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きっと、新しい風が吹く。
それは息子の一言からだった。 「新年の挨拶に俺も一緒に行っていいか?」 そう言われて眉を顰めてしまう修兵。 新年の挨拶というのは各隊の隊長が他隊の隊長たちへ行くものだ。 隊長の在位が長い者ほど己が行くのではなく迎える側となっている。 今年九番隊は隊長がいまだ不在なので副隊長である修兵が赴くことになっていた。 そうなれば下っ端中の下っ端なので各隊へ自分が行くのは必然なのである。 今から一番隊隊長であり、総隊長の山本のもとへ赴くことに緊張してしまう。 そんな中でが一緒になどと言うのことを可笑しく思ってしまう。 「なんだよ、一緒にって…」 「一緒に行った方がいいなぁって思ったから」 「俺のは半分仕事だぞ?」 面白半分でついてくるなと言いたいのだろう。 ようやく世間様に二人が親子だと隠すことなく堂々とできるようになったのはいいのだが。 今回ばかりはどうだろう? 「別に修兵がダメだって言うなら俺一人で行くけどさ」 「なんでだよ」 「シロさんがおいでーって言うから」 「浮竹隊長が?……なんだ、いったい」 通常ならば尊敬できる隊長である浮竹だがことが関わるとそれが少し変化する。 が浮竹に懐きすぎというくらいに懐いているから。 それを思うと少しばかり面白くないのだ。 「十三番隊で新年会ってところか?」 「さあね。でもシロさんに新年の挨拶ってしたいじゃん」 「…いいぞ。俺と一緒ならば連れて行ってやる」 「本当か!やった〜」 素直に喜ぶに苦笑しか出ない。 子連れで新年の挨拶。普通に各家庭にならば問題ないのだが、向かうのは仕事先。 叱られたりしないだろうかという不安は少しあるがまあいいだろう。 「ま。あれだな。行くならちゃんとしねーとな」 ニヤっと笑う修兵だったがは気づきもしなかった。 *** 「新年おめでとうございます。 昨年中は何かとご指導、お力添えをいただき、厚く御礼申し上げます。 本年も心を新たにして頑張りますので、何とぞご指導、ご鞭撻くださいますようお願い申し上げます」 「うむ。隊長不在の中檜佐木はよく頑張ってくれている。何かと不便もあろうが今年も頑張ってくれ」 山本総隊長へ緊張しながらも新年の挨拶をしている修兵。 以前は東仙にただ着いていくだけだったのに。 まだまだ油断ならないのが尸魂界、現世での現状だ。 引き締める為にも以前のことは一先ず頭の隅に追いやることにした。 「して、檜佐木副隊長。その後ろにいる子は噂の主の子か?」 「あ。は、はい。と申します。本人がどうしても昨年お世話になった各隊長方へ新年の挨拶をしたいと言いまして。 ご迷惑になることと思いはしましたが同行を許可いたしました。多少のご無礼はお許しください」 「いや、良い。と申したな。爺の前にきなされ」 「え」 山本の言葉に修兵の方が驚き声を発してしまった。 でも自らのお言葉なのでに行くよう背中を押した。 は修兵よりも緊張した様子はまったく見られず寧ろ堂々としていた。 「新年おめでとうございます」 「うむ。中々利発そうな子じゃな。爺からお年玉をやろう」 お年玉と聞いての顔が嬉々とし晴れる。 遠慮することなく素直に懐から出したポチ袋を貰っている。 「ありがとうございます!」 「総隊長。申し訳ございません」 「いや、よいよい。ほんの少しじゃ」 しっかりと山本から貰ったお年玉をは懐にしまいこんだ。 *** 「てめー…読めたぞ。一緒に来るなんて言った言葉の意味が」 一番隊隊舎から出て各隊へ挨拶回りをしている中。 隣を歩く修兵がジロリとを睨んだ。 「んー?なんのこと?俺は去年お世話になった人へ挨拶しているだけじゃん」 「お前は浮竹隊長に呼ばれているだけだったろうが」 心配だからと言う理由でとりあえず一緒に連れているだけだったが。 