言うか。 薬を飲むのを嫌がる事があり、それを飲ませるには相当大変らしい。 それが相手だと、ビシッと平気で言えてしまうので面倒な事をに任せた方がいいように思えたのだ。 「……本当のお世話係じゃん」 「普段檜佐木さん相手に強気だもんな。それと同じってことか」 「あぁ。殿は死神になる前からの付き合いだろう?」 「でもさ。他の人たちは俺がガキの頃から死神で」 ルキアは少し困惑する。 恐らく重ねてしまっているのだ、副隊長だったあの男に。 彼とは別に容姿や性格は似ていない。 似ていないが。なんとなくまとうものが似ているのだ。 「気にするな。殿がそう言う性格だから、我々も安心できるんだ」 この子ならば隊長の相手を任せられると。 「なんか…十三番隊に入ってから、シロさんを見る目変るかも」 思わず昔のように呟いてしまった。 昔は頼れる(勿論今でも頼っているが)大人の浮竹なのだが。 意外な一面をちょくちょく見るようになったから。 (他の隊長もそんなものなのか?) *** 夕方実家に帰宅した。 「「おかえりー!!」」 出迎えてくれた弟妹がの足に抱きついた。 「ただいま」 最近になってようやく「ただいま」と素直に言えるような気がする。 「あ。可愛いじゃん。浴衣着てどうした?」 珍しいとは思った。 真萩は白地に青のガラ。撫子はピンク地の女の子らしい浴衣を着ていた。 「「たなばただからー!」」 「七夕…?あぁ、今日だったんだ…」 頭を掻きながらふうんと頷いた。 けど、七夕だからなぜ浴衣を? 「お帰りなさい、君」 も前掛けで手を拭きながらやってきた。 「ただいま。姉ちゃん。あ。姉ちゃんも浴衣だ」 「もちろん君の分もあるわよ」 「は?」 早く上がってと言われる。弟妹たちからも早くしろと後ろから押される。 昼間作ったおはぎを土産だと手渡し、居間で座り込もうとしたのだが。 おはぎを手渡した後、すぐさま風呂場へ直行させられた。 先に風呂に入ってきてくれと言われて。 なんだと思う間もなく、言われたとおりに動いてしまう。 そして、風呂から上がると、着替えとして浴衣が用意されていた。 「……マジで?」 の分もあると言っていたが。 白地の雲のような柄のものだった。 「七夕で、浴衣ってなんなわけ?」 「今日は家族で七夕をしましょうって修兵さんが」 修兵の分もちゃんと浴衣はあるそうだ。 「あの野郎…それで絶対帰って来い。かよ…」 「忙しかった?」 「あ、いや…特にそう言うわけじゃ。シロさん…浮竹隊長にも了解を得ているし」 快く出してくれたのも、修兵から浮竹に話が行っていたからだろう。 夕食を食べる頃には修兵も帰宅し、やはりと言うか彼も浴衣姿になっていた。 紺地の浴衣で、家族分一式揃えたのかと思うとなんとなく笑える。 いや、笑えないのかもしれない。 この分だと、以前言っていた、半纏を家族分用意し隊舎に届けてきそうだから。 「七夕だからって、何をするってわけでもないだろ?単に縁側で涼むだけじゃん」 「そう言うなって。いいだろ?家族で過ごすってのは」 縁側で修兵と並んで座っていた。 親子で酒を飲む日が来るとは。 まぁ言うほどは飲めるわけではないので、軽くだ。 と弟妹たちはその庭先で修兵が買ってきた手持ち花火で遊んでいる。 「なぁ。なんで急にこんな事やろうと思ったんだ?」 「ん?何でって程でもないんだが…そうだな。カレンダーを見て何気なくやろうって思ったんだ」 数日前、執務の合間に目に入ったカレンダー。 もうすぐ七夕なのかと思ったら、急にわくわくしてきたそうだ。 「ガキかよ」 「はははっ。思い出したって理由もあるんだ」 「思い出した?」 「お前がガキの頃。阿散井や乱菊さんたちと一緒に飲んで騒いだだろ?あれをさ」 言われて、そんな事があったなと思い出す。 乱菊が提案者で、「今年は修兵んちで飲むわよー!」などと言って仲間たちを集めて騒いだ。 七夕なんか関係ないよな。と思うも乱菊は「星を見ながらってのがいいのよ」などと言って。 乱菊に言われた恋次は六番隊隊舎裏から笹を取ってきて、柱に括りつけた。 そこへやちるが沢山の短冊やら飾りを持ってきて飾ったものだ。 笹飾りがあるだけでも七夕と言う雰囲気であったが、子どものから見てただの飲み会だと言う印象しか残らなかった。 「あったけどさ〜」 恐らく今頃もどこかで彼らは騒いでいるのではないだろうか? あの時は柱に括りつけられた笹飾りであったが、今年はちゃんと庭先に立てられている。 飾りもと子どもたちで飾ったのだろう。 「ほれ。お前の分の短冊」 修兵はスッと短冊を出した。 「は?なんで」 「願い事書けよ」 「いいよ…どうせ明日には撤去するんだろ?