居場所




ドリーム小説

「うるせーな。すごくいい女だよ。それだけだ」

思わず、そう言葉に出していた。
今まではアイツのことは思い出しても誰にも言う事はなかったのにな。

もう何年会っていないのだろうか?
俺は忘れてはいないが、アイツは俺の事など忘れてしまっただろうか…
あまり良い別れではなかったよな。

今、お前はどうしてるんだ、





俺が劉備殿の大儀を見届けるために降ったと言うと聞こえはいいが
蜀を得た劉備殿の配下になった頃だ。
新参者の俺を将軍の一人に加えたことで、周りとはいい始まりではなかったのを覚えている。

荒んでいた。

とでも言うのだろうか?
何かと世話をやいてくる趙雲を煙たく思ったり、俺の事が気に食わないという視線を投げかけてくる関羽殿に張飛殿。
下のものでさえ、俺の態度が気に食わないと言った目で見ていた。

でもそれだけが原因ではなかったんだ。
ここへ来る前にあった事が余計に人と言うのを信用させなくしていたのだ。
それは曹操に親や家族。
一族を殺されたって事が俺を荒ませた原因だったのだ。

それでもまだ一人ではないと思えたのは従兄弟の岱と、俺についてきてくれた人がいたからだ。

「その調子ではまた誰かと衝突したようね、孟起」

「なんだ、か・・・別に思ったことを口にして何が悪い」

「もう…少しは自分から歩み寄ることも大事よ?」

「はん、そんなことにはなにも意味はない」

「孟起〜」

その日は張飛殿だったか、誰とは覚えていないが、俺のやり方が気に食わないと文句を言われたんだ。
だから一言二言言ったら喧嘩になったのだ。
その場は軍師殿と趙雲によって治められたのだが・・・

俺の心配をしているのは
韓遂殿の娘のこいつは俺の幼馴染とでも言うのだろうか?
女なのに当たり前のように馬に跨り、槍を振るう。
戦場では女だからと言うようなことはなく一人の武人として事をやってのける奴だ。

いつも当たり前のように一緒にいた。

「岱君も毎日大変よね。いざこざが絶えないようではね」

「うるさいぞ、。いちいち周りの反応なんか窺ってられるか」

「あのねぇ、さっきも言ったように少しは自分から歩みよ」

「うるさい!お前も俺のことなど放っておけばいいだろう」

「孟起…」

周りと中々打ち解けようと、自分を見せようとしなかった俺には心配してくれたのに
俺はそれすらも鬱陶しく感じ、度々を突き放すようなことをしていた。

「私は、あなたの事を心配しているのよ?」

「しなくてもいい」

「あっそ」

は俺に背を向けてどこかへ行ってしまう。
俺は謝るという事をしようともせずにいる。
全てが鬱陶しいのだ。

だから、大事なモノに気づかないのだ。





「では馬将軍に関中の守備はあなたにお任せします」

「わかった」

曹操軍が関中へ攻め入るとの伝令が届いた。
関中を守るために、軍師殿から俺へと出陣の要請を受けた。
出陣する軍の編成を俺に任せるとのことだった。

何か言いたそうな連中の面など無視して、さっさと退出する。

頭の中では曹操への憎しみばかりが渦巻いていた。
攻めてくる曹操をこの手で討ち取る!
それしか考えてなかったからだ。

「孟起!」

「なんだ

「あの、大丈夫?」

「何がだ?」

「だって、曹操軍と…」

「あぁ、それか。こんなに早くに一族の仇を討てるとは思わなかったな」

「孟起…」

「俺は一族の仇をこの手で!」

グッと力強く拳を握る。
俺を見ているはどこか悲しげだったのをそのときの俺は気づいてなかった。

「孟起、この戦には当然私も連れて行ってもらえるのよね?」

「あぁ。韓遂殿に頼もうと思っていたからな。には期待している」

「任せて!あなたに出番が回らないくらい活躍するから」

「それは頼もしいな」

「あのね、孟起」

「なんだ?」

「戦が終わったら、一緒に成都の町並みでも見て回らない?」

「町を?」

「そうよ。ここへ来てからいつも慌しかったでしょ?ゆっくりするのもいいじゃない。駄目?」

「駄目と言うことはないが、気が向いたらな」

「気が向いたらではなく約束よ。絶対に行くの!」

「な、なんだ、そんな風に言わなくても」

「だってさぁ…とにかく約束ね。戦が終わったら私と一緒に」

と言っては俺の目に小指を出した。
指切りをしろと言うことらしい。
恥ずかしいって気持ちが強いのだが、が早くしろとせがむので仕方なく指切りをした。

「約束ね、孟起」

「わかった、約束だ」





潼関に布陣して曹操軍を迎え撃つ。
今回の出陣には俺が父と同じように頼りにしてた韓遂殿たち同行を願った。
韓遂殿たちは渭水へと配置し、俺や岱、ホウ徳殿、成宜殿、程銀殿の部隊で正面から来る曹操軍を向かえ討つ。

