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「君!」 十三番隊隊舎にがやってきた。 ちょっと慌てた様子で。 「姉ちゃん。どうかした?」 あ。この場合。「どうかしましたか?」という言葉遣いの方が良かっただろうか? はと比べて死神として大先輩だ。 よりも上位の席官でもある。 だが、そういう上下関係よりも母子関係の方が強いから問題ないだろうとは思う。 若いママさんであるはの義母。 義父の修兵の奥さんになって早幾年…。 この人が初恋の人だったのだな。と改めて思い知ったが、それはそれ。 捻くれ時代は終わったので、今では普通に家族であろう。 「あのね。今晩、明日。家に帰れるかな?」 「家?別に討伐隊にも加わっていないから問題ないと思うけど。どうして?」 瀞霊廷内に実家がある。 今は所属の十三番隊隊舎で生活をしている。 いまだ新人であるは雑用などで忙しい。 週末に帰ることができたら帰る。とは伝えても今まで叶ったことはない。 あまり自身は深く考えていないが。 「帰れるのね。だったら、お願い!家事、頼んでもいいかしら?」 「家事…?…姉ちゃん、どっか行くの?」 「うん。それがね」 は深く溜め息を吐く。 話を聞いてはそれじゃあ仕方ないねと苦笑した。 今週末は久々に実家へと帰ることになった。 【親友以上恋人未満親子期間中。】 「だっせー。年じゃねぇの?ぶっ倒れるなんてー」 「………」 現在、修兵は自宅で風邪で寝込んでいた。 年の所為だとニヤニヤ笑う息子に思わず顔をしかめてしまう。 「「だっせー!おとうさん。だっせー!」」 修兵の寝床の側で双子がキャッキャ言いながら楽しそうだ。 「真萩、撫子…そんな言葉遣いはやめなさい…」 「「えー!だってがいったー」」 修兵は子どもに注意するが、二人ともなんで?と首を傾げる。 寧ろ兄が言ったから真似したんだーと言う始末である。 「あのなぁ」 「萩、撫子。風邪がうつるからあっち行ってろ」 が弟妹たちを別室へ移動させようとする。 「えー」 「はぎもおとうさんのかんびょうするー」 「なこもー」 それは父親にしてみると嬉しい言葉だろう。 少し感動している修兵。 はダメだと部屋から追い出す。そして無情にもドアは弟妹たちの前で閉められる。 「「ー!!」」 ドアの前で文句を言う弟妹たち。 はドアを開けてニッコリ笑う。 「いい子にしていたら、今晩はお前らの好きなもの作ってやるぞ」 「「!!」」 好きなもの。 今夜のご飯はが作ってくれる! それだけで弟妹たちの目は輝く。 「わかったか?」 「うん!はぎ。いいこにしてる!」 「なこもいいこにしてる!」 じゃあ居間で遊んでいろとに言われて弟妹たちは素直に階段を降りていった。 数年前とは違うやり取り。 弟妹たちを弟妹とは認めず、自分はこの家族にはいらないだろうと思っていた。 それが今ではしっかりお兄ちゃんをしている。 いとも簡単に手なずけて。 「よし。チビどもはこれでいい」 上手く行ったとは頷く。 修兵は双子があっさり父から離れたことがちょっと寂しい。 「なんだよーいいじゃねぇか少しくらい」 「さっきも言ったろ。二人に風邪がうつったら大変だっつーの」 面倒見るのはじゃないか。 大人が風邪をひいても最低限のことは自分でできるからいい。 けど子どもは違う。 あれもこれもと色々気を使うし、手がかかる。 まして真萩と撫子は双子。 おそらく風邪をひくと一緒にひいて寝込んでしまいそうだ。 そんな事になったらの負担は大きい。 「その時はお前がいるじゃないか」 「俺、そんな理由でそうそう帰宅できないって。今回は特別だ」 「そういうなよーお父さん寂しいぞー」 氷嚢を修兵の額に乗せる。 なんだかデカイ子どもがもう一人いるような感覚だ。 「誰がだ…大体。修兵がぶっ倒れるから姉ちゃんが世話できなくなったんだろ」 自己管理できてねぇなと修兵に呆れた視線を送る。 修兵も好きで風邪をひいたわけじゃないと、布団を頭からかぶってしまう。 本来ならばが修兵の看病をするはずだった。 だけど、修兵が、九番副隊長が風邪でぶっ倒れた為に、変わりに三席が指揮をとり。 