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きっと、君への。
八月十四日 快晴。 この時期の瀞霊廷はとても忙しいらしい。 らしいと言うのは自身さほどいつもと変わらぬ生活だからだ。 少しだけ違うのは馴染みの死神たちが毎晩疲れた、死にそうだ〜などと大袈裟に振舞っていることだろう。 「修兵ー起きろ。もう飯できているぞ」 ここの家主である修兵もその一人で毎晩遅くまで書類整理に追われているらしい。 「んあ〜あと少しだけ寝かせろ〜」 枕に顔を埋めている修兵。しっかりと枕を掴んでいる姿が情けない。 「駄目だって。遅刻するぞ、修兵、修兵ー」 は動かない修兵を起こそうと必死で何度も修兵の身体を揺する。 「疲れたーまだ寝たりねーんだよ」 「それは修兵が悪いんだろ。夜恋次たちと飲んで帰るから悪いんだよ」 疲れているのならばさっさと帰宅すればいいものを、お互いを労おうとか言って飲み屋によって帰るのだ。 帰宅する頃はすでに夜も更けきっている。 「飲むなとは言わないけど、限度を超すなつーの!ほら、起きろ修兵!」 「あと少しー飯いらねーから」 体格差のありすぎる二人なので、どんな手を使っても修兵は動かない。 身体の小さいは簡単に疲れてしまう。 「飯はちゃんと食う!朝食抜きは駄目なんだぞ、しっかり食え!じゃないと一日持たないぞ」 「お前は俺のオカンかよーうるせー」 「だったら、早く嫁さん貰え!いつまでも修兵の世話なんか嫌だからな俺は」 「な、なんだそれは。お前、俺を見捨てるのか!?」 ガバッと起き上がる修兵。 呆れて口が開く。 「今のままなら見捨ててやる。阿呆」 味噌汁が冷めるとは修兵を置いて部屋を出る。 「見捨てるな、っ!」 修兵も慌てて部屋を出、階段を降りた。 居間に入ると恋次が以上に呆れた顔をしていた。 先に食べていたのだろう、箸を握って。 「檜佐木先輩……」 「阿散井、いたのか」 「毎回その台詞聞きますけど、酔った先輩を誰がご自宅まで運んでやっていると思っているんすか?ったく…」 「そうだぞ。恋次に失礼だぞ、修兵」 「お前は俺じゃなくて阿散井の味方かよ」 「俺、恋次好きだもん。恋次おかわりいるか?」 「おう。頼むわ」 恋次から茶碗を受け取り山盛りにご飯を盛る。 最近気付いたのだが、どうも檜佐木家には恋次専用の茶碗と箸があるらしい。 「、俺にも飯」 「はいはい。ちゃんと食えるか?さっきまで食いたくないとか言っていたけど」 「食う…」 恋次とは対照的に少なめに修兵の茶碗にご飯を盛る。 それを受け取り修兵は食べ始める。 どこか拗ねている様子の修兵にどっちが親だかわからないなあと恋次は小さく笑う。 先ほどの二階での会話も筒抜けで恋次にはちゃんと聞こえていた。 「お前は俺のオカンか!」などと修兵は言っていたが、あれはどちらかというと夫婦の会話だよなと呆れてしまう。 よーく二人の会話を聞いていると本当にそう聞こえるときがある。 「毎日よく飲むよな。別に飲むのは構わないけど、小遣いなくなっても知らないぞ、俺は」 「え!先輩小遣いって?…財布握っているの先輩じゃないんすか?」 「うるせーな」 嫌なことを聞かれたと修兵は顔を顰める。 答えるものかと黙って飯を食べ続ける修兵だが、あっさりとが答えた。 「修兵の給料からは生活費だろ?修兵と俺の小遣い、保険とか払うし、少しずつだけど貯金もしてる」 ちゃんと考えないと給料全てなくなって困るからとが説明する。 「先輩、変わりましたね…いや、これが先輩の為なんすよね」 「なんだ、そりゃあ」 「給料日前に使い切って後輩にたかるなんてこと以前はざらだったのに……が息子で良かったっすね」 涙で前が見えなくなる。