我很寂寞




ドリーム小説
違う、違う・・・本当はね。





【5】





「なんで、ちゃん…」

頼子は意味もわからず拒絶されたことで泣き出してしまった。
喧嘩は初めてではない。
くだらないことで喧嘩したこともあった。
でも、今回は今のは理由はわからない。

この所様子が変だった
心配するも、何も変わらなくて。

『従兄上!やめてくださいよ!』

馬超の執務室から馬岱の悲鳴に似た声が聞こえる。
頼子は膝を曲げて泣いてしまったのだが、中からの声に泣くのをこらえる。

「頼子、大丈夫か?」

趙雲が顔を覗かせる。

「う、うん……よしっ!」

「頼子?」

頼子は立ち上がって涙を拭う。
そして馬超の執務室の扉を開ける。

「馬超さん!」

中に入って驚いた。
馬超が予想以上に荒れていたから。
書簡やら、物やら色々の物が床に散らばっている。
馬超は入ってきた頼子を一瞬睨み付けるがすぐに顔を背ける。

「あ、頼子殿、趙雲殿〜」

馬岱は泣きついてくる。

「な、すごい荒れようですね」

趙雲は少し口元を引きつらせてしまう。
頼子は一瞬だが馬超に睨まれたことで怯むが、ギュッと拳を握り締めて声を出す。

「早くちゃんを追いかけてください!」

「あ?なんで俺が…知るかよっ、もう…」

ちゃん、帰っちゃいますよ」

「……!!?」

「わ、私は二人の間に何があったかは知りませんが、今のちゃんはいつもと様子が違います。もしかしたら、元の私たちがいた場所に帰っちゃうかもしれませんよ?」

「そんなの…俺には関係ねぇよ」

「そうですか…」

頼子はとても残念そうに肩を落とす。
チラッと馬超を見て呟く。

「もう帰っちゃったかも、ちゃん…さっき伏犧さんに頼んでたし…」

「な!」

これには馬超の顔色がすぐ変わった。
馬超だけでなく馬岱も趙雲もだ。

「あぁ〜あちゃんとお別れかぁ…追いかけるなら今のうちですよ?」

「くそっ!」

馬超は慌てて執務室を飛び出した。
頼子は馬超に手を振った。

「頼子、本当なのか?殿が帰ってしまうなど」

「そうですよ、さっきはそんな事一言も」

「うん、嘘だもん」

「「は?」」

目を丸くする二人に頼子は悪戯っぽく笑う。

「嘘だよ、ちゃんが帰るなんて…だと思う。あぁでも言わないと馬超さん追いかけそうにないし」

「頼子…」

「私にはわからないけど、馬超さんならなんとかしてくれるかなって…」

頼子は笑いながら、床に散らばった書簡を拾い上げた。
慌てて馬岱も片付け始める。

「すみません!」

「いいですよ、暇ですし」

趙雲も床の物を拾い始める。

「早く片付けましょう。三人でやれば早く終わりますよ」

頼子は思った。
自分の知らないところでを傷つけたのではないかと。
そうでもなきゃ、があんな風に言うことはないのだ。

(馬超さん、頑張ってくださいね。私もちゃんと仲直りしたいですから)



***



はあの湖に来てしまった。
最初にこの世界に着いた場所で帰りを待っていたのもここ。
ここでならきっと…

「神濃ーーーー!!」

は思いっきり叫ぶ。
自分をここへと落とした張本人の名を。
馬超に引き止められて帰ることができなくなったが、きっと呼べば来るはずだと思った。
彼の仲間だという伏犧や女禍に会った時に神濃のことを話した。

『多分、あいつのことだからいつも見てると思うぜ』

『そうね。あっちとこっちの移動をできるの彼くらいだから。本気で頼めば帰してくれるかもね』

だと言った。
あの時は、馬超に反発していたから、何が何でも帰りたいと思った。
でも神濃は現れなかった。
本気が足りなかったのか?

