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それは、俺が修兵と出会ったばかりの…。 修兵に拾われ一緒に生活をし始めたころの話だ。 【初めてのお使い。】 家族を虚に殺され、一人になったを修兵が保護し引き取った。 隊長である東仙にはと出会った経緯、そして引き取る旨を伝えた。 東仙は少しだけ悲しみをにじませた笑みを向けて「大切にしてあげるんだよ」などと言った。 後にして思えば、の家族を殺した虚を作り出した一件に、東仙が関わっていたのに彼はどんな気持ちでそんな言葉を修兵に向けたのだろうと思う。 「正義」己の信じる正義を貫く為に戦っていたはずなのに。 子どもの家族を奪うようなものを平気で作りだしたことなどに、彼の正義はいったいどこにあるのだろう。 その話はまた別ものだろう。 を引き取ったのはいいものの、修兵は当時隊舎住まいだった。 そこへ子ども一人を連れていくのもなんだか気が引けたので、新たに一軒家を買った。 副隊長ともなれば、家を持つことは問題ではない。 ただ一括払いではなくローンを組んだ。 毎月の給料を早くに使い果たしてしまうからだ。そして後輩にたかる。 貯金と呼べるものは家を買うほどない。 副隊長でなかったらローンで家を購入など無理だったろうなとひしひしと感じた。 2階建ての一軒家。 二人で住むには十分すぎる広さだ。 「って言っても…ほとんど部屋の隅にいるよなー」 修兵は頭を掻く。 仕事が忙しく、一緒にご飯を食べると言っても、買ってきた弁当を用意してあげることしかできない。 話しかけても、はあまりいい反応を示さない。 それは当然だろう。家族を亡くしたことを、しかもその原因が自分だと言うのを知ってしまえば。 引きこもるのも当然だろうと。 だが、このままではいけないと修兵は思っている。 なんとかしなくては。そう思っても中々いい案は浮かばない。 今忙しいのは、ちょうど編集作業中の瀞霊廷通信の締め切りが間近だったから。 「なぁ。お前…の好きなものってなんだ?」 修兵はに聞いてみる。 は硬い表情のまま困った。 「……と、特にないです……」 「ないのか?なんでも良いんだぞ」 「……なんでもと言われても……」 そう答えるのが精一杯。 でも、友だちでもある家族とおやつを食べた時間は、とても楽しかった。 あの頃は空腹を感じることがすごく嫌で。 自分だけ皆と違うのだという気になって、嫌われてしまったらなどと。 だけど、そんなことはなくて。 一緒に食べることが楽しかった。 中でも。 「……あ、甘いものは……食べると嬉しかった…です……」 「甘いものか!?そっか。わかった」 それだけでも聞けたのが、わかったのが修兵には嬉しかった。 だから、翌日帰宅した時に、うさぎを模った饅頭を買ってきた。 すぐに打ち解けるわけではないが、修兵と一緒に饅頭を食べた。 誰かと一緒に食べるというのは、少なからず傷ついた少年の心を癒すきっかけにはなったのだろう。 沢山ではないが、少しずつ。少しずつ。は修兵に心を開き始めたのだった。 甘いものが好きだといったに、修兵は毎日可能ならばと土産として菓子を買ってくるようになった。 「流石に…なんか悪いよなぁ…」 一人で留守番をしながら、そんなことを思った。 この家には修兵とだけ。 修兵は日中仕事で不在。朝仕事に出る前と、帰宅後にの世話をしてくれる。 自分だって大変だろうにと思う。 基本自分でやることはやってきただから、それがなんか申し訳なく感じる。 だから、言ってみた。修兵に。 仕事に向かう修兵に向かって、いつもは見送りもしないでいたのに。 その日は少しだけ、勇気を出して。 「おぅ。どうした、」 「……あの……」 「ん?」 なんだ?とに顔を向ける修兵の顔がやけに優しい。 だから、なんとなく言い出しにくいものはある。 「ご飯…今日の夕飯。お弁当いらない…です、から」 「へ?