睨み合いが続くかと思われたが、曹操軍が突撃してきた。
俺としては手っ取り早く曹操を討つことしか考えていなかった。
それに最近の鬱陶しさ、鬱憤を晴らすべく槍を振るった。
やはりな、と思う。
俺は室内でごちゃごちゃしているより、戦場で槍を振るっていた方が性に合う。
全てを吹っ切られる。

やはり力さえあれば良いと感じる。

だが

「弱い…魏の軍勢とはこれほどのものなのか!」

手ごたえがなさすぎだ。

「従兄上!あまり無茶はしないでくだされ!あの曹操のこと、何か罠があるかもしれませぬ」

「…あぁ」

岱に諌められるも俺の気持ちはすっきりしない。
しばらくすると渭水から曹操軍が来たと伝令が届く。

「なに?…いや、あそこは韓遂殿がいる大丈夫だろう。俺たちはこのまま正面を突っ切るぞ!」

何も心配するようなことはなかった。
韓遂殿だけでなく、もいる。
あいつは強い。
だから誰よりも信頼できる。

だが、その信頼をぶち壊された伝令が届く。

「なんだと、韓遂殿が曹操と会っていただと!?」

同時にいつの間にかできていた氷の城の存在に動揺してしまう。

「従兄上…」

「お前たちはこのまま攻めろ。俺は…俺は韓遂殿の元へ行く」

「従兄上!・・・わかりましたお気をつけて」

それはなんだ?
何に気をつけろというのだ。
曹操軍にか?韓遂殿にか?

俺は信じたくはないと思うも、心のどこかで『やはりな…所詮はそのようなものか』と笑っている自分に気づいた。





「父上!」

…か」

渭水にいる自分たちの戦況はあまり良いものではなかった。
北側から突如攻めてきた曹操軍。
しかもその兵たちを率いているのはあの徐晃だ。
武人としては名高い男の部隊との戦いは韓遂の気力を削ぐのに充分だった。
そこで再会した古き友。

「久しいな、韓遂よ」

「曹操!このような乱世でなにを!」

「わしとお前は古くからの友…友と語るに乱世など関係あるまい…」

罠だと、これは曹操の計略だとわかる。
わかっているのに、先の伝令で馬超らにこのことが知れてしまった。
道は二つだ。

曹操の計略などを打ち破り、奴を倒すのみ。
もう一つは…

正直もう一つの道へと流され始めているように思える。
真っ正直な馬超の事だ。
曹操と会ったと言うだけで激昂してしまうかもしれない。
自分を切り捨てるか?

実際に会ってしまったのだ、下手な言い訳などいえないだろう。
それに、もう自分の部隊の疲弊の激しさ、戦力低下は否めない。

「馬超にも疑われ、戦況も押されている…もはやこれまでか…」

「父上!孟起はそのような男ではありませぬ。全てを話せばわかる男です」

…そうだな普段の馬超ならばそうだろうが、曹操と繋がっていたと思えば馬超は我らを許さんだろうよ」

「そんな…」

「我らは曹操軍へと降る!」

「父上!」

「総大将、馬超の首を取れ!」

「父上!」

そんなことできるわけない。
したくもない。
まして

「先ほどまでともに戦った仲間を斬れと仰るのですか!そんなことできるはずはありません」

「お前は好きにしろ。馬超の元へ行くのもかまわん…」

「父上!」

父と馬超。
どちらもには選べない。

このまま本当に曹操軍に降ってしまうのなら、自分だけが残ってもきっとこれから先が疑われてしまうだろう。
魏と繋がっていると思われるかもしれない。
そうなれば、幼馴染である馬超にもその疑いが向けられるかもしれない。
今の彼はただでさえ、危ういのに…


だが、この時再び入った伝令は曹操軍撤退の知らせ。


馬岱らが曹操を追い詰めたようで、曹操たちは撤退を始めたようだ。
遅かった。
父、韓遂が蜀からの離反を公言しなければ良かったのに。
少しの状況判断が自分たちに置かれている選択を固定させてしまった。
離反してしてしまった為に、韓遂たちは曹操軍との合流を余儀なくされた。

「父上」

、先も言った。お前の好きにしろ。我らは進む」

そう言って韓遂たちは歩き出した。
は愛馬に跨り、ある事を心に決めて駆け出す。





俺が馬で飛ばしていた頃に、曹操が撤退した事、韓遂殿が離反した事、様々な事が起きていたことなど
まったく知らなかった。
ただ、早くに会って話をと真実を聞かせて欲しいと願った。

