ドリーム小説
最近特に鬱陶しいと感じることがある。
鬱陶しいと言うには申し訳ないかとも思えるのだが。
まあ、ずっと相手をしてやっていることを思えば、多少は悪態をついてもいいではないかと言う気にはなる。





【傍目から見たら義理には見えない。】




技術開発局。
新技術や新霊具の開発・研究をする為に、十二番隊内に併設されたもの。
創設者は前十二番隊隊長との話。
技術研究だけでなく、他にも様々な業務を請け負っているが、基本あまり近寄りたくないと思われている。
それは隊長兼局長による実験研究の餌食にされたくないからだろう。
こういうと、恐れられているような場所にも思われるが、案外、そんな局長ファンもいるので世の中わからない。
それに比較的穏やかでまともな考えを持つ者もいるので、手出しさえしなければ問題ないのかもしれない。

「それで、誕生日に手作りの肩たたき券つーのをくれたんすよ」

「………」

「手作りってのが可愛いって思いません?どんな顔して作ったのかなと思うと」

「………」

「大人びた面しても、やっぱガキなんすよねぇ。俺が面倒みなきゃって思いますしー」

「………」

「だから…って聞いてます?阿近さん」

「聞いてるぞ。息子が可愛くてしょうがないんだろ?ああ、何度も聞いた。耳にタコができるくらいな」

仕事で忙しい。とまでは言わないが、やるべきことがあって手は動かしたまま。
そんな阿近に対し、仕事はどうした?と思えるくらいに、
すっかりくつろぎ息子自慢をし始めている九番隊副隊長檜佐木修兵。
修兵が阿近にしている話は、息子自慢。
終始息子が可愛くて仕方ないという面の修兵にほとほと呆れてしまう。

「そんな話を俺にして何が楽しいんだ?」

「誰にしても楽しいッすよ。本当の話だし」

「あのな…」

大半の奴は呆れて聞きもしないのだろうと想像はつく。
にも関わらず毎度毎度そんな話を聞いている自分はなんだろうか?

「今度阿近さんもウチ来てくださいよ。美味いメシご馳走しますし」

「息子手作りのか?その前に嫁さん貰え、阿呆」

普通は嫁自慢で飯をご馳走するものではないのか?

「当分の間は嫁さんなんていらないっすよ」

「息子が母親を欲しがるかもしれねぇのに?」

「……そりゃあ、居た方がいいだろうとは思いますけど…今はいいっすよ」

珍しく寂しげな顔を見せる修兵。
阿近もこの親子には血の繋がりはないとは聞いている。だがこの尸魂界じゃそう珍しい話じゃないだろう。
流魂街ではそんな者たちが家族として暮らしているのが当たり前だ。
だけど、何を思うか、どこかで血の繋がりを気にするのだろう。

「父子二人での生活も悪くないっすよ」

「息子に家事押し付けてか?ダメな親父だな」

「べ、別に押し付けていないっすよ。が自主的にやってくれるんすよ」

ああ、しまった。また息子自慢が始まってしまう。
だが本当に嬉しそうに話す。
今はまだ父子だけの生活がいいか。
阿近は修兵が息子との間に何があったかというのは詳しくは知らない。
何やら大勢の前で、親子関係を暴露したとかしないとかで、一時期瀞霊廷内は修兵の噂で持ちきりだった。
独り者だと思っていた奴に息子がいたからとか。
大抵は修兵を狙っていた女性たちが騒いでいたのだろうが。
しかし本人はそんな噂など気にした様子もなく、却ってそれが露見してから堂々とした姿で、阿近に息子自慢を始めるのだ。
ここ最近は特に重症だと思うくらいなのだが。
要はあれだ。大勢の前で「おとうさん」と呼ばれたのがよほど嬉しかったようだ。
あまりに嬉しそうなので、鬱陶しいを通り越して仕方なく息子自慢を聞いてやろうと思ってしまう阿近だった。



***



阿近はほぼ仕事場である、技術開発局から出ることはないのだが、たまにはと外に出ることもある。
ほんの気まぐれというもの。
今日も気まぐれを起こして、ぼんやりと空を眺めて歩いている。

