大好きな○○へ




ドリーム小説
二月に入ってすぐのことだった。

姉ちゃん?何してんだ」

見知った女性が店内のある箇所でうろうろしていたのでは後ろから声をかけた。

「ひぃ!」

身体いっぱいで驚きを表現されてのほうも驚いてしまう。

「ね、姉ちゃん?」

「あ、あは。君。こんにちは」

勤務中ではないのだろうか?死覇装に身を包んだ
を見て慌てて笑顔になるも、からすれば怪しいとしか思えない。

「なぁ、姉ちゃんも買い物か?俺も夕飯の材料買いに来たんだ」

「う、うん。一応、私も夕食の材料を…」

「…それが夕飯?いくら甘いもの好きでも俺は飯として食わないなぁ」

「え?あ、あー!ううん、これは見てただけ!見てただけよ!」

の後ろに並ぶは沢山の菓子の山。
主にチョコレートだ。

「そ、それより。君は今日の夕食何にするの?」

「んっとね、里芋が安かったから煮付けにして、アサリの味噌汁にほうれん草の胡麻和えだろ」

「す、すごいね。私よりしっかりしたメニューだね」

かごの中の物を見ながらは指を折る。

「だって、修兵にちゃんとしたもの食わせないと困るじゃん。あいつが稼ぐんだから」

「ふふっ、なんか副隊長のお嫁さんみたい」

「えー俺、旦那にするならシロさんみたいな人がいいー」

冗談で言ったことなのに、は嫌がる様子もなく逆にしれっと答える。

「シロさん?君のお友だち?」

「うん。修兵よりオジサンだけど、すっげーいい人。んで謎な人」

「ふーん。君、その人にお菓子貰ったからってついて言っちゃだめよ?」

「………」

視線をそらす

「あーその様子じゃすでに貰っているね?」

「だってシロさんの袖の中から沢山出るんだ。でもシロさんは悪い人じゃないぞ」

「はいはい。でも副隊長にあまり心配かけちゃだめよ?」

「うーん。俺の方がアイツを心配しちゃうよ?」

「あはは、仕事中の副隊長に心配することなんかないわよ、大丈夫」

「そうかな〜」

しばらくと話しこんだが、勤務中と言う事を思い出したは慌てて隊舎に向かって走って行った。
結局彼女は何も買いもせず、何しに来たのか不思議に思うだった。



***



「ねー君。知ってる?現世ではもうすぐバレンタインなのよー」

日番谷から教えてもらった秘密の抜け道を使って十番隊の隊首室にいた
乱菊がニコニコ笑み近づいてき、の隣に座る。
日番谷はちょうど席を外してしまっている。

「ばれんたいん?何それ」

「うふふ〜現世ではね、2月14日に女性が一番好きな男性にチョコを贈るって習慣があるのよ」

「この前クリスマスって言うのがあったばかりだよね?」

「あれはあれ、これはこれ」

「菊ちゃん楽しそう。菊ちゃんは誰かにチョコをあげるんだ」

「勿論。隊長でしょ〜恋次にもイヅルにも修兵にもあげるわよ。あ、君にもあげるわね」

可愛い〜と言いながらの頭を撫でる乱菊。

「え、そんなにあげていいの?だって、一番好きな人だって…」

「あ〜私は義理よ、義理チョコ。お世話になっている人に贈るって言う意味もあるのよ」

「ふーん」

なんかよくわからない。
だが、お世話になっている人に贈ると言うのはなんかいいなと思った。

「それは女の人だけからなの?俺もチョコあげたい」

「あら、誰に?誰に〜?」

ニマニマしながら乱菊はの頬を軽く突っつく。
は少し頬を赤くしながらその手を払う。

「菊ちゃん、止めろって」

「ごめんごめん。別に男性からでもいいんじゃないの?で、誰、本命は。あ〜やちるかしら?」

「やちるじゃないよ。それに俺も…義理チョコっての?お世話になってる人にあげたいの」

「まあ君の年齢じゃまだ早いわよね、本命ってのは」

「でさ、チョコレートをあげるだけでいいの?お店に売ってる奴で」

お菓子売り場に並んだソレ。

「そうねぇ、それもいいけど、手作りする子もいるわよ」

「菊ちゃんは?」

「私はそんな暇ないから買った奴だけど」

「ふーん…手作りかぁ、その方が金かからないよな」

おはぎを作れてしまうだ。
菓子ぐらい簡単。
なのだろうか?

