ドリーム小説
あの時。出してくれた手が、大人が、修兵じゃなかったら。
俺のその後はどうなっていたのだろうか?





【さしだされた手】





「なに、それぇ?」

の何気ない呟きにやちるが反応した。
が通っている真央霊術院が春休みとなった為に、基本的に暇になった。
基本的と言っても、この休み中に遊び呆けているわけにはいかない。
実家に帰る者、寮に居残る者、それぞれだが大半は鍛錬を怠るようなことはない。
一応も第一組、通称特進学級に所属しているので毎日鬼道やら剣術の鍛錬をこなしている。
だが、春からは6回生となる
霊術院に入ってからほとんど実家に寄り付くことがなくなった為に、この休みは必ず帰って来いと。
義父修兵にキツク言われてしまった。
しかもが逆らえない人、浮竹を通じてだ。
浮竹が特別講師として学院に訪れた際には呼び出された。

「檜佐木君もたまには君とゆっくり過ごしたいんだよ。少しぐらい帰ってあげなさい」

ね?と浮竹に言われてしまうと「嫌です」とは言えない。

「俺も久しぶりに君と会いたいと思うし」

今、会っているじゃん。とツッコミたくなったが、隊長である浮竹は学院の教員たちに呼ばれてしまいその後それきりだ。
去り際に笑顔で「約束だよ」なんて言われてしまうと…。
後日帰宅せぬまま春休みを終えてしまったら色んな意味で怖いものが待っている気がする。
そんなこんなでは実家に帰ることになったのだが。

。家に帰るんだ!だったら迎えに来てあげる」

とやちるがすでに寮の前で待っていたので逃げるに逃げられなかった。
帰ろうにもどうにもこうにも足が向かわず学院近くの公園のベンチで座り込んでいた。

「修兵に頼まれたのか?」

「違うよー。今晩の作ったコロッケが食べたかったから」

「俺…帰って早々家事するの嫌なんだけど」

それに今は家事をする必要がない。

「いいじゃん。一日ぐらいはがご飯作ってよ」

やちるは作るまで居座る気のような気がする。

「修ちゃんね。毎日そわそわしてたよー。が帰ってくるんだって」

「気色悪い」

顔を顰める

「もう〜そんな顔しないの。昔は修ちゃんにべったりしてたくせに」

「ガキだったし、頼れるのが修兵だけだったからだろ」

ベンチの背もたれにおもいっきり体を預ける。
見上げる空が青くて清々しく感じる、今のとは気分的に正反対だ。

「それで、さっきの話なに?修ちゃんじゃなかったらって」

ああ、聞こえていたのかとは軽く息を吐く。

「ガキの頃に…虚に襲われて、家族だった人たち全員失ってさ…その時、助けてくれたのが修兵で」

そういえば、この話。久々にしたし、やちるに話すのは初めてだと思った。
ほんのごく一部の人しか知らないことで、今ではあまり話すこともなくなったことだ。

「修兵が来いって手を差し伸べてくれた」

「…その手が修ちゃんじゃなかったら…ってこと?」

「ああ」

やちるは考えもせずにわからないと答える。
別にやちるに答えは求めていないのでいいのだが。

「でも。結果的には修ちゃんがに手を差し伸べてくれたんだから…今更考えてもしょうがないよ」

「まあな」

ただ、思っただけだ。
唯一の生き残りだった自分。
なぜ、修兵があの時の自分を引き取ろうと思ったのかは、今でも知らないし、わからない。
面と向かって聞いたことがないからだ。
聞くのも恥かしいし、修兵のことだ。素直に教えてくれるとは思わない。

「ねぇ。まだ帰らないの?」

「………」

ってば〜」

やちるはを揺する。

「帰りたくないって言ったら…どうなるかなー」

「このまま寮に戻るってこと?修ちゃん悲しむよー。あと、ウッキーとの約束破ることになるよ」

「約束も何も一方的に言われただけだし…」

やちるはムッと唇を尖らせる。

「今日の。変だよ!?どうしちゃったの?」

「別にどうもしないさ」

ただなぁと空を見上げたままだ。

「ただ、何?」

「帰りづらい……学院入ってから初めてだし…今更って思ってな」

「そんなのが悪いんじゃない。今まで色んな理由つけて帰らなかったんだから」

やちるの意見はごもっともだ。
は何度も修兵から帰って来いコールを受けるも、帰ることの出来ない理由を作って帰らなかったのだ。

「だってさ……今のあの家に俺の居場所ねぇし」

のその意味を知りやちるも俯いてしまう。

「そんなことないよー…修ちゃんがそれ聞いたら悲しむよ」

「手紙を写真つきで送られてきてさ。それ見ると特にそう思う。あれはあれでもう一つの家族だなって」

「違うよ。も含めての家族だよ!」

そんな悲しいこと言わないで。やちるは泣きそうになっている。

「なんでやちるがそんな顔するんだよ」

は瞠目しながらもくしゃりとやちるの頭をなでた。

「だ、だって」

「ごめん。悪かった…たださ…俺、二人とも好きだったから…多分嫉妬してんだ」

そうなったらいいなと願っていたこと。
長い年月をかけて実際にそれが叶った。
にとってもそれは嬉しいことだった。
誰よりも一番に喜んだものだ。

だけど、いつの頃から。
2人の間にいるのが嫌になった。
なんで?という気持ちが強くなった。

「大好きな人が、大好きな人に盗られたとでも思ったんだろうな…」

だからと言って嫌いになったわけではない。
それにだって成長はしている。
段々自然と親離れしていくようになっていた。
そうしているうちに死神になるという夢の為に霊術院を受験し合格した。
元々瀞霊廷内に住んでいるのだから実家から通う事は可能だったが、あえて寮生活を選んだ。
そしてずっと実家に帰ることをしなかった。

