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空色の風。
「ダメだ。私はまだ弱い…」 そう感じている。 深夜の来訪者と死神たちの戦いを目の当たりにして思ったことだ。 死神たちですら、無傷というわけではなかった。 今の自分では力不足だと言うのが否めない。 「だったら、悩むだけ無駄だ」 は立ち上がった。 「日番谷君!お願いがあります!」 の家に下宿している十番隊隊長。 は彼に思いっきり土下座をしている。 「な、なんだよ。…」 「日番谷君が一番いいんだけど、誰か私に稽古をつけてくれる人紹介してください!」 「あ?」 は自分の考えを告げる。 尸魂界では彼女を含めた死神代行組もこれからの破面たちとの戦いで協力を求めるだろう。 それを思えば彼女の申し出は悪くはない。 だが。 「なんで、俺なんだよ」 「だって、身近にいる隊長って日番谷君だし…」 の攻撃パターンを考えると十一番隊の斑目一角が一番相手として都合がいいのだが。 「…あ、でも、忙しいよね。こっちに出た虚退治とかもあるし…だから都合のいい人でもいれば」 「……わかった。少し待て」 相手を探してやると日番谷は言った。 「誰でもいいのか?」 「できれば剣術を得意とする人がいいかな」 「わかった」 少し俯いた。 「…あと…」 できれば、これはして欲しくないことだ。 「迎えに来てやった」 「!!?」 夕食後、部屋で寛いでいたの前に現れたのはルキアの兄である朽木白哉だった。 突然だったので、ポカンと口を開けてしまう。 「ひ、日番谷君?」 「誰でもいいと言ったのは、お前だろ?」 の部屋で同じく本を読んでいた日番谷。 「やー言ったけど、びっくりした。あ、えーと……朽木さんのお兄さん」 白哉の目が微かに動きを見る。 そういえば、尸魂界に居たとき、あまり接点のない人だった。 どうすりゃいいのだろうか? てっきり、十一番隊の人が相手かと思ったのだが…。 しかも隊長自ら来てくれるとは。 「よ、よろしくお願いします!」 は白哉に向けて深々と頭を下げた。 「と、とりあえず…どうしようかな。迎えにってことは向こうでってことですよね?」 「そうだな…」 「じゃあ、えーと仕度を…」 「何も用意する必要はない。こちらで全て用意しよう」 つまり己の身一つだけで来いと。 「」 が呼ぶと体の空けた秋田犬が出てきた。 「この子と行きます。この子は私の大事なパートナーですから」 は日番谷の方を見る。 「あとは…」 「親父さんたちのことは任せろ。上手く処理しとく」 記憶の操作だろうか? でも仕方ないのだ。は日番谷に後のことを頼んで白哉の空けた扉を潜った。 *** ここ最近…。 どうも見知った霊圧を感じる。 近くで感じるようで、遠くにいるような。 手が届きそうだが、掴む事のできない感じ。 懐かしいと感じるほど月日は経っていないのだが、そう思うのは寂しいと思っていたからだろうか? 「ぼんやりとした感じだ」 雲を掴む感じ。 浮竹は一人茶を飲みながらそんなことを考えていた。 「浮竹ぇ〜お邪魔するよー」 「京楽。どうした?」 「最近少しは休んでいるか気になってね。空いた穴を埋めようと頑張っているからさ」 隊長三人が抜けたこと、三番隊と九番隊については副隊長が隊長代行を勤めているのでなんとかなっている。 だが、それでも完璧に埋まることはない。 それに十番隊など一部席官が現世へと赴いている。 忙しいのは変わりないのだ。 浮竹の性格上、普段病で寝ていた分今動ける時に頑張ろうと人の倍働こうとするだろう。 たまにこうして見ておかないとぶっ倒れてしまう。 「まあ、ぼちぼちだな。ちょうど休憩していたところだ」 「そうかい。あ、徳利最中持ってきたよ、食べようじゃないの」 「すまないな」 出した菓子に浮竹は京楽の茶を用意する。 「まだまだ嵐の前の静けさってところかね…」 「………かもな」 「あ、そうだ。君はもう会ったかい?」 「誰にだ?」 「あれ?知らないのかい?ちゃんだよ」 「は?君?君がどうしたんだ?」 会ったなんて言い方されて少々焦る。 まさか、死んでしまってこっちに来たという訳じゃないだろうな。 「あれぇ。てっきり君ともう会ってるかと思ったよ」 パクリと徳利最中を食べながら惚ける京楽。 「こっちに来ているのか?」 「ああ。少し前からかな…僕は会ったけど」 「………」 言わないほうが良かったかなと京楽は軽く舌を出す。 「少し前から、それらしい霊圧を時々感じてはいたのだが…」 まさか彼女だとは思わなかった。 「白哉君の所にいるよ、彼女」 「白哉の?……なぜだ?」 「自分で確かめてくれば?」 「…それが一番早いか」 居るのに会わない。 会いに来てくれない。 なぜだろうか? *** が尸魂界に来て半月も経つ。 毎日白哉との修行が続く。