お世話になっている人として、恋次にイヅル、シロさんにもあげたい。
日番谷や目の前にいる乱菊にも。
にもあげたいし、やちるも甘いもの好きだから食べそうだし。
あ、あと、この前面倒をかけてしまった卯ノ花隊長さんにも…。
それで、やっぱり義父である修兵にもだ。

でも、息子からって変じゃないか?
娘ならともかく…。

色々乱菊に訊ねるが日番谷が戻り、乱菊が逆に仕事に戻ったので話は終わった。



***



「シロさん、バレンタインって知ってる?」

いつもの公園のベンチ。
シロさんと彼が持ってきた焼き芋を食べながらは話を切り出した。

「ん?現世での流行ごとだろ?瀞霊廷内でもここ数年騒いでいるな」

「そうなんだ。じゃあ俺が知らなくて当然だな」

何せ、去年はそれどころじゃなかったし。

「それがどうかしたか?」

「うん。俺も皆にチョコあげようかなって思ったから」

「へぇ」

「義理チョコって言ってお世話になってる人にあげるんだって」

「あぁ、義理か」

「シロさん、去年貰った?」

シロさんは、昨年はどうしていたか思い返す。

「貰った気がする」

「は?なんで気がするなの?」

「んー去年の今頃、俺は風邪をひいて寝込んでいたからな」

笑顔で言われてしまい、は少し顔が引きつる。
翌日になって部屋の前に沢山お菓子が置いてあった。
それがどうもバレンタインの贈り物らしい。

「すごいな、シロさんは」

「でも一人じゃ食べきれないからな、皆で分けた」

「ふーん」

は足をぶらぶらさせ目線を下に移す。

「あのさ。父親にあげるって変?」

「お父さんに?君が?別にいいんじゃないか?」

「気持ち悪くない?だって元々は女の人からの行事なんだろ?」

乱菊も別にいいんじゃない?って言ってはくれたが、基本は女性から男性へが主流らしい。
しかも愛の告白もつくものらしいのだ。
だから本命と義理とちゃんと分けなさいねとまで言われた。

(別に俺、本命いないぞ?)

と首を傾げてしまったが。

「そうでもあるが、要は贈る相手への気持ちが大事だろ?君はお父さんに何故あげたいって思う?」

「んー…俺のこと拾ってくれて、一生懸命父親やってくれてるし…」

自分からこの話しをするのは初めてだ。
友だちである日番谷にやちるでさえ言ってもいない。
知っているのは恋次とイヅルのみ。
それも、修兵が二人に自分を紹介したからだ。
シロさんに話せたのは、彼が修兵を知らないからだ。
いや、自分が誰の世話になっているかを言っていないから…。

それに、なんとなく。
この人には言っても平気な気がした。

君は養子だったのか」

「うん。俺…元々流魂街の生まれだから」

「そうか」

シロさんはそれ以上聞かない。

「だったら、素直に感謝の気持ちを込めて贈ればいいだろ」

「…うん」

は俯いたままだが頷いた。
そしてパッと顔を上げシロサンに向ける。

「あ、俺ね、シロさんにもチョコあげる。友だち皆に!」

「俺にもくれるのか?嬉しいな」

「俺、ここで生活するようになって沢山友だちできたし、楽しいこといっぱいだからさ」

「そうか。良かったな」

それを作ってくれたのは修兵だ。
だから、ありがとうの気持ちを込めてチョコを贈ろう。



だとすると、修兵に本命チョコをあげると言う事なのかな?



***



「ん〜どうしよう〜」

は再び同じ場所でチョコを睨んでいた。
チョコの前で唸っていると言うのが正しい。
もうすぐ現世ではバレンタイン。
ここ数年、死神たちの間では現世でのイベントが流れ込んでくる。
女性はそう言うものに目ざといから、あっという間に我も我もと広がっていく。

も今年こそは!と決めていた。
自分が所属する隊の副隊長である檜佐木修兵にチョコを贈ろうと。
去年、一昨年は勇気がなくて渡せなかった。
だが、今年は仕事の関係や修兵の親戚だという少年と出会ったおかげで接する時間が多くなり以前よりは楽に話せるようになった。

