ドリーム小説


隊長の前だと私はいつもくしゃくしゃになる。





【くしゃくしゃ】





「えーと。これは清音先輩に、これとこれは会計に回して」

トントントンと廊下を小走りで移動する
腕に抱えた書類を移動しながら確認している。
十三番隊は訳あって副隊長不在。
以降三席に二人置き、彼らが副隊長代行をしている。

はその三席二人の補佐を主に行っている。

「あとは……全部隊長に。かな…えーと、提出日が」

いつも行く廊下なので、書類と睨めっこしていてもすいすいと歩いていく
よほどのことがない限りへまはしない。

うん、よほどのことがない限り…だから。
とある部屋からにょきっと出た足に気がつかなかった。
はそれに足を引っ掛けた。

「たっ!」

「うぎゃ!」

ストーンと前にダイブする。

ドン。

バサバサバサ……。

「い、いたたた…お、お腹うったぁ…肘もうったァ…あー!書類書類!」

転んだ拍子に抱えていた書類は素敵に宙に舞う。
は慌てて書類をかき集める。
隊長に見せなきゃならない重要なものばかりだ。

「いやーいかないで、いかないでー」

必死でかき集めるがプチパニック状態。
すまなそうに謝ってきた声への反応も鈍い。

「あ、あーすまん。

相手が隊長の浮竹だと気づく。

「飛ぶとぶとぶー!えぇ?」

運悪く風が吹く。
書類の一枚がぴゅーっと風に流され、は必死で手を伸ばした。
が。

「馬鹿。落ちるぞ、

ぐいっと襟首を掴まれた。

「でも、書類がー」

「書類よりお前が怪我でもしたらどうする」

「隊長お………あー!い、池に」

ぺちゃ。

宙を舞っていた一枚は哀れ池に落ちた。
墨で書かれていたのであっという間に滲んで読めないものとなる。

「……………」

「えーと。どんな内容のだった?」

「わ、わからないです」

一度バラバラになってしまったので、見直してみないとわからない。
とりあえず散らばった書類を集め整理する。

「どうだ?」

「えーとですね…あ、隊長へのお知らせ事項が書いてあったものです」

「俺に?」

「でも、あとで訳を言ってもらってきますので問題ないです」

言わば回覧板みたいな内容のようなもの。
その書類をくれたのは八番隊副隊長伊勢なのでわかってもらえるだろう。
あとで八番隊に行くと浮竹に告げる。

「いい。俺が行こう。京楽に用もあったし、ついでだ」

「そうですか?」

「ああ。かまわない。それより、悪かったな。転ばせてしまった」

そうだ。前方不注意だったとはいえ、あんな所から足が出ているとは思わなかった。
なんで浮竹はあんな所で寝ていたのだ?

「いいです。私が前を見ていなかったので。隊長は何故あのような場所で?」

そこまで言うとの顔が青くなっていく。

「あ、あ、あ〜もしかして、お身体の具合が悪いのですか!?
で、でしたら、今、清音先輩をお呼び、あ、四番隊へ行かれたほうが」

「違う。違う」

落ち着けと浮竹はの頭を撫でる。
くしゃくしゃと大きな手が当てられる。

「天気が良くて気持ちよくて昼寝してしまっただけだ」

「そうですかぁ……って!ダメですよ!こんな所で昼寝なんて、お風邪を召されたら」

「大丈夫だ。心配性だな、は」

ポンポンと頭を撫でていた手が肩へと移動した。

「とりあえず、京楽のところに行ってくる」

浮竹はのんびりと歩きだした。
その背中をしばらく見つめていたが、は顔を伏せた。

(あーダメだなぁ……)

ギュッと目を瞑る。軽く深呼吸してからは歩き出した。
だが、一部の書類を渡す相手が浮竹だったと気づくのは雨乾堂に着いてからだった。



はよく浮竹に頭を撫でられる。
他の隊と違って気さくな人柄の浮竹だからちょっと嬉しいとか思ったりするものだが。
なんとなく、子ども扱いされているようで。
が頑張って仕事して褒めてくれてついでに頭なんぞくしゃくしゃと撫でられた日には。
単に親が子どもを褒める仕草の一つのようにしか思えない。

「よくやったな〜」「偉かったわね〜」

みたいな。
それ以外の時も子ども扱いされていると言うような感じがしてしまう。
見た目はそんなに子どもっぽくないと思うのだが、行動が子どもっぽいのだろうか?
そう言えば、日番谷ややちるに対しても似たような態度を取っているような……。
能力的には段違いの二人でも同等の子ども扱いか、自分は。