はその三席の代わりに現世に任務で派遣されたのだ。 修兵だけならなんとかなるだろうが、家には幼い子どもがいる。 誰かと交代するのも気がひけてしまうは、に家事を頼んだのだ。 真萩たちが寝込んだならば、は休んだだろうが。 それにこれが学院時代の話ならば、は素直に引き受けていなかった気がする。 (あの頃が捻くれまくっていたからな〜……いや、別に今も素直じゃないけどさ) 家族だから。と今は思える。だからこうして今、面倒を見ているのだが。 「バカ。なにやってんだよ。氷嚢落としてんじゃんか」 修兵が頭からかぶった布団を引き戻す。 落ちた氷嚢を再び修兵の額に乗せる。 「早く治したかったらちゃんと寝ろよ」 薬飲んだか?とに聞かれると修兵は自慢げに答える。 「どっかのガキじゃねぇから。俺はちゃんと薬を飲んだぞ」 「………あーはいはい。偉いですねー」 過去の話を持ち出さないで欲しい。 は居た堪れなくなる。 「チビどものメシ作ってくるから、寝てろよ」 「俺のは?」 「作るよ。お粥でいいだろ?」 久々の息子の料理なのに、粥は嫌だと修兵は駄々をこねる。 「あのなぁ…食欲ないだろ?風邪なんだし」 「うどん食いたい。うどん。あっつあつの鍋焼きうどん」 「食えるのか?」 「食う」 仕方ないとは立ち上がり、部屋を出て行く。 下からは大人しくいい子にしていたと騒ぐ真萩と撫子の声が聞こえる。 なんだか不思議な感覚だ。 いいお兄ちゃんをしている息子に笑みが零れる。 (本当ならとっくに家を出ても可笑しくないんだよな) すでに隊舎にも入っていることだし。実家とは言え、ひとり立ちをしても可笑しくはない。 だが学院時代のことを思えば、そうなっていたかもしれない。 家族仲は逆に上手く回り初めて、今こうして頼めば来てくれるのだろう。 それにだ。 約束していることがある。 それがきっとをこの家へと引き止めているのだろう。 『死神になって楽をさせてやる』 子どもだったがずっと秘めていたことだ。 その約束は本来、の家族だった人たちとの約束だった。 けど、その人たちがいなくなり、修兵がを引き取った。 それ以来、の彼らとの約束が、修兵との約束になっていたのだ。 『死神になって、早くバカ親父に楽させてやるよ』 反抗期のような学院時代。 からまった糸はなんとかほぐれた。 その時もはそう言ったのだ。 実際は修兵が現役を退き隠居生活をするなんてのはかなり先の話だろう。 けどいい。 この約束は修兵にとっても大事なものなのだから。 そんなことを考えていたら、段々眠くなってきた。 修兵の瞼は自然と閉じられていった。 「なんで…我がまま聞いてんだか、俺も…」 真萩と撫子の夕食を作る分には、自分が好きなものをと言ったので問題ないのだが。 修兵の我がままも素直に聞いていることに呆れてしまった。 ぐつぐつとうどんが茹でるというより煮られている。 「ー。ごはんまだー?」 の周りをうろちょろする弟妹たち。 「こら。火があるそばでうろちょろするな。危ないだろ!」 火傷したり、万が一火事になったらどうするんだ!そうに強く叱られる。 子どもの頃から家事を任されていただから。 火の扱いなど十分に注意してきたのだろう。 叱られた弟妹たちも、意味があって叱られたことがちゃんと伝わり素直に謝る。 (この辺はきっと姉ちゃんは甘いんだな…前にもあったしな) 揚げ物をしていたのそばをうろちょろしていたことだ。 「先に修兵…お父さんのご飯作っているから、お前らのはそのあと。いいな」 「「はーい」」 素直でよろしい。はニンマリと笑った。 だけども。撫子がの袴を引っ張る。 「ん?どうした?」 「おとうさんといっしょに、ごはんたべちゃだめ?」 それは真萩も同じのようで。二人して懇願した眼差しを送って来る。 (チビどもも心配だからか…しょうがないか) ちょうどうどんも煮立った。火を止めて撫子の頭を軽く撫でた。 「その気持ちはわかるけど。今日はダメだ。お前らに風邪がうつったら大変なんだぞ」 弟妹たちはシュンとしてしまう。 「明日。少しでもお父さんの熱がひいたら、一緒に食べよう。な?」 それで我慢してくれとは言った。 