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もう春休みも終わる。 そろそろ新学期の準備をせねばならない。 だから寮に戻るとは修兵に告げた。 「次は連休にでも帰ってくるよ」 と付け加えて。 不思議なものだ。 なにせ、実家に帰ってきた当初は「寮に帰る」と。 あそこが自分の居場所だと思い込んでいた。 だが、今ではちゃんとここが自分の帰るべき場所だと思えている。 だから「帰ってくるよ」と修兵に言えたのだ。 寮に戻る朝。 真萩と撫子に行かないでと駄々をこねられたのがくすぐったく感じた。 「俺も、連休には帰ってくるけど。今度は寮の方にお前らも遊びに来い」 暇なら相手してやるぞ。 そう約束しては家族に見送られて家を出た。 【尻尾が見える】 まっすぐ寮には戻らず、そのまま浮竹の元を訪れた。 休み中世話になっていた友人はすでに寮へと戻ったようで、その姿はなかった。 そして、休み中の話を浮竹にした。 「そうか。いい顔になったな、君」 涼しい風が吹き心地良く感じる。 浮竹はお茶に大量の菓子を出してくれる。この辺は昔から変わらない。 「なんか、それって変」 「いいじゃないか、霊圧も以前より優しい感じがするよ」 浮竹に言われるとどうにもバツが悪く感じる。 「まあ…自分でも捻くれていたなと思うけど…」 手にしていた湯呑みを置く浮竹。 「違うな。君は捻くれ者じゃなくて、頑固者だよ。家族が好きでしょうがないのに、一度こうだと思いこむと。絶対にそれを曲げないんだ。 ただの勘違いでもね。どうせ距離をとられるなら、嫌われるならば。自分からその距離を作ってしまえと思っていたんだよ」 「……シロさん」 「まだまだ子どもだったわけだ」 「シロさんにもお見通しなんだ。でも、俺そこまでは思っていないけど?」 浮竹はにんまりと口を一文字に結んだ。 「シロさんも長生きしているからわかるんだよ。それに君との友情も長いからな」 「はは…そりゃ、長いよね、確かに」 年齢差を越えた友情。 普通ならば考えられないだろう、浮竹との関係。 日番谷もそうなのだが、護廷隊の隊長と友だちと言うのは。 死神になったら、この辺少し変わりそうだと不安がよぎる。 「こら。また我慢しようとしていたね?」 「え?」 「公式の場でならば態度を改めるのは仕方ないけど、俺と君はずっと友だちだよ」 「シロさん…それはさすがにどうかと思うけど?俺が死神になれたらそうは言っていられないと思うよ」 「そんなことはないさ」 浮竹はやけに自信たっぷりに言う。 「君以外の人たちを見てごらん。皆結構自由だよ」 考える無駄だと言い切った。 「そうかなぁ」 「よし、こうしよう!」 浮竹はポンと手を打つ。 「学院卒業後。君はウチに来ればいいよ。それで俺の補佐をしてくれると嬉しいな」 「はあ?」 「うん。それがいいよ」 なに、それがいいって。 浮竹はさらりとすごいことを言わなかったか? 学院に度々講師で赴く浮竹だから、の成績は常に把握しているらしい。 彼ならば父と同じく席官入りは間違いない。 「シロさん、それは…もっとどうかと思う」 ちょっと引き気味の。 「あーちょっと先走ったなぁ。でも、俺は君が十三番隊に来てくれるといいなと思っているんだ」 いいなと言うより、欲しいと思っているのは内緒だ。 「そう言ってもらえるのは嬉しいけど…あの、俺が決めることじゃないし」 「そうか、うん。そうだよなぁ…よし、君がウチに来れるよう手配しよう」 「私情はダメだよ、シロさん」 「万が一よそにとられても、俺は引き抜き希望で諦めないぞ〜」 どこの子どもだ。大きな子どもがいると思わずは笑ってしまった。 *** 六回生へとなり、後輩への指導というのも増えた。 自分の勉強も怠るわけにも行かないのだが、この指導も自分の為になると思うと案外楽しかった。 現世への魂葬実習。 六回生筆頭のが一回生たちの前に立つ。 「これから現世での魂葬実習を行う。一応名乗っておく、俺は六回生の檜佐木。後ろの男が坂木、女が遠山だ」 は学内でも有名人のようで後輩たちからどよめきが起きる。 「私語は慎め。まずは遠山から今回の実習の説明をしてもらう」 「今回の実習では…」 遠山さんの説明を聞きながら、やっぱりなと溜め息が出る。 「檜佐木」という名は大きいなと。 (修兵は学院生の頃から有名だったっていうしなぁ) 九番隊の副隊長にまでなって。 その息子である自分を色眼鏡で見る輩は相変わらず多い。 「君?」 「あ。悪い」 遠山さんの説明は終わったようだ。それに班分けも済んでいた。 「よし、各自地獄蝶は持ったな。これがないと現世に行けないからな」 現世を繋ぐ扉を開ける。 そしてたちは現世へと向かった。 *** 「今日は君、現世に行ってるそうですよ」 休憩時間になり、が修兵にお茶を出した。 