それに書くことねぇし」 夢のない奴だ。修兵に軽く頭を小突かれた。 「昔は素直に願い事を書いていたのになぁ」 「……は?」 修兵はニヤニヤと笑っている。 懐からチラリと一枚の短冊を修兵は覗かせた。 「シロさんから貰った。心から願えば叶う短冊だっけ?」 「………あ」 少々色褪せているそれを見ての顔が見る見るうちに赤くなっていく。 「な、んで…修兵がそれ…」 返せと言わんばかりには手を伸ばすも、修兵がすぐにしまいこんでしまった。 「可愛いお願い事だよな〜」 「う、うるさい!あ、あ、あれは…ガキの頃だからであって」 修兵はの髪をくしゃりと撫でる。 「そんなの短冊なんぞに願わなくても、叶うに決まってんだろ」 「いや、だから…それは…」 浮竹に。まだ浮竹もが修兵の養子だとは知らなかった頃。 「本当に心から願えば叶う短冊だよ」と浮竹がくれたものだ。 当時は周囲にもその関係は黙っていた。 しかも、修兵の邪魔になりたくないなどの理由で本音を隠して。 家族を亡くしたにとって、修兵が次を繋いでくれた人であり新しい家族。 流魂街ではなく瀞霊廷という華やかな場所で暮らせるだけでも夢のようだったから。 願う事などこれと言ってなく…それでも、できれば…と短冊に書いたのだ。 だが、あの短冊は飾りを片付ける時なくなっていた。 が一人で四苦八苦しながら飾ったのに。 「俺、なくなったと思っていたんだけど…」 書いた願い事を誰にも見られたくなくて。 子どもだった事もあり、もしかして本当に願いを叶えてくれたの?とまで思ってしまった。 だが、今修兵がそれを持っている。 願い事を修兵に見られたと思うと恥かしくて顔から火が出そうだ。 「たまたま、俺の前に落ちてきたんだよ」 ヒラリヒラリと舞い落ちてきた短冊。 が書いたものだなと何気なく拾った修兵。 そこに書かれていたのは。 「おとーさんとずっと一緒がいい」 修兵がその願い事を口にした。 「お前は、心からそれを願ってくれたんだろ?」 「………」 バラされてしまった事で、は修兵から顔を背ける。 ムッと唇を尖らせて。 「願わなくても、ずっと一緒だっての」 「…そんなのわかんねぇだろ…」 「一緒に住んでなくても、お前は俺の大事な息子だよ」 だが一時期心は離れてしまった。 家族から疎遠になってしまった。 修兵自身も非があったことは自覚している。 そうさせてしまったのは自分だと。 だから、やっぱり…がそう願ってくれたのは今でも嬉しく思うのだ。 「叶ってないって思うか?これ」 「………」 「それとも。お父さんのそばには自分以外の人がいるのが気に食わないか?」 「修兵。俺、今はもうそんな事思ってない」 「だったら。叶っているんだろうな」 修兵はすらすらとその短冊に何かを書き加える。 「これで良し!」 ほら。とに見せる修兵。 短冊には。 「家族みんなと」 と言う言葉が付け加えられていた。 「俺はお前も大事だし、も、真萩も、撫子も皆大事なんだ。だから、これから先はこれを願う。どんなに離れた場所に居ようが俺達は家族なんだからな」 あの頃と少しも修兵は変わらない。 親馬鹿度は少々上がったかもしれないが。 ニッと自分に向けて笑う顔は勿論。 を大事な息子だと言ってくれる点など…。 「けど、これは暫くは秘密にしとくか」 父子二人だけの頃の思い出でもあるから。 大事な奥さん達には悪いが、父子だけの秘密だ。 「いつか話してやればいいだろう。そうだなぁ〜に嫁さんが来た時とかな」 「お、俺に嫁って…」 「どんな子を紹介してくれるのか楽しみだな〜」 「バ、バッカじゃねぇの…俺死神としてまだまだ未熟で大変なのに…」 結婚などまだまだ先の話だ。 大体多くの先輩達が未婚だと言うのに。 これは死神の長寿であることが急がせない原因に繋がっていると思う。 「特に最近は、浮竹隊長の飯まで作ってんだぞ」 「それ、聞いたぞ。浮竹隊長ずるいよなー人の息子なんだと思ってんだよー嫁か?嫁と思ってんのか?」 「なわけないだろうが」 「よし。今度九番隊にも出前してもらうかな」 それがいいと修兵が笑う。 「冗談じゃねぇよ。俺は死神であって、料理人じゃねぇっての」 だけど。 「言えば作りに帰ってきてやるよ。時間が合えばの話だけどな」 それだけで修兵には充分だ。 「そうか。も喜ぶぞ」 だから今夜は昼間作ったおはぎで我慢して欲しい。 酒におはぎがあうかは微妙だが。 「ぼくのねがいごと」の続きみたいな話。息子君は浮竹さんのお世話係が定着ですw
09/07/07UP
12/07/16再UP
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