元々厳しい人なのだろう、容赦なく相手をしてくれる。 「もっと、もっと鋭く、もっと精確に」 今は霊力をより精密に操作する修行をしていた。 の力は己の霊力を物質化できるといえばいいだろうか? の魂との魂魄が同化している今は、を自在に様々な者に変化させることができる。 だが、今はを通じずに己の力だけでそれをより高めようとしているのだ。 死神たちが使う鬼道に似たような感じではあるが。 ただ、この修行中々疲れる。 毎日霊力が空になるくらいまでやっているのだ。 「イメージ。しっかりとイメージして…」 もし上手く行けば、と共にしたとき、かなりレベルアップできるはずだ。 「長く、硬く……鋭く…」 斬魄刀を抜いた白哉がの前に現れる。 「そのくらいでいいだろう。全霊力、最高強度の刃で私に向かってくるがいい」 「……はい」 は霊力を高め始めた。 「……すごい、ちゃん」 「ああ…」 その様子をルキアと織姫が見ていた。 彼女達はが来た少し後に同じく修行の為にやってきた。 織姫は戦う力を持たないために浦原から戦列を外された。 ルキアは織姫と一緒に戦おうと言ってくれたらしい。 だが運良く壊れてしまった椿鬼が修復されたので、尸魂界で修行に励んでいた。 も来ていることを知った二人は様子を見に来たのだが、話しかける暇もないほどだった。 「も頑張っている。我々も負けてはおられんな」 「うん!」 ルキアを救うために尸魂界へ来たとき、は自分が役立たずだと酷く落ち込んでいた。 それを浮上させてくれたのは浮竹だったが、今は彼に頼らず自分でなんとかしようとしている。 藍染たちとの決戦は冬になると山本総隊長から告げられ、それまでになんとか力をより高めようとしている。 自分でできることは自分でやると決めたのだから。 「戻るぞ、井上」 六番隊の修行場を後にする二人。 「そういえば…」 「どうした?」 「ちゃん……ううん。なんでもない」 織姫は首を横に降る。 このことは自分が余計な口出しをすることではないのだから。 (ちゃん、今必死だもんね。浮竹さんには甘えられないのかな) *** さらに七日経った。 は白哉との修行で確実に力が得ていると確信している。 だがそれに慢心してしまうことなく、日々修行は続けている。 最初に比べたら生傷は減っている。 相変わらず霊力0になるまでやり、夜にはぶっ倒れている。 今日も朝から頑張るぞ!と張り切って修行場に顔を出すと、今日は休みだと言われた。 今日まで三週間ほど休みナシで修行し続けたために、体を壊しても可笑しくない状況なので 一日ではあるが、体を休めろと白哉に言われた。 しかも一日霊力を使うことを禁止されてしまった。 「といっても、やることないよねー」 忙しなく働いている死神たち。 誰か知り合いでもいて、遊んでくれればいいのだが、皆忙しそうだ。 そんな彼らに遊んでと声をかけるほどは無恥ではない。 適当にと瀞霊廷内を歩き、適当に見つけた場所で休むことにした。 「ふわぁ…寝ちゃいそう…」 野原のような場所に出た。そのままごろりと体を横にする。 思っていた以上に体が疲れていたようだ。 毎日の睡眠では回復が追いつかないようだし。 「…そういえば、どこかに傷を癒せる温泉があるって黒崎が言ってた…っけ…」 そこを探してみるのもいい気がする。浦原と夜一がよく修行した場所らしい。 だが、今は睡魔には勝てない。 自然に瞼が落ちてしまい、は寝てしまった。 「こんな所にいたのか……やあ、久しぶりだな」 浮竹はの霊圧を頼りに彼女を探しに来た。 寝ているの隣に腰を下ろし、着ていた白い羽織を彼女にかけた。 京楽に言われて以来、すぐにと会おうとはしなかった。 日番谷が彼女の家にお世話になっていると聞いたので、先に日番谷に連絡を取ったのだ。 『ああ。誰か稽古をつけてくれる相手が欲しいって言われたからな。朽木隊長にお願いした』 なぜそこで白哉なのか日番谷の人選がわからないが、は浮竹を頼ろうとはしなかったらしい。 単に体が弱いからと気遣われているからだろうか? 『それと、アンタには黙っておいて欲しいと言われた』 「俺には?……そうか」 頼られないと言うのは少々堪える。 『詳しい事はそっちでに聞け』 日番谷にはそう言われてしまう。 それからすぐにルキアと織姫が来た。 二人はが先に来ていたことを豪く驚いていた。 それから何日が過ぎてもが浮竹の元を訪れる事はなかった。 前にも彼女は悩むと一人で抱え込むことがあったが、今回はそれとは違う気がする。 だからあえて待ってみた。 待ってみて、今日白哉が珍しく隊首室にいたので理由を聴けば、の修行は休みだと言われ待つつもりが我慢できなくて自分から彼女を探しに出てしまった。 「君のその姿も久しぶりだな…」 死覇装姿の。 白哉が用意したのだろう。 