だから今年こそは!と思っていたのだが、ある一言により中々手が出ずにいた。
それは

『逆に修兵は甘いもの嫌いなんだ』

渡そうと思った相手は甘いものが嫌いなんだそうだ。
だから渡しても食べてもらえるか不安で。情報源が彼の身内からなので本当なのだろう。

姉ちゃん、また何やってんだ?」

「うわあ!」

「ね、姉ちゃん、驚きすぎ!」

「あ、君。ご、ごめん」

買い物カゴを持って仁王立ちしている少年。

「この前もここにいたよな…あ、姉ちゃんも誰かにチョコをあげるんだな」

「う、うん。一応」

「いっぱいあるんだな。ふーん」

は普通の板チョコ一つ手に取り少し眺めた後に数個をカゴにいれた。

君、チョコどうするの?」

「作る。んで友だちにあげるんだ。恋次とかイヅルに」

「え、君が?」

「うん。菊ちゃんにバレンタインってのを教えてもらった。だからお世話になってる人にあげる」

「て、手作りなんだ…すごいね」

この子ならば自分よりすごいものを確実に作る。そんな気がする。

姉ちゃんは作らないの?買うのもいいけど作った方が安いと俺は思う」

「え、私作れないよ」

「下手なの?」

うわっ。ズバッと言ってくれる。でも否定できない。

「じゃあ俺と一緒に作る?台所貸してあげるよ」

「え、えーど、どうしようかな…って君んちってことは副隊長の御宅だよね」

「うん」

なんかそれは…どうだろう?
渡そうと思っている相手の家で作り、さらに身内の子と一緒に作ると言うのは。
きっと一緒に作るというより、少年から教わると言うのが正しい気がする。

でもそれもいいかなと思ったのだが、の顔が暗くなる。
前に聞いた一言が引っかかっているのだ。

「どうしたの、姉ちゃん」

の顔を窺う。

「う、うん…あのね。チョコを渡したくても受け取ってもらえないかもって思って…」

「え、そう言うものなの?チョコ貰えるって普通嬉しいじゃん」

は微苦笑する。

「中には嫌いな人もいるでしょ?それに…意味が意味だから受け取らないって人もいるだろうし…」

いらないってつき返されたら怖いのだ。
義理チョコです。と自分の気持ちを偽り渡すなんて無理だ。

「くれるって言うんだから、普通受けとるだろ?俺、さっきあげる人たちに言ったら貰ってくれるって」

君と私とでは意味が違うから」

「………あ…姉ちゃんは一番大好きな人にあげたいんだ」

の一言にの顔が赤くなる。

姉ちゃん、好きな人いるんだ…誰だろ?…修兵だったらいいなぁ…あ)

少しばかり胸が痛んだ。
修兵のこと好きになって欲しいって気持ちと。
もし二人が上手くいった場合に自分が感じる寂しさ。

自分は邪魔なんじゃないか?

そう思う。

のこと、正直は好きだ。
でもその好きは恐らく、自分が修兵や恋次たちに思う好きと同じだと思う。
一緒にいても苦にならない人。

この人が家族だったらいいなと思える人。

君?」

「ううん。なんでもない」

いいなと自分は思ってもの気持ちはにはわからない。
他の誰かのことを好きかもしれないし。
もっと言うならば修兵の方がどうなのかわからない。
が修兵の家に住むようになってから、特に連れてくる女性はいない。
やちるや乱菊が一方的に遊びに来るくらいだ。
後は恋次とイヅルが来る程度だし。