それが裏目に出た。 行く隊で隊長たちからお年玉を貰っているのだ。 隊長不在の三・五番隊でも吉良たちからお年玉を貰った。 四番隊では卯ノ花が母親のような微笑を浮かべお年玉だけでなくおせち料理までご馳走になった。 「きったねーよな。普段ガキ扱いするなとか言っておきながら滅茶苦茶ガキっぽさ強調しやがって」 「だって、俺まだまだガキだもん。しょうがねーよなー」 「どこで覚えてきた、そんなずる賢さ」 「修兵からじゃないの?俺修兵の息子だし」 「くっ。こんな時ばかり…」 修兵の息子。なんて本人から言われると殴るに殴れない。 今まで隠し通されてきたことをおおっぴらにしてくれた方がいいと願っていたのは自分の方だから。 でも少し変な知恵がついたのは確かだ。 次は六番隊へと思ったところにちょうど恋次の姿を見つけた。 恋次は副隊長として隊長である朽木白哉のお供をしていた。 「あー恋次ー」 「ん?お。じゃねーか。と、檜佐木先輩」 「とってつけたような言い方すんな…朽木隊長。これからそちらへ伺おうと思っていました」 「そうか」 物静かな男性がよく恋次の話している自分のところの隊長だとはわかるが、初対面なのでいまいち話の中の彼と目の前の彼が一致しない。 恋次はそんなことなどおかまいなしでを見て笑っている。 「お前、珍しい格好してんのな。先輩に着せられたのか?なーんか先輩の親馬鹿もここまで来るとって感じだよな〜」 「格好いいじゃないか」 エンジの羽織、後ろには鷹が刺繍されている。袴をきっちりはいて、ここに来るまでの間 女性死神たちからは可愛いと評判のものだ。 「あれか、現世の七五三みたいっすねー」 恋次は珍しくからかいたいような気分なのだろう。 だが、の頭に白哉が無言で手を乗せた。 「!?」 なでなで。 「た、隊長?」 「行くぞ、恋次」 スッと通り抜けていく白哉に慌てて恋次は追いかける。 「せんぱーい!今夜お邪魔しますからねー」 と一度振り返り恋次が言った。 修兵は白哉の手前来るな!とはいつもみたいに言えずそのまま流した。 「びっくりしたな。朽木隊長のあんな姿初めて見た」 「俺もびっくりした。恋次の話とちょっと違うよな」 でも撫でられて嫌な気分はしない。 そのまま次へ行こうとしたのだがに背中というか頭に突然何かが圧し掛かった。 「う、うわ」 「やだぁ〜君かーわーいーいー。うちの隊長と並べてみたいわ〜」 「乱菊さん。何してるんですか」 ぎゅうっと背後からを抱きしめたのは乱菊だ。 「菊ちゃん、重いし苦しい」 「あら、普通ならば喜んでもらえるのにー」 でも離れる気はないようだ。少しだけ力を緩めた。 「っていうか、修兵はわざわざ息子自慢でもしに来たわけ?可愛い子連れの隊長代理ってもっぱらの噂よ」 「どんな噂ッすか。こいつが浮竹隊長に呼ばれているだけっすよ」 「へぇ。そうなの。今ちょうどウチの隊長も浮竹隊長の所に行ってるわよ」 「じゃあ乱菊さん、こいつ連れて十三番隊へ行ってもらえませんか?俺、まだ行く所あるんで」 「えー!俺も一緒に行く」 「うるせー。これ以上連れて歩けるかっての。お前の野望は俺が打ち砕いてやる」 乱菊が返事する間もなく修兵は瞬歩を使いその場から去った。 逃げたというのが正解だろう。 文句を言っているだろうなと思いつつこの後行く隊のことを思えば正直連れて行きたくないのだ。 十一、十二番隊へは特に。 *** 残されたは乱菊と十三番隊へと向かった。 「俺と菊ちゃんが並んで歩くのって初めてだよね」 「そうねぇ。でも普段とあんま変わらないわね」 サラリと口にしたことには苦笑する。 普段から日番谷という見た目子どもと共に行動しているのだから。 「さっき修兵が言っていた。君の野望ってなに?」 「別に野望ってほどじゃないよー。最初からシロさんに挨拶に行くって約束はしてたもん」 「シロさん?