|
ぼくのねがいごと。
七月七日は七夕だ。 織姫と彦星が天の川を越えて年に一度だけ会える日。 まあ、だからと言ってには関係ない。 七夕だからと魚や野菜が安くなるわけもないし。 たまたまその時会ったのが乱菊だったから、余計にそう思ったのかもしれない。 彼女は年に一度だから、どうなのよってきっぱり言い切った。 織姫と彦星の話をは知らなかったので、乱菊に聞いた。 うん。この時点ですでに色々間違っている気がする。 「恋に落ちた二人は、いっつも一緒にいるようになるのよ。仕事サボって」 仕事中の乱菊なのに、今はいいのか?と後ろで日番谷が睨んでいる。 でも気にせず彼女は話を続ける。 「織姫は機を織るのを止めて、彦星は牛の世話を放棄しちゃったのかしらね」 教えてやると言ったわりに、あまり覚えていないようだ。 「それに怒ったのが織姫のお父さんである天帝様…だったかな。とにかく偉い人よ」 「あー今その気持ちすごくわかるな」 日番谷の軽い嫌味も気にせず乱菊はが持ってきた水饅頭をパクッと食べる。 「君、いつでもお嫁に行けちゃうわね〜もう修兵にもったいない〜私のところにこない?」 「馬鹿野郎。が苦労するのが目に見えるだけだ」 「隊長。さっきからやけに突っかかりますね」 「動じないお前もすごいけどな」 「あ。それでね。罰として二人を引き離しちゃうのよ」 「松本……」 マイペースすぎる乱菊。 いつ日番谷がぷっつり切れるかと思うと少し怖い。 「適当に仕事していれば良かったのにねぇ。それで引き離されちゃうんだからさ」 「菊ちゃんがいうと、なんかすごいね」 乱菊はそう?と小首を傾げる。 「で。引き離された後真面目に仕事をしたから年に一度だけ会わせてくれるってわけね」 「ずっとなの?」 「ずっとみたいよ?罰としては十分すぎるかもしれないけど、どうしても会いたいなら天の川を泳いででも行けばいいのよ」 「普通に行き来できない場所にいるんじゃなかったか…」 日番谷は呟く。 「根性見せろって話ですよ、隊長」 「違うと思う」 「織姫彦星はあんなだけど、私らはその晩皆で呑んで楽しめばいいのよ」 「それ普段とどう違うの?」 「星を見ながらってのも乙なもんよ。というわけで今年は修兵んちに決定ね」 「え。菊ちゃん?」 有無を言わさない乱菊の微笑み。 彼女が行くといえば、それはもう決定なのだろう。 可笑しい。七夕の話をしていただけなのに。 「冬獅郎も来るよな?つーか絶対来てくれよな」 「…ああ、行く」 一人に負担がかからないようにと思って。 *** 「ー。笹ってこのくらいでいいのか?」 「何の話?」 夕食の買い物途中で恋次に会った。 彼は自分よりも数倍大きい笹を持っている。 「乱菊さんが、お前んちで七夕祭りやるから笹を用意して飾りつけしておけって」 「菊ちゃん…」 普段の仕事も同じように迅速にやればいいのに。 「このくらいでいいだろ?」 「や…なんか大きすぎないか?どこから取ってきたんだよ」 「隊舎の裏に生えてたからな。隊長に言ってもらってきた」 「へぇ…」 話がどんどん大きくなる。 恋次が縁側のそばに笹をくくりつけて行った。 ただ家の柱だったので、雨戸が閉められないと修兵に殴られてもいたが。 同じように乱菊に言われたのだろう、やちるが沢山の短冊やら飾りを持ってきた。 「もちゃんとお願い事書いてね」 「願い事って…やちる何枚書く気なんだよ」 「これはつるりんたちの分だもん」 確かにすでに記入された短冊がいくつもあった。 面子を見て修兵は呆れた。 ほとんどが十一番隊の隊士たちのものだったから。 「って。