「渡すだけでもと思うんだけど、食べてもらえるか不安なんだ。あ、ごめんね、君に変なこと言っちゃって」

「いいよ、別に。俺、他には何もできないから、聞くことしかさ」

「ありがと。あ、私もう行くね」

「う、うん……」

は踵を返す。
このままでいいのか迷うが、シロさんに言われた言葉が浮かんだ。
の袖を掴んだ。

「あのな、シロさんが言ってた。贈る相手への気持ちが大事だって…きっと相手にだって伝わるよ…だから、姉ちゃん頑張れ」

小さな少年だけど、伝えようとする気持ちは大きく感じる。
は励ましてくれたことが嬉しく大きく頷いた。

「うん。頑張る」



***



二月十四日 夕方。

「ただいまー」

「お帰り、修兵……あれ、手ぶら?」

玄関までわざわざ出迎えてみれば、修兵は特に荷物らしい荷物は持っていなかった。

「なんだよ、悪いか?」

「だって、恋次が。今日は、修兵はいっぱいチョコ持って帰るって言うから期待してた」

「…チョコレート食いたかったのか?」

「うー別に。俺自分で作ったし」

修兵は一瞬変な顔をしの頭を撫でながら中へあがる。
その手を振り払う

「なんだよー」

「お前、寂しいことしてんなぁ。自分で作って自分で食ったのか?」

そのまま居間に行き、ちゃぶ台の前にどっかり腰を下ろした。

「違うよ、皆にあげたんだよ。恋次たちに」

朝から色んな所に行った。
恋次たちならば言えば来てくれるだろうが、今回ばかりはが手渡しに駆け回った。

「へぇ」

「皆喜んでくれたぞ」

「ふーん」

ちゃぶ台に肩肘を乗せて少し唇を尖らせる修兵。

「俺には?俺もらってねーぞ」

「修兵は甘いもの嫌いだろ?」

「そ、そうだけどよ…」

自分だけ貰えないっていうのが面白くない。

「それに修兵はお姉さんたちから沢山貰うだろうなって思ったし」

「アレは…全部分けた。あんなの俺一人で食えねぇからな」

本当は失礼なのだろうが、食えないものは食えない。
だから男性隊士たちにあげてしまった。

「お姉さんたち可哀相」

はじと〜ッと修兵に目を向ける。

「うるせ。しょうがねーだろ」

修兵はの鼻をつまむ。

「いてぇぞ、修兵!」

つままれた鼻を軽く摩りながら修兵を軽く睨む。
でもすぐさま、ちゃぶ台の上にごそっとラッピングされたものを置いた。

「なんだ、これ」

「俺が皆から貰ったチョコ。すげーだろ?」

「…おぅ」

「これがやちるで、菊ちゃんに卯ノ花隊長にも貰った。
あとね、冬獅郎のところにいたお姉ちゃんにも貰ったし、シロさんもくれた。んで隣の家のおばちゃんに、魚屋のお姉ちゃんにも」

数字的に一桁だが子どもが貰うにしては中々なものだ。

「あと、これが姉ちゃん!」

からもか?」

って名前に反応を見せる修兵。

「うん…姉ちゃん渡せたかな…」

「だ、誰に?」

ちゃぶ台に身を乗り出す修兵。

姉ちゃんの一番大好きな人。姉ちゃん渡そうか迷ってたし」

「………」

修兵は突然立ち上がる。

「どうした?」

「着替えてくる。飯の用意できてんのか?」

「うん、ほとんどできてる」

「そっか」

そのままスタスタと階段を上がり二階の自室へ行ってしまった。




「これ…からだよな…」

スッと懐から取り出した青い包装紙に包まれた薄型の箱。
沢山の部下が自分にと色々なものを渡しに来たがほとんどを受け取らないようにしていた。
でも副官室の机の引き出しに控えめに置いてあったソレ。
誰だと思いながらも、カードも一緒についていて見慣れた字で



いつもお疲れ様です。
あまり無理しないでくださいね。



と書かれていた。
彼女の字は自分よりも綺麗で涼しげな感じをするから良く覚えていた。

からだったら…嬉しい…な」

差出人不明だけど、そんな気がする。
いつもならばそんなものは気味が悪いとあっさり処分してしまうが。

修兵は思わず笑んでしまう。

「しゅーへー」

パーンと勢いよく襖が開いた。
声と音で驚く修兵。
持っていたものを慌てて懐にしまう。

「な、なんだ!ノックぐらいしやがれ!」

「襖にノックなんかしてどーすんだよ。なんだよ、まだ着替えてないじゃん」

「今から着替えるんだよ」

「ふーん。まぁいいや、これやる」

「?」

修兵の前に袋を差し出す

「一応、俺から。修兵へ感謝の気持ち。修兵でも食える甘さだと思うぞ」

…」

「ん」

押し付けるように修兵に手渡しは部屋を出て行ってしまった。
トントントンと階段を降りる音を残して。
袋の中には丸や四角、三角に花や葉っぱの形のチョコが入っていた。
修兵は一つを口に放り込む。

「…やっぱ甘ぇな…」

それでも、もう一個続けて食べる。

「でも、美味いよ、

感謝の気持ちだなんて言われたの初めてだ。

「いいもの二つももらっちまったなぁ〜」




一月後の14日、どんなお返しが欲しい?








バレンタインの話。
大量にもらったならば、食べるのに困るから分けてしまう。そんなところかな?
2話だったのを、1話にまとめました。
06/2/11UP
12/07/16再UP