ドリーム小説


アイツのことなんて呼ぶんだっけ?

「恋次さん」

じゃあ俺は?

「檜佐木副隊長」

違うだろーが!俺のことも同じで良いって言ってるだろ?

「む、無理ですよ!だって、檜佐木副隊長は副隊長ですし……」

あ、その言葉遣いもなんか嫌だ。

「い、嫌だと言われても。目上の方に対しては自然とそうなりますし…」

阿散井も一応“目上の方”って奴じゃないのか?

「そ、そうなんですけど〜」

ほら、呼んでみろって“修兵”って。

「っ…しゅ……しゅう………しゅうへ…無理です〜」

なんで、無理なんだよ!あ、逃げた!おい、逃げるな!





【どこまでも続いて行く】





「またかよ…先輩もこりねーな」

真っ赤な顔して恋次の後ろに隠れる
正確には恋次が座っている椅子の後ろに。

ここは十一番隊の副官室。
副官室の主は本来はやちるなのだが、彼女よりも三席の斑目一角が利用していることが多い。
やちるがやるべき仕事を一角が代行でやっているのだ。
幼すぎてそこまでできないと言うところか?
恋次はその手伝いをやらされていた。
やっていると、が勢いよくドアをあけて入ってきたのだ。
これで何度目だろうか?
恋次としてはあまり自分を逃げ場にされると後が怖いので勘弁して欲しいのだが。

「呼んでやれば?名前で」

同じように仕事をしていた弓親がくすくすと笑いながら言う。

「い、言えないですよ」

友だちが亡くなった一件からすでに数ヶ月経った。
一時期酷い落ち込みようで周りもどうしたものかと困ったものだが、今ではその様子はなく
以前のような元気ある姿に戻った
毎日鍛錬をこなし、仕事を頑張っている。
恋次だけでなく恋次が尊敬する一角からも褒められるようになった。
自信が戻ってきて、更に着いた感じがしても嬉しかった。
これからも頑張るぞー!って気になる。

なっていたのだが、同時に檜佐木修兵から最近からかわれることが多い。
(向こうはからかっているつもりはない)
憧れの人だから、話しかけてくれるのは嬉しいが注文される内容がを困らせていた。