弟妹たちはわかってくれたらしく、大人しくしていると居間へと戻っていった。 (しっかし…お父さんって呼ぶのなんだか照れる…) 自分がチビの時から修兵と呼んでいたのだから。 「おとうさん」と呼んだのは本当数える程度だ。 修兵はふつうにのことを「俺の息子」と口にするが、はあまり公言しなかったから。 勢いで「クソ親父」などとは口にした事はあるが。 だが今のように幼い弟妹たちに話す時、流石に呼び捨てで言うのは教育上良くないだろうなと。 (つーか、あいつらも俺のこと呼び捨てなんだけどな) 作った煮込みうどんを持って二階へ上がる。 「修兵。メシ作ったぞ」 ドアを開け部屋に入ると、修兵は寝ていた。 いつかの修兵とその姿が重なる。 修兵が寝込むなんてことはほとんどなかったから。 「………」 寝ている修兵を見て、作ったものをとりあえず置いた。 うどんだから放置しておくとデロデロにのびてしまうだろう。 けど、無理矢理起こす気にはなれない。 さてどうしたものかと、も腰を下ろし考え込む。 「おとーさん」 ボソリと呟いてみた。 寝ているのならば聞いていないだろうと思って。 だが修兵は反応した。 「ん?どうした、」 「………なんで、起きてるんだよ…」 嫌なことを聞かれたと思っては目をそらす。 「なんでって…美味そうな匂いがしたからな。目が覚めた」 修兵は体を起こす。 そしてが作ってくれたものを見て喜んだ。 「煮込みうどんで我慢しろよな。鍋焼きは無理」 修兵は布団から出てうどんを前に手を合わせる。 「お前が作ったものならなんでもいいぞ。これで風邪も治るって」 「んなバカなことあるかよ…あ、なんか上に羽織れよ」 寒いだろうに、それではと。は辺りを見回す。 修兵用の半纏があり、それを修兵に着せる。 「………」 着せた半纏をはマジマジと見つめてしまう。 「どうかしたのか?」 「いや…なんかそれ見覚えあると思って…」 修兵はうどんを頬張っている。ふーふー息を吹きかけながら。 「あるだろ。そりゃ。お前が作った奴だからな」 「俺がって!!あれからどのくらい経ってると思ってんだよ…いい加減新しいの買えよ」 年季が入った青地の半纏。ちょっとくたびれているようにも見える。 「別にいらないだろ。十分着れるぞ、これ。あったかいしな」 「姉ちゃんが恥かしい思いするだろ…そんなボロ着て、いてっ!」 修兵はの額を叩く。 「大事な息子が作ってくれたものだ。粗末にしたらバチが当たる」 「………」 そう言ってもらえるのは嬉しいが、どう反応をしていいのか困惑する。 この分じゃ、修兵はガキの頃に作った様々なものを今でもしまっているような気がする。 「ま。どうしても新しいのを着ろっていうなら…また作ってくれよ」 「はぁ!?」 「そうだな。今度はの分、真萩と撫子。んでお前の分も。家族5人分お揃いで」 お前なら簡単だろ?そう修兵に言われてしまう。 「……なんで俺が…姉ちゃんに頼めよ、んな事」 「別にそれでもいいぞ。家族5人のお揃い半纏。ちゃんと十三番隊まで届けてやるからな」 「い、いらないって・・・」 そうしているうちに修兵はうどんをすべて平らげてしまう。 本当に病人なんだろうな?と疑いたくなるほどの食欲だ。 「明日は何を食わせてくれるんだ?楽しみだなー」 たまに風邪をひくのもいいものだと修兵はご機嫌だ。 「バーカ。なにがたまにはだ。それで大勢の人に迷惑がかかるんだからな」 は皿を持って立ち上がる。 軽率すぎたなと修兵も反省する。 「…だから」 は部屋を出る際にボソっと呟いた。 「早く風邪が治るように栄養のある、美味いもん食わせてやるから」 だから早く風邪を治せ。そう言って部屋を出て行った。 修兵は小さく笑う。 やっぱり根本的な部分は変わらないのだなと。 成長した息子を見て思った。 「だから、今でもお前に甘えちまうんだ、俺は」 そんな息子が可愛くてしょうがないのだから。 義理だろうがなんだろうが、仲良すぎなんだよ、ここんちは。
08/12/01UP
12/07/16再UP
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