いや、あの時はここでの生活が本当に嫌で帰りたかったのだ。
でもそれもだんだん薄れていった。

「神濃!出てきてよぉー」

泣きながら叫ぶ。

「帰りたいの!元の世界に!家に!」

でも反応はない。

「なんで、なんでよ…」

はゆっくりと湖に向かって歩き出す。
思考が混乱しているのだろう。
馬鹿なことを考えた。


 ―最初に湖に落ちたから、あそこにいけばいいんだ…
                あそこが入り口なんだ…


そんな事あるわけないのに。
はふらふらと湖に足を踏み入れる。
奥へ奥へ行くほど深くなっているのは明確である。
簡単に腰まで浸かってしまう。

「帰りたいの…ねぇ…帰してよ、うちに…」

でもふと足を止める。
今までだって、そう考えたことは何度もあった。
でも帰りたいと言っても帰らなかった。

「…それは、神濃が来てくれなかったから…」

違う。
女禍は言った。


『本気で頼めば』


と。

諦めていたのかもしれない。
頼子もいるし、住む場所にも食べるにも困らなかったし。

何よりも

、もう少し素直になろうぜ?俺と一緒は楽しいだろ?』

『俺もたまに手伝ってやるよ』

『お前って本命がいるのにホイホイ他の女と遊ぶかよ、馬鹿』

『あんま、心配させるな。ま、昼間は俺も悪かったけどよ』

『別にどうってことねぇよ』

『今日は楽しかったか?そうか。なら、今度は二人っきりでどこか行こうぜ』

いつも馬超がそばにいてくれた。
頼子には趙雲がいるから羨ましいと思った。
でも、それをあまり深く考えることがなかったのはいつも馬超が自分をかまってくれたから。

「馬超…」

「馬鹿だ、私…馬超が好きなんだ…だから、身分のことを気にしたり、人に言われたことで落ち込んで」

『帰りたい?』

もう一人の自分が問いかける。

「わかんない」

『本当に?』

「………」

涙だけが溢れてくる。
何度も何度もそれを拭うも涙は止まらない。

「…っ、かえ…帰りたくない…」

自分の中で確信した。

「帰りたくないよ!」

これが正直な気持ちだ。
両手で顔を覆い、そのまま身体が崩れそうになる。

!」

背後から馬超の声がした。
バシャバシャと湖に足を踏み入れ進んでくる馬超。

「ば、ちょう」

馬超はそのままを後ろから抱きしめた。

「行くなよ、帰るなよ。頼むから帰らないでくれよ」

その力はとても強かった。
は自分を抱く腕にそっと触れる。

「身分が違うとか言うな。俺とお前とは対等でいれたじゃないか!どこに気にする必要があるんだよ!
に俺のそばにいて欲しい。ずっとずっと…そばにさ。いや、ずっと俺のそばにいてくれよ」

もうを放すものかと、馬超の力はさらに強くなる。










「お前が、が好きなんだよ…だから、どこにも行かないでくれ」










いつもみたいな軽口でなく、切実な願いが込められた馬超の言葉。
はさっきとは違う涙が零れた。



「…ありがと…嬉しい…」

自分を抱く腕にも力を込めた。

「私も馬超が好きだよ」



いつも素直じゃない、少し意地っ張りな
そんな彼女から聞けた言葉は馬超の胸に深く沁みこむ。
馬超はそっとの身体を振り向かせる。
泣いた顔なので少し恥ずかしいのか顔を伏せてしまう