いや、願ってどうするのだと反対の気持ちを押すもう一人の俺もいた。

韓遂殿の陣まであと少しの所で向かいから駆けてくる一頭の馬が目に入った。
その馬は良く知った馬だ。
俺の愛馬である神楽との兄弟馬だ。

だとすればその騎乗にいるのは当然あいつだ。



手綱を引き駆けるのを止める。
も俺に気づいたようで止まる。

「孟起…」

、韓遂殿はどうされた?俺は今から韓遂殿に会おうと」

「会えないわ」

「なぜ」

は馬から降りて俺に近づいてくる。
俺も神楽から降り、の前に立つ。

「父は曹操軍に降ったわ」

「なんだと!」

「あなたに疑われて戦況も押されて、道が閉ざされたと思い父は曹操に降った」

「………」

「だから、私は」

「俺のもとに来たのか?」

「そう…お別れをしに」

「な!なんだと」

韓遂殿の裏切りなど、正直なんとも思わなかった。
この乱世ならばしょうがないと。
俺が同じ立場ならそうしたかもしれないとどこかで思っていたから。

でもにまで別れを告げられるとは思わなかった。
これが一番堪えた。

「父は私の好きにしろと仰った。だから、私は父とともに行くことを決めた」

「なぜだ!曹操はお前にとっても仇だ!お前が行くことなど」

「でも、父が離反したのに私だけがのうのうといられるわけがない。私を疑う者もでてくる」

「そんな奴は俺が斬る。お前がそんな事を気にすることは」

「孟起…でも私は決めたの。これはあなたのためでもある」

「俺の?」

「下手をすればあなたにも疑いがもたれるかもしれない。私はそんなの嫌」

、俺はそんなことは気にしない。だから」

一生懸命、を引きとめようとしている俺がいた。
俺の軍での立場なんぞどうでもいい気がした。
今は、目の前にいるこいつを手放しては一生後悔すると思ったから。

そうだ。

この時になって、ようやく自分の大切な人ってのに気づいたんだ。

こんな時に気づくなんて俺の思慮の狭さに自嘲してしまう。

。お前が行けば俺の心が余計に荒む」

「孟起…ならば忘れて。私の事なんて…次に会うのはお互い敵同士、その時は」

!」

から聞かされる拒絶、別れの言葉に我慢できなくて、を強く抱きしめた。
離したくないから。
誰にも渡したくないから。

まして戦場で会うことなどしたくない。

「孟起」

「行くなよ。お前は俺が守る。だから」

「もう決めたの…ごめんね、ありがとう孟起」

彼女の決意は変わらないようだ。
腕の力を緩める。

「無理なのか?これ以上、何を言っても」

「うん。決めたの…私もあなたと別れるのは辛い。でもそれしかないから…だから忘れて」

「忘れるなど…できるわけないだろう。ずっと一緒にいて」

「孟起」

当たり前のように一緒にいた奴がいなくなるのだ。
そう簡単に忘れられるか。
それには俺にとって大切な奴だと気づいたんだ。
この気持ちを失くしたくないだろう。

「お前が俺のこと忘れないようにしてやる」

「え?」

、お前が好きだ」

もう一度強く抱きしめ、口付けた。

雪が降って寒いのに。
俺の中は逆に熱くて。
男の癖に泣いてしまうかもとか思うほどだ。

「孟起…」

「忘れるなよ、。俺はいつか必ずお前を取り戻すからな」

「孟起」

そして俺とは別の道を行くことになったんだ。





あれ以来、何度か曹操、魏との衝突はあったがとは戦場で顔を合わすことはない。
俺は少しずつだが、人に歩み寄るようになったのだ。

今では趙雲のお節介もありがたく受け取るし、関羽殿や張飛殿とは敵兵士撃破数を競うなんていう
ので互いの実力を認められ今ではそこそこ上手く言っている。
酒を飲むなら張飛殿はいい相手だ。
周りは酔った張飛殿の相手を嫌がるが、俺は結構楽しい。

軍師殿が姜維を連れてきてから趙雲含めてよくつるむようになった。
世はまだ乱世なのだろうが、俺の回りは落ち着いたものだった。

時々思うんだ。

あの時、やっぱりお前を行かせなければ良かったと。
劉備殿はお前が、が言うような事をなさる方ではないと思うんだ。
俺がお前を連れ帰っても、きっと殿ならお前の無事を喜んでくださったと思う。

がいなくなったことで、俺が変わったってのは少し悲しい。
俺がちゃんとここでもやっていけるかを心配していたのはだから。
一番心配させた奴にそんな姿を見せてやることができないからな。


でも、俺はに言った。

必ず、お前を取り戻すと…





「馬超?」

「あ?なんだ」

「ご飯冷めちゃうよ?いらないなら私が食べてもいいけど」

「食ってもいいけど、太っても知らねぇからな」

「なにをー!」

今ではこうやって妹みたいなこの少女と馬鹿みたいに騒いでいる。
ここにお前が加われば楽しいだろうな、
お前とこいつならきっと仲良くやっていけると思うぜ?

なぁ、

「どしたの?馬超?…あ、さっき言った『すごくいい女』って人思い出してたんだ」

「あ?」

「ね、そうでしょ〜その人のこと教えてよ」

「さっきも言ったろ?すごくいい女だよ」








こちらも本館からの撤去作品で復活です。
趙雲夢の「おもうこと」の中で、ちょっとだけ出た「いい女」の話でした。
いい女かは知らんがな…w
11/12/24再UP