なんで人の家庭の笹に吊るすんだよ」 「いいじゃん。沢山あったほうが願いは叶うって聞いたもん」 「だったら、自分のところの隊でやれ」 修兵は面白くなさそうにいうが、ちゃんとその短冊を一枚一枚吊るしているのが笑える。 *** 「やあ。君」 いつもの公園でシロさんに会った。 彼は懐から一枚の短冊を取り出しに渡す。 受け取ったはそれをマジマジと見てからシロさんに問う。 「なに、シロさん」 「うん。君にあげようと思って。もうすぐ七夕だろ?」 「そうだけど。短冊うちにもあるよ。友だちがなんかいっぱい持ってきたし」 元々願い事などに興味がないなので、何を書けばいいのか悩んでしまうのだ。 「でも、その短冊は特別だ。願い事が叶う短冊だからな」 「……どう違うの、他のと」 いまいちピンと来ない。 皆願い事を短冊に書いて吊るすわけだし。 シロさんがくれた短冊は他ものとどう違うのかわからない、普通の短冊にしか見えない。 「心から、本当に願った時に叶う短冊だ」 シロさんは自慢げに言う。 でもには本当なのかと首を傾げてしまう。 「なんで、そんなのをシロさんが持っているの?シロさんが使えばいいじゃないか」 「シロさんはもう大人だからあまり必要がないんだ」 「大人は必要がない…じゃあ、しゅ…義父さんにあげてもだめなの?」 「お義父さんにかい?別にかまわないよ。君がお義父さんにあげたいって思ったならね」 でも、自身に願いを叶えて欲しいなとシロさんはいう。 「俺、願い事なんかないよ」 「なんでもいいんだぞ?あれが欲しいとかこうなりたいとか」 「………」 「あ。大人なシロさんは君が思ったことがわかってしまったぞ」 ポンとわざとらしく手を打つシロさん。 その手は袖の中へと移動し、中から沢山の菓子が出てきた。 「これでも食べなさい」 は沢山ある一つの饅頭に手を伸ばす。 が食べているのをシロさんは見ている。 「俺の知り合いにな。君と同じように流魂街育ちの女の子を養子にした奴がいるんだ」 彼の亡くなった奥さんに似ていたから妹にと言う理由で。 は食べるのを止めてしまう。 「ただの独り言だよ。気にせず食べなさい」 「う、うん」 「訳あって女の子、妹と毎日顔を合わせるんだ。もっと我がままいってもいいと思うのだけどな。 いつもそいつの後ろで小さくなっているんだ。そいつも口数が少ない奴だからな。困った奴だ」 シロさんは後頭部を掻く。 これはシロさんと会うようになってから気づいた彼の癖だ。 「君も同じだ。全部というわけじゃない、彼女と君の立場は似ているようで似ていないからな。 だが、君はお義父さんの子になれただけで満足して、それ以上は願ってはいけないと思っていないかい?」 「シロさん…」 「彼女も拾われただけでも幸せです。みたいに言うんだよ。でも顔はちっとも幸せそうには見えなかったな」 「でも。流魂街で生まれ育ったものから見れば、瀞霊廷の中って夢みたいで…その、ここにいるだけでもいいって。 俺、ここで色んな人に出会って、楽しいことばかりだから…それで十分だって」 シロさんはの頭を撫でる。 「でも、お義父さんからみたら、もっと甘えて欲しいとか思うだろうな」 「………」 「君が喜ぶ顔が見たいって思うよ」 子どもも相手で砕けた口調で話すシロさんは、たまに諭すように大人の顔になる。 シロさんに言われると全部がその通りなのでは?と不思議に思う。 修兵に拾われただけで十分で、願うことなんかもうないと思った。 「なんでもいいのだよ。君が思った通りに願い事を書いてごらん」 「うん。ありがと、シロさん」 「なーに。