一回生たちの指導をする為に。 「へぇ、そりゃ大変だな」 自分の時は顔と心に消えない傷を負う出来事があった。 あの頃と違って、今ではかなり厳重に魂葬実習は行われているようだが。 「うふふ。親として鼻が高くありません?六回生筆頭ですって」 「俺の息子だ、そりゃ当然だ」 「あらあら。ですけど、君の方が成績いいらしいですね」 「…くっそ…そうなんだよな、あいつの方がいいんだよ…」 自分は過去二回、学院の入試に落ちているのだ。 息子はストレートで合格していた。 「お父さんを見て育ったからじゃないですか」 「結構必死に勉強していたしな…って、なんでが実習のこと知っているんだ?」 「さあて、休憩は終わりにしてお仕事頑張りましょうね」 修兵の質問など聞こえていないかのように、はくるりと背を向けて行ってしまった。 「?」 は苦笑してしまう。 きっと修兵が知ったら拗ねるだろうなと思って。 実習が始まる前に、から連絡があったのだ。 連絡と言っても短いもので「○日に現世に魂葬実習行くんだ」程度だ。 一応連絡だけ入れておこうと思ったらしい。 (お父さんは息子が可愛くてしょうがないから、自分には知らされていないって知ったら…) 後が大変そうだ。 でも、相変わらずの話になると目が優しくなる人だとは小さく笑った。 *** 「君臨者よ∞血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 灼熱と争乱∞海隔て逆巻き南へと歩を進めよ#j道の三十一。赤火砲!!」 構えるの手から炎が現れ、15メートル先の的へ目がけて放たれた。 「やべぇ、でかい!!」 ここ最近加減が定まらず、炎は威力を増して的を破壊した。 的はこっぱ微塵に吹き飛んでしまい、その際放たれた術は火柱を上げて消えた。 「……なんだ?」 後輩から鬼道の指導を乞われたが見本として初級の術を見せたのだが。 思っていた以上に威力があり自分でも困惑してしまった。 ただ後輩たちは単純にすごいと興奮気味であったが。 「?」 己の手をマジマジと見つめる。 「どうかしたのか?」 オレンジ色の髪の友人がに問いかける。 「最近さ…火炎系の鬼道を使うと力加減ができないんだよ」 「へぇ…他は?」 「他は平気。なんでだろうなぁ…相性悪いのかな」 は後頭部を掻く。 「親父さんに相談してみれば?」 家族関係は良好といえども、修兵の名を出されるのをは嫌がる。 頼りたくとも頼るのが恥かしいという程度だと思うが。 「修兵のトコに行くくらいならシロさんに聞く…あ、鬼道ならルキア姉ちゃんがいた」 「る、ルキア?」 「そうしよう。今度ルキア姉ちゃんに相談しよう。ついでに一緒に白玉あんみつを食いに行こう」 早速連絡してみようと、修行場から出て行こうとする。 「待て待て待て!他にも居るだろう?鬼道なら白哉の方が得意らしいぜ」 「…隊長さんは忙しいだろ?何言っているんだ、お前は」 「う、うるせーな。いいから…ルキアも忙しいんだよ!」 はニヤリと笑う。知っていてのこの反応だ、性質が悪い。 「なんで?お前がそこまで知っているのかなー?本人に聞いてみないとわからないよなー」 「ぐっ…そ、それはだな…その…」 たじたじの友人を前にはパンと手を叩いた。 「鬼道なら桃ちゃんがいたな。桃ちゃんにでも相談するかなー」 「お、お前な」 後日わかることなのだが、このの現象は斬魄刀の能力に関係しているらしい。 *** 「〜」 お目当ての人物の背中を見つけて、やちるは思わずその背中に抱きついた。 「うわっ!」 反動で前のめりになりそうになるが、は何とか耐える。 「…なんだよ、やちる。危ないじゃないか」 「えへへ。なんか嬉しくなって」 ニコニコっと微笑まれるとも二の次が告げなくなってしまう。 昔からそうだ。やちるの笑顔に自分は弱いのだ。 「今日はどうしたの?こっちに来るって珍しいね」 ここはの通う霊術院でも、実家でもなく死神たちが働く場所だ。 ちなみに十番隊隊舎付近。 なるべく目立たないようにしているも、霊術院生である姿、十一番隊の副隊長であるやちるがべったりしていれば目立つ。 「冬獅郎に用があったんだよ」 「シロちゃんに?」 なんだ、あたしじゃないのかとやちるは面白くないとから離れる。 やちるが離れたことが嬉しいやら寂しいやら複雑な。 だが目立つのは避けたいので安堵してみる。 「シロちゃんに何の用なの?」 歩き出すの隣をやちるは当然のように並び歩く。 「やちる、仕事は?」 「そんな心配はがしなくていいの!」 あー斑目さんに押し付けたんだ。深く突っ込むのはやめようと、やちるの質問に答える。 「ちょっと、鬼道のことで」 「あたしに聞いてくれればいいのに」 「………」 何言ってんだ、こいつ。