【目が合う】




ドリーム小説
○月×日 晴れのちくもり。


今日、修兵とケンカした。
理由は…くだらなすぎて書く気にもなれない。
くだらないからこそ、早く仲直りすればいいのだけど。
お互い変なところで意地をはってしまい謝ることができない。

少なくとも、私はそう思っているのだけど。



「それで喧嘩の理由って?」

が沢山の書類を手にして十番隊隊首室へと足を運んだ。
隊長である日番谷はもちろん。副隊長の乱菊もそろっていた。
書類を手早く日番谷に納め、回れ右をしようと思ったのだが乱菊に捕まった。

面白そうに「修兵と喧嘩したんだって?」と呼び止められた。
素早く逃げたかったが、乱菊からは簡単に逃れられなかった。

「副隊長、その話はちょっと…」

「いいじゃない。隊長も気になりますよね〜?」

「ならん」

「ほーら、気になるって」

「…いってないじゃないですか…」

暇なら早く仕事しろと日番谷は乱菊にいうが、彼女はあっけらんかんとして聞かない。
早く言えといわんばかりに無理矢理を座らせる。

「修兵がいつもの倍以上に目つき悪くてね。聞けばアンタと喧嘩したっていうじゃない」

早く仲直りしなさいよ。と普通の先輩ならいうだろう。
だが乱菊は違う。面白そうだから話を聞かせろってところだ。

「わ、悪いのは向こうです」

「そうなの?でも珍しいわね、アンタってあんま怒らないでしょ?」

そう。だから喧嘩なども滅多にしない。
そして珍しいから、引き際とかがわからず困っている。

「長引くとやっかいだから謝っちゃえば?」

「わ、私がですか!悪いのは向こうなんです」

謝りたいとは思っていても、自分からというのが癪に障る。
喧嘩の原因は修兵なのだから。

「で、その理由ってなんなわけ?」

「り、理由ですか?…そのですねぇ」

聞いた乱菊は大笑いし、聞いてしまった日番谷は頭を痛ませた。





「先輩。後悔するくらいなら謝ればいいじゃないっすか」

呆れたように恋次がいう。
修兵と恋次。そしてイヅルは食堂に来ていた。
珍しく三人昼休みの時間があった。
副隊長ともなると忙しく夜、たまに一緒に飲むくらいだ。

修兵はと喧嘩したことを悩んでいた。
素直にゴメンといえばいいものを、変なところで高い矜持に邪魔をされている。
それに理由が理由だから腹立たしい。

それでも二日も無視されてしまい気分は下降気味なのだ。

「だけどよ、あんなんで怒るか?普通…」

「俺は怒りますよ」

「お前は食い意地がはってるからな。つーかアイツの味方かよ」

話のネタ。ではないが、と喧嘩をしている事を後輩に聞かれたので、修兵はケンカの原因を話したのだ。

「でも、檜佐木先輩。人のものを勝手にってのは誰だって怒りますよ」

イヅルにズバっと射抜かれてつまる修兵。

「食べ物の恨みは怖いっていいますしね」

「謝るなら早いほうがいいっすよ〜」

後輩に好き勝手いわれても修兵には返す言葉もない。

「そうそう。その食べてしまったものを買って返せばいいじゃないですが」

「………無理」

修兵は肘をつき片手で顔を覆った。





「いなり寿司?いいじゃないそれくらい。どこにでも売っているじゃない」

「どこにでもじゃないです〜だって」

ウッと上目で日番谷を見る
乱菊は髪をいじりながら首を傾げる。
上目で見られた日番谷は面倒臭いことに巻き込まれたと柳眉を歪ませる。

「だって、日番谷隊長にいただいたものなんですから」

「隊長に?」

日番谷が珍しく休みをとった翌日のことだった。
ちょっと行く所があると休みを使ってでかけたそうだが。
土産だといなり寿司をいくつか持ってきた。
そのいなり寿司、ただのいなり寿司ではない。
日番谷の実家の祖母が作ったもので、味は中々のものなのだ。

酢飯を油揚げで包むというのが一般的ないなり寿司だが、日番谷の祖母が作ったいなり寿司は酢飯にひじきや紅しょうがや胡麻に青海苔などが加わる。
味付けも祖母のみしかわからない。
自身、いなり寿司は好物でもない。一つ二つ食えばもう十分なのだが
その祖母特製いなり寿司は何個でも食べれてしまうのだ。

日番谷が里帰りした時でもないと食すことのできない「いなり寿司」なのだ。

「隊の中でも競争率高いんですよ。私なんかまだ数える程度しか食べたことなくて。
今回お土産って隊長が下さった時は本当に嬉しくて、嬉しくて〜」

「隊長、ずるいですね。私にはくださらないのですか?」

「松本は食わないだろ。それに」

「運なのですよ!隊長がそれを持っている時にその場にいた者にしか与えられないのですから〜」

「だ」

たまたま隊首室にいた者か、たまたま日番谷が通りかかった時に呼び止められた者か。
これは運が良くなくてはいただけない物らしい。
隊員たちの間ではレア中のレア扱い。
日番谷にしてみれば、もう飽きたという感覚のいなり寿司。
祖母だって毎回こさえるわけでもないのだ。