友だちが寂しそうだとシロさんも寂しいからな」 やっぱりシロさんはすごい人だと思った。 *** 七月七日当日。 夕方になれば皆が来る。 それまでにシロさんから貰った短冊に願い事を書いて吊るさなければならない。 正直書いた内容を誰にも見せたくないってのが本音。 「………」 書きたいと思うことはただ一つ。 きっとそれをシロさんに見せたら、欲がないと言われてしまうかもしれない。 でも、いいのだ。 には、今、それが一番の願い事なのだから。 「……書けた。あ、でもどうしよう…俺届かない……」 見せたくない内容だから、上の方に吊るしたい。 でもの背ではそれが届かない。 梯子を持ってくることもできない。この家には梯子がないから。 すると誰かに頼まなくてはならない。 頼めるのは修兵、恋次、イヅルの三人。 背が一番高いのは恋次だ。 でも頼みやすく口が堅そうなのはイヅルだ。 イヅルはの嫌がることはしない人だから。 修兵には恥ずかしくて頼めない。 布団を干している時に気づいた。 二階から屋根を伝って、笹の天辺近くに吊るせることに。 少し危ない気はするがやってみようと思った。 家の柱にくくりつけた恋次に少しばかり感謝だ。 「うわ。結構斜めだ」 二階から屋根に降りる。 慎重に行かないと屋根から落ちる。 しかも誰かに見られたら、絶対声をかけられ止められるだろう。 笹が伸びているところまでこれた。 吊るすだけの行為が中々難しい。 「こんなでいいかな……」 「!」 下から怒鳴るような声が聞こえて驚いた。 そのままバランスを崩し屋根から落ちる。 「うわ!」 落ちたらどうなるんだろう…怪我で済むかな。 などと思ったが、思ったときにはすでに落ちた後で、修兵に抱えられていた。 「お前、何やっているんだよ」 「え。修兵?」 「びっくりするじゃねーか」 「俺は修兵の声に驚いたけど」 「危ないことしてんな。馬鹿」 を下ろし修兵は軽くの額を叩いた。 ペチっと音がした。 「何してたんだ」 「……別に」 口を閉ざしそっぽを向く。 それがなんとなく面白くない修兵はの両頬をギュッと摘む。 「い、痛い。痛い修兵!」 「ちゃんと言え」 「言う、言うからはーなーせー」 「よし」 手を放すと、摘まれた頬をはさすり恨めしそうに修兵を睨む。 「…シロさんに。願い事が叶うって言う短冊もらった」 「はあ?」 「シロさんが心から本当に願えば叶うって言ったんだ。願い事書いたのはいいけど、誰にも見られたくなかったから」 「俺にも?」 「修兵だけじゃない。皆に」 「だから一人で吊るそうとしたのかよ…お前、そのシロさんに騙されていねーか?」 どこの誰かは知らないけれど、がかなりのシロさん贔屓なのが修兵には面白くなかった。 「シロさん、悪い人じゃねーもん。修兵の馬鹿」 「痛っ!」 向うずねを思いっきり蹴られた。 *** 仕事を早く終わらせたのか、残してきたのかは知らないが、いつもの面子が檜佐木家を訪れていた。 まだ星も見えない明るい時間から。 恋次、イヅル、乱菊、やちる、日番谷。それに日番谷がつれて来た少女が一人。 「あ。桃ちゃん」 「ごめんね、私までお邪魔しちゃって」 「いいよ。大勢いたほうが楽しいし」 何人いようが変わらない気がするし。 日番谷にイヅルと桃が積極的に食事の用意を手伝ってくれた。 縁側では縁台を出してすでに飲み始めている修兵に乱菊。 やちると恋次は甘いお菓子を食べて何やら騒いでいるし。 「七夕関係ねーじゃん」 騒ぎ飲み食いしている大人たちを見て日番谷は呆れている。 しばらくして酒飲み組から離れて居間でたちは食事をしながら話をしていた。 