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おもうこと
ちゃんとを幸せにしてやってくださいよ! 【16】 『私、叔母さんじゃない』 『趙雲は私の事、本当に好きなの?』 『趙雲は私の事、叔母さんの代わりって思ってない?』 いつも通りに出仕して、いつも通りに執務に励むも何をやるにも気だるく感じる。 身体が重く感じて、やる気も出ない。 「………」 気がつけば、筆を持つ手が止まってしまっている。 「………」 頭の中は、のあの言葉で繰り返されている。 「私は、そのような事思ったこと…ないですよ」 趙雲は筆を置き右手で顔を覆う。 先ほどから溜め息しか出ない。 でも、から見ればそう思えざる出来事があったはずだし。 「急ぎすぎたのだろうか……」 戦から戻った時、が自分の心配を本当にしてくれたのが嬉しくて、愛しくて。 美咲のことがなくとも、と出会っていたら同じように彼女に惹かれたとは思うのだが。 やはり、美咲のことはにしてみれば引っかかるのだろう。 しばらく、離れているべきだろうか。 結局、執務らしい執務をした感じがしないまま今日の仕事は終わった。 それから数日間の趙雲にはいつもの精彩さを感じなかった。 休日の私邸で長椅子に横になっていたところに馬超が現れた。 「おいおいおい、いつまでシケタ面していんだ?」 「馬超殿」 「と喧嘩したなら早く謝れよ?喧嘩したぐらいで執務の能率が下がるなんてみっともねぇぞ」 馬超は拱手しながら趙雲を見下ろしている。 その顔は何か面白いものを見つけたと言うような感じである。 「喧嘩……の方がまだ良かったですよ」 「なんだ、別れたのか?」 「………」 「冗談だよ」 ムクリと身体を起こす趙雲。 「毎度毎度世話が焼ける奴だな。何があったか言ってみろよ」 「いや、それは……」 「と言っても今回話を聞くのは俺じゃないんだ」 「人の話聞いていますか?別に話すとは言ってないのですが」 「まぁまぁ。おい、姜維」 「姜維?」 扉の奥から顔を出したのは姜維だった。 「こんにちは。趙雲殿」 にっこりと笑う姜維。 「と何があったのですか?最近部屋にこもりっぱなしで心配なんですよ、僕」 「そ、そうなのか?」 溜め息を吐く趙雲。 その顔に姜維の眉根がピクリと動いた。 何か言いたそうな姜維に馬超は気づくがあえて黙ってみる。 「何があったか話していただけませんか?」 「いや、だから」 「話してくれますよねっ!趙雲殿」 肩をがっしり捕まれ目の前でにっこり笑われて何も言い返せなかった。 なんか姜維怖いし。 「あ、あぁ……実は」 先日の出来事を趙雲は二人に話した。 が美咲と顔が似ていることを気にして、趙雲が美咲の代わりと思って自分と付き合っているのではないかと。 いまだ美咲の事を…と。 追いかけることができなかった。と。 …… …… …… 「ま、なんと言うか考えすぎだろう。それはよ」 馬超は気楽にそう答える。 「アンタが違うって言えば済むことじゃん」 「そうですが」 「言えなかったのか?それじゃあ、お前」 「私は殿を美咲殿の代わりなどとは思っていませんよ!容姿は似ていますが中身は全然違うじゃないですか」 怒気を含みながら趙雲は放つ。 怒っているのは馬超にではなく自分にだ。 を悩ませ泣かせてしまった。 『違うよ』 とちゃんと言ってあげれば良かったのだ。 でも同時に、にそう思われていたのがショックだった。 自分はの外見に、以前愛した人と似ていたからと言って彼女を好きになったわけじゃない。 自分よりも小さい身体なのに、自分の為より人の為に一生懸命動いて。 素直に笑って泣いて怒って。 一緒にいて楽しいって思えるし、安心できたし。 そんなが好きだって、思えるのだから。 それに…… 「じゃあ何故、に会いにきてくれないのですか?」 「姜維」 「僕はですね、趙雲殿。とずっと一緒にいたので色々見てきたのですよ?」 が初めてここに来た日から、ずっとだ。 趙雲との最初はあまり良いものではなかった、でも仲良くなってくれて。 馬超を含めて4人で遊んだりもしたし、関平や馬岱などとも城で楽しそうにしていたし。 美咲の死を泣きながら話してくれた。 趙雲にちゃんと伝えると強い瞳で言った。 大怪我した趙雲を叱咤した。 趙雲への想いに気づいて、悩んで泣いたりもした。 戦で趙雲たちがいない間、いつも不安そうにしていた。 想いが伝わったと喜んで報告してくれた。 気がつけばいつも趙雲のことばかりで。 「はいつも趙雲殿のことを考えて想って…ちゃんとしてくださいよ!」 「姜維」 「ちゃんとを幸せにしてやってくださいよ!あなたが迷えばはもっと悩んで落ち込むじゃないですか」 ギュッと拳を握って趙雲を睨みつけるように見る姜維。 