なんて仕草をわざとらしく恋次はする。 「阿散井てめー」 「もういいから、二人とも早く飯食えよ。遅刻しても知らねーぞ。修兵は顔もまだ洗っていないんだからな」 はさっさと食べ終えて片付けている。 二人は時計を見て本当にヤバイと思ったらしく飯をかきこみ急いで食べた。 仕度を終えた二人を玄関から見送る。 「いってらしゃーい」 「おう」 二人が歩き出したのを確認しても家の中に入ろうとした。 だが恋次が急に戻ってきた。 「、忘れていたぜ。今日の夕飯どうする?豪華にどっかに食いに行くか?それともやっぱお前が用意する?」 「……は?なんで?」 恋次の言うことの意味がわからずきょとんとする。 「え…だって、今日だろ?先輩の誕生日」 「……誕生日?修兵の?……そうなのか?」 「そうなのかって…知らなかったのか?今日、8月14日は檜佐木先輩の誕生日だぞ」 知らなかった。まったく。 はこくりと頷く。 マジかよと恋次は髪を掻く。 「じゃあどうすっかなあ…てっきりお前が何か準備でもしているかと思ってよ」 「………」 「まあいいや。吉良や乱菊さんとも相談してみっからよ。あとでまた連絡するから」 「うん」 恋次は踵を返す。 修兵が待っていたようで、恋次に文句を言っているのが聞こえた。 今日は修兵の誕生日。 は本当に知らなかった。 修兵から教えてもらうことはなかったし。誕生日という概念がまず頭になかった。 それは自分が流魂街で生まれ育ったからだろう。 生きていくのに毎日必死だったあの頃。誕生日なんてものは考えたことがない。 気がつけばいた。そんな感じだ。 貴族でもない限り祝ってもらうなんて事もないだろう。 以前、日番谷の誕生日とやらはやった。 あれもやちるに言われなかったから知らずに通り過ぎたことだと思う。 「…誕生日。修兵の誕生日かあ…どうしようかな…何をすれば良いのかな?」 日番谷の時を思い出してみる。 あの時は…駄目だ。ただやちると二人でプレゼントを用意しただけだ。 「修兵の欲しいものってなにかな?いつも俺のほうが逆に聞かれるよな」 でも特になくて修兵につまらない思いをさせているなと感じる。 時間的にそんなに余裕がない。 さあどうしよう。 「…あ、こんな時はシロさんに聞こう」 シロさんに聞けばなんでも教えてもらえるから。 はいつもの時間に間に合うように家事をこなすことから始めた。 その間に恋次から連絡があり、檜佐木家に皆でおかずを持ち寄って修兵を祝おうということになった。 それっていつもの飲み会と変わらないのではないかとは思ったのだが。 「シロさーん!」 「やあ、君。今日も元気がいいな」 「あのな、俺、シロさんに聞きたいことがあるんだ」 「そうか。なにかな?」 いつものシロさんとの時間。 公園のベンチに二人で腰掛、シロさんが持ってきたお菓子を食べながら話す。 ゆったりとした時間だ。 「今日、俺の義父さんの誕生日なんだって」 「そうかあ。うん、それで?」 「でね。誕生日会っていうの?それを今夜ウチでやるんだって。でも、俺は何をしていいかわからないんだ」 「うんうん」 「時間もあまりないし、どうしようかなって思って…俺流魂街にいたからあまりそういうのに詳しくなくて」 最近になって知った事のほうが多い。 「前に友だちが誕生日だった時にプレゼントはした。でもその時は他の子とお金を出し合ってさ」 やちるがとんでもないものを選ぼうとしたので、日番谷に呆れられない、日常でも使用可能な無難なものを選んだ覚えがある。 「今日はそこまで余裕もないし。俺、しゅ…義父さんの好きなものとか欲しいもの知らないし」 「なんでもいいと俺は思うけどな。