メシいらねぇってなんで?」 「俺が……ようい…………い、いってらっしゃい!!」 最後までなんだか言えなくて。は奥へ引っ込んでしまった。 「おいっ!!」 意味がわからず修兵は困ってしまう。 でも初めて言ってくれた「いってらっしゃい」と。それがなんだかこそばゆく感じるものの嬉しさがこみ上げてくる。 玄関が閉まる音がして、修兵がでかけたのだと思う。 嫌な気分にさせなかっただろうか? はっきり言えなくて。ただ夕飯のお弁当はいらないとだけ言って。 でもなんの関係もない、自分を拾ってくれたから。 何もできないままでいたくない。自分でできることはやって修兵の負担になりたくなかった。 修兵は無理強いをしないし、の為にと毎日土産を用意してくれる。 そんな人に対して、自分は受けるままで良いわけがない。 だからやる。少しでも、自分でできることを。 「えーと…うどんがある。けど、野菜とかない」 この家には一般的に色々揃っている。生活する分には問題ない。 ただ、冷蔵庫はほぼ空だった。 毎日お弁当だったから仕方ないだろう。 料理が得意らしいとちらっと聞いた事はあるが、今はそんな暇がないといったところか。 「よし」 はお財布を持って外にでる。 朝晩は修兵が用意してくれるが、昼は一人。だからと修兵がお金をくれる。 それでいつも何かしら買って食べていた。 とはいえ、最近ではに土産だと修兵が菓子を買ってくるので、それを日中食べていた。 おかげで渡されたお金はあまり使わずに残っている。 今日の分ぐらい何か買えるだろうと思って。 ずっと流魂街で育った為に、瀞霊廷内で一人出歩くことに少し緊張する。 この中には話でしか聞いた事のない貴族とかが住んでいるのだ。 綺麗に舗装されている道。 石に躓いて転ぶこともなさそうで。 歩いている人々が着ている着物は綺麗で。 ここは今まで自分が居た場所とはまったく違うのだと知らされる。 店が立ち並ぶ通りにやってくる。 八百屋に魚屋。ある程度はこの辺りで揃いそうな感じもする。 お金はあると言っても、物価がどの程度なのかわからない。 それに冷蔵庫にあるものと照らし合わせてやろうと思ったのであわせねばならない。 「あの…ください…」 八百屋に入った。 「へいらっしゃい!!」 威勢のいい店主に思わず腰が引けてしまう。 貴族が、死神が住まう街でこんな人がいるとは思わなかったのだ。 「坊主。母ちゃんに頼まれたお使いかい?偉いな〜」 わしわしと頭を撫でられた。 母ちゃんなんていない。そう思えた人は亡くなってしまった。 だけど、店主がそんなことを知っているわけではないので、笑うだけ笑った。 「何が欲しいんだい?」 「えと…にんじんとしいたけ…あと三つ葉も」 そんなに多くはいらないと店主に告げる。 少量で売ってくれるだろうか?と思いながらも店主はあいよと返事をしてくれる。 「にんじん、しいたけ、三つ葉。これでいいか?坊主」 袋に入れて渡してくれる店主。だが、言ったものより量が多い。 しかも、それ以外にもじゃがいも、玉ねぎも入っている。 「あ、あの!俺、こんなには頼んで」 「いいよ。オマケだオマケ。坊主はこの辺じゃ見ない顔だしな、初めてのお使いって所だろ?」 「う、うん」 「だからこれからご贔屓さんになってもらう為に、オマケだよ」 「ありがとう」 お金を払い、八百屋を後にする。 初めてのお使い。なんだか新鮮だ。買物をしたことがないわけではない。 流魂街でもしたことはある。 それでも、誰かの為にと言う今の目的。こそばゆい。 その調子で、次は肉屋へ向かった。そこでは鶏の胸肉を買う。 やっぱり店の女性に。 「お使い?えらいね〜手伝いしてくれるなんてお母さんも嬉しいだろうね」 などと言われてしまう。 この先。修兵がお使いを頼んできたら、修兵は喜んでくれるだろうか? 子ども心に、修兵の役に立ちたいと思えてきているから。 日が暮れ始めた頃に、夕飯の仕度をし始めた。 