「良いじゃん、檜佐木先輩がいいって言ってんだから」

「無理です」

「はっきり言われると、先輩が可哀相になるな〜」

「だ、だって、向こうは副隊長で!」

「副隊長が良いって言えばいいんじゃないのか?ウチのもそうだし」

一角までも話しにはいってくる。
見た目も中身も子ども、でも腕は強い我が隊の副隊長草鹿やちる。

「そ、そうなんですけ………なんか違います」

「ま、それは別にいいけどさ。お前がそんな風だと後で、先輩が怖いんで止めろ」

「なんでですか?」

「…………」

気づけよ、バーカ。

恋次は目を細めて口先を尖らせる。
今までは自分の存在をひた隠しにしていた修兵が、最近では積極的に攻めている。

ちゃんから見て、あの副隊長はどうなの?」

弓親が手を休めてニコリと笑みながら訊ねる。
優しい先輩と言う風に見えるが、一角から見れば面白がっているだけだろうなと感じている。

「どうって…私が死神になろうと思ったきっかけをくれた人で…」

「へぇ、そうなんだ。死神になる前からの知り合い?」

それは恋次も初耳だった。
修兵が一方的に知っているだけかと思っていたから。

「私が現世で亡くなった時に魂葬してくれたのが檜佐木副隊長だったんです」

第一印象は悪かった。
不機嫌な面で、さっさとしろよと言わんばかりの態度。
でも一瞬で、実は良い人なんだなと思ったのが始まり。

顔の傷や刺青の所為で怖い人かと思ったら、笑顔は素敵だなとか思った。

「色々迷ってた私に道を示してくれた人です」

昔を思い出したのかは優しく笑う。

「ふーん。そんなことがあったとはね」

「ってことは、向こうは前からお前を気にしていたってことにもなるよな。そうだろ、阿散井」

「え?あ、あ〜そうっすね。先輩から口止めされてましたし」

「「口止め?」」

「詳しくは知らないっすけど、には自分のことは言うなって。言ったらぶっ飛ばすって」

書類の枚数を確認し始める恋次。

「じゃあぶっ飛ばされちゃうね。今、言ったし」

恋次の手からパサリと書類が落ちた。

「で、でも。もう良いんじゃないッすか?だって、と先輩は今じゃ顔を合わせているわけだし……」

「だといいねぇ」

少し顔が青くなっている恋次に弓親はくすくすと笑みを零す。

「とりあえずさ、も逃げるのだけは止めてやれよ。男として結構キツイぞそれは」

一角が筆を置く。
一つの仕事が片付いたようだ。

「はい、わかりました」

相手に対して失礼なことだったよなとも反省する。

「と言うわけで、これ九番隊へ届けて来い」

「え、私が……ですか?」

「そうだ。副隊長にもすでに見てもらったものだしな。早めに置いて来い」

一角が書類をに向ける。

「きゅ、九番隊へですよね?」

はそれを受け取る。

「九番隊副隊長宛てだ」

「………………うっ…」

なんとなく会い辛い。
でも命令なので断れない。
さっきも逃げるなと言われたばかりだ。

「わかったら、さっさと行ってこい」

「は、はい!」

は慌てて副官室を出て行く。

「俺っていい先輩だな〜」

「これで治まってくれれば俺としては助かりますけどね」

満足げな一角に、苦笑する恋次。

「あ、そう言えばさ。結局連れて行くのかい?彼女は」

弓親が恋次に問う。
恋次は口をもごもごさせながら少し考えながら二人をチラッと見る。

「連れて行ってもいいっすか?」

「なんで俺らに聞くんだよ、に言うのが先だろ?」

「いえ…一応あいつも腕が立つようになって来ましたし、ここに居たほうが良いならばと」

「俺らは反対なんかしねーよ。隊長もな」

「判断するのはちゃんでしょ。ただ、それを知った九番隊の副隊長さんはどう思うのかはわからないけどね」

「は…はは…それが一番怖いッス」



***



九番隊の隊舎にまでやってきたのはいいが、その副官室内では緊張していた。
副隊長への書類を持ってきましたと隊の人に言うと、その人はを副官室まで案内した。

え、渡してくれないの?
つーか自分で渡さないとダメなのかい!?

などと内心思って、書類をペチッと床に叩き付けたい衝動に駆られるがなんとか我慢する。

副官室内にはまだ修兵の姿はなく、ソファにでも座っていてくれと言われ一人取り残された。
いないのだったら、逆に通しちゃいけないのでは?
でも仕方ないので言われたとおりに腰を下ろした。

「…………………」

「お、本当にいた」

「!?」

突然ドアが開いて声がしたので肩がビクついた。
恐る恐る振り返ると修兵が笑いながら入ってきた。
は慌てて立ち上がり、書類を手渡す。

「そんなに硬くなるなよ。いいから座れって」

「は、はい」

「………ふーん……」

書類の内容を確認している修兵。
渡したならばもう帰ってもいいはずだろうに。
それとも持ち帰らなければならいのだろうか?

「わかった。ありがとな」

「い、いえ。じゃあ私はこれで…え?」

修兵はそのままの隣に腰を下ろし、書類の一枚をに向ける。

「え、え?」

そこには一角の字で。

。1時間だけ貸します”

と書かれていた。

「い、一角さん、酷ーいぃ!私は物じゃないのにー」

「俺としてはこの厚意には甘えてみようと思うわけだ」

逃げるなと一角に言われた。
わけもなく逃げ出すのは止めようとさっきも思ったことだし。
とりあえずは静かに座っておく。



「?」

ふと修兵の口から自分の名が出た。

「最初、会った時に名前を聞いとけばこんなことにはならなかったよなって思った」

でもあの時は死神になると言ったから、ここで再会できるだろうと思ったから深く考えなかった。

「学院でお前の姿を見つけたとき、本当に来たんだなって思って嬉しかった。でも避けられちまったけどな」

「あ、あの時は…色々自分に自信がなくて……あと、その…」

「十一番隊に入って阿散井といつも一緒にいるの見て、すげー腹がたったな」

「だ、だって恋次さんは隊の先輩だし」

「で、ようやくお前の口から名前聞けて嬉しかった」

「…………」

「なぁ。俺がそう思うのって何でだと思う?」

「なんでって………」

少しでも修兵がを気に掛けてくれたから?
恋次がそれっぽいことを言っていたし。

「俺が、お前のこと好きだから」

「え!?」

「多分」

「た、多分?」

「そうなのかと自分で今考えている所だしな」

彼女のことを気にかけていたのは確かだ。
後輩が仲良さげにしている姿を見てムカつく事もあった。
でも、のことはまだよく知らない。

会話は数回程度。
遠くからいつも見ていただけ。

「だから、色々教えてくれよ、のこと。もっと知りたいって思うわけよ」

「副隊長…」

嬉しいけど、がっかりしたような複雑な気持ちが入り混じっている。
でも、そうだ。
まだまだなんだ、自分は。

お互いのことをあまり知らない。
も修兵のことは知りたいと思う。
知ったら、もっと好きになるかな?