お義父さんは君がしてくれたってだけで嬉しいと喜んでくれるんじゃないかな」 「喜んでくれるかな…」 は視線を落とす。 普段から「オカンか!」などと煩がられていることを思うと。 「俺は前にも言ったね。あれはバレンタインの時か。贈る相手への気持ちが大事だと」 「うん。シロさん言った」 「それと同じだ。お義父さんへの気持ちが大事だよ」 「………俺は、いつも迷惑ばっかかけているし、そんな俺でも育ててくれているし…だから何か贈りたいって思う」 感謝の気持ちを込めて。 シロさんはの頭を優しく撫でた。 「君は素直でいい子だな。よし、シロさんも一緒に考えてあげよう。お義父さんの好きそうなものって何かな」 「……お酒とかよく飲むけど、俺としてはあんま飲んでほしくないからあげたくない」 「飲みすぎは身体に毒だからな」 二人であれこれと考えるが中々いいものが思い浮かばない。 時間だけが過ぎていく。 早めに帰宅して準備とかもしなくてはならないし。 「ああ、そうだ。よくお父さんやお母さんへの贈り物というとアレが有名だな」 「アレ?」 「そう、アレだ」 シロさんはニッコリと笑った。 「檜佐木先輩誕生日おめでとうございまーす!」 恋次の声で始まった修兵の誕生日会と言う名の飲み会。 面子はいつもの人たちばかりで恋次、イヅル、やちる、乱菊に桃。 それに少し怖い顔の七番隊の副隊長さんに眼鏡が似合う綺麗な八番隊の副隊長さんなどもいた。 「ども。ありがとうございます」 主役の修兵が照れ臭そうに礼を言っている。 恋次たちからそれぞれプレゼントを貰っている顔も嬉しそうだ。 さすが副隊長というだけあってプレゼントはどれも高価なものが多かった。 は人の目が気になって自分のプレゼントを差し出すことができずにいた。 台所で大急ぎで用意したそれを眺めながら。 「…なんか渡しづらい………シロさんは絶対喜んでくれるなんて言っていたけど、本当かなあ」 シロさん自身は自分の子からもらえたら嬉しいと言っていた。 「いらないって言われたら、シロさんにあげようかな」 シロさんは嬉しいと言ったわけだし。 居間では酒が入り始めたようで騒ぎ出す声が大きくなっている。 あの人たち、明日の仕事は大丈夫かよと少しばかり心配になる。 でも最初からあまり酒は用意していないの無くなれば諦めるだろうと思いながら台所の柱に背中を預ける。 「誕生日かあ」 あってもなくてもあまり関係のないどうでもいいもの。 でもああやって修兵が皆からい祝ってもらうのをみると少しばかり羨ましく感じる。 自分にはないものをあの人たちは持っているのだなと。 すすすっと柱にもたれながらしゃがみ膝を抱える。 「………」 「どうした、」 「修兵」 足元に影ができたと思ったら修兵が立っていた。 上機嫌な顔がの前に現れる。 「お前は祝ってくれねーわけ?悲しいなあ」 ニッと笑みを浮かべて目線をに合わせるために修兵は屈んだ。 「べ、別にそういうわけじゃねーよ。皆お酒飲み始めたから…」 酔っ払いの餌食にはなりたくないと説明する。 「ちびっこは平気みたいだけどな」 「やちるはそういう席に何度も行っているみたいじゃん」 どうせ自分はまだまだ子どもだとプイッと顔をそらす。 「なんだよ〜んなのいつものことだろ?気にするなよ、食い物なくなるぞ。それにお前がいないとつまんないだろ」 何だかんだ言いながらを可愛がってくれる人たちだから。 「俺はいいよ。修兵の方こそ早く戻れよ。今日の主役だろ?」 「、お前…」 「なんだよ」 「何拗ねているんだ?」 きょとんとした顔の修兵にが顔を赤くして反論する。 「す、拗ねてなんかいねー!」 