…ああ、浮竹隊長ね。君浮竹隊長と仲が良いんだっけ」 「そうだよ。んで、他にも卯ノ花隊長とかにも挨拶したいって言ったから一緒に行動していただけだよ」 その際、行く先々でお年玉を貰っただけの話だ。 でも少しばかり期待していたので普段なら着たくもない上等な羽織長襦袢袴等を素直に着たのだ。 恋次には七五三と笑われたが、この格好効果は抜群だった。 「お年玉、どのくらい貰ったの?」 「わかんないよ。家に帰ったら確認する。こんな所で広げるわけないだろう」 「そうよねぇ。でもお年玉って親に取られる確率が高いものよ?幼い内は尚更ね」 「うっ…修兵ならそうしそうで怖い」 十三番隊隊舎へ行くと中々に盛り上がっていたようだ。 仲がいい隊だとは知っているが、ここまで盛り上がれるのも凄い気がする。 「松本副隊長」 「あ。朽木。浮竹隊長とうちの隊長は?」 小柄な少女と遭遇した。 彼女のことは知っている。一時期ここに身を寄せていた時に食事の世話をしてくれた死神だ。 少女は乱菊に奥にいると伝えると案内すると歩き出す。 乱菊は酒が沢山用意されていると聞いてを置いて先に言ってしまった。 「朽木?…お姉さん朽木って言うの?」 「ああ、そうだ。朽木ルキアだ。そなたは確か檜佐木副隊長の」 「はい。息子のです。その節はお世話になりました」 ぺこりと頭を下げる。 実は可愛いものが大好きなルキアにとって、の行動に微笑んでしまう。 ただ、少々子どもらしくないなと思いながら。 「さっき、恋次と一緒にいた隊長さんも朽木って言ってたけど」 「恋次と知り合いだったな、そう言えば。その隊長は私の兄だ」 「へぇ」 「と言っても私は朽木家に養子に入った身なのだが…」 少し目線を落とすがすぐさまルキアは顔をあげた。 「兄様には本当よくしてもらって…あ、す、すまない変なことを言ってしまって」 少しばかりこの少年の境遇と自分が似ていることを知りつい口にしてしまった。 だが、は一瞬だけきょとんとするが、すぐさま何か思い出したように頷いた。 「ルキア姉ちゃんがシロさんの言っていた女の子だな」 「へ?シロさん……浮竹隊長か?」 「うん」 あれは七夕の頃だった。 願い事など特にないと浮竹と話した時に、同じ流魂街育ちの女の子の話を聞いた。 あの頃はシロさんが十三番隊の隊長で死神だとは知らなかったから特に気にも留めなかったが、彼が毎日会うと言えば同じ死神であることは多いだろう。 「シロさんがね。もっと我がまま言えばいいのになーって。俺と同じで拾われただけで十分だって顔をしているって」 「浮竹隊長…」 「その頃さ。俺も姉ちゃんと同じだったと思うよ。家族を亡くして一人になった時に修兵が拾ってくれたから。 それだけで俺は幸せで良かった。これ以上何も望むものなんてないって思っていたから」 修兵が新しい場所、もの、出会いをくれた。 それだけで十分で。親子だと口にできなかったのは修兵に迷惑をかけたくなかった。 いつか捨てられてもいいように。 そんなことを口にしようものならばきっと激怒するだろうと想像は付く。 一度捨てられそうになりはしたが、あれがきっかけで今は何を隠すこともなく堂々としていられる。 「さっき、姉ちゃんの兄ちゃんに俺頭撫でられた」 「兄様が?」 「あの人も言葉が少ない人なんだよな、きっと。でも撫でてくれた手は優しかった。だから」 ルキアは目を細め頷く。 「ああ。私も知っている。兄様がお優しい方だと。案ずるな、私も以前ほど悪い方には考えなくなった」 「ならいいや。ルキア姉ちゃん。今年はいい年になるといいなー」 は腕を頭の後ろに組む。 慣れてきたはいいが、この格好はやはり疲れる。 「ああ。俺、結構いい年になるって気がした」 「去年は色々あったけど、今すっげー充実しているし毎日が楽しい。んで新年早々ルキア姉ちゃんとも仲良くなれたし」 「そ、そうか?」 