「乱菊さんにお酒飲ませたらもう無理だって」 「ご近所に迷惑かけていなきゃいいけど」 イヅルが心配そうにに問うがは大丈夫だと言い切る。 「前もって菓子持って挨拶に行ってきたし」 「。それは子どものすることじゃないぞ…」 「できれば檜佐木先輩がすることだと思うけど…」 「とりあえずさ。近所の人たちにも良ければ一緒にどうぞって言っておいたし」 「君すごいね」 ちゃぶ台の前にいるのは、日番谷、桃のみだ。 イヅルは乱菊に無理矢理連れて行かれた。 「明日、皆仕事大丈夫か?」 「吉良は確実にダメだな。松本に捕まったから」 「同じ量というか、それ以上飲んでも菊ちゃんのほうが強いからすごいよね…」 過去何度も見ている光景。 この中で、酒で乱菊に勝てる人はいないだろう。 「今更言うのなんだけど。お前ら明日、大丈夫か?」 恋次とイヅルに聞く修兵。 乱菊には聞いても無駄なので省く。 だが、聞かれた二人の顔は赤く目が据わっている。 イヅルにいたっては青くなり始めている。 でも辛うじて堪えているという感じだ。 おそらく、今日日番谷がつれて来た少女がいるからだろう。 修兵にとってはその彼女も後輩の一人だ。 修兵は最初から飲んでいたとは言え、乱菊にペースを乱されることなく淡々としていた。 何度も潰されて溜まるかというところだろう。 それに乱菊に捕まったのはイヅルだし。 ちらっと横を見ると、飲んでもいないのに、楽しそうにケラケラ笑っているやちるがいる。 (なんで酒飲みの席にいるんだ、こいつは) 普段ならたちと一緒にいそうなものを。 別に本人のしたいようにすればいいかと気にするのを止めた。 ふと目に映る大きな笹。 やちるや色んな人の願い事か書かれた短冊に飾りがついている。 まさかウチで七夕なんかをやるとは思わなかった。 これもが来てからだ。 生活習慣が変わったが、悪い気はしない。 風が吹いた。さわりと笹が揺れてヒラヒラと一枚の短冊が落ちてきた。 修兵以外の誰もそれには気づかず。 地面に落ちる前にパッと掴む。 (これって、昼間が吊るしていた奴だよな…) シロさんから貰ったという願い事が叶う短冊。 子ども相手に何してくれてんだと正直思った。 でも欲がないといえるに願い事があるのかと知ってちょっと嬉しかった。 (クリスマスの時は大変だったな) どんなプレゼントが欲しいかと訊ねて帰ってきた答えは「金」「味噌と醤油」だったし。 金に関しては日番谷への誕生日プレゼントを買うためだとか言っていた。 どれも自分の為ではない。 見ちゃいけないと思っても修兵は短冊を見る。 は日番谷たちと喋っているので気づかないし。 そこには 『おとーさんとずっと一緒がいい』 と書かれていた。 (うわっ。なんだ、よ……) 「シロさんが心から本当に願えば叶うって言ったんだ。願い事書いたのはいいけど、誰にも見られたくなかったから」 なんて言っていた。 滅多に自分のことを父親などとは言わない子だから、まさかこう来るとは思わなかった。 本当に願えば叶う短冊に書かれた願い事。 (…んなの、願わなくたって叶うに決まっているだろ…バーカ) 修兵は短冊を懐にそっとしまった。 「修ちゃん、顔赤いよ?」 やちるがキョトンとした顔で覗き込んできた。 「酒の所為だろ」 「ふーん。酔っちゃったんだ」 「ああ。酔った、酔った」 修兵はパタパタと手で顔を扇ぐ。 「一生の願い事だな。しかも破られる事のない…」 嬉しくもあり、少しばかり切なくもなった修兵だった。 パパよりシロさんが目立つwというか、息子はもっと我がまま言えたらいいのにね。
06/07/07UP
12/07/16再UP
|