子ども扱いされることは嫌なのだが、浮竹の大きな手が頭に触れていると言うのは嫌いではないので自分的に性質が悪い。
一人が頬杖ついて考えいるととある二人の姿が目に入る。
同じ隊の朽木ルキアと六番隊副隊長の阿散井恋次だ。
ルキアが一言二言言うと恋次がニッと笑ってルキアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
見た瞬間に思わず二人に駆け寄った。

「あの!阿散井副隊長!ご無礼を承知でお聞きします!」

「あ?なんだ?」

殿…どうされました?」

二人の返事など聞かぬままは恋次にずずずっと詰め寄り、恋次は少し戸惑いながら数歩下がる。

「お、おい」

「阿散井副隊長は朽木さんの頭をなぜ撫でるのですか?」

「はあ?」

「その理由をお聞かせください!あれですか?タッパがあると自分より小さいものの頭に手を乗せたくなるのですか?」

「い、いや。あのなぁ」

「ほぅ。私も聞きたいものだな。恋次。そのような理由で人の頭に触れたのか貴様」

確かにルキアは小さい。

「い、いや。そ、そんなに理由ねーぞ。その、ただ」

「まさかと思いますが子ども扱いですか?」

「えぇ!いや、違うぞ。違う……」

恋次はなぜに他所の隊の子にそんな話を振られるのだろうとタジタジになる。
ルキアの視線はなぜかきついモノに変わっているし。
こんな所、万が一ルキアの義兄であり、自身の上官である白哉に見られでもしたら恐ろしいことになるだろう。

「子ども扱い……私は貴様よりは精神的に大人だと思うがな…」

「る、ルキア」

ルキアは眉間に深く皺が刻まれる。
機嫌が悪くなっているのがよくわかる。

「男性が人の頭を撫でるってそうそうないと思うのですよ!大人の人が子どもにやるとか!」

「お、おい。俺は」

ルキアからの視線にからの追求。俺が何をしたっていうのだろうか?
恋次は頭が痛くなる思いだ。
軽くこめかみのあたりを押さえて、まずはの肩にポンと手を置いた。

「えーと。とりあえず落ち着け、えーとだっけ?なんで俺にそんな事を聞くのか言え」

「そうです。どうしたのですか?殿」

恋次への強い視線は消えうせ、ルキアはに優しく問うた。

「は、はい………」

あまりこのような話は人にしたことはない。
浮竹に頭を撫でられるって言えば、普通というか十三番隊の子たちならば大喜びだから。
まあいくら慕われているとはいえ男性たちがどうかは知らぬが。
とりあえず経緯を二人に話した。

「へー浮竹隊長がねぇ……つーかルキアも撫でられるのか?」

「いや。私はそのようなことをされたことはない。だが浮竹隊長がお優しい方だというのは知っている」

「なんだ、お前だけなんだな」

「……なのでしょうか?よくわかりませんが」

「私の知る限りでは他の方にそのようなことをなさっている姿は見たことがない」

ルキアは自分が見た限りの十三番隊の光景を思い返す。

「私って十三番隊の中で一番のガキってことなのかな」

「そんなことないです。殿」

「そうだって。寧ろ…愛情表現の一つなんじゃないのか?……っはっ!?」

ルキアとの視線が恋次に向いた。
恋次は慌てて口を押さえる。

「ってことは阿散井副隊長が朽木さんの頭を撫でるというのは愛情表現の一種なんですね」

「え、あ。いや…んな…あ、あーそりゃあまあ、コイツとはガキの頃からの付き合いだし…
そ、そう!家族みてーなものだったから。そんな感じで、つい、ついな…はははは」

「家族みたいな?」

ルキアは恋次の言葉に拱手するがすぐに笑顔を向ける。

「そうだな。私とお前は家族同然の付き合いだったな。妹のような扱いのつもりか?しょうがない奴だ」

「あ、いや…その」

「悪くはない。だが子ども扱いはやめてくれ」

「そ、そうだな…ハハ」

ちょっとばかり恋次がへこんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
とりあえず、頑張れ阿散井恋次。





結局の所、恋次の説明ではは納得できなかった。
愛情表現っていわれても。
浮竹の場合はやっぱり自分のところの部下が子どもみたいに可愛いとか思える類なのだろうか?
なんか切ない。
子ども小動物扱いされているようだ。