「姉ちゃんもウチに遠慮なく遊びに来てくれよな。恋次なんか今夜も来るって言ってたし」 「しょうがない奴だな、恋次は」 だが、ルキアも遠慮なく伺おうと言ってくれた。 少しだけルキアが修兵の学院時代の話を教えてくれた。 恋次たちほど付き合いはなかったが、彼女も学院時代の修兵の後輩だったらしい。 「おーい。君。遅いじゃないか、待っていたんだよー」 浮竹が前方から歩いてくる。 乱菊と一緒に来たと言っていたのに、中々来ないに痺れを切らして自分の方から迎えに出てしまった。 「シロさん」 「朽木と一緒だったのか」 「そうだよ。ルキア姉ちゃんと友だちになったんだ。あ、新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」 浮竹に向かって一礼する。 浮竹はニッコリ笑う。 「ああ。おめでとう。こちらこそ今年もよろしくな。さあ、早く中へ来なさい。ご馳走沢山用意したんだぞ」 「うん」 「ほら、朽木も来る。今日は仕事はなしだからな」 「は、はい」 二人の背中を押し歩き出す浮竹。 「ところで。二人で何を話していたんだ?随分親しげに見えたぞ」 とルキアは顔を見合わせ笑った。 「シロさんには内緒。俺と姉ちゃんとの秘密だ」 「な、なに?朽木、俺に内緒にするようなことってなんだ?」 「申し訳ございません。こればっかりは隊長にも言えません」 なんてそんな大層なものではないのだが。 ずるいと浮竹は少し拗ね気味になるが、あとでなんとしても聞きだすと意気込んでいた。 「はぁ〜やっと終わった〜」 九番隊副官室。 新年の挨拶回りをほぼ終えた修兵は気疲れでソファへと転がり込んだ。 「お疲れ様です。檜佐木副隊長」 疲れた修兵にお茶を淹れてくれる。 疲れているので余計に心安らいでしまう修兵。 「今日は仕事という仕事はありませんので、お疲れでしたらお早めに帰られても平気ですよ」 とのんびり過ごしたいのでは?とが気を使ってくれる。 「あ、ああ…いや。まだ最後に十三番隊へ行かなきゃならないんだ。もいるしな」 「そうですか」 「その前に少し休憩だ。疲れた…あー腹減ったし、。なんか食わないか?あ、お前が飯まだならの話な」 むくりと体を起こし修兵は淹れてもらった茶を飲む。 「どうだ?」 「あ、ま、まだです。遅くなったけどこれから食べようかなと思ってはいましたけど」 「なら。決まりだな。どっか食いに行くか?」 修兵の誘いには頬が紅潮してしまう。 修兵から単独での誘いは初めてではないだろうか? いつもならばが誘ってくれて修兵がそれに同意すると言う形が多い。 「あ、あの。えっと」 「ん?」 「よ、よろしければここで食べませんか?私おせち料理を少しですが用意したのですが」 「へぇ、食う」 「い、急いで用意しますね」 はテーブルの上に三段の朱塗りの重箱を置いた。 黒豆、だて巻、エビにかまぼこ、昆布巻きなど。それぞれが綺麗に並べられている。 「美味そうじゃん」 「副隊長のお口に合えばいいのですが」 修兵はどれから食べようか迷いながらも一つずつ食べていく。 買ったものではなくちゃんと自分で作ったというに感動してしまう。 「美味いぞ。すごいな、は」 「そ、そんなことないですよ。君に比べたら私なんて」 「そんなことねーって。あいつでも御節だけは作らなかったな」 「あ、意外です」 「面倒臭いとか言ってな」 「だから、今ようやく正月って気がするな」 おせち料理を頬張り食べる姿が意外すぎる修兵。 だが、は滅多に見れないものを見れたと内心喜んでいた。 今年はいいことありそうかな? 二人の正月。息子はほのぼの、パパには新しい風が。
07/01/04UP
12/07/16再UP
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