「………」 の頬に掛かった髪をそっと浮竹は払う。 寝ているの表情を見ると悩んでいるようには見えない。 強くなったのだなと思う。 「………?」 どのくらい寝たのだろうか? ちっとも寒さを感じず起きるのが億劫になっている。 だが何かが自分の体にかけられている事に気づき薄っすらと目を開ける。 「おはよう。君」 するとにっこりと笑った浮竹の顔が目に入った。 「う、浮竹さん!!?」 飛び起きるとパサリとかけられたいたものが落ちる。 「あ、隊長羽織…」 「風邪を引くと思ったから…その…よく寝ていたからな」 「あ、ありがとうございます」 は慌てて羽織を浮竹に返そうとするが、自分が毛布代わりにしてしまったものだ。 洗って返すとかしたほうがいいのか、手が止まる。 「君?」 「洗って返した方がいいのかなと…」 「あははははっ。いいさ、別に。汚れたわけでもないしな」 浮竹はそのまま羽織ってしまう。 「あの…温かったです」 「そうか。それは良かった」 浮竹の前で正座をしてしまう。 すぐ会える位置にいたのに、自分は浮竹に会いに行こうとしなかった。 なんとなく顔を会わせづらい。 「君が毎日修行を頑張っていると聞いたから。邪魔をしちゃ悪いと思って待つことにしたんだ」 「え?」 「だけど、白哉が今日は休みだ。なんて言うじゃないか、我慢できずに探しに来てしまったよ」 浮竹は申し訳なさそうに後頭部を掻く。 ああ、彼の癖だ。はなんとなく安心してしまう。 「浮竹さん、元気で良かったです。毎日忙しいだろうなって思ったし」 そこまで言って、は小さく声を漏らした。 「?」 「浮竹さんに手紙貰ったのに、返事を出していなくて…すみません」 「ああ、あれか。届いたんだな。読まなくても、捨ててくれても構わないと思ったからな」 日番谷にそう言って届けてもらったのだ。 だがは日番谷がそうは言っていなかったと告げる。 「…気を使わせちまったかな」 「日番谷君に何度も返事を届けてもらおうとしたんですけど、中々上手いこと書けなくて」 日番谷はいつでも良いと言ってくれた。 そうしているうちに自分の方が尸魂界へ来てしまったのだ。 「君が元気ならばいいさ」 浮竹はの頭をくしゃりと撫でた。 「でも、あのままじゃいけないって思ったから」 は急に神妙な顔つきに変わった。 「君…」 「自分のできる事はしようとは思っていました。でも今のままじゃ私には力が足りない」 大事な人たちを護るのに、役立たず、足手まといにはなりたくなかった。 弱いままでいたくない。 弱いのならば強くなればいい。 一護も茶渡も毎日強くなるために修行をしているらしいし。 「私一人では短期間で修行するには無理があるので、日番谷君に頼んじゃいましたけど」 誰か修行を見てくれる人、相手になってくれる人はいないかと。 「それで白哉か…」 「あれは驚きました。まさか朽木さんのお兄さんが引き受けてくれるとは思っていなかったので」 できれば十一番隊の人にと思っていたくらいだ。 「俺じゃダメだったのかい?」 これでも護廷十三隊の隊長だ。 「ダメってわけじゃ…ただ」 「ただ?」 「浮竹さんは……私のこと甘やかすと思ったから、止められちゃうかなって思ったし」 参ったと浮竹は頭を掻いた。 「止めやしないと思うが…甘やかす…だろうか?」 「いや、あの…あとは…」 の顔が少しだけ赤くなる。 「私が、きっと甘えちゃうだろうなって…思ったので」 「そうか」 浮竹は笑った。 確かに、彼女は部下ではない。自分が守ってやりたいと思う人だ。 甘やかしはしなくても、どこかで手を抜いてしまう可能性はある。 確かに白哉は適任かもしれない。 「だったら」 「うわっ!」 浮竹はをひょいと抱き上げ自分の膝の上に乗せた。 「う、ううう浮竹さん!!?」 慌てふためく。神妙だった顔つきがあっという間に崩れる。 「今日は休みなんだろ?今日ぐらいは思いきり甘えてくれ」 の肩の上に浮竹は顎を乗せた。キュッと後ろから抱きしめられて異常に恥かしい。 でも、浮竹に抱えられて温かい。 ストンと肩の力を抜き浮竹に体を預ける。 「浮竹さんは大きいですね」 「普通じゃないか?」 「大きいですよ。優しく包んでくれますから」 色んな意味で。 「今日はいい休養が取れました」 「まだまだ時間はあるぞ?たっぷり体を休めるといい」 「はい。明日からまた頑張れます。私」 「そうか」 正直な話。 過酷なものとなりそうな破面との戦い。 彼女に戦って欲しくはない。 だが、止める権利は浮竹にはないのだ。 「だが、あまり無茶はしないでくれ…」 小さく、小さく。呟くように浮竹は言った。 そして。やっぱり自分では甘やかしてしまうなと思った。 07/11/03
12/05/05再UP
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