「いって…」

ぼんやりしていたので、歩いていた時に何かとぶつかった。

「お。悪い。見てなかった…大丈夫か?坊主」

鼻先を押さえている子ども。
咥えているタバコが子どもの頭に落ちずに済んでよかったとは思う。

「大丈夫。俺もごめんなさい、余所見していたから」

礼儀正しい子どもは阿近に頭を下げる。

「あ、いけね。本!」

「?」

阿近の足元に一冊の本が落ちていた。
これかと思い本を拾う。表紙に「双魚のお断り!7」と書いてある。
確か子どもたちの間で人気だという浮竹隊長の小説だ。

「ほら」

子どもに本を返す。
子どもは笑顔で受けとった。よほど好きなのだろう、この話が。

「ありがとう!さっき買ったばかりで…家まで我慢できなくて歩きながら読んじゃったんだ」

それで、阿近にぶつかったと。
お互い様かと思いながらも、余所見した者同士がぶつかるというのも中々ないだろう。
それこそ、小説の中の出来事みたいだ。
だけど、どうせなら綺麗なお姉さんなら夢もあるだろうが。

「今度は気をつけろよ、坊主」

「うん。おじさんもな」

おじさん。子供から見ればそう見えるのだろうが面と向かって言われたのは初めてだ。
ただ否定するのも面倒臭いので、このままでいいだろう。
どこのガキかもわからないし。

「…なんだ?」

下から感じる子どもの視線。

「おじさん。タバコ吸ってる」

「あ?それがどうした」

阿近はわざとらしく、紫煙を子どもに向けて吐いた。
何するんだと顔をくしゃくしゃに歪める子ども。

「煙い…別に変な意味で聞いたんじゃないよ…ただ、俺の周りでタバコ吸っている大人っていないから」

「ふーん」

子どもの健康に気を使っているというところか。それは立派な心がけだ。

「なんか、大人だなーって思ったから。おじさんカッコいいなとか思って」

「カッコつけているからな」

「おぉー。オジサンカッコイイー」

カッコいいといわれても、どう反応すればいいのか正直困る。
ずっと子どもが阿近のことを見上げているので、なんとなくしゃがみ目線を合わせて見る。
自分にもこのくらいの背丈の時代があったなぁと思いながら。

「タバコを吸ってみたいとか思うのか?」

「ううん。別にー。だけどさ、吸ったらカッコいいんだろうなって思う人は居る」

「へえ。兄さんか親父さんとかか?」

「うん。でも目つき悪いからなー怖い人になるかも」

あははと笑う子ども。その兄だか父親が好きなのだろう。

「俺も目つきは悪いほうだと思うんだが」

「でも、おじさんはカッコいいよ。様になってる。あと角あるし」

「これは関係ないだろ」

怖がられないだけマシなのだろうが、苦笑してしまう阿近。

「おい。何してんだ、…あれ、阿近さんも」

日々息子自慢をしにやってくる男が通りかかった。

「修兵!修兵、おじさんと知り合いなのか?」

この子ども…なんかしなくても、修兵の息子か。と阿近はぼんやりと思った。
修兵が親馬鹿と化する噂の子ども。
は修兵に駆け寄っている。

「お前な、阿近さんのことをおじさんって…」

仕方ないなぁという顔をしながら、くしゃくしゃとの頭を撫でている修兵。

「修兵。まだ仕事か?」

「いや。今日はもう終わりだ。よし、一緒に帰るか」

「うん。あ、でも夕飯の買い物があるから荷物持ってくれよな」

「わかった、わかった。持ってやるよ。じゃあ、阿近さん、失礼します」

「おじさん。またなー」

親子二人が手を振り歩き出す。

(本当、しまりのない顔しやがって。しかも、ほぼ人の事は無視ときたもんだ。)