馬超はの頬に軽く触れ涙を拭い優しく口付けた。
何度も、何度も繰り返す。
愛しい子への想いを込めて。

、もう離さないからな」

「馬超」

馬超はもう一度を抱きしめる。
そして

、あのな」

「うん?」

彼女の耳元でそっと呟いた。

「俺と一緒に…」

けれど、その後は続かなかった。

「お取り込み中だったかのぅ」

「な!」

馬超は目を見張った。
今、自分とは湖に身体を浸けてしまっている。
しかし、突然現れた声の主はその湖面を歩いてくるではないか。

いや、歩いてはいない。
波紋が広がっていない、浮かんでいるのだ。

も振り返ると、その人物に見覚えがあった。

「神濃!」

「誰?」

神濃は二人の前まで来るとにっこり笑った。

「久しいの、。元気だったかな?」

「な!な!なんで今頃現れるのよ!」

「それはがわしを呼んだからな。どれ、帰るか?元の世界に」

「え…」

一瞬動きが止まる

「帰りたいのであろう?それに以前はどこぞの若造が邪魔しおったしな〜」

くつくつと笑う老人に馬超は怒鳴りつける。

「ふざけんな!誰がを帰すかよ!こいつは帰らねぇよ」

「ははははっ、威勢のいい青年じゃな。元はと言えばお主が邪魔をしおった所為だぞ?」

「あの時も、こいつを帰したくないって思ったからだ。悪いかよ!」

「ほぅ、を泣かせてもか?」

「もう泣かさねぇ。俺がこいつを守る」

「だ、そうだ。、ここへ残るか?」

馬超の一つ一つの言葉が嬉しくては頷く。
今の自分の気持ちはここに残りたい。
帰りたくないと言えば嘘になる、後悔すると思う。

でも、今は馬超がそばにいてくれるなら大丈夫のような気がするから。

「残るよ、ごめんね、わざわざ呼び出して」

「別に、かまわんよ。がそれで良いならな。わしはいつでも見ている。用があれば呼べばいい」

「本当?」

「あぁ、里帰りしたくなったら呼びなさい。わしらの都合で頼子とをここへよこしたのだからな」

「ありがとう、神濃」

「ただな、人を呼ぶ時『くそじじぃ』って呼ぶのはやめて欲しいのぅ。さすがに出る気になれん」

「あ、あはははは、あの時はねぇ」

「それではな、いつかまた会おうぞ。青年、神にたてついたんじゃ、しっかりやらんとと引き離すぞ」

神濃は意味ありげに笑って一瞬で姿を消した。

「な!なんだよ!くそっ〜俺が全部悪いのかよ!」

馬超は悔しそうにいなくなった神濃に向かって叫んだのだった。



***



びしょ濡れで孔明邸に帰った二人。
それを見て月英が激怒したのは言うまでもない。
は速攻で風呂場に追いやられ、馬超には着替えを渡す。

「もう!風邪が治ったばかりなのですよ!湖で遊んでいたとは…馬超殿!殿がまた寝込んだらどうするのですか」

「わ、悪かった」

何度も何度も月英に頭を下げる馬超。
最初に湖に足を踏み入れたのはなのだが。

「ごめんなさい、もう大丈夫ですから」

が申し訳なさそうに出てきた。

「ちゃんと冷えた身体を温めましたか?」

「はい、大丈夫です」

そこへ羽扇をゆったりと仰ぎながら孔明がやってきた。

「お二人とも大変でしたね。もう良いのですか?」

「あ、えっと…」

「なんて事はねぇよ」

拗ねている馬超。
湖である事をに言えなかったのが引っかかっているのだ。

「どうしたの、馬超」

「ど、どうもしねぇよ…あ、あのな

「ん?」

邪魔な人間がいるが、言ってしまおうか?
今言わないと、この先後悔ししそうだし。

「お、俺とな」

「うん」

だが、無常にも馬超のそれはまたも空回りした。

「そうですわ!孔明様。あの話を殿にしませんか?」

「そうですね、そうしましょうか」

「なんですか?」

は馬超からすーっと離れて孔明と月英の方へ行ってしまう。

「お、おい!」

殿、月英と相談したのですがね、よろしければ私どもの養子になりませんか?」