「それを修兵が食べちゃったんだ」

「食べるなとはいいませんけど、食べる前に聞いてくれてもいいじゃないですか」

「まあそうね」

嘘だ。
日番谷は思った。
乱菊の性格なら同意を求める前にひょいと食ってしまうはずだ。

「最低でも一つか二つぐらい残してくれてもいいのに…あの馬鹿は!」

「全部食われたのか」

がっくり項垂れる。少し涙が滲んでいるようにも見える。
これはご愁傷さま。としか言いようがない。
他隊の者にしてみれば、置いてあるのはただのいなり寿司なのだし。
日番谷はややあってから後頭部を掻きいった。

「今度、また持ってきてやるからそんな顔するな」

「隊長ぉ」

「美味いっていってくれる奴がいるってばあさんも知って喜んでいるから、いえば作ってくれるだろう」

今回だけだ。甘やかすのは。
あまり余計なことをすると檜佐木に変に勘ぐられると日番谷は思ったが口には出さなかった。

「なるべく早めに頼んでやるから」

嬉しいことをいってくれるとは目を輝かやかせるが、慌てて姿勢を正して立ち上がる。

「あ、あのとても嬉しくはありますが。ご無理はなさらないでください。おばあ様にもご迷惑でしょうし」

「バーカ。迷惑なんて思ってねえっていったぞ。喜んでいるって」

「は、はい。ありがとうございます」

こうしては日番谷祖母特製いなり寿司の予約券をゲットした。

「今、修兵より隊長の株がぐーんとあがりましたね」

乱菊はくすりと笑んだ。この様子を修兵が見たらなんと思うのやら?





、ほら」

「…?…あー隊長、これは!」

翌朝、呼び止められた
日番谷から手渡されたのはあの、いなり寿司。

「ばあさんがまた多めに作ったらしいからな。もらった」

「え、それってわざわざご実家にお帰りになったのですか?」

「たまたま用があったんだよ」

そういって日番谷は去っていく。

「隊長ーありがとうございまーす!」

は日番谷の背中に向かって一礼しながらいった。
たまたま。なんて日番谷は言ったが、多分わざわざ作ってもらいに帰ったのだろう。
本当に日番谷には感謝だ。


ほくほく気分で歩く
昼休みに食べようかとか、家に帰ってからにしようかと考えて。
珍しく浮き足立ってしまう。
そんなの姿を見つけた修兵。
機嫌が良さそうな彼女を見て思いきって声をかけた。

!」

「…?…しゅ、檜佐木副隊長」

名前で呼ばれなかったことに少しムッとしてしまう。
だが公私混同しないと彼女が決めているので仕方ない。

「何か御用でしょうか?」

特製いなり寿司を手に入れたので機嫌は良くなったのだが、修兵とは喧嘩したままだった。

「………」

「な、なんですか?」

修兵の視線は泳いでいる。
自分から声をかけたもののなんていっていいのか迷っているのだ。
も同じだ。
喧嘩の原因がいなり寿司ということもあり、馬鹿馬鹿しさに恥ずかしさが湧き上がってくる。
にしてみれば、再び手に入れた特製いなり寿司があるため、もう怒りは薄れている。

ややあってからお互い目が合った。

「「ごめん」なさい」

それがきっかけ。
本当は謝りたかった、すぐに。
でも意地とか色んなもののせいできっかけが掴めなかった。
ようやく言えた一言にふっと笑みが零れる二人。

「あーその、俺も悪かった。ただいなり寿司で怒るとは思わなかったんだよ」

あの時は腹が減っていたから。

「私も、ちょっと怒りすぎたよね。本当……」

「いなり寿司でな…あ」

軽く頬を掻き視線を泳がせる修兵。
がまだ言うかと強めに睨む。

「別に良いけどね」

「それでよ…あ、それ…」

「隊長がくれたの。おばあ様特製いなり寿司」

そういわれて修兵は持っていたものをすっと後ろに隠す。

「なに?それ」

「いや、その……」

バツが悪そうに修兵はひたすら隠す。
は後ろに回りこみそれを奪い取る。

「あ、おい」

中身を見ると、包みに包まれたものが。
あれ、どこかで見たことがあるものだ。
自分がもらった物も見ると……。

「同じもの?」

「あ、その…が食いたがっていたいなり寿司。雛森に頼んでそのばあ様に作ってもらった」

「あ」

日番谷と雛森は姉弟のように同じところで育ったから。

「私にお詫びのつもりで用意してくれたんだ」

日番谷もいっていた「また多めに作った」と。

「ラッキーが続いちゃったなぁ」

「確かに美味かった、そのいなり」

「でしょ?修兵。お昼休み一緒にこれ食べよう。私一人じゃ食べきれないから」

「おう」

公私混同しないと決めていた
仕事の顔でしかここでは会えないと思っていたが、その壁がなくなりやわらく笑んでいる。

喧嘩して寂しい思いをした分、甘えさせてください。
絡んだ視線に修兵はの手を握り歩き出した。

「修兵?」

「少し早いけどいいだろ」

「まだ勤務中!」

「ばれたらその時だ」

せっかくいい匂いをさせているいなり寿司。
早く食べたいじゃないか。

怒られる時は一緒にと目を合わせた。








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11/11/20再UP