、子どもみたい」

「…悪かったな。ガキで」

「拗ねちゃって可愛い」

「うるさい」

はやちるに背を向ける。
やちるはベンチから立ちの正面に回りこむ。

「ほら。帰ろう、。修ちゃん待っているよ」

と今度はやちるの手が差し出された。

「………」

「きっとね。修ちゃんほど深く考えていないと思うよ?さっきも言ったでしょ?
が帰ってくるのを楽しみに待っているって。きっと修ちゃんだけじゃなくてさ」

ニコリと微笑まれる。

「やちるに諭されると思わなかったなー」

「なによぉー」

「昔は勝手に白哉さんちの池の鯉勝手に盗って雨乾堂に放流しちゃうような奴だったのになー」

そんなこともあったかなとやちるは惚ける。

「とにかくさ。あたしは修ちゃんとが出会ってくれて良かったと思うよ?」

さっきの話だとやちるは言う。
修兵がに手を差し伸べてくれなかったら、出会ったのは別の大人だったら…。

「じゃなかったら、あたしはと出会うこともなかったかもしれないし」

「…やちる」

「あたしは違う誰かのことを好きになっていたかもしれないもん!」

面と向かってが好きだと言っているかのように聞こえ、は少し恥かしさを感じる。
軽く右手で顔を覆う。

「今日はの作ったコロッケ食べたいな」

「……はいはい。帰るか」

さしだされた手をはとる。
ようやく帰ることを決め公園を出る
そこでばったりオレンジ色の髪の友だちと会った。
寮では彼と同室で気が好く合う。

「あれ。お前とっくに寮を出たのに何してんだ?」

「いっちー!」

手を繋いでいる二人を見て友人は野暮なことを聞いたと笑う。

「お前こそ、何してんだよ。その荷物…どっか行くのか?」

はバツが悪くなるも繋いでいる手を離さない。

「ああ。浮竹さんとこ。泊まりにくればって言ってくれてさ…寮にいてもやることねぇし」

「シロさんのところか…」

はニヤッと笑う。何か思いついたらしい。

「俺もシロさんち行く」

「「え!?」」

「ほら、行くぞー。シロさんともゆっくり話したかったしな!」

はスタスタ歩き出す。
繋いだままのやちるは引っ張られるように歩く。

「ちょ、ちょっと!修ちゃん待ってるッて〜」

「いいから。お前も早く来いって」

「あ、ああ」






中々帰宅してこない息子に修兵は苛々していた。
霊術院に入ってから優秀な成績を収めている
親としては鼻が高いものだが、その分実家に帰ってこなくなった。
寂しさとか色々あるが、今後の話をちゃんとしたいと思った為に帰ってくるよう伝えた。
ただ、自分の言葉じゃ煙に巻かれると思ったので浮竹に頼んで。
そこら辺父親として威厳はなくなっているのだなと情けなく思うが。
後日、休みに入ったら帰ると連絡があったので安堵はしたが。
中々帰ってこない。

「何やってんだよ、あいつは…」

が帰ってくるからと朝から家の中は忙しなかったのに。
ごめんください。と玄関から声がした。
おいおい、息子が実家に帰ってくるのに「ごめんください」なんて挨拶したわけじゃないだろうな。
そんな風に思いながら玄関に向かう。
だがそこにはではない見知らぬ男性が立っている。

「…えっと、どちら様?」

「主人からの文を預かってまいりました。どうぞ」

「主人?」

誰だと思うと、浮竹だとその男は答える。
浮竹は下級とはいえ、貴族でもある。長年浮竹家に仕えている者のようだ。

「浮竹隊長が?」

「では、確かにお渡しいたしましたので」

そういい男は帰っていく。
浮竹ならば地獄蝶でも使って連絡してくれればいいのにと不思議に思う。
だが中身を読んで修兵ががっくり肩を落とした。
呆れた。というのが近いかもしれない。
仕方ないと修兵は家を出る。

「おとーさん!」

「どこ行くのー!」

外に出るとちょうど買い物に出かけていた奥さんと子ども二人が帰ってきた。

「どこかお出かけになるんですか?」

「ああ。バカ息子迎えに行ってくる」

バカ息子と聞き奥さんは「あら」と一瞬驚く。

「いってらっしゃい」

修兵から届いた文を見せられ笑って見送る。
文は浮竹が出したものだが、書いたのはだ。
そこには。


    お父さん。迎えに来てください。
     じゃないと今夜はシロさんちにお泊まりしちゃうよ(笑)


なんてことが書かれていた。

「ぼくもいくー!」

と子どもの一人が修兵の後を追おうとするが母親に止められる。

「ダメよ。お父さんとお兄ちゃん。久しぶりなんだから。ほら、私たちは夕飯の準備をしましょうね」

久々に帰ってくる家族を迎えねばと家に戻っていった。








「照れ笑い」のさらに後日。息子にとってはパパだけでなくやちるも手を差し出してくれた人のようです。
08/03/12UP
12/07/16再UP