だけどもと阿近は小さく笑う。
気まぐれで外に出てみて良かったような。中々面白いものが見れたのだから。



***



「なんだ、その面は…俺がお前になにかしたか?」

翌日。技術開発局に来た修兵。面白くないという視線を阿近に向けている。

「阿近さん、昨日、と何話したんすか?」

「?…別にたいしたことは話しちゃいねぇぞ?」

今期の予算案を修正中の阿近。
局長のマユリの無理無謀な予算申請はそのまま通ることはまずない。
下手をすると逆に減らされてしまうことも多いのだ。

「ずっと、阿近さんのことカッコいいおじさんとか言ってるンすよー」

ずるい。そう言いたいのか。
息子の興味が少し阿近に向いたくらいで…。この男は本当どうしようもない。

「大体、人のことをオジサンって言うが、てめぇとそう年は変わらないんだがな」

あまりオジサンと連呼されるのは流石に癪だ。

「俺はと打ち解けるのに時間かかったのに、阿近さんあっさり仲良くなってよー」

どこに嫉妬していると言うのだろうか、阿近は呆れる。
少し休憩。書類仕事は後回しだ。
阿近は冷め切ったお茶を新たに淹れなおす。ついでに修兵の分も用意して。

「あ。ども」

「お前、そんなにガキ好きだったか?」

子どもなど興味ない。寧ろ向こうが俺を見て怖がるんだ。そう言っていそうな。
顔だけのことを言うならば、阿近と修兵は同類なのもかもしれない。
椅子に腰を下ろし、茶を一口啜る。面倒臭がらないで新しい茶葉にすればよかった。
あまり美味いと思えない茶を飲みながら、なんだかんだ話を聞いている阿近。

「好きとか嫌いとか、別に考えたことないッすよ」

「あのってガキだからか?」

「………自分でも不思議っすよ、俺が親やっているのが」

修兵はお茶に映る自分の顔を見ながら言う。

「虚に襲われたガキを、別に俺が保護しなくてもって…思いますよね、普通。あいつ一人じゃないんすよ、そういう境遇の子どもって」

でもなんとなく。こいつは俺が。そんな気持ちが湧いた。
責任感とかからじゃなく。
きっと、似ていたからかもしれない。
抱いていたものが。

「だが、良かったんだろ?息子にしてよ」

「はい、それはもう」

しみったれた話は嫌だ。鬱陶しい。まだいつもの自慢話の方がいいと阿近は思うから。
あえて話をそらす。
修兵が何を思ってを引き取ったのかなど、阿近には関係ないし興味がないのだ。
ただ目の前にいる男が、ただの親馬鹿だということが、阿近にとっての現実だ。

「家事任せっきりで、俺がちゃんと父親やれているのかなって思いますけど…」

「やれてるだろう、父親」

「そ、そうっすか!?」

修兵の顔が破顔する。
あぁ本当に自分は甘いと思う。
毎度毎度息子自慢を聞いてやっているなんて。

「坊主の顔見てりゃあ思うだろ」

まだ一度しか見ていないが、手を繋いで帰っていく後姿なんか本当仲良し親子にしか見えない。

「俺はお前ら親子が義理だってのが嘘だ。って思えるよ、なんとなくな」

「阿近さん…」

「ま。そんなの関係ねぇな。端ッから」

兄弟みたいにも見えるし、友達同士にも見える。不思議な親子だ。



***



「あー!おじさん!」

いつもより暑いな。と阿近は思い歩いていると子どもが一人、自分を呼び止めた。。

「なんだ。檜佐木のとこの坊主じゃねぇか」

が小さい体で抱えるには大きすぎる荷物を手にしている。

「なんかの小動物みてぇだな、その姿」

くくっと喉の奥で笑う阿近。
自分のそばに寄ってくるの歩き方が少しよたよたしていて面白い。

「しょうがないじゃんか。これ重いんだから」

「一人で運ぼうってのが無茶だな、どれ貸してみろ」

が言う間もなく、阿近はひょいと荷物をから奪って片手で抱える。

「おー。おじさんすげー」

「坊主がまだガキだからだろ。大人にしてみりゃそう重い荷物でもない」

「でも、おじさん。サッと掻っ攫ってスッと持って。カッコいいな〜」

「これぐらい普通だろ?坊主の周りにはよほどカッコ悪い大人しかいないんだな」

「んーどうかな?シロさんも白哉さんもカッコいいよ」

隊長のあの人たちかぁと思い浮かべながらも、のカッコいいの基準がいまいちわからない。
彼らと同列に並べられても。というより、阿近から見て、普段どことなくのんびりしたイメージのある二人だから。