彼に怒鳴られるなど初めてだ。 いつも笑って自分の後をついてくる弟みたいな子で。 「趙雲殿もも、考えすぎです。馬鹿です。 誰も二人の間を邪魔する人間もいないし壁だってないのに…はっきり好きだと言える自信ないならさっさと別れてしまえばいい」 「………」 「なんて、それができないほど好きなのですよね?の事」 少し寂しげに笑みを零す姜維。 「なんか僕の言っていること可笑しいことだらけかもしれないですけど」 あははと軽く頬を掻く姜維。 「んな事ねぇよ」 今まで黙っていた馬超が姜維の頭をくしゃっと撫でる。 「趙雲もも本当、バカだよな。余計な事考えすぎだ」 「馬超殿」 「……顔、洗ってきます」 すくっと立ち上がる趙雲。 部屋を出る際に姜維の耳元に『ありがとう』って言った。 「お前、偉いな」 「何がです?」 趙雲がいない部屋で、馬超がぽつりと呟いた。 「いや、別に……」 気づいてないのか、知らぬ振りをしているのか。 あそこまでのために一生懸命な姿を見ると思えること。 (近くにいすぎて、気づいたのが遅かったんだな…俺と一緒だ) 決別した時に気づいた想い。 まぁ、自分の時は自分がどうしようもなくガキで馬鹿だったわけだがと自嘲する。 「僕は、がこれ以上、泣いたりするのが嫌なんですよ」 「へぇ」 「馬超殿だってそうでしょう?どうでもいいならこうして趙雲殿のところに来たりしませんよね」 「俺は別に。面白いことになっていただけだしよ」 「もう、馬超殿〜」 「ま、趙雲には今度こそは想いを成就させてはやりたいとは思ったけどな」 美咲はもういない。 趙雲の止まっていたモノを動かしたのはだ。 何にも一生懸命な真面目な奴だ、そんな奴が幸せになって何が悪い。 こうして心が落ち着ける場所を得たのだからさ。 「俺もお前も甘いよなぁ」 「そうですか?普通じゃないですか?」 「いや、俺はともかく、お前はに甘すぎだ」 「そうですかね?を見ていると本当の兄になったような気分になりますよ」 「なんだ、そりゃ」 プッと噴出す馬超。 「なんと言うか、お兄ちゃんが守ってやるぞ!みたいな…僕、兄弟いませんしね、妹がいたらこんな感じかなと」 「妹ねぇ。本当にそれだけか?」 「?」 「まぁ、いいさ。じゃあお兄ちゃんとしてはどうするんだ、これから」 「これから、ですか?別に、どうもしませんけど」 「万が一、趙雲がを泣かしでもしたらとか」 「趙雲殿が?……うーん」 姜維は腕を組んで少し考える。 でもすぐさま笑顔になってこう答えた。 「もし、を泣かしたら、言葉では言えないようなことを趙雲殿にしてあげます」 「……なんだよ、その『言葉では言えないようなこと』って」 「あはは、例えばですよ」 嫌な例えだ。 こいつだけは敵に回しちゃいけないと馬超は思った。 何せ、あの丞相の弟子だし。 「だとよ、どうする。趙雲」 微苦笑しながら趙雲が戻ってきた。 顔は先ほどよりさっぱりして表情も明るい。 彼なりに、気持ちの整理がついたのだろう。 「怖いですね、それは。そのようにならないように気をつけますよ」 「おぅ、気をつけろ」 「嫌ですね、例えばですよ。本当にできるわけないじゃないですか!」 「そうか?」 「そうですよ!」 そんな事をしたら、今度はに何をされるかわからないし。 「姜維、殿は屋敷にいるのだろう?会いに行っても平気か?」 「そうですね…ちょっとどうかな」 「……そうか」 「僕、外に連れ出します。だから、えーと」 「頼む。途中まででいい。あとは自分でなんとかするさ」 「わかりました。じゃあ」 姜維は急いで部屋から出て行く。 早く、二人に元に戻ってほしいから。 いや、それ以上に。 何も心配なく幸せになってほしいから。 「大丈夫か?」 「えぇ。お二人にはいつも迷惑かけてばっかりで申し訳ありません」 「迷惑だなんて思ってねぇって。色々楽しませてもらっているさ」 「楽しむですか?」 「色々な。じゃあ行くか?途中まで一緒に行ってやる」 「はい」 適当な場所で待っていたら、姜維がと手を繋いでやってくるのが見えた。 「いやぁ、本当に仲良しさんだな、あいつら」 「そうですね」 「じゃ、俺はここでな。頑張れよ」 「はい」 去っていく馬超に近づいてくる姜維と。 けれど、姜維は少し離れた場所でに何か言ってから去っていった。 そして、数日振りに顔を合わせた二人。 「趙雲…」 「殿…」 しばらくどちらも黙ったままだったが、先に趙雲が口を開いた。 まっすぐにを見つめて。 「殿。別れましょうか、私たち」 04/08/22UP
11/12/24再UP
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