【何もしていないのに】





「段々暖かくなってきましたね、都殿」

「そうね。風の冷たさも感じなくなってきたし、この分なら」

「きっと」

ルキアと都は顔を見合わせてふふふと笑った。
お互い考えていたことは同じだから。

「そうだわ。ルキアちゃん、この後の予定は?」

「予定、ですか?…えっと。特に今日はないです。
よろしければ海燕殿か都殿に稽古をつけてもらおうかと…思ってはいたのですが」

これから頼んでみようかと思っていたところ。
都はちょうど良かったと軽く両手を合わせた。

「?」

「私も今日の仕事は殆ど済ませてしまったの。さぁ、行きましょう」

都はルキアの手を引いて歩き出す。
一体どこに連れて行こうと言うのだろうか?
戸惑いながらもルキアは都について行った。





「ふあぁぁぁ〜眠ぃ〜」

「ちょっと!しゃきっとしなさいよ!」

「しょうがねーだろうが。眠くなりそうなんだからよ…ふあぁ」

「だから、欠伸するなっての!欠伸ってどういうわけか知らないけどうつるんだから!」

清音と仙太郎が海燕に頼まれた書類仕事をしているのだが、段々と暖かくなる陽気に仙太郎は眠気に襲われてしま
う。
清音もなんとか我慢してはいるものの、隣で大口をあけて欠伸をされるとなんとなく腹がたつ。

「今度欠伸したら井戸に叩きっこむからね!」

「そ、それは嫌だけど……」

「これを仕上げれば休憩に入っていい海燕様も言っていたでしょ」

「そうでした。早く終わらせて昼寝でもすっかな〜」

仙太郎は姿勢を正して筆を握る。
仕事を再開し始めて数秒後。

「なぁ」

「なによっ。まだなにか文句あるわけ?」

「ない、ない!違うって!ただなんとなく、気づいた」

「は?」

「最近よ…」

仙太郎に言われて清音も頷いた。

「言われればそうだわ。あ〜アンタに先を越されるとは不覚だわ!」

清音は悔しそうにギュッと拳を握る。
でもすぐさま表情を戻す。

「でも。それは良いことだし。それじゃあ仕事再開よ。さっさと終わらすわよ」

「おぅよ」





海燕が雨乾堂を訪ねると、浮竹が起きて仕事をしていた。

「あれ、隊長。起きいて大丈夫なんすか?」

「あぁ海燕か。この所なんともなくてな、ほら俺の署名入れておいたぞ」

書類を数枚渡された。

「あ、あぁ。どうも」

「他にあるか?」

「いえ、今日はもう何もないっすよ」

「なんだ、そうなのか?」

折角やる気に満ち溢れていると言うのに。
浮竹は残念だと髪を掻きながら言う。
身体が弱く普段寝てばかりで部下に迷惑をかけっぱなしなので、やれる時にはやりたいのだが。

「仕事やりたがるつーのもなんか変ですね」

「お前なぁ」

「ま。たまにはいいじゃないっすか。今日はどこものんびりしたものっすよ」

「そうなのか…ならばしょうがないな」

「では、俺はこれを提出してきますんで」

「あぁ頼む」

海燕は雨乾堂を出る。





「お。なんだ、お前らどうした?」

向こう側から都とルキアがやってきた。
二人は盆で何かを運んでいるよう。
だが、それには白い布巾かかけられ中身はわからない。

「海燕殿。浮竹隊長の所に行っていたのですが?」

「あぁ。都たちは隊長の所に行くのか?」

「えぇ。隊長のご様子は?」

「調子いいみたいだ。起きて普通に仕事していたしな。でも今は休憩に入られたぞ」

「それは良かったわ。ね?」

「はい」

都とルキアは顔を見合わせて笑んだ。

「なんだ?」

「あなたも後でいらっしゃい。そうすればわかるわよ」

都はうふふと笑って歩き出す。
ルキアは海燕に一礼してから都の後を追った。



それから、すぐに清音と仙太郎にも会った。

「海燕様!浮竹隊長はどうされていますか?」

「なんだ、お前らもかよ。調子いいって起きてるぞ」

「海燕様もあとで来てくださいよ〜?」

海燕が返事をする間もなく二人は廊下を駆けていた。
走るな!と海燕は声を出したが、そんなのは二人には届いていなかった。






海燕の仕事もくぎりがついたので、再び雨乾堂に訪れる。
中から楽しげな笑い声が聞こえてくるではないか。

「お。戻ったか、海燕。ほら、これ美味いぞ、都君と朽木が作ったんだそうだ」

二人が盆に乗せて運んでいたモノの正体は桜餅だった。

「わ、私は都殿の邪魔をしていたようなもので、何もしていませんから」

「そんなことないわよ。あなたに手伝ってもらえたから簡単に出来たし、楽しかったわ」

「わ、私もです。菓子をつくることなどほとんどやったことがないので」

「そう」

にっこり笑う都にルキアは少し照れてしまう。
都はルキアにとってこうありたいと思う憧れの人だから。

「はい、あなたもどうぞ」

お茶と桜餅を差し出される。
海燕もその場に座り、それらを食した。

「おぅ美味いぞ」

「たまにはこんな日もいいな」

浮竹は機嫌がいい。
普段寝てばかりで部下に心配をかけていることを思っていた浮竹。
仕事はもう少しやりたかったが、のんびり過ごすのもありだと思った。
海燕たちは浮竹の身体の調子も良く笑っているのが嬉しい。

冷たい冬の風が去って、暖かい春の風が入ってきた。
だから、きっと浮竹の身体に良いだろうと思った都とルキア。
陽気な日が増えていくようになって、浮竹の咳き込む回数が減ったよなと思ったのは仙太郎と清音。
浮竹が起きているってだけで嬉しそうな部下たちの顔を見て、自分も満足になる海燕。

「今度、隊で花見に行きませんか?」

誰かがそう言った。
それに皆が同意する。
きっと他の隊士たちだって仲間に入りたいと思うだろうし。

「パーッとやりましょ!」

後日仕事が終わった後にでも……。
いやいや、休みの日にでも。
いっその事明日皆で行ってしまえ。





桜が満開になる頃に。





今日はなんて日だろう。
身体の調子が良くて、部下たちが楽しそうで。
明日もこうだったら良いなと浮竹は願わずにはいられなかった。




06/04/05UP
11/11/20再UP