「え、養子?」

「えぇ、貴女はこの国で戸籍もないですから。私の娘と言うことで正式に向かい入れたいのですよ」

は驚いてしまう。
自分をここに住まわせてくれているだけでも十分にありがたいのに。

「ね?殿、異存はありませんよね」

月英はの手を取る。

「い、いいのですか?本当に」

「勿論ですとも、こちらから頼んでいるのですよ」

「家族としてこれからも一緒にいましょう、殿」

「…家族…はい!お願いします」

は嬉しくて孔明と月英両方に抱きつく。

面白くないのは馬超なのだが…

(くっそー、ついてねぇ!折角に求婚するはずだったのに…)

あの湖で馬超は『俺と一緒にならないか?』と求婚しようとしていたらしい。
それが部外者によって2度も邪魔された。
2度とも作為的なものを感じてしまうのは馬超だけだろうか?

「…ま、いっか…」

が本当に喜んでいるのでそれでいいと。
当分の間はこれでいいかと諦めるのだった。





「私ね、寂しかったんだと思うの」

「寂しい?」

馬超とは二人で散歩していた。

あれからすぐには孔明の養子となったし、一方的に傷つけてしまった頼子に詫びも入れた。
馬超がちょっかいを出すのが気に入らないと言っていた女官たちは、面白くなさそうな顔をしていたが、馬超がこれでもかというぐらいのそばにいるので逆に諦めたようだ。
に嫉妬してを書庫へ閉じ込めたのも、整理の邪魔をしたのもどうやら彼女たちらしいが、今のにはそれはどうでもいいことで咎めるつもりもないようだ。

「頼子はお姫様扱いで、何不自由なくてさ。それが羨ましくてね…なんで私ここにいるのかなぁって」

「それは俺が」

「拗ねていたんだ、きっと。ここは私のいる場所じゃないって」

は空を眺め軽く息を吐く。

「でも、今はお父さんとお母さんができたしね。寂しくないよ」

「おい、それだけかよ」

少し面白くなさそうに言う馬超。
そんな馬超には軽く笑って、彼の隣に並んだ。

「そうだね、一番は馬超がいてくれるからかな?」

そう言って彼の左腕に自分の腕を絡めた。

「当たり前じゃねぇか、バーカ」

「馬鹿は余分〜…でも、本当いつの間にか馬超のこと好きになってたからなぁ」

「必然だろ、それは」

「そうかな?私の好みのタイプって、馬超じゃなくて姜維さんらしいよ」

「な!」

さらりと言ってのけた言葉に馬超は内心焦りまくりだ、思わず立ち止まってしまう。
自分と姜維とでは全然性格も行動も違うのだから。

「じゃ、じゃあ、お前…」

「さぁ、どうかな?馬超の押しがなかったら姜維さんを好きになっていたかもね」

悪戯っぽく笑うに馬超は口を尖らせる。

「お前ね」

「でも、それは『だったら』の話で実際は馬超が好きなわけだし」

「………」

「信じてないなぁ?私が好きなのは馬超だよ?」

下から見上げるに馬超はフッと笑う。
余裕を見せたいのだろうが、本当は今の言葉で安堵したに違いない。

「当然だな」

再び歩き出す。



「なに?」

「いつかさ」

「うん」

「いつか、お前に言いたい事があるんだ。その時はちゃんと聞いてくれよ」

「……いつでも聞くよ?」

「今はまだいいさ」


もう少し大人になってから。
もう少しゆっくり時間をかけてから。
その時になったら、改めてを迎えに行こう。

だから、今はまだ…


、もう寂しくないだろ?」

「うん、馬超がいるから寂しくないよ」

「今度の休みにまたどこか行こうぜ」

「うん!」


もう寂しくないよ。






END
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タイトル「我很寂寞」は読んだまんま「私は寂しいです」って意味です。
03/09/19UP
11/12/24再UP