「とりあえず、坊主」

「なに?」

荷物を持って歩き出す阿近を横から見上げながら着いてくる
阿近にはが小動物に見えてしょうがない。

「俺のことをおじさんって言うのは勘弁してくれ。お前の親父と俺は年がそう変わらないんだ」

でもから見ればおじさんなのかもしれないが。

「ふーん。そうなんだ。じゃあなんて呼べばいい?」

人の嫌がることを基本的にしない子なのだろう、は素直に聞いてくる。

「俺の名前は阿近だ。だから阿近でいい」

「うん。わかった、阿近さん」

素直な子だと思う。
思うが、この素直さが大人になれば薄れていくのだろうなと、成長というのを少し呪いたくなる。
いつまであの親馬鹿がこの子を構い続けるだろうか。
娘ならいざ知らず。息子ならとっとと親離れされてしまうだろうに。

「そういえば。今日は泣いちゃいねぇのか。いつぞやみたいに」

は口を噤む。
つい先日、たまたまだが、見かけたのだ。が一人で泣いているところに。
別に理由なんて知らないが、親父には黙っていて欲しいようだったので追求はしなかった。

「いつも泣いているわけじゃないよ」

「ほぅ」

「あれは、たまたまだ。それにもう、俺泣かないもん。男がそう簡単に泣いちゃカッコ悪いだろ?」

「別に泣いたっていいだろ。男だって泣く時は泣くぞ」

「カッコ悪いよ、それ」

拳を握ってぶんぶん振る

「そうか?カッコ悪い涙なんてあるのか?」

「え」

「人として、泣くってのも大事な感情だ。カッコいいとかカッコ悪いとかないだろ。必要なものだからな」

は首を傾げる。
子どものにとって、泣くという感情はあまり良いものには映らないようだ。
だけど、すぐさまにこやかに、そして阿近を見る目が輝くように変わる。

「阿近さん。すげー!やっぱ阿近さんカッコいいな!」

「そら、どうも」

子どもに褒められても…。

「で?この荷物はどこに運べばいいんだ?」

「俺んち。本当は修兵に頼もうかと思ったけど、忙しいだろうからさ」

だから自分で運べるなら自分でと思ったらしい。

「別に呼びだせば、喜んで来るだろう。親父は…」

「仕事の邪魔はしたくないから」

本当できた息子だと感心してしまう。
親父は人の仕事中でも構わず息子の自慢話をしに来ると言うのに。
そうしているうちに檜佐木家に到着する。

「ありがとう。阿近さん」

「いや。今度は店の人に配達してもらえ。その方が安全だ」

「うん。そうする」

「あれ?阿近さん?」

修兵が帰ってきた。珍しい人が家の前にいるので少々驚いた顔をしている。

「修兵!今な、阿近さんに荷物運んでもらった!阿近さんすげーんだよ!ひょいって荷物を担いでさー」

嬉しそうに報告してくる息子に、そうかと笑顔で頷く修兵。
だが阿近に向ける眼差しは拗ねたものだ。

「檜佐木。お前見てると面白いな」

「な、なんすか。阿近さん」

「いや。なんでもない…じゃあな、坊主」

珍しく肉体労働をしてしまった。肩をニ三度回しながら阿近は来た道を戻っていく。



翌日。

「またか……」

息子の興味が阿近にあることが面白くないらしい。
阿近は呆れる。
そんな興味など一時のことだろうに。

「ずるいっすよ、阿近さん!」

「って言われてもなー。お前より俺の方がカッコいいからじゃないのか?」

フッと阿近は意味ありげに笑みを浮かべた。

「なっ!」

「本当…お前ら親子は義理には見えないな」

義理以上の間柄。というより。

「義理とかそんなの関係ないな」







阿近さん視点で。
09/01/06UP
12/07/16再UP