そういう目を向けてしまう。 「なによー!」 「やちるにそっち系は無理だろ?絶対俺の方が上だぞ」 「そんなのわかんないでしょー!」 「わかるよ…俺の鬼道破った例ないだろ」 「うっ…そうだっけ?」 斬術と歩法はやちるの方がまだまだ上でも、鬼道だけはの方が勝っている。 惚けるやちるには仕方なしにと話を続ける。 「最近ちょっと可笑しいんだ。んで、冬獅郎にでも相談してみようかと思ってさ」 「修ちゃんにはしないの?」 「…なんで皆して修兵を押すかな」 「だって修ちゃんはのお父さんだもん」 それは最もな意見だ。そして一番身近にいる死神だ。 「いいだろ、別に…俺は冬獅郎に聞こうと思ってきたんだから」 「だったら、今から九番隊行こう!その方がいいよ!」 やちるはの手を取り反転する。 半ば強引に歩き出すやちる、繋がれた手を離そうにもどこにそんな力があるのだ。 まったく解放される気配がない。 は焦る。 九番隊へ行くのは勘弁して欲しい。 「あ、あーあのさ、やちる。餡蜜食いに行かね?」 餡蜜と聞いてやちるの目が輝く。 「えー!あんみつ?どうしようかな〜」 「俺、やちると食べに行きたいなーって思うんだけど、仕事忙しいか?」 大好きな甘いものに、大好きな人から誘われてしまえば断る理由はないだろう。 「忙しくないよ!行こう、あんみつ食べに行こう!」 再び目的地が変わる。 上機嫌で甘味処を目指し始めたやちる。 繋いでいない手で思わず拳を握る。 なんとか九番隊へ行く事は回避されたようだ。 *** 金曜日の夕方。土日は学院が休みの為に、どう過ごそうか考えていた。 「!」 「今帰りか?」 「おう」 オレンジ色の髪の友人と学院を出たところでばったり会った。 自然と二人は寮へと向かうのだが。 「結局さ、鬼道の話どうした?」 「相談しようにも、お前と一緒で皆修兵にって押してくる」 それをなんとか回避するだけで精一杯なのだ。 「なんだよ、だったらいいじゃん。もう親父さんに聞いてみれば」 「ここまでくると意地でも頼りたくないね」 「………お前さ、よく可愛いって言われね?」 「はあ?」 友人は思った。その意地の張り方に可愛さを感じる父親、修兵の気持ちがわかったと。 父親だけない、きっとが相談しにいった死神たちもそうなのだろう。 「言われねぇよ!バカか、お前」 「あー悪かった(自分じゃ気づかねぇよな)…明日さ、どうする?」 「そうだなぁ…今の所暇なんだよな」 明日の予定について友人と話していると寮へと到着した。 食堂の方からはいい匂いが漂っている。 今日の夕食はなんだろう。 だが、寮の入口で小さな影が二つばかり見えた。 「「ーー!!」」 小さい体がぴょんぴょん跳ねている。 「?」 「あれってよ…お前の弟たちだろ?」 そんなこと言われずともわかる。小さな影は真萩と撫子だ。 だがしかし、なぜこんな時間に二人は寮の前にいるのだ。 「「、おそーい」」 久しぶりの兄の姿に二人は足元に絡みついた。 「お、お前ら?」 「お帰り、二人とも」 「た、ただいま」 寮母さんが顔を出す。 「ちょうどさっき到着したのよ。良かったわね、二人とも。お兄ちゃんに会えて」 「「うん!」」 二人とも今度はの手を取っている。 「え?到着って!?ってか二人で?修兵は?姉ちゃんは?」 どこをどう見ても両親の姿はない。 「あら、聞いてなかったの?私のほうにはちゃんと連絡あったけど」 連絡ってなにさ?と思うと寮母さんから衝撃の事実を伝えられた。 「ご両親が土日ご旅行で留守にするんですって、その間檜佐木君に預かって欲しいって」 「はあぁ!!?」 旅行ってなんだよ?仕事じゃねぇのかよ!って何勝手なこと抜かしてんだ! の顔がそう言っているのを友人の目にはわかってしまう。 「授業がある日じゃ無理だけど、休みの日ならいいだろうと思って許可したのよ」 本人の意思は無視ですか? いや、寮母さんはすでにが知っているものという前提で許可したのだろう。 「檜佐木君が来る間、いい子で待っていたわよ、二人とも」 「あのねー。のとこにいきたいなら、いいこにしてろっておとーさんにいわれたの」 「なこもいわれたー」 の所にお泊りできると知って、二人はいい子でいると決めたらしい。 愕然とするに、友人が宥めるような目でポンと肩に手を置いた。 「休日の予定決まったな、」 「うるせーよ」 「俺も手伝ってやるから」 「ああ、頼む」 弟たちに懐かれて嬉しいやら悲しいやら。 「「、ごはーん」」 「はいはい、その前に…修兵に連絡にさせろ!」 こうなればヤケだ、文句を出来るだけ言って、土産を大量に注文してやる。 無事解決?でいいか。
08/05/27UP
12/07/16再UP
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