「浮竹隊長。いらっしゃいますか?」

「おう。いるぞー」

明くる日。
その日もは浮竹に書類を届けに隊首室である雨乾堂へと足を運んだ。
浮竹からの応答がありは中へ入る。

「失礼します。隊長、書類をお持ちいたしました」

「ああ。ありがとう。

にっこり笑って書類を受け取る浮竹。
はすぐさま頭を下げて雨乾堂から出ようとする。
浮竹に笑顔を向けてもらえるのは嬉しいが、なんとなく昨日の件で気持ちが不安定だ。

「それでは」

だが浮竹はを呼び止めた。



「は、はい。なんでしょうか」

ちょいちょいと手招きする浮竹。
浮竹の前に座れと言うのだろう。はおずおずとだが浮竹の向かいに正座した。

。どうかしたのか?」

「は?」

「なんか様子が変だからな」

「い、いえ。別に」

「そうかあ?」

腕を組みながら浮竹は首を傾げる。
多くいる隊員だが、浮竹は一人一人の様子をちゃんと見知っているのだろうか?
隊長として流石たと思える事だが。

「なんか可笑しい」

「い、いえ。そのようなことは」

「そうは見えないんだが……とりあえず元気を」

元気を出せ。
浮竹はそう言って手を伸ばす。の頭をまた撫でててくれるのだろう。
そうが思うと思わず顎を引き、頭を少し引いてしまった。

?」

「あ」

「あ、あーすまん。そうだ、うん。普通はそうだな、そんな気安くしてはならんか」

女性相手だし。セクハラだとかで訴えられてしまうか。
浮竹は手を引っ込め代わりに自分の頭を掻いた。

「す、すみません。そ、そのような風には思っていません」

「………」

「ただ……」

は俯き一度小さく口をつぐんだ。
言うべきか迷う。
浮竹にしてみれば、大したことでもないだろうから。
けど、自分は酷く不安定になってしまったわけだし。

「ただ。なんだ?」

「あの…こ、子ども扱いしないでください」

一気に首から顔、耳までもが紅潮してしまう。
恥ずかしい。このくらいでと思えばやはり自分はガキかもしれない。
浮竹はどんな顔をしているのだろうか?
怒るか?呆れるか?大笑いするか?
そうは思っても顔はあげられない。

「違うな。俺はお前のことを子ども扱いなんかしていないぞ」

「で、でも」

キュッと膝の上で拳を握る。

「あーその、なんだ……上司と言う立場を利用してに触れていただけだな」

スッと顔をあげて浮竹の顔を見てしまう。

「………………は…?」

「いつも一生懸命で。仕事も俺への心配も、色んなこと全てに一生懸命なを見ているとな。
そんなお前が可愛いなどと思えて、つい頭を撫でてしまった。本音を言うとこれでも我慢しているんだ」

昨日の恋次の言葉が思いだされる。

『愛情表現の一つなんじゃないのか?』

そう言う事なのだろうか?
でも、やっぱり子ども扱いされているような気になる。
我慢していると言うし。
もっと思い切り頭を撫でたいってことか?それとも回数を増やしたい?
キョトンとした顔をしているに浮竹は口元を手で覆う。

「あんまりそういう顔をするな。本当に我慢できなくなる」

「は、はい?」

浮竹は手を伸ばし、の頭を優しく撫でた。
だがその手はそのままの頬に触れ肩を掴んだ。

「た、隊長」

が悪い」

「え」

そのまま強く引かれて浮竹の腕の中にすっぽり納まった。

「た、たたた隊長!?」

「本当は一番こうしたかったんだ。があまりにも愛しいからな」

「え、えぇ!」

「愛しいと思える人に触れたいと願うのはしょうがないだろう?」

そこまで言えばわかるだろうと浮竹は笑った。

はどうだ?俺が触れては嫌か?」

は何度も首を横に振る。

「い、嫌じゃないです!」

「そうか。良かった」

浮竹が笑うともつられて笑う。
なんとなく涙が出てしまう。

「ど、どうした?」

「あ、す、すみません。その急でびっくりして、でも嬉しくて」

だからか。

「そうか」

「はい………あ。そっか、だから阿散井副隊長は」

「んー?阿散井君がどうしたって?この状態で他の男の名前を呼ぶか、普通」

妬いてしまうぞ。
いや、浮竹ならば簡単に妬くだろう。

「え、っと。その、阿散井隊長もとある人の頭をよく撫でていたようで…あはは」

「阿散井君が…そうか…ふーん」

「隊長?」

「それはのことじゃないよな?」

「ち、違います!」

ルキアのことだ。
だが、言えないだろうし、勝手に自分が解釈しただけだから。

「ならば良し」

「私の頭撫でるのって隊長だけですから」

「ならば直のこと良し」

子どもみたいな表現の仕方でも。
なんとなく嬉しい。
くしゃくしゃな笑顔をしてしまう自分がいるのだから。








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11/11/20再UP