だが始めての台所で、今までと勝手が違い手間がかかってしまう。 何より、サイズがすべて大人用なのだ。 の背丈では流しにまだ届かない。 辺りを見回して、椅子があったのでそれを引っ張ってきてなんとか流しに届く。 修兵はの数倍背が高い。 だからこのくらいなんともないのだろう。 「にんじんは千切り、しいたけは薄切り…」 一つ一つ丁寧に作業を進める。 こうしたことが苦もなくできるのは、に料理を教えてくれたあの人が居たからだ。 「……先生……」 鼻の奥が少しだけツンとした。 彼女を思い出して胸が詰まる。 「いけねっ。早くしないと」 母親代わりだったに教わったとおりに。 まだ彼女みたいに完璧に作れない。けど、多少時間はかかってもは作っていく。 足場にしてる椅子を一々動かし面倒には面倒だ。 早く大きくなりたいなと思う。 そうすればこんなに手間はかからずに済むのに。 「ただいまー」 「あ。帰ってきた」 なんだか照れ臭い。 夕食のお弁当をいらないと言って、自分が作ってみたと言ったら。 修兵はどんな反応をする? 「ー?」 居間を覗く修兵。今日も土産の菓子を買った。 美味いドラ焼きがあるからと恋次から聞いたので。 それをちゃぶ台の上に置き、隣の台所から何やら温かみのある匂いがしたのでそっちを覗く。 「?」 「あ……お帰り、なさい…」 「お前。何してんだ?」 「えっと……ご飯……」 「メシ?あ。そういや朝、弁当いらねぇとか言ったけど。どっか食いに行くか?」 朝、いらないと言われてどうしようかと迷った修兵。 だからって自分の分だけ弁当を買うわけにいかないし、に食わせないわけにも行かない。 だったら外食にするか?と思ったのだが。 「なんだ?これ」 鍋が。ほとんどが始めて使われていたものばかり。 それらが置いてあって修兵は面食らう。 「?」 「あの…俺が、作った」 所在なさげなの態度。 弁当をいらないと言った理由がこれでわかった。 鍋を覗く修兵。 野菜が入ったうどんが。 「すげーな、〜お前一人でやったのか?」 「ご、ごめんなさい」 「バーカ。なんで謝るんだよ。すごいって褒めてんだぜ?」 修兵はニッと笑みの頭を撫でる。 「料理できるんだな。お前」 「教わった…先生に」 「そうか。じゃあ食うか。俺腹ペコなんだよ」 早く食べたいと修兵が言うので、は顔をあげる。 その顔は自然で、すごく柔らかく笑んでいた。 恐らく出会って初めて見せた、笑顔ではないだろうか? 二人で食べた、が作ったもの。 修兵は美味いぞとお世辞ではなく本当に喜んでくれた。 食べながら、これからはが食事の仕度をすると言った。 食事だけではない、家事は自分がすると。 「無理しなくていいんだぜ?」 は首を横に降る。 無理なことなんかない。今までやってきたことだから。 死神の仕事だけでも大変なのに、家のことまでを修兵に背負わすのを嫌なのだ。 自分は、こうして拾ってもらえただけでも十分で。 出来ることといえば、このくらいだから。 「そっか?じゃあ頼むな」 「明日…明日は何が食べたいですか?」 「んー?なんでもいいぞ。の作るもん美味しいからな。案外俺より上手なんじゃねぇの?」 「そ、そんなこと」 ようやく。二人の生活が始まったような気がした。 が馴染んでくれるのが修兵には一番嬉しいのだ。 そして、次の非番のとき。 修兵は台所で作業するの為に、足場となる台を作った。 椅子を乗り降りし、移動させるにはちょっと面倒だから。 この踏み台。 の身長に合わせて作った、その先かなり重宝されるものとなる。 そうして、親子の距離は段々縮まった。 他人から始まった親子関係。 今では…そう。誰もが知っているな仲となった。 息子君が引き取られた直後ですね。おどおどした感じでも修兵を慕っているように書きましたw
08/12/17
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