「いや、拗ねているように見える。俺様を嘗めるなよ?の親父なんだぞ、これでも」 「………」 図星を衝かれては少し頬を膨らませる。 修兵はそれを面白そうに軽く指突付く。 「別にどうもしないけど………修兵にこれやる」 修兵の手を払いのける。 「あん?」 はバンと修兵の胸に一通の封筒を押し付ける。 「なんだよ、これ」 「…いらなきゃ返せ。他の人にやるから」 修兵は封筒を開ける。中から一枚の長方形の紙切れが出てきた。 「………肩たたき券?…」 有効期限は約一年間。 何度でも利用可能の肩たたき券。 「俺、今日が修兵の誕生日だって知らなくて…でも何かプレゼントをあげたいって思ったけど何をあげていいかわからなくて… し、シロさんに相談したら。子どもから貰って嬉しい物だって言うから…その」 段々と語尾が弱々しくなっていく。 やはり修兵にはあまり喜ばれないようなものなのだろうか? 恋次たちが贈ったものに比べれば大したものではないし。 シロさんは気持ちが大事だとは言ったが、流石にこれは自身が無い。 「〜お前かわいいものくれるじゃねーか。お父さんは嬉しいぞ〜」 「ば、馬鹿!なんだよ、突然」 修兵はぎゅうっとを抱きしめる。頭をわしわしと何度も撫で回す。 酔っている。絶対、今、修兵は酔っている!そうとしか思えないとは必死でもがく。 こんな所恋次たちに見られたくない。 でも、ほんわかと胸の辺りが温かい。 修兵は喜んでくれたんだと。 (あ…そう言えば。俺、修兵に物を贈るのって初めてだ) いつも貰いっぱなしだったから。 思わず自分の顔も緩むと思った瞬間に修兵はパッとを引き離す。 「それで?拗ねていた理由はなんだ?」 「そ、それは……み、皆のプレゼントに比べたら俺のは…」 「バーカ。んなことねーよ。俺はお前からのプレゼントが一番嬉しかったぞ。ありがとうな」 「修兵…」 「今度、お前の誕生日の時には……あ」 そこまで言って修兵も気づく。 「そういえばお前の誕生日、いつだ?もうずっと一緒に暮らしているのに知らなかったな」 「お、俺の誕生日……知らない。そんなの覚えてもいないから…」 は修兵から目線をそらした。 修兵は二三瞬きをしたかと思うとニッと笑った。 そのままを担ぎ上げる。 「な、なんだよ、修兵!」 そのまま居間へと直行する。 修兵がを担いできたので恋次たちは一瞬ギョッとするが、酒が入り酔っていたのですぐさま笑いが巻き起こる。 「なにしてんすか〜先輩」 「あらあら君ってば修兵に甘えちゃっているの〜?」 「何言っているんだよ、菊ちゃん!修兵下ろせよ!」 酔った人たちの冗談はきつすぎる。 はジタバタと動くが修兵は動じない。 「大人しくしろって。来年はちゃんと一緒にやろうな、」 「はあ?」 「今、俺が決めたんだよ。お前の誕生日は俺と一緒8月14日だ」 「修兵…」 自分には関係ないと思っていたもの。 あってもなくてもどうでもいいもの。 なのに、今日それが変わりつつあった。 「来年なんて言わずに、今からでも遅くないですよ」 酔いの為に顔が赤く染まっているイヅルが言った。 恋次もそうだと賛同し、今からケーキを買いに行くとまでいいだした。 「うんと甘ぇ奴買ってきてやるよ」 「よぉーし、君の誕生日も祝っちゃうわよ〜」 生まれて初めての誕生日。 修兵と同じ日。 修兵がまた一つ大事な物をくれた日になった。 「。誕生日おめでとう」 「修兵も。おめでとう」 君に会えて良かったよ。 パパの誕生日話。でもって息子も同じ日に誕生日となりました。
06/08/16UP
12/07/16再UP
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