「この所、話せなかった分の反動がついちまったけどな」

修兵は苦笑する。
ようやく名前がから聞けたと思ったら、欲が出た。
自分のことも恋次みたいに名前で呼べなんてさ。

「わ、私は!」

「ん?」

目をギュって瞑り身体を少し縮めてしまう。
難しいかもしれないが、思ったことを言わなくてと。

「檜佐木副隊長に、あの時会えたから。だから今の私があるんです。とても感謝しています」

「そっか」

「ず、ずっと憧れてました!」

修兵の細い目が珍しく見開くもすぐに元に戻り口元に笑みを浮かべた。

「憧れだけか?」

「だ、だけって言われても…」

真っ赤になりながら指を絡めてもじもじしている

「恋次と俺、どっちが好き?」

「え!?ど、どっちって…あの、恋次さんは頼れる先輩で好きと言えば好きですけど…
あ!好きと言っても人としてというか、恋愛の好きとは違いますし」

「俺の方が好きってことか?」

「……多分」

「それだけでも今は十分」

修兵はの頭をくしゃりと撫でる。

「ようやく面と向かって知り合えたわけだし、時間はたっぷりある。これからだな」

「は、はい」



の頭にあった手がそのまま顔へ、頬へ流れてくる。
修兵の顔が近づいてくる。
も自然と目を閉じる。

………。

ちーん!迎えに来たよー」

「ひぃ!」

「チッ、ちびっ子………」

ガラリと勢いよく開いたドアと声に驚きは修兵から離れた。

「草鹿副隊長…あの」

「つるりんがちんがここにいるって言うから。1時間後に迎えに行けって」

修兵はバッと時計を見る。

「まだ1時間経ってねーぞ!30分くらいだろうが!」

ちんがウチの隊舎出てからは1時間たってるよー」

「そこからのカウントかよ……」

自分は少しを待たせてもいるし、だったら何時からと指定してくれと修兵は少しへこむ。

「さ。帰ろうちん。剣ちゃんがお話あるって」

「隊長が?わかりました。それじゃあ失礼します」

やちるはちゃっかりと手を繋いでいる。
は修兵に一礼する。

「おぅ。またな」

「はい、また………修兵さん」

少し照れながらはやちると一緒に副官室を出て行った。
数秒経ってから気付く。
が自分の名前を呼んでくれたことに。





「おぅ、阿散井。六番隊副隊長就任おめでとう」

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします、檜佐木先輩」

後輩が六番隊の副隊長に抜擢された。
これは個人的にも嬉しいことだった。

「そ、それでですね、檜佐木先輩……」

「あん?」

「その…実は……」

口元を少し引きつらせながら、なんとか穏やかに話を進ませようとする恋次。
がどうした?と修兵は恋次に目で聞いている。
その目に脅されているようで恋次は焦る。
だが、その本人がやってくる。

「恋次さーん。朽木隊長がお呼びです、早く来てください〜」

「おぅ、行く」

?」

「あ、修兵さん。こんにちは」

ぺこりと修兵に頭を下げる

「聞いてくださいよ!私、六番隊へ移動になったんですよ!席官になれました!」

「は?」

笑顔で修兵に報告するに対して恋次の顔が青ざめていく。

「恋次さんが来ないかって言ってくれて。隊長、あ、更木隊長も押してくださいましたし」

「へぇ……恋次がねぇ」

逃げようとする恋次の襟首を掴む修兵。

「どういうことかな?阿散井?」

「え、いや、その……配属前に朽木隊長に誰か一緒に連れて来いって言われたので…が適任だな〜と」

「嬉しいです!まだ恋次さんに色々教わりたかったし。これからも頑張りますからよろしくお願いしますね!」

「お、おう…」



本当、まだまだこの道は変わりがないようだ。

でも。





「はい?」

「後で昼飯一緒に食いに行こうぜ」

「はい」



彼女との関